新地域医療構想、「急性期拠点病院の集約化」「回復期病棟からsub acuteにも対応する包括期病棟への改組」など行う—新地域医療構想検討会
2024.12.4.(水)
2040年頃を目途とする「新たな地域医療構想」を、医療計画の上位計画に位置付け、「医療計画は地域医療構想に沿って作成する」こととする。このため基準病床についても「新地域医療構想における病床の必要量を上限とする」などの考え方見直しを行う—。
病床機能報告における「回復期」機能は、「包括期」機能とし、回復期患者(post acute患者)のみならず軽症急性期患者(sub acute患者)にも対応することを求める—。
新たな医療機関機能は、▼高齢者救急・地域急性期機能▼在宅医療等連携機能▼急性期拠点機能▼専門等機能—とし、「高齢者救急・地域急性期機能」病院では、高齢者だけでなく一般の軽症救急患者にも対応すること、「急性期拠点機能」病院については絞り込み・集約化を進める—。
12月3日に開催された「新たな地域医療構想等に関する検討会」(以下、新検討会)で、こうした議論が行われました。議論は相当煮詰まってきており、近くとりまとめ論議に入ります(年内の意見とりまとめを目指す)。
目次
基準病床数は「将来の病床の必要量」を上限に設定する
2040年頃を念頭においた「新たな地域医療構想」策定論議が、新検討会で精力的に進められています。12月3日の会合では、これまでの議論を踏まえて、(1)新地域医療構想と医療計画の関係(2)病床機能・医療機関機能の報告(3)構想区域—に関する整理案が厚生労働省大臣官房の高宮裕介参事官(救急・周産期・災害医療等、医療提供体制改革担当)から提示されました。それぞれについて眺めてみましょう。
まず(1)の「新地域医療構想と医療計画の関係」については、▼新地域医療構想で「地域の医療提供体制全体の将来のビジョン・方向性」を定め、医療機関機能に着目した医療機関の機能分化・連携、病床の機能分化・連携を明らかにするとともに、介護保険事業支援計画等の関係する計画との整合性を図る▼医療計画は「地域医療構想の6年間(一部3年間)の実行計画」として、5疾病・6事業、在宅医療、医師確保、外来医療等に関する具体的な取り組みを定める—こと(新地域医療構想が医療計画の上位計画となる)が確認されています。すでに議論されたもので、異論・反論は出ていません。
なお、新地域医療構想でも重要な位置を占める「病床の必要量」(2040年に必要となるベッド数)については「定期的(例えば将来推計人口の公表毎)に見直しを行う」考えも示しています。現行の地域医療構想では「2025年における病床の必要量」は固定値とされていますが、今後、人口構造や医療資源などが大きく変化するため、「定期的にゴールも見直していく」という新たな考えが盛り込まれています。
また、この方針に沿って、▼国はガイドライン(新地域医療構想作成ガイドライン)の策定、データ提供、地域医療介護総合確保基金による支援などを行う▼都道府県は、調整会議で協議が調っ た事項の実施に努める(都道府県の取り組み状況を可視化する)▼市町村は必要に応じて調整会議に参加する▼「医療機関の機能分化・連携」に向けた施設・設備整備の支援を新たに地域医療介護総合確保基金にメニュー化する▼「急性期拠点機能」(後述)を担うべき医療機関の経営状況なども踏まえながら調整会議で協議を行い、再編・集約化を進める—などの各主体別の取り組み方針が示されています。
この主体別の取り組み方針では、注目すべき点が2つあります。
(A)基準病床数・既存病床数・病床の必要量の関係を整理する
(B)オーバーベッド(既存病床数>基準病床数となる場合、一般・療養病床の総計>病床数の必要量となる場合)の取り扱いを明確化する
