大学病院の一部、「3000点」が高度急性期の目安と誤解、機能を勘案した報告を—地域医療構想ワーキング(2)
2017.6.2.(金)
大学病院の一部が「全病棟を高度急性期」と報告していることが問題視されていますが、この背景には、病床機能報告とは無関係の「1日当たり医療資源投入量3000点」を目安にしていたことなどがあった—。
2日に開催された地域医療構想に関するワーキンググループ(医療計画等の見直しに関する検討会の下部組織以下、ワーキング)の議論で、こういった状況が明らかになってきました。
構成員や厚生労働省からは「3000点や600点は、マクロでの医療ニーズ(患者数)を把握するためのもの。病床機能報告とは無関係である」ことなどが丁寧に説明されました。今後、機能に応じた選択・報告が進むと考えられ、本年度(2017年度)からの病床機能報告結果はこれまでと大きく変わる(高度急性期が激減)ことも予想されます。
目次
2016年度、54の特定機能病院で「全病棟が高度急性期」と報告
病床機能報告制度は、一般病床・療養病床を持つすべての病院が「自院の病棟が▼高度急性期▼急性期▼回復期▼慢性期—のいずれの機能を担っていると考えているか」などを毎年、都道府県に報告するものです。すでに都道府県が策定した地域医療構想(2025年における▼高度急性期▼急性期▼回復期▼慢性期―ごとの病床の必要量)と病床機能報告結果を照らし合わせ、地域ごとに病床機能分化や連携の推進を目指していきます。大学病院を初めとする特定機能病院も、一般病院と同じルールにのっとって「自院の病棟の機能」を選択・報告することが求められます。
これまでに3回の病床機能報告が行われ、その中で「大学病院を初めとする特定機能病院では、全病棟を高度急性期としている病院が少なくない」ことが問題視されています。
2016年度には、全病棟を高度急性期と報告した病院が128あり、うち5施設は小規模なハートセンター(循環器科の専門病院)、69施設が公的病院(平均病床数462床)、54施設が特定機能病院(平均病床数776床)でした。特定機能病院が、我が国の医療の「砦」となる高機能な病院であることは疑いようがありませんが、「全病棟が高度急性期機能を果たしているのだろうか」という点が問題となっているのです。
厚生労働省が、地域ごとの病床機能報告結果を分析すると、特定機能病院の一部において「実態と報告内容にズレがあるのではないか」と思われるケースが見つかっています。例えば、弘前大学医学部附属病院では、明らかに高度急性期と認められるICUなどの特定入院料算定病床の割合(許可病床数に対する割合)は6.4%に過ぎないにもかかわらず、全病棟を高度急性期と報告しています。また、埼玉医科大学病院でも特定入院料算定病床割合は9.4%にとどまりますが、全病棟を高度急性期と報告しています。もちろん、特定入院料算定病床以外の一般病棟においても「高度急性期機能を果たしている」病棟がありますが、厚労省は「ズレが大きい。病床機能報告制度を十分理解されていないのではないか」と指摘しています。
特定機能病院、高度急性期と急性期を比較すると手術件数が同程度の診療科も
また特定機能病院の中でも、「高度急性期」と報告している病棟と「急性期」と報告している病棟があります(前者が多い)。厚労省は、診療科別に「両者で医療提供内容に違いがあるのか」を見る必要性を感じ、▽病床当たり手術件数▽病床当たり全身麻酔手術件数—を指標として比較を行いました。
その結果、循環器内科や脳神経外科では「高度急性期と報告した病棟のほうが急性期よりも2倍以上の手術・全麻手術を実施している」ものの、整形外科や眼科、耳鼻科では「高度急性期と急性期で手術・全麻手術に大きな違いはいない。むしろ急性期のほうが多いケースもある」ことが明らかになりました。手術・全麻手術という外科系に偏った分析とも思えますが、「診療科によっては、高度急性期と報告した病棟と急性期と報告した病棟とで、機能や医療提供内容に差がない」ことが伺えます。にもかかわらず、特定機能病院の多くでは「全病棟を高度急性期」と報告しているのです。
こうした状況について中川俊男構成員(日本医師会副会長)は、「機能をしっかりと考慮したうえで全病棟を高度急性期と報告するのであればよいが、一律に『全病棟を高度急性期』と報告してしまえば、地域の医療提供体制を正しく把握できなくなってしまう。少し反省してほしい」と厳しい口調で批判しています。
3000点や600点は2025年の患者数を推計する基準、病床機能報告とは無関係
一方、こうした報告内容の背景には、大学病院側が「平均すれば全病棟で入院患者への医療資源投入量が3000点を超えており、高度急性期と報告している」といった誤解があることが、2日のワーキングにおける議論の中で明らかになってきました。
