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新たな地域医療構想、在院日数の短縮や病床機能分化等の改革モデルを織り込み、実態に近い必要病床数を設定—地域医療構想・医療計画検討会

2025.10.16.(木)

新地域医療構想では、従前と異なり「在院日数の短縮」や「病床機能分化」等の改革モデルを織り込み、より実態に近い必要病床数を設定する—。

また、新地域医療構想の実現に向け、今後の「病床機能報告」では、「診療報酬」を一つの目安とし、バラつきの少ない病床機能報告へと進化させる—。

新地域医療構想は「2040年に帳尻が合えばよい」というものではなく、「いつ頃までに何を決定し、いつ頃までに何を実現すべきか」というスケジュール・工程表を一定程度明確にする—。

10月15日に開催された「地域医療構想及び医療計画等に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった方向が概ね了承されました。

なお、厚生労働省は「新地域医療構想策定ガイドライン」の作成を待たずとも、例えば「地域医療構想区域の点検」(あまりに人口規模が小さくなっていないか?区域内に急性期拠点機能病院を適切に設定できるか)などは「今から」進められると考えており、近く必要なデータなども都道府県等に提供していく構えです。

新たな地域医療構想、在院日数の短縮や病床機能分化等の改革モデルを織り込む

2040年頃を目指した「地域医療構想の実現」が、医療提供体制における重要なテーマとなっています。

「地域医療構想の実現」とは、端的に「地域の医療ニーズ」と「地域の医療資源」(病床、医療従事者、設備など)とを過不足なくマッチさせることを意味します。「A地域には慢性期患者が多いが、急性期病院しかない」のでは、地域の医療ニーズ(慢性期入院医療)と地域の医療資源(急性期入院医療)との間にミスマッチがあり、患者に効果的かつ効率的な医療を提供できません。このため両者をマッチさせるべく、データに基づいて「急性期入院医療から慢性期入院医療へのシフト」を進めていくことが求められるのです。

その際、「地域の医療ニーズ」を表現したものが【地域医療構想】、「地域の医療資源」を表現したものが【病床機能報告】と言えます。地域の協議の場(地域医療構想調整会議など)で関係者が膝を突き合わせて、【地域医療構想】(医療ニーズ)と【病床機能報告】(医療資源)との調和をどう図っていくかを議論し、合意のうえで「病院・病床の機能転換」や「規模の最適化」などを進めていくことが求められます。

このため【地域医療構想】には「将来(ここでは2040年)の医療ニーズ」を記すことが必要不可欠です。具体的には2040年において「高度急性期病床は何床必要か、急性期病床は何床必要か、包括期病床は・・・」という具合に、機能別の必要病床数を明示することになります。

この必要病床数について、現在の「2025年をゴールとする地域医療構想」では、▼高度急性期・急性期などの機能ごとの延べ入院患者数(2025年時点)を推測する→▼病床稼働率(高度急性期75%、急性期78%など)で割り戻す—という形で計算されました。

現在の「必要病床数の算定」ロジック(地域医療構想・医療計画検討会1 251015)



その際、「2025年の延べ入院患者数」は、「現在の入院患者数」をベースに、2025年の人口動態を勘案して推測しており、「疾病構造の変化や在院日数の短縮、入院から外来へのシフト(例えば抗がん剤治療や軽度手術の外来移行など)は読み切れないため、推測に当たっては考慮しない」こととされました。「推計が確実な将来人口」のみを勘案し、「不確実性の高い事項」は勘案しない(「何も引かない、何も足さない」などと説明された)との考えに基づくもので、一定の合理性があります(関連記事はこちらこちら)。



ただし、「地域医療構想(現在の2025年をゴールとする構想)」と「実際の入院患者数」とを比較すると、下図のように大きな乖離が生じていることが分かりました。

「必要病床数」と「実際の患者数」との乖離(地域医療構想・医療計画検討会2 251015)



乖離の背景には、「地域医療構想の実現に向けた取り組み」(病床の削減など)が進んだことのほか、▼医療技術の高度化・低侵襲化(従前入院が必要だった傷病を外来治療で行うことができるようになった)▼在院日数短縮などの効率化の取り組み(延べ患者数(1人の患者が10日入院すれば10人とカウントする)は在院日数減で延べ患者数も当然減少していく)▼患者の受療行動の変化(コロナ感染症などで「入院するまでもない傷病では入院しない」ことを患者側も選択するようになった)▼人口構成の変化(人口減は患者減に直結する)—など様々な要素が考えられます。