まず(A)は、上述のように「新地域医療構想が医療計画の上位計画となる」ことを踏まえて、▼医療計画の基準病床数について、連携・再編・集約化を通じた効率的な病床整備を念頭に置いて設定する▼基準病床数の算定においては、「将来の病床の必要量」を上限とする▼ただし、地域の実情に応じて、医療機関の再編・集約化に伴い必要な場合や、地域の医療機関が果たせない機能を提供する場合等には「特例措置」による増床を認める—といった考えが示されました。現在は、将来的に病床過剰になる(既存病床数>病床の必要量)とわかっていても、「基準病床数>既存病床数」である場合には「増床が認められる」というちぐはぐな仕組みとなっており、この点の解消が進められます。
この(A)方針に反対意見は出ていませんが、「病床の必要量の計算式などが示されない段階でもろ手を挙げて賛成することはできない。ロングスパンの『新地域医療構想における病床の必要量』と足元の『医療計画における基準病床数』とを完全に一致させることに無理がないか検討する必要がある」と猪口雄二構成員(全日本病院協会会長)や玉川啓構成員(福島県保健福祉部次長(健康衛生担当))らは態度を保留したほか、「慢性期病床などを考える際には介護サービスをセットで考慮する必要がある」(香取照幸構成員:未来研究所臥龍代表理事/兵庫県立大学大学院特任教授)、「病床の必要量推計は入院患者数がベースとなるが、コロナ感染症流行前/流行中/現時点で患者数は相当異なる。どの時点をベースに推計するのかは慎重に考える必要がある」(今村知明構成員:奈良県立医科大学教授)などの指摘も出ています。
なお、第8次医療計画において「増床」が認められた病院に対し、「新地域医療構想に基づき、その増床許可を取り消す」こととなれば、医療現場は大きく混乱するため、必要な経過措置などが設けられる見込みです。
また(B)については、オーバーベッド(過剰病床)地域においては、▼病床の機能転換・減少等に向けて、必要な医療機関(機能転換が必要と思われる病院など)に対し調整会議への出席を求める▼必要な場合は、都道府県の要請・勧告・公表等の対象とする—といった提案がなされましたが、医療提供サイドの構成員からは「既存のルール(保険診療など)を遵守して適切に経営・運営している病院について、オーバーベッドゆえにペナルティをかけられるのはいかがなものか。民間病院では倒産も生じうる。病院にも一定の経営の自由が認められるはずである」との強い反発が出ています(江澤和彦構成員:日本医師会常任理事、今村英仁構成員:日本医師会生涯教育・専門医の仕組み運営委員会センター長、猪口構成員ら)。
ところで、「新地域医療構想が医療計画の上位計画となる」場合、上述した基準病床の考え方をはじめ「医療計画の規定を見直す」必要が出ています。新地域医療構想は2027年度からスタート(2025年度に国でガイドラインを策定→26年度に都道府県で新地域医療構想を策定→27年度からスタート)します。一方、医療計画は現在、2024―29年度を対象とする「第8次計画」が走り始めており、「医療計画を途中で見直すのか」(2026年度の医療計画の中間見直しが行われるが、そこで新地域医療構想の考え方を全面反映させるのか)という疑問がわきます。この点、都道府県サイドの負担増への配慮、医療現場の混乱回避のために、原則として「2030-35年度を対象とする第9次医療計画」に新地域医療構想の考え方を反映させる考えが高宮参事官から示されていますが、詳細は今後、「新地域医療構想作成ガイドライン」に向けて調整されます。尾形裕也構成員(九州大学名誉教授)は「現場が混乱しないように留意する」ことを強く求めています。
回復期改め「包括期」機能とし、sub acute対応機能も含まれることを明確化
また(2)の「病床機能・医療機関機能の報告」に関しては、これまでの議論を踏まえた考え方が再整理されました。
まず、【病床機能報告】については、現在の「回復期機能」について、さらに「軽症急性期(sub acute)患者をも受け入れる」旨を明確にし、「包括期機能」と名称変更する考え方が示されました。下図表の定義に照らせば、主に▼地域包括医療病棟▼地域包括ケア病棟▼回復期リハビリテーション病棟―が包括期機能の対象になると見られます。
