災害医療の充実に向け、DMAT事務局体制の強化・EMISの改善を―救急・災害医療提供体制検討会
2018.4.20.(金)
災害時の医療提供の要となるDMATについて、常勤の業務調整(ロジスティクス)専門員を配置するなどの事務局体制強化を図るとともに、医師会・病院団体・学会などにDMAT支援の役割を担ってもらってはどうか。また、災害時の情報を整理し、迅速かつ適切な医療・救護活動を支援するためのEMISシステムについて、活用促進を目指したシステム改善などを検討してはどうか―。
4月20日に開催された「救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会」でこういった議論が行われました。
現在、病院の一部となっているDMAT事務局、より外部支援受けやすい体制を検討
救急医療・災害医療については、例えば1995年の阪神・淡路大震災や2011年の東日本大震災の経験・教訓を踏まえ、随時強化が行われてきています。また2018年度から新たな医療計画がスタートし、その中で▼救急医療については「地域連携の強化」「救急医療機関の充実」▼災害医療については「コーディネート体制」「連携体制」などの構築―を進めることとされています(関連記事はこちら)。
もっとも、救急医療・災害医療提供体制に関する課題(例えば災害時の各種支援を調整する役割の更なる強化の必要性など)もまだまだあることから、厚生労働省は、さらなる救急医療・災害医療体制の充実・強化を図る必要があると考え、今年(2018年)4月に「救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会」を設置。▼ドクターヘリの安全運航等の在り方を含めた救急医療提供体制▼DMAT事務局の組織・運用の在り方を含めた災害医療提供体制▼広域災害・救急医療情報システム(EMIS)の在り方—などを総合的に検討していくこととしています。
4月20日の会合では、南海トラフ地震や首都圏直下型地震などに備えた、(1)DMAT事務局の体制強化(2)EMISの在り方―の2点が議題となりました。
まず(1)のDMATは「災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム」で、現在、▼災害医療センター(東京都立川市)▼大阪医療センター(大阪府大阪市)—の2か所に事務局が置かれています。
しかし、▼事務局の体制が必ずしも十分ではない(例えば、災害医療センターでは医師2名・事務職2名が常勤しているが、3人は他業務との併任である)▼事務局が病院内に設置されているため、日本医師会のJMATなど外部からの医師派遣を十分に活用しきれていない―といった課題も指摘されています。
そこで今般、厚労省は次のような事務局体制強化を行ってはどうかと提案し、概ね了承されました。
▽併任を減らし、常勤の業務調整(ロジスティクス)専門員等を配置するなどの「人員増員」を行う
▽大規模災害時に、他の病院等から応援(「災害医療の専門知識を持つ者」の派遣)を得やすい体制を整備する
今後、より具体的に▼事務局への専任の事務局長・次長、常勤のロジスティクス専門員の配置▼「事務局が病院内組織である」との現状を改め、大規模災害時に外部から応援を得やすい仕組みの構築▼DMAT支援団体を予め募り、災害時にリーダー人材として登用(DMAT事務局参与などに任命しておく)▼DMAT支援団体・DMAT事務局参与の厚労省防災業務計画への明示▼DMAT支援団体・DMAT事務局参与への研修等、人材育成の推進―などの個別論点について議論してくことになります。増員には予算が必要であり、8月末の「2019年度予算概算要求」を一つのゴールとして個別論点議論が進むものと思われます。
支援の大枠を眺めると、災害時に【厚労省から、DMAT支援団体への支援要請】→【DMAT支援団体からDMAT事務局参与やロジスティクス要員の派遣】→【DMAT事務局から被災都道府県災害対策本部への人員派遣】—という流れとなります。もちろん、「DMAT事務局参与などを一度、事務局(東京や大阪)に派遣し、そこから被災地へ向かう」といった無駄は行われません(直接、被災地に支援に向かう)。
DMAT支援団体としては、例えば日本医師会や病院団体、関係学会などが相当されますが、厚労省は「強制するものではなく、手をあげてもらうことになる」と考えています。