上述のように「在院日数短縮」等の要素は地域医療構想には加味されていないので、「乖離が出る」ことは当然の帰結と言え、地域医療構想策定時にその点は織り込み済ではあるものの、「一定程度、予測可能な部分は地域医療構想、必要病床数の推計に当たって勘案すべき」との考えも成り立ちます。

今般、厚労省は、2040年をゴールとする新地域医療構想の策定に当たっては、後者の考え、つまり「一定程度、予測可能な部分は地域医療構想、必要病床数の推計に当たって勘案する」方向に舵を切るべく、次のような考えを提示しました。

●必要病床数の算定に当たっては、医療技術の進歩や医療提供の効率化の取り組みなどの複数の要因から受療率が低下してきていることを踏まえ、「改革モデルとして受療率の低下」を組み込んで計算してはどうか



この点について厚労省は次のようなデータを例示しています。

▽「年齢階級ごとの医療需要、医療提供が変わらない」と仮定したとしても、人口10万人未満の2次医療圏の半数以上で入院患者数は減少する見込みである

入院受療率の低下1(地域医療構想・医療計画検討会3 251015)



▽例えば、「がん患者は入院患者数が減少し、外来患者数が増加する」などの医療の高度化・低侵襲化、在院日数短縮、在宅医療や外来医療の充実、介護への移行等を背景に年齢階級別の入院受療率は低下傾向にある

入院受療率の低下2(地域医療構想・医療計画検討会4 251015)



▽時間の経過とともに「入院初期により多くの医療資源を投入する」傾向がある(2016年→2023年)
→より早期に集中的な治療を行い「早期退院」を目指す傾向が強くなってきており、当然、在院日数の短縮につながる(結果、延べ患者数は少なくなり、より少ないベッドで医療ニーズに対応できることになる)

医療資源投入の前倒し傾向(地域医療構想・医療計画検討会5 251015)



こう考えていくと、「現在の2025年をゴールとする地域医療構想」と「2040年をゴールとする新地域医療構想」とでは、必要病床数の考え方に大きな「質的な違い」が生まれることになります。

その違いは、「既に一定程度見えている動きを必要病床数の推計値に盛り込む」ことで、上記のような「乖離」が小さくなるという形で現れると期待されます。この点、言葉を選ばずに「従前の必要病床数は、実態から少しずれた机上の計算値、しかも過大に計算されることを容認したものであったが、新たな必要病床数はより実態に近づいたものとなる」と厳しく指摘する識者もおられます。

ただし、地域医療構想の実現に責任を持つ都道府県や医療現場にとっては、「必要病床数推計の手間が増える」とともに、「地域医療構想の実現に向けた動きをより活発しなければならなくなる」という点に留意が必要です。上記の識者の言葉を借りれば、「従前の必要病床数は実態を反映しておらず、病床機能報告結果との乖離があっても一定程度容認された部分があったかもしれない(そもそも実態を反映していないため、そこに近づけることにどれほどの意味があるのか、との声も医師会幹部等にあった)が、新たな必要病床数は実態に近づくため、病床機能報告結果との乖離があれば、より厳しい目で見られる」可能性があるのです。



あわせて厚労省は、必要病床数の推計に組み込む「改革モデル」の中に、上述の「診療実態の変化」だけでなく、「病院・病床の機能分化」などの政策の動きも盛り込んではどうかと提案しています。

例えば、厚労省は回復期リハビリテーション病棟について次のようなデータを示しており、ここからは「回復期リハビリ病棟のより効率的な運用」を求めることで「在院日数の短縮」が可能になると見込まれます。繰り返しになりますが、「在院日数の短縮」は「延べ入院患者数の減少→必要病床数の削減」につながるため、こうした点を改革モデルに盛り込むことが考えられるのです。

▽脳血管疾患の割合が減少し、整形外科疾患割合が増加している
→長期のリハビリを必要な脳血管疾患患者が減ることで、在院日数短縮が見込まれる

回復期リハビリ病棟の患者構成の変化1(地域医療構想・医療計画検討会6 251015)

回復期リハビリ病棟の患者構成の変化2(地域医療構想・医療計画検討会7 251015)



▽介護が必要で、在院日数の長い「認知症高齢者」が一定数入院している
→こうした患者を地域包括ケア病棟や介護施設にシフトしていくことで、在院日数短縮が期待できる

回復期リハビリ病棟等の認知症患者状況1(地域医療構想・医療計画検討会8 251015)