これまでの議論を踏まえたもので、内容への異論・反論は出ていませんが、「包括期」という名称に対し、望月泉構成員(全国自治体病院協議会会長)や山口育子構成員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)ら多くの構成員が「国民に分かりにくい、『包括』というと、介護スタッフは地域包括支援センターを想定してします」などの疑問を投げかけました。今後、厚労省で意見を踏まえて再検討しますが、どのような名称にしても「国民になじみがない」ものとなることに変わりはなく、「どういった機能を持つのかの説明」を丁寧に行っていくことが重要でしょう。
なお、「包括期機能」の明確化により、これまで「急性期」と報告していた病棟の相当数が「包括期」へと報告しなおすと予想され、「病床の必要量」(将来のベッド数)と「病床機能報告」とのミスマッチは相当程度解消されると見られます。もっとも、「病床の必要量」は患者数をベースに推計される(将来の患者数→必要なベッド数)ものですが、「病床機能報告」では病棟単位で機能報告する(A病棟40床に、20名の急性期患者、5名の高度急性期患者、15名の回復期患者が入室していた場合には「急性期」と報告する)ため、「両者の厳密な一致」は難しい状況が続きます。
また、新地域医療構想では「病床・病棟の機能」だけでなく、「医療機関の機能」報告も求められます(病床機能報告を行う一般病床・療養病床を持つ医療機関が対象)。これまでの議論を踏まえて次のような整理が行われました(高齢者救急等機能について、一般の軽症救急患者にも対応すべき旨が明示されている、関連記事はこちらとこちらとこちら)。
【地域医療構想区域ごとに整備する医療機関の機能】(このうち(1)から(3)の機能を持つ医療機関を、構想区域内に1か所以上整備する)
(1)高齢者救急・地域急性期機能
→高齢者をはじめとした救急搬送を受け入れるとともに、必要に応じて専門病院や施設等と協力・連携し、入院早期からのリハビリ・退院調整等を行い、早期の退院につなげ、退院後のリハビリ等の提供を確保する(地域の実情に応じた幅をもった報告のあり方を設定)
(2)在宅医療連携機能
→地域での在宅医療の実施、他の医療機関や介護施設、訪問看護、訪問介護等と連携した24時間の対応や入院対応を行う(地域の実情に応じた幅をもった報告のあり方を設定)
(3)急性期拠点機能
→地域での持続可能な医療従事者の働き方や医療の質の確保に資するよう、手術や救急医療等の医療資源を多く要する症例を集約化した医療提供を行う(地域シェア等の地域の実情も踏まえた一定の水準を満たす役割を設定、アクセスや構想区域の規模も踏まえ、構想区域ごとにどの程度の病院数を確保するかを「設定」
(4)専門等機能
→上記の機能にあてはまらない、集中的なリハビリテーション、高齢者等の中長期にわたる入院医療機能、有床診療所の担う地域に根ざした診療機能、一部の診療科に特化し地域ニーズに応じた診療を行う
【広域な観点の医療機関機能】
▽医育および広域診療機能
→大学病院本院が担う、▼広域な観点で担う常勤医師や代診医の派遣▼医師の卒前・卒後教育をはじめとした医療従事者の育成▼広域な観点が求められる診療(移植、3次救急等)—を総合的に担い、また、これら機能が地域全体で確保されるよう都道府県と必要な連携を行う
(1)から(3)のそれぞれについて一定の基準を設け、各病院が「自院は基準をクリアしているか、(1)から(3)のどの機能に合致するか」を考えて、毎年度、都道府県に報告するイメージです(該当しない場合には(4)として報告するイメージ)。その際、例えば「自院は(1)と(3)の機能を双方持つ」と考える場合には、複数機能を持っていると報告することになります。