各都道府県では、2025年における▼高度急性期▼急性期▼回復期▼慢性期—の機能別に必要病床数(病床の必要量)を計算した「地域医療構想」を策定しています。この必要病床数は、地域における予測患者数をベースに計算しますが、その際、「高度急性期は、1日当たりの医療資源投入量が3000点を超える患者」「急性期は600点を超える患者」(いずれも入院料を除く)といった基準が置かれました。高度急性期や急性期のラインを決める物差しが他になかったためです(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
このように3000点、600点という数字は、2025年の必要病床数を計算するためのものであり、現在、各病院が行う「病床機能報告」とは全く関係のないものです。以前、メディ・ウォッチでもお伝えしましたが、「高額な抗がん剤を用いたケモセラピーを入院医療で行えば、あっという間に医療資源投入量は3000点を超えるが、そうした患者が多くを占める病棟が果たして高度急性期と言えるだろうか」ということなどを考えれば、病床機能報告と3000点・600点が無関係なものというイメージが沸くのではないでしょうか(関連記事はこちら)。
しかし、大学病院代表として2日のワーキングに出席した海野信也参考人(全国医学部長病院長会議経営実態・労働環境ワーキンググループ座長、北里大学病院長)は、「高度急性期や急性期の定義が明確にされておらずファジーな部分がある。これまでに示されているのは『3000点』『600点』といった数字だけで、これを用いるしかなかった」と述べ、一部の大学病院では、この数字を目安に「全病棟を高度急性期とする」などの判断を行っていることが明らかになりました。
中川構成員や相澤孝夫構成員(日本病院会会長)は、上記に示した「3000点や600点の意味」を丁寧に説き、今後、実際に提供している医療内容や入院患者の状態、地域の状況などを勘案した報告を行ってほしいと要望。相澤構成員は「病床機能報告のポイントは、各病院が『自院はどう考えているのか』を示し、調整会議で議論しながら地域の医療提供体制をどうしていくのかを考えるところにある」と強調しています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
海野参考人も理解を示し、全国医学部長病院長会議の会合などで周知することを約束しています。
「回復期ニーズに特化した、独立の回復期機能の病棟」は必要なのか?と中川構成員
このように一部の大学病院では病床機能報告制度について誤解をしていたこと、さらに誤解が解けるであろうことを勘案すれば、本年度(2017年度)以降の病床機能報告結果が大きく変わることが予想されます。
厚労省が前回会合で示したデータによれば、昨年度(2016年度)には▼高度急性期:5825病棟(報告された病院病棟の20.8%)・16万9481病床(報告された病院病床の14.4%)▼急性期:1万1994病棟(同42.9%)・53万7543病床(同45.8%)▼回復期:2806病棟(同10.0%)・12万5602病床(同10.7%)▼回復期:7328病棟(同26.2%)・34万866病床(同29.0%)―との報告がなされています(関連記事はこちら)。
このうち「全病棟が高度急性期」と報告しているのは128病院で、7万4406床が高度急性期となっている状況です。このうちの相当部分が「別の機能」と報告され、各機能の割合が大きく変化する可能性があるのです。
もっとも2日のワーキングでは「7対1は高度急性期または急性期」といった紐づけを行っており、回復期や慢性期として報告される病棟は、多くはなさそうです(高度急性期が減少し、急性期が増加する)。
すると「回復期が不足している」状況に変化はありませんが、中川委員は「高度急性期病棟でも、患者の状態は高度急性期→急性期→回復期→退院へ、と変化していく。回復期の患者はどんな病棟にもおり、必ずしも『回復期ニーズについて独立した回復期病棟が必要である』というわけではない。したがって回復期機能との報告が少ないのは当たり前で、『回復期病棟が足らない』とあおる必要はない」と改めて指摘しました(関連記事はこちら)。
一方で、ワーキングでは「13対1・15対1病棟は回復期または慢性期と主に紐づける」「リハビリテーションを行っておらずとも回復期機能を選択できる」ことも明確にされており、今後13対1や15対1一般病棟、療養病棟などの報告状況も変動する可能性があります。そういった意味では、本年度(2017年度)の病床機能報告は、これまでに異常に「地域の医療提供体制の実態に近い数字」が出るものと期待できます。
なお、本年度(2017年度)の病床機能報告については項目の見直しや追加がなされており、別途、お伝えいたします。
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