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GemMed塾 病院ダッシュボードχ 病床機能報告

循環器内科かつ高度急性期にも関わらず、PTCAを1度も実施していない病院がある—地域医療構想ワーキング(1)

2017.5.10.(水)

 2016年度の病床機能報告制度において、▼すべての病棟を高度急性期としている病院▼高度急性期と慢性期あるいは回復期のみとしている病院—などが散見される。また循環器内科で高度急性期を選択しているにも関わらず、経皮的冠動脈形成術を1か月に1件も実施していない病院が一部にある。今後、診療実績などを詳しく分析していく必要がある—。

 10日に開催された「地域医療構想に関するワーキンググループ」(医療計画等の見直しに関する検討会の下部組織、以下、ワーキング)で、このような議論が行われました。

 上記のような報告を行っている病院では、各機能に関する誤解などがある可能性があり、これは地域医療構想の実現の第一歩を踏み出すための大きな障害になってしまうため、詳しい分析が待たれます。

5月10日に開催された、「第4回 地域医療構想に関するワーキンググループ」

5月10日に開催された、「第4回 地域医療構想に関するワーキンググループ」

全病棟を高度急性期と報告するなど、病床機能報告を理解していない病院も

 2025年には、いわゆる団塊の世代がすべて後期高齢者となるため、医療(とくに慢性期医療)・介護ニーズがこれから飛躍的に高まっていくことが予想されます。現在の医療提供体制で増大するニーズに対応することは難しいので、厚生労働省は「地域包括ケアシステムの構築」や「病院・病床の機能分化・連携の推進」などを当面の最重要政策に掲げています。

 後者の「病院・病床の機能分化・連携」を進めるに当たっては、▼各都道府県が2025年時点における医療ニーズをベースに、▽高度急性期▽急性期▽回復期▽慢性期—の機能ごとの必要病床数(病床の必要量)を算出する【地域医療構想】(関連記事はこちらこちら)▼一般病床・療養病床を持つすべての病院・有床診療所に毎年、自院の各病棟がどの機能を有し、将来(6年後)にどの機能を持たせたいと考えているかを報告させる【病床機能報告】▼地域医療構想区域に設置される調整会議で、地域医療構想と病床機能報告結果をすり合わせ、各医療機関に自主的な機能転換などを求める—という大きな道筋が描かれています。

 厚労省は10日のワーキングに、2016年度における病床機能報告結果を報告しました。病院について見てみると、▼高度急性期:病棟ベースで20.8%、病床ベースで14.4%・16万9481床▼急性期:病棟ベースで42.9%、病床ベースで45.8%・53万7543床▼回復期:病棟ベースで10.0%、病床ベースで10.7%・12万5602床▼慢性期:病棟ベースで26.2%、病床ベースで29.0%・34万866床―という状況で、厚労省が整理した「特定入院料と各機能との結びつき」に沿った報告が行われていることなどが分かりました。

2016年度の病床機能報告制度の結果速報(病院について)

2016年度の病床機能報告制度の結果速報(病院について)

2016年度病床機能報告制度結果から、特定入院料と各機能との関係を見ると、かなりそろってきている(ある特定入院料を届け出ながら、選択した機能が大きくばらけるようなことはない)

2016年度病床機能報告制度結果から、特定入院料と各機能との関係を見ると、かなりそろってきている(ある特定入院料を届け出ながら、選択した機能が大きくばらけるようなことはない)

 

 しかし、各病院が「どの機能の組み合わせ」で報告をしているかを見ると、例えば128の病院では「すべての病棟が高度急性期である」と報告し、1454の病院では「すべての病棟が急性期」と報告。また、わずか9病院ですが「ほとんどが高度急性期であるが、一部、回復期機能もある」と報告するなど、「疑問のある機能選択」をしている病院が散見されています。

すべてを高度急性期と報告している(H)病院は128あり、平均許可病床は581床となっている。つまり大規模な病院(特定機能病院など)で、全病棟が高度急性期と届けている傾向があることが分かる

すべてを高度急性期と報告している(H)病院は128あり、平均許可病床は581床となっている。つまり大規模な病院(特定機能病院など)で、全病棟が高度急性期と届けている傾向があることが分かる

2016年度病床機能報告について、「1つの病院がどの機能とどの機能を組み合わせて報告している」のかを見ると、さまざまなパターンがある

2016年度病床機能報告について、「1つの病院がどの機能とどの機能を組み合わせて報告している」のかを見ると、さまざまなパターンがある

 

 ここで「すべての病棟が高度急性期」と報告した病院では、「高度急性期に特化し、極めて入院期間を短くし、高度急性期を脱した患者を円滑に他院に転院させる」優れた病院なのではないか、何が問題なのかとの疑問も生じます。この点について、厚労省医政局地域医療計画課の担当者は、「ハートセンターなど比較的規模の小さい単科病院であれば、高度急性期・急性期に特化し、全病棟を高度急性期・急性期と報告することも理解できる。しかし、2016年度に『すべて高度急性期』と報告した128病院では、平均の許可病床数が581床という大規模病院である。これらの病院で、すべての病棟が高度急性期ということはあり得るのだろうか」とコメントしています。ほとんどの病棟を高度急性期・一部の病棟を回復期と報告した病院でも同様の疑問があります。

