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2020・21年度の医学定員は全体で現状維持、22年度以降は「減員」―医療従事者の需給検討会

2018.5.29.(火)

 2020・21年度の医学部入学定員は「暫定措置」として現状を概ね維持し、2022年度以降については「医師の働き方改革」や「医師偏在対策」の結果などを踏まえ、「減員」に向けて定期的に検討していく—。

 厚生労働省の「医療従事者の需給に関する検討会」(以下、検討会)と、下部組織の「医師需給分科会」(以下、分科会)は5月28日に、こういった方針を盛り込んだ「第3次中間とりまとめ」を大筋で了承しました(関連記事はこちらこちらこちら)。

5月28日に開催された、「第6回 医療従事者の需給に関する検討会」と「第21回 医師需給分科会」との合同開催

5月28日に開催された、「第6回 医療従事者の需給に関する検討会」と「第21回 医師需給分科会」との合同開催

 

遅くとも2033年以降は医師供給が過剰に、2020・21年度は全体で現状を維持

 厚生労働省は今般、▼高齢化の進展による医療ニーズの増加▼人口減少に伴う医療ニーズの減少▼医療提供体制の再構築(地域医療構想の実現)▼医師の高齢化▼医師の働き方改革等による業務の効率化▼ICT・AI等の活用による医師の業務効率化▼性・年齢に基づく「医師の仕事量」—などさまざまな要素を考慮し、将来の医師需給について精緻な推計を行いました。

もっとも「医師の働き方改革」については、検討会(医師の働き方改革に関する検討会)の議論がまとまっていないこと、ICT・AI等の活用については技術が今後も進展していくこと、などから一定の仮定を置いたものとなっています。それによると、「2018-33年頃に医師の需要と供給が均衡し、以降、医師の供給数が過剰になる」ことが分かりました(関連記事はこちら)。

【医師の需要がもっとも大きくなるケース1】(医師にも、一般労働者と同じ時間外労働規制(月60時間まで)を行い、AI等の活用で2040年には業務が7%削減される、などと仮定)
→2033年頃に医師の需給が約36万人で均衡し、以降、医師供給数が過剰となり、2040年には2万5000人程度の医師過剰となる

【医師の需要が中程度となるケース2】(医師の時間外労働規制を、過労死ガイドライン水準(月80時間まで)とし、AI等活用で2040年には業務が10%削減される、などと仮定)
→2028年頃に医師の需給が約35万人で均衡し、以降、医師供給数が過剰となり、2040年には3万5000人程度の医師過剰となる

【医師の需要がもっとも少なくなるケース3】(医師の時間外労働規制を、米国の研修医並み(週80時間まで)とし、AI等活用で2040年には業務が20%削減される、などと仮定)
→2018年頃に医師の需給が約32万人で均衡し、以降、医師供給数が過剰となり、2040年には5万2000人程度の医師過剰となる
医師需給分科会3 180412
医師需給分科会2 180412
 
 検討会および分科会では、こうした見通しを踏まえて「将来的に、医師の養成数、つまり医学部の入学定員を『減員』していく」方向性を確認しています。

ただし、「医師の働き方改革」については、「医師の働き方改革に関する検討会」の議論が2019年3月まで続くこと、さらにクローズアップされている「医師偏在」対策を規定した医療法・医師法等の改正案が、現在、国会で審議中であること、などを踏まえ、▼2020・21年度▼2022年度以降―に分けて、医学部入学定員に関する考え方を示しています。

まず、前者の「2020・21年度」については、▼近い将来、医師供給が過剰になる(上述)▼すでに過去最大級の医学部入学定員の増員を行っている―ことを踏まえ、「暫定的に現状の医学部定員を概ね維持し、各都道府県・各大学の要望は、2019年度の医学部定員を超えない範囲で慎重に精査する」ことを示しています。

この方針をもとに、2020・21年度における各大学医学部の入学定員が設定されます。現在の高等学校2年生が、2020年度に医学部に入学することとなり、進路決定などに支障が出ないよう、早急に調整が行われます。