回復期リハビリ病棟等の認知症患者状況2(地域医療構想・医療計画検討会9 251015)



また、2024年度診療報酬改定で【地域包括医療病棟】が創設され、「高齢の救急患者を受け入れ、急性期治療とともに、リハビリや在宅復帰支援に力を入れる」ことが期待されています。こうした病棟の整備が進むことで「高齢の救急患者の寝たきり(寝かせ切り→寝たきり)による長期入院」を防止することが期待されています。

こうした点を踏まえて厚労省は、次のような、より具体的な考えも提示しています。

●包括期機能について「急性期機能の病床に代わって高齢者等の急性期患者を受け入れる」ことや「回復期リハビリテーションの効率的な提供、医療機関の連携・再編・集約化に向けた取り組みによる効率化」などを改革モデルとして組み込んではどうか



こうした提案・方向に異論・反論は出ていませんが、構成員からは▼必要病床数は、現在は「固定」されているが、新たな地域医療構想では「必要に応じて、また定期的に検証・修正」していく必要がある(岡俊明構成員:日本病院会副会長)▼「高齢の救急患者」について、一律に年齢で区切って「65歳以上患者は包括期病棟」などと決めることはできない(高齢患者でも3次救急対応が必要な患者は少なくない)。「包括期病棟で高齢救急患者を受け入れる」という縛りを設けるべきではなく、地域で医療資源を勘案して柔軟に医療提供体制を整備していくべき(猪口正孝構成員:全日本病院協会副会長)▼新地域医療構想の「包括期機能」の中には回復期リハビリ病棟も含まれるが、地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟と違って「救急対応」が難しい面もある点に留意してほしい(小川祐幸構成員:島根県雲南市健康福祉部保健医療政策課管理監)▼必要病床数の算定において「地域が独自に調整可能な余地」を設けてほしい(玉川啓構成員:福島県保健福祉部次長(健康衛生担当))—などの注文が付いています。

こうした声も参考にしながら、今後、より具体的に「必要病床数の算定ロジック」を詰めていきます。新たなロジックに基づけば、ほとんどの地域で「より少ない必要病床数」が導かれることになるでしょう。

病床機能報告、最終判断は医療機関が行うが、診療蕉風との紐づけを強化

他方、「地域の医療資源」を示す【病床機能報告】については、客観性を担保するために、社会保障審議会・医療部会の議論も踏まえて次のような工夫を行う考えが提案されています

▽病床機能報告は「医療機関の自主的な報告」により行われてきたが、都道府県間でばらつきが見られる(下図参照)ことや、都道府県で「提供体制そのものでなく、報告基準の議論に労力がさかれている」事例もある
▽診療報酬上の届け出は「診療機能等について一定の要件を満たしたもの」である

●病床機能報告において、病床機能区分の選択にあたって「客観的な報告」に資するよう、「入院料の種類ごとに対応する機能区分の目安」を整理してはどうか



詳細は今後の議論になりますが、例えば「急性期一般1(7対1病棟)は●●区分とすることが考えられる」などの紐づけを強化するイメージが考えられます。

「客観的な病床機能報告」は従前からの検討テーマで、「特定入院料(ICUなど)では一定の紐づけが行われているが必ずしも1対1対応ではなく(地域包括ケア病棟は様々な機能と紐づいている)、最もベッド数の多い入院基本料については必ずしも十分な紐づけがなされてない」という課題もあります(下図参照)。

病床機能報告の4機能と、診療報酬上の特定入院料の紐づけ

▼7対1は高度急性期または急性期▼10対1は急性期または回復期▼13対1・15対1は回復期または慢性期、一部は急性期—といった基本的な紐づけが行われた。もちろん異なる報告をすることも可能である



このため、急性期一般1病棟が急性期機能として報告する割合や、地域包括ケア病棟が回復期(新地域医療構想では「包括期」)として報告する割合には、大きな地域差があります。

急性期一般1病棟の病床機能報告内容にはバラつきあり(社保審・医療部会(1)1 251003)

地域包括ケア病棟の病床機能報告内容にもバラつきあり(社保審・医療部会(1)2 251003)



こうした状況を踏まえて、昨年(2024年末)の「新たな地域医療構想等に関する検討会」とりまとめでは、すでに「病床機能報告が適切に行われるよう、診療報酬における届け出等に応じた客観性を有する報告とし、一定の医療機関の役割を明確にする仕組みとすることが適当」との考え方が明示されており、この考えに沿った提案がなされたものです。