 地方では「1つの病院で高度急性期から慢性期まで、広い機能を担わなければならない」状況があり、都市部では「機能分化を進めることが可能」な状況があるなど、地域によって病棟機能の組み合わせは異なります。しかし、上記のような点を考慮すると、「病床機能報告の趣旨や、各機能の中身について大きな誤解をしている病院が少なくない」ことも予想されます。

 前述のように、「病床機能報告の結果と地域医療構想とのズレを調整会議で議論して埋めていく」ことが、病院・病床の機能分化・連携(地域医療構想の実現)の柱であることに鑑みれば、「病床機能報告や各機能についての誤解」はその第一歩を踏み出すにあたっての大きな障壁になります。今後、病床機能報告マニュアルなどを改めて確認し、各病棟の機能を的確に把握し、報告することが求められます。

 なお、特定機能病院において「すべての病棟が高度急性期」と報告する傾向が強いようですが、この点に関連して中川俊男構成員(日本医師会副会長)は「全国医学部長病院長会議などを通じ、病床機能報告の内容と診療報酬とは関係がないと伝えているが、信じてもらえない。その結果、正しい報告がなされていない」と指摘しています。

「循環器内科の高度急性期」と報告するが、PTCA実施がゼロという病院もある

 また2016年度の報告結果からは、「同じ機能(例えば高度急性期)を選択しているが、診療実績には病院間で大きなバラつきがある」ことも分かりました。

 厚労省は、例として「循環器内科で、高度急性期と報告している病棟」(764病棟・508施設)において、2016年6月の「病床あたりの経皮的冠動脈形成術(PTCA)の算定件数」がどれだけなのかを比較しています。それによると、10件以上算定している病棟が296・38.7%あるのに対し、103病棟(13.5%)では算定件数がゼロで、うち48病棟・38施設では、当該病棟のみならず施設全体での算定件数がゼロとなっていることが分かりました。

循環器内科で、高度急性期機能と報告している病院の中には、1か月に1度もPTCAを実施していないところもあることなどが分かった

循環器内科で、高度急性期機能と報告している病院の中には、1か月に1度もPTCAを実施していないところもあることなどが分かった

 

 厚労省医政局地域医療計画課の担当者は、「循環器内科で、しかも高度急性期を選択した病棟でPTCAを1か月に1回も実施していないという事実を、調整会議でどのように説明するのだろうか」とコメント。他の診療科についても、代表的な診療行為などを選択し、同様の分析を行う考えを示しています。

 

 なお、2016年度の厚生労働科学研究では、「各機能で代表的な診療行為や診療報酬」に関する分析が行われており、高度急性期では上記のPTCAのほか、▼人工心肺を用いた手術▼脳血管内手術▼救急搬送入院―などが、回復期では「リハビリテーション充実加算」など、慢性期では「褥瘡評価実施加算」などがピックアップされました。しかし、急性期では特徴的なものがなく、「実際には『急性期ではない病棟』が急性期と報告し。特徴が薄まってしまっている」可能性があります。

各病棟の機能と、代表される診療行為や診療報酬との関係

各病棟の機能と、代表される診療行為や診療報酬との関係

 

 この点に関連して相澤孝夫構成員(日本病院会副会長)は、「病床機能報告においては、内科的な指標がほとんどない。患者像や病棟の機能を見る指標をもう一度考える必要がある」と訴えました。この点は厚労省も認識しており、医政局地域医療計画課の担当者は「442の報告項目があるが、外科に偏りがあり、そのため回復期や慢性期に関連する項目も少なくなっている。どのような項目が内科系や回復期・慢性期の指標とできるか検討中である」との見解を示しています。

同じ機能を持ちながら、ある病院は急性期、別の病院は回復期と報告することは不適当

 なお、2014年度からの報告結果を踏まえ、従前より「過剰な急性期から、不足している回復期への転換が必要」と指摘されていますが、中川構成員は「急性期や慢性期の病棟で回復期の患者を受け入れ、適切な治療を行っている。報告制度を大幅に見直し、『回復期が不足』という認識を改めるべきではないか」と指摘しています。仮に回復期と報告していない病棟であっても、リハビリなどを手厚く実施し「実質的に回復期機能を担う」病棟であれば問題ないとの見解と考えられます。

 この見解には頷ける部分もありますが、厚労省医政局地域医療計画課の担当者は「同じ機能を担っているA病棟とB病棟があったとして、Aは急性期だが、Bは回復期となるのは好ましくない。同じ機能を担っているのであれば、同じ報告内容となるべき。機能を判断するためのデータなどを提示し、自主的に報告内容を変化させていただきたい」との見解を示しています。「外観と実質は揃える必要がある」との考えと言えるでしょう。

 もっとも、急性期機能を担う病棟であっても、すべての患者が急性期に該当することは考えにくく(高度急性期から回復期まで幅広い状態の患者が入院しているのが実際)、「主にどういった患者(急性期、回復期など)が入院しているか」をベースに病院は機能選択を行いますが、データなどをもとに「この病棟では、主にこういった回復期に該当する患者が入院しているので、回復期を選択すべきでは」という合意を調整会議などで形成していくことが重要と言えます。

 
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