ACP等の普及に向けて多くの提案、「医師少数地域での勤務経験」の活用法に期待集まる―社保審・医療部会(2)
2018.4.12.(木)
自分が人生の最終段階にどういった医療・ケアを受けたいかを繰り返し、医療従事者や家族・友人と話し合う「ACP」(Advanced Care Planning)や、これを支援するための「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」などの普及・啓発が、今後、極めて重要になる。入院や施設入所が、こういったテーマを考える「きっかけ」となり、その際に医療・ケアチームが説明しやすいようにリーフレットなどを準備してはどうか―。
4月11日に開催された社会保障審議会・医療部会では、こういった提案が厚生労働省に対してなされました。ACPや「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」への、極めて高い関心の現れと言えます。
ACPなど、国民に浸透しやすい「名称」を求める意見も
4月11日の医療部会では、(1)医療法・医師法改正案(2)オンライン診療の実施ガイドライン(3)検体検査の精度管理(4)「人生の最終段階における医療」の普及啓発(5)無痛分娩―の各テーマについて、厚労省から報告を受けました。本稿では、(1)と(4)に焦点を合わせてみましょう(関連記事はこちら)。
まず(4)では、改訂版の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」と、このガイドライン等を普及していくための方策について、厚労省から報告がなされました。「人生の最終段階にどのような医療・ケアを受けたいか、また受けたくないか」を医療・介護関係者や家族・親しい友人と何度も話し合う(決定後も修正のための話し合いを措定)ことの重要性が強調された改訂内容となっています(関連記事はこちらとこちら)。
この改訂内容等については異論が出ていませんが、委員会からは普及方法などについてさまざまな注文が付きました。医療関係者を初め、多くの識者が注目していることの現れと言えるでしょう。
例えば、邉見公雄委員(全国自治体病院協議会会長)は「改訂内容は、マンパワーの効率的な活躍にもつながる。普及に向けて中学生・高校生のころから死生観に関する教育を始めてはどうか」と提案。また島崎謙二委員(政策研究大学院大学教授)は「地域全体で、個々人の『人生の最終段階の医療・ケアに関する意思』をどう共有するかが大きな課題である(例えば救急搬送時にどう情報共有するか)」と問題提起。
また相澤孝夫委員(日本病院会会長)は「人生の最終段階を考えるきっかけとして『入院』や『施設入所』がある。その際、患者・利用者に『人生の最終段階にどういった医療・ケアを受けたいですか』といった説明をするリーフレットのようなものがあるとよい」と具体的に提案。さらに猪口雄二委員(全日本病院協会会長)とともに「名称が長すぎ、一般国民に受け入れられにくい」と指摘し、より親しみやすい呼称などを考える必要があると訴えています。
なお、「我が国では死を考えることを拒みがちで、欧米では前向きに考えている」といった一般的な印象がありますが、岩田太委員(上智大学法学部教授)は「欧米でもほとんどの人は死と向き合うことを拒む。そこでACPを開発し、対応してきた」と説明し、我が国でも徐々にACPが浸透していくことに期待を寄せています。すでに多くの医療・介護現場で、患者や利用者と「最期をどう過ごしたいですか」といった話し合いも進んでおり、ACP浸透の土壌は一定程度醸成されていると考えられます。
我が国では、医療ドラマが人気ですが、例えば「死」を迎えるシーンなどを視聴した際に、肩ひじを張らずに、家族や友人と「自分の最期は・・・」といった話し合いができる風土が醸成されることが期待されます。
医師少数地域での勤務経験ある「認定医師」、税制上の優遇措置などを今後検討
また今国会に提出されている(1)の医療法・医師法改正案は、次の5本の柱で構成されています(関連記事はこちらとこちらとこちら。
(i)医師少数区域等で勤務した医師を評価する制度の創設(認定医師)
(ii)都道府県における医師確保対策の実態体制整備(医療計画の中に「医師確保計画」を位置付けるなど)
(iii)医師養成過程を通じた医師確保対策の充実(都道府県知事から大学医学部に地域枠等の創設・増加要請権限などを付与するなど)
(iv)地域での外来医療機能の偏在・不足等への対応(外来医療情報を可視化し、協議する場を設けるなど)
(v)地域医療構想の実現に向けた都道府県知事の権限追加
このうち(i)について厚労省医政局総務課の榎本健太郎課長は、認定制度創設後には▼認定医師に対する専門医資格取得の必要支援▼認定医師が医療機関を開設する場合の支援▼認定医師を雇用する場合の税制上の優遇―など、さまざまな方策が考えられるとコメント。今後の議論で、「認定医師を優遇する方策」が手厚くなるほど、医師少数地域での勤務希望が増加すると考えられ、「正のスパイラル」構築に向けた、活発な検討・議論に期待が集まります(関連記事はこちらとこちら)。
ところで、医療計画・地域医療構想・実際の病床数を比較すると、地域によっては【基準病床数(医療計画)】>【既存病床数(現時点の実際の病床数)】>【病床の必要量(2025年、地域医療構想)】となっているとこがあります。基準病床数まで増床・新設が可能ですが、いずれ「病床過剰」となることは明確なため、(v)で、こうした場合に都道府県知事が「増床・新設の許可を与えない(民間医療機関に対しては勧告)」(厚生労働大臣も保険指定を行わない)ことを可能とする権限が追加されます。
なお、我が国では、ほとんどの地域で人口減少が急激に進むことから、「2025年の先」を見据えた病床整備を検討していくことも重要です(単純に「病床の必要量までベッドを整備すればよい」という問題ではない。後に病床の大幅過剰になる可能性が高い)。
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