この点について検討会構成員からは、▼病床機能報告は、あくまでの「病院が自主性をもって選択する」ものである点を忘れてはならない(坂本泰三構成員:日本医師会常任理事、岡構成員、猪口構成員)▼現在の地域医療構想でも、当初は「医療資源投入量」を「病床機能報告の目安」と誤解する関係者が少なくなかった(例えば、高度急性期病床には「1日当たりの出来高点数が3000点以上の患者を入れなければならない」等の誤解、関連記事はこちら)。今後も誤解が生じないように丁寧に説明会や研修会を行ってほしい(望月泉構成員:全国自治体病院協議会会長)▼高度急性期機能と急性期機能との棲み分け・選択が難しいことが、(上記の)急性期一般1のバラつきにつながっている点に留意すべき(今村知明構成員:奈良県立医科大学教授)▼病床機能報告内容(どの病棟を急性期機能で報告するか、など)の最終判断は病院に委ねられていることは否定しないが、一定の目安、少なくとも診療報酬との紐づけの強化を行うべき(伊藤悦郎構成員:健康保険組合連合会常務理事)—との意見が出ています。

「病床機能報告と診療報酬との紐づけをより明確化する」方向そのものに異論・反論は出ておらず、今後、具体的な「紐づけ」が進められると見込まれます。

新地域医療構想をどのように進めていくか、参加者・スケジュール・検討項目など整理

また検討会では、「地域医療構想の策定・取組の進め方」について次のような考え方も示されています。

▽地域医療構想策定ガイドラインについて、地域医療構想の範囲が入院以外にも広がること等も踏まえ前回のガイドラインの主な構成は踏襲しつつアップデートしてはどうか(下図表参照)

新地域医療構想策定ガイドラインの構成案(地域医療構想・医療計画検討会10 251015)



▽議題ごとのスケジュールを「幅を持って整理」し、都道府県が柔軟で効果的、効率的な会議運営に資するよう、議題や主な関係者を整理してはどうか(下図表参照)

新地域医療構想の実現に向けたスケジュール案(地域医療構想・医療計画検討会11 251015)

新地域医療構想の実現に向けた協議事項案(地域医療構想・医療計画検討会12 251015)



こうした方向に異論・反論は出ていませんが、構成員からは▼地域住民、とりわけ「医療機関の集約化を進める地域」の住民に、地域医療構想とは何か、なぜ集約化が必要なのか、などを十分に理解してもらうことが重要であり、地域住民の構想会議への参画の機会をしっかりと確保すべき(岡構成員)▼地域によっては構想区域の拡大を検討する必要があり、また議題も外来、在宅、医療・介護連携等が加わるなど、構想会議で検討すべき事項が多くなる。構想会議が「資料説明」だけで終わるようなことがないように、議論の活性化に向けた工夫を図るべき(望月構成員、坂本構成員)▼医療関係者の中にも地域医療構想を理解してない人が少なからずいる。医療関係者への情報提供も十分に行うべき(菅原琢磨座長代理:法政大学経済学部教授)▼円滑に調整会議が進むように「模擬動画」作成や、地域での「試行」を行うことが重要である(松田晋哉構成員:福岡国際医療福祉大学ヘルスデータサイエンスセンター所長)▼調整会議と他の会議(地域医療対策協議会など)との関係を整理し、参加者の負担減に配慮するとともに、「議論・方向・施策の整合性確保」を図るべき(土居丈朗構成員:慶應義塾大学経済学部教授)▼調整会議の参加者に「医療保険者」を明確に位置付けてほしい(川又竹男構成員:全国健康保険協会理事、伊藤悦郎構成員)▼地域によっては2040年を待たずに機能分化等を完成させる必要があり、スピード感を持って進めるべき(伊藤悦郎委員)—などの注文が付いています。

いずれも重要な指摘であり、ガイドラインや実際の運用の中に反映させていく必要があるでしょう。

なお、上図のスケジュールについて厚労省は、「新地域医療構想策定ガイドライン」の作成を待たずとも、例えば「地域医療構想区域の点検」(あまりに人口規模が小さくなっていないか?区域内に急性期拠点機能病院を適切に設定できるか)などは「今から」進められると考えており、近く必要なデータなども都道府県等に提供していく構えです。



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