医師供給過剰を踏まえて、地域の状況に配慮した上で、2022年度以降は「減員」方向

後者の「2022年度以降」については、▼「医師の働き方改革に関する検討会」の意見(2019年3月予定)▼医師偏在対策の効果(直近では、2019年12月に示される「2018年の医師・歯科医師・薬剤師調査」結果)—を踏まえて検討することになります。ただし、「働き方改革」や「偏在対策」については、一気に課題が解決するわけではなく、時間をかけて徐々に改善が進んでいきます。また、前述したICTやAIの技術はめまぐるしく進展していくと予想されます。このため、検討会および分科会では「医師養成数(医学部入学定員)について定期的に検討していく」ことを確認しています。

また「減員」の方向は示されているものの、「地域別・診療科別の偏在」をいう現実から目を背けることはできません。検討会および分科会では「地域間で医師偏在がある場合には、地域枠のニーズは残る」点を強調しています。

 
5月28日の検討会・分科会では、こうした方針に異論は出ていませんが、「2022年度以降の議論」に対する注文が数多出されました。

例えば「減員」の方向について加納繁照構成員(日本医療法人協会会長、検討会の構成員)は、「地域別・診療科別などミクロに見ていけば、医師が不足しているところもある。今後、医療ニーズを定期的に見直し、ミクロにおいて医師の適正配置がなされるようにする必要がある」旨を強調。

地域偏在を是正する方策として「地域枠」の重要性が指摘されます。この点について新井一構成員(前全国医学部長病院長会議会長、分科会の構成員)は、「地域枠の学生は一般の医学部生よりも優秀である、との報告もある」ことを紹介し、地域枠の重要性を再確認。その上で、「各大学にアドミッションポリシー(入学者受け入れ方針)があり、それを無視した、都道府県等からの『地域枠を設け、拡充せよ』との要請は好ましくない。大学には、それぞれ使命があり、意思を確認したうえで地域枠等を進めていく必要がある」と述べています。地域枠については、現在「臨時の定員増」の中で設定されていますが、分科会では「恒久定員の中に盛り込む」方向も出ています。全国医学部長病院長会議では、この点についても「各大学の意思を尊重すべき」と要請しています(関連記事はこちら)。

当面の医学部入学定員

当面の医学部入学定員

 
また、山崎學構成員(日本精神科病院協会会長、検討会の構成員)や釜萢敏構成員(日本医師会常任理事、検討会の構成員)は、地域においては「幅広い領域を診れる医師」(総合医)のニーズが高いことを改めて強調。福井次矢構成員(聖路加国際大学学長、分科会の構成員)は「専門医と総合医の適正比率(いわば黄金比)を国が示す必要がある」と提言しています。

 
さらに荒井正吾構成員(奈良県知事、検討会の構成員)は、▼医師養成を独立して議論するのでなく、医療を「産業組織」として捉え、さまざまな要素を含めて「最適化」を図る視点を持つ必要がある▼医師需給の前に「医療需給」を客観的に把握する努力をする必要がある▼ミクロ(地域別)の「医療需要」を客観的に図る手法(例えば、地域のニーズとウォンツを図り、後者が前者を上回る場合には「医療需要が過大」と判断する、など)を開発する必要がある解を図る必要ある▼医師が果たさなければならない役割の明確化、医療従事者の業務分担、医療行為の標準化・適正化などを行った上で「医師の能力の最適配分」を考える必要がある―と提言しています。

このうち「医療従事者の業務分担」(タスク・シフティング)については、検討会の下部組織である「看護職員需給分科会」と「理学療法士・作業療法士需給分科会」が近く再開され、それぞれの需給について検討を行いますが、今村聡構成員(日本医師会副会長、分科会の構成員)は「我が国は先進諸国に比べて薬剤師が多い。しかし、必要とされる病院の現場に勤務する薬剤師は少ないという。この点も検討すべきではないか」と提案しています。

 
なお、相澤孝夫構成員(日本病院会会長、検討会の構成員)は「地域の人口が大きく減少していく中では、『今後とも、医学部できちんとした教育がなされるのか』という視点・議論が欠かせず、『1県1医大構想』も見直していく必要性があるのではないか」と指摘し、今後の急速な変化を踏まえて、検討会・分科会でも「短いスパンで議論していくべき」と訴えています。

 今後の検討スケジュールについて詳細は固まっていませんが、「2020年度以降の医師養成」に関する議論は、早くとも「働き方改革」の方向が明確になる2019年3月以降になりそうです。

また「医師不足地域か否か」を判断するための指標論議については、国会における医師法・医療法改正案の成立を待つ必要があり、今夏から今秋以降になると予想されます。
 
 
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