ここで注目すべきは、やはり「急性期拠点機能」を持つ病院の集約化・絞り込み方針でしょう。詳細はガイドラインで示されますが、「診療等機能」(例えば全身麻酔手術が年間●件以上などの実績基準が想定される)だけでなく、「地域で必要な施設数」を明示(●●区域では2施設、○○区域では3施設など)することになると思われ、今後の議論に注目が集まります。
新地域医療構想区域と、2次医療圏とは別個に考えてはどうか
他方、(3)の構想区域については、次のような考え方が示されています。
▽引き続き2次医療圏を原則とする
→急性期期拠点機能等の医療機関機能の確保に向け、患者アクセスの観点も踏まえつつ、人口規模が20万人未満の構想区域や100万人以上の構想区域など、医療提供体制上の課題がある場合には、必要に応じて構想区域を見直す(2次医療圏の見直しに時間を要する場合は、構想区域の合併・分割等を先行して行うこともあり得る)
▽広域な観点での区域については「都道府県単位」(必要に応じて3次医療圏、北海道などでは「道」単位では広域すぎるので、少し狭い3次医療圏を設定している)で設定する
▽在宅医療等については必要に応じて「2次医療圏より狭い区域」での議論が必要であり、地域の医療・介護資源等の実情に応じて、市町村単位や保健所圏域など(地域医師会単位も含まれる)、在宅医療等に関するより狭い区域を設定する
▽具体的な区域の検討については、「隣接区域等との連携のあり方」など、地域の特性を踏まえた医療提供体制の構築に向けて検討が必要な事項を含めて「新地域医療構想作成ガイドライン」の中で検討する
こうした考えに反論は出ていませんが、「歴史のある2次医療圏の見直しには時間がかかり、現実的でない部分も多い。いっそ、2次医療圏と構想区域とは別個に考えてはどうか」との指摘も土居丈朗構成員(慶応義塾大学経済学部教授)や望月構成員、猪口構成員ら複数の構成員から出されています。
議論は相当煮詰まってきており、近くとりまとめ論議に入ります(年内の意見とりまとめを目指す)。なお、上述のように「年内の意見とりまとめ」では法律改正事項など「新地域医療構想の大枠」を固めるにとどまり、「急性期拠点機能病院の基準をどう考えるのか」などの詳細は、来年度(2025年度)の「ガイドライン論議」の中で決まっていきます。このガイドラインを踏まえて、「高齢者も含めて人口が減っていく地域ではこうする」「高齢者も若人も人口が増加する地域ではこうする」と地域ごとに考えていくこととなり、これらは当然、医療機関の経営にも直結していきます。「ガイドライン作成が極めて重要になる」ことを香取構成員は強調しています。
なお、Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)では、機能再編や経営強化プランを策定する公立病院を支援するサービスメニューも準備しています。
GHCが「先行して新公立病院改革プラン改訂を行った病院」(市立輪島病院:石川県輪島市)を支援したところ、「入院単価の向上」「戦略的な病床機能強化の推進」などが実現されています。「経営強化」「機能強化」を先取りして実現している格好です。
ガイドラインでは「外部アドバイザーの活用も有効である」と明示していますが、コンサルティング会社も玉石混交で「紋切り型の一律の改革プランしかつくれない」ところも少なくありません。この点、GHCでは「膨大なデータとノウハウ」「医療政策に関する正確かつ最新の知識」をベースに「真に地域で求められる公立病院となるための経営強化プラン」策定が可能です。
●GHCのサービス詳細はこちら
従前より「地域単位での医療提供体制見直し」に着目してコンサルティングを行っているGHCマネジャーの岩瀬英一郎は「従来通りの考えにとどまらず、より緻密な分析を行い、戦略をもった検討をベースとして『地域に必要とされる公立病院の姿』を個々の病院の実情に合わせて検討する必要がある」と強調しています。
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