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GemMed塾 新制度シミュレーションリリース

新たな指標用いて「真に医師が少ない」地域を把握し、医師派遣等を推進―医師需給分科会

2018.10.1.(月)

地域における「医師の多い少ない」は現在、「人口10万対医師数」を用いて判断しているが、ここに「地域住民の年齢・性別」「医師の年齢・性別」「患者の流出入」などを加味して「真に医師が不足している」区域を適切に把握する。その上で、相対的に医師多数区域から、医師少数区域への医師派遣などを促していく—。

9月28日に開催された「医師需給分科会」(「医療従事者の需給に関する検討会」の下部組織)で、こういった方向が概ね了承されました。

また診療科偏在の是正も重要テーマとなっていますが、▼まず「産科・小児科」について暫定的な偏在指標を定めて、医師確保対策を進める▼外科を初めとする他の診療科についても、偏在指標の検討を進め、将来的に「医師養成計画」などにも反映させていく—方針が概ね固められています。

9月28日に開催された、「第22回 医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会」

9月28日に開催された、「第22回 医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会」

 

地域の人口だけでなく、「性別・年齢別の受療率」や「患者の流出入」なども勘案

医師の地域偏在・診療科偏在が大きな課題となっています。「医師需給分科会」と「医療従事者の需給に関する検討会」では、昨年(2017年)後半に偏在対策是正案を検討し、それをもとにした改正医療法・医師法が今年(2018年)7月に成立しました。

改正法では、▼医師少数区域等で勤務した医師を評価する制度▼都道府県における医師確保対策の実施体制の強化(新たな「医師確保計画」を策定など)▼医師養成過程を通じた医師確保対策の充実▼地域の外来医療機能の偏在・不足等への対応—などに関する枠組みを設けており、今後、施行にむけて具体的な仕組みを医師需給分科会などで詰めていくことになります。
医師需給分科会 180928の図表
 
9月28日の医師需給分科会では、まず都道府県における「医師確保計画」の策定に向けて、(1)医師偏在指標の策定(2)医師少数区域・医師多数区域の設定―を議題としました。今年度(2018年度)中に厚労省で、偏在指標などを定めた「医師確保計画」作成のための指針を設け、来年度(2019年度)に各都道府県で「医師確保計画」を策定。翌2020年度から具体的な医師確保対策を稼働させるスケジュールになります。

まず(1)の「医師偏在指標」について見ていきましょう。

現在でも、医師の地域偏在を是正するために「2次医療圏における人口10万対医師数」を指標とし、さまざまな取り組みが行われています。ただし、この「人口10万対医師数」だけでは、地域の医療ニーズを的確に把握できておらず、「真に医師が少なく、医療ニーズに対応しきれていない」地域のあぶり出しが十分になされていない(結果として医師偏在対策が十分に機能していない)との指摘があります。

そこで厚労省は、「人口10万対医師数」に次のような要素を加味した、新たな「医師偏在指標」を設け、これを基にした偏在対策を進める考えを提示しました。

(i)年齢や性別によって受療率は大きく異なる(乳幼児・高齢者では受療率が高く、地域の医療ニーズは多くなる)ため、「地域の年齢・性別の構成」を調整する

(ii)患者の流出入(例えば、東京都では、「昼間の人口は多いが、夜間の人口は少ない」、さらに「近隣県から多くの患者が受診する」といった患者の移動がある)を勘案する

(iii)「医師が比較的多い2次医療圏」の中にも、「医師が少数の区域」がある点を勘案する

(iv)医師の年齢・性別によって医療提供量が異なる(例えば、高齢になると労働時間が短くなりがちで、高齢医師の多い地域では、より多くの医師が必要となる)ため、「医師の年齢・性別の構成」を勘案する

 
 2次医療圏ごとに、次の計算式で「医師偏在指標」を算出し、比較することで「A医療圏では、B医療圏に比べて相対的に医師数が多い(少ない)」と判断し、「真に医師が少ない(多い)地域」を抽出することが可能となります。

●医師偏在指標=標準化医師数/[地域の人口 ÷ 10万 × 地域の標準化受療比

・標準化医師数とは、「年齢・性別の平均労働時間を調整した勘案した医師数」である[Σ性年齢階級別医師数×(生年齢階級別平均労働時間÷全医師の平均労働時間)]

・地域の標準化受療比とは、「受療率について、地域の年齢・性構成の違いを調整したもの」である[地域の期待受療率÷全国の期待受療率(Σ【全国の生年齢階級別受療率×地域の性年齢階級別人口】/地域の人口)]

 
また(ii)の患者の流出入については、都道府県ごとに「昼間・夜間人口の実態に応じた重み付け」「患者住所地を基にした流出入の調整」を行います。(iii)の「2次医療圏の中にある医師少数区域」については、後述する別途の対応を行うことも提案されました。

 なお、無床診療所の地域偏在という問題もあります。無床診療所は都市部に多く、医師数は多くなりますが、入院医療ニーズは対応できません。こうした問題について厚労省は、まず「診療所の地域偏在に関して現状分析」を行い、それをもとに対応策を検討する考えを改めて説明しました。

  
 こうした考え方に医師需給分科会の構成員からは、特段の異論は出ていませんが、いくつか「将来を見据えた提案」がなされています。

 例えば山口育子構成員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)は「患者に適切な受療を促すような取り組みをしなければならない(さもなければ医師が何人いても不足してしまう)」と指摘。この点、医師働き方改革の一環として、厚労省で別途の検討が進められます(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。

 また、医師偏在指標では「相対的な医師の多い少ない」は分かりますが、「絶対量」は明らかになりません。福井次矢構成員(聖路加国際大学学長)は、将来的に「本来、医師が何人必要なのか」という点も検討課題とするよう要請しています。後述するように「医師の多い地域」から「医師の少ない地域」への医師派遣等が進められますが、「医師の多い地域」で医師が「充足しているのか、本来、必要な人員が確保されているのか」は明らかになっておらず、こうした点も将来的に考慮しなければならないと福井構成員は強調しているのです。仮に「医師の多い地域でも、本来必要な人員は確保されていない」のであれば、そこから医師を派遣すれば、当該地域の医師にも「さらに過度の負担」が強いられることにつながってしまうことから、将来的には重要な検討テーマになってきそうです。

 一方、北村聖構成員(国際医療福祉大学医学部長)は、「臨床に携わる医師養成には8年(学部教育6年、初期臨床研修2年)かかるが、8年後には人口動態や疾病構造も変わる。そうした点も考慮すべき」と提案。今後検討テーマとなる「将来の医師養成計画」などの中で、こうした点が勘案されることになるでしょう。また、各都道府県の作成する「医師確保計画」は3年単位となっており、定期的に最新の人口動態等を踏まえたアップデートが行わることになります。

医師偏在指標に基づき「真に医師が少数の地域」を抽出、そこに重点的に医師派遣

 前述の医師偏在指標(計算式)によって、全国335の2次医療圏すべてについて、医師の「相対的な多い少ない」が、数値化されます。厚労省は、この数値に基づいて、▼上位の地域を「医師多数区域」▼下位の地域を「医師少数区域」—と設定。医師多数区域から医師少数区域への医師派遣等を促していくことになります。具体的に、医師少数区域を「下位●か所」とするのか「下位●%」とするのか、などは、今後、施策の詳細なども踏まえて検討していくことになります。

 また、前述(iii)のように、「2次医療圏全体では医師少数ではないが、その中にある『真に医師が不足している区域』」については、都道府県と厚生労働大臣が協議した上で、「医師少数区域」と設定できる仕組みとなる模様です。「市町村単位」や、より小さな「中学校区単位」など、協議によって柔軟に「医師少数区域」を設定できるような仕組みが期待されます。

 この考え方も医師需給分科会で了承され、今後、具体的な「基準」(上記の「下位●%」など)を詰めていくことになります。その際、「道路事情なども勘案すべき」(神野正博構成員・全日本病院協会副会長)、「実際に医師派遣が行われるよう、『週単位での医師派遣』などの好事例を各都道府県に示していく必要がある」(永井康徳構成員・医療法人ゆうの森理事長)といった提案がなされています。

診療科別の医師偏在指標も今後検討、ただし産科・小児科について「暫定指標」を設置

 医師偏在は「地域」だけではなく、「診療科」でも大きな問題となっています。ただし、前述の医師偏在指標では、「地域の医師数が多いか、少ないか」を把握できますが、例えば「外科医が少ないのか、小児科医が少ないのか」などは把握できません。

そこで厚労省は、「診療科別の医師偏在指標」策定にも取り組む考えを示しています。そこでは、診療科ごとに「関連の極めて高い疾患や診療行為」等を設定し、当該疾患の受療率や、人口動態、将来の技術進展などの要素を総合的に勘案していくことになります。ただし、データ取集や分析には時間がかかるため、2019年度に各都道府県が作成する「医師確保計画」には盛り込まず、「将来の医師養成計画」などに反映させることになりそうです(例えば、新専門医制度における基本領域ごとの専攻医定員上限などに反映させる)。

ただし、▼産科▼小児科―の2診療科については、医療計画における「5疾病・5事業および在宅医療」の中に盛り込まれた政策医療であることや、地域の医療ニーズが高いことなどを踏まえ、「暫定的な医師偏在指標」を設定し、これを都道府県の作成する「医師確保計画」(2019年度に作成)に盛り込むことになりました(将来の医師養成計画などにおいては、前述した「診療科別の医師偏在指標」を、精密に検討して設定し、これを用いる)。

産科では、地域における▼15-49歳女性人口当たりの分娩件数▼性・年齢等による平均労働時間—を基準とし、小児科では、地域における▼性・年齢調整を行った15歳未満人口▼性・年齢等による平均労働時間—をベースに「暫定的な偏在指標」を設定する方向が確認されています。

医学部の地域枠、「趣旨に沿わない運用」をしている大学も一部に

ところで、現在でも地域偏在是正に向けた重要施策の1つとして「大学医学部の地域枠」がありますが、羽鳥裕構成員(日本医師会常任理事)は「一部大学では、入学後に『地域枠』への手上げをさせるなど、地域枠を十分に活用していない(例えば地域枠として10名の定員増を行うが、実際の地域枠は1、2名とするなど)」ことを問題視。

この点、医療法・医師法改正案の審議において、衆議院では「地域枠は、地域枠以外の入学枠と『峻別』した上で学生の募集をすることにより、必要な地域枠学生の確保が確実になされるよう厚労省と文部科学省が必要な対応を行う」旨の附帯決議(いわば宿題事項)がなされており、羽鳥構成員の指摘したような大学の対応は好ましくありません。

全国医学部長病院長会議の前会長である新井一構成員(順天堂大学学長)も「一部大学において地域枠の趣旨に添わない運用がなされている事例があり、課題と認識している」とコメントしており、今後、必要な是正対策がとられそうです。

  
 
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