また、DMAT事務局に常勤配置されるロジスティクス専門員は、災害時には業務調整のリーダーシップをとることはもちろん、平時には「DMAT支援団体・DMAT事務局参与などへの研修・教育」を行うことが期待されます。山本光昭構成員(兵庫県健康福祉部長)は「研修等を通じ、日頃から顔の見える関係を構築しておくことで、円滑な業務調整が可能になる」と強調しています。もっとも研修等にも限界があることから、森村尚登構成員(東京大学大学院医学系研究科救急科学教授)は「研究・教育体制の標準化などもロジスティクス専門員の重要な役割になる」と見通しています。
熊本地震では、EMISへ自ら入力した医療機関は2割程度にとどまる
一方、(2)のEMIS(イーミス、広域災害・救急医療情報システム)は、阪神・淡路大震災の教訓を踏まえて構築が始まった「災害時などに医療機関の稼働状況・被災状況などの情報を把握し、迅速かつ適切な医療・救護活動を支援する」仕組みです。例えば、被災地において各医療機関が被災状況、搬送患者状況、ベッドの稼働状況などをEMISに入力することで「被災地で対応できない、救急医療が必要な重症患者が○人いる」ことなどが分かります。一方、被災地以外の医療機関が「受け入れ可能な患者数情報」などをEMISに入力することで、「被災地で対応できない、○人の重症患者のうち、□人は被災地外のB病院で、■人は被災地外のC病院で受け入れ可能である」ことなどが分かり、円滑な広域搬送が可能になります。
現在、EMSI事業には全都道府県、93%の病院(7822施設)などが参加(アカウントを保有)するなど、順調に進んでいるように思われますが、中山伸一参考人(兵庫県災害医療センター長)らが、熊本地震におけるEMISへの入力状況を調べたところ、「自院での入力は2割程度にとどまる」(多くは代行機関が入力)ことが分かり、「円滑な広域搬送」といった目的を果たすには、まだ課題があることが分かりました。
こうした状況から「EMISの改善」が今後の重要テーマとなり、厚労省は▼EMISの持つべき機能、扱うべき情報の整理▼利用者が扱いやすいEMISの在り方▼今後、付加すべき機能—などを論点に掲げています。
4月20日の検討会でも、さまざまな意見が出ており、とくに「救急医療情報システムとEMISを分離してはどうか」といった声が多数出されています。
現在、EMISは都道府県の救急医療情報システムに付加されています。山本構成員によれば、「EMISは平時から使用していなければ、災害時等に入力できない。すでに各病院の空床を把握するための救急医療情報システムが稼働しており、入力は不十分であったが、ここに上乗せすることになった」ものです。
しかし、検討会では「救急医療情報システムを構築していない自治体もある。EMISは、ここから切り離し、改善を図ってはどうか」(加納繁照構成員・日本医療法人協会会長)、「かつては『救急医療情報システムとEMISで別個の端末では不便である』とされたが、現在はPC1台で入力等が可能であり、切り離しても問題はない」(大友康裕構成員・東京医科歯科大学大学院救急災害医学分野教授)—といった声が多くなっています。
ただし、EMISを切り離したとしても「普段(平時)から利用するシステムでなければ、災害時に活用できない」点を森村構成員は強調しており、今後の重要論点の1つとなりそうです。
さらに、上記のように「医療機関の2割しか入力していない」実態には、多くの構成員が衝撃を受け、「なぜ入力できないのか、『被害がまったくない』ために入力しないのか、逆に『被害が大きい』ために入力できないのか、『使用方法を忘れた』ために入力できないのか、などを分析する必要があるのではないか」(大友構成員)、「EMIS入力のための研修などを国が実施すべきではないか」(猪口正孝構成員・全日本病院協会常任理事)などの指摘が出ています。
この点に関連して中山参考人は「各医療機関においてBCP(災害時などの事業継続計画)策定が求められており、これと連動してEMISを啓蒙してはどうか」と提案。岡留健一郎構成員(日本病院会副会長)も「BCPと連動した啓蒙には期待が見込める」と賛同しています。
このほか、森村構成員は「利用者が扱いやすいインターフェイス」の重要性を指摘。例えば「スマートフォンの活用」「入力しなければならない災害が発生した場合のアラート機能」などを求める声が出ています。
なお、入力すべき項目(現在は▼倒壊状況▼ライフラインの状況▼患者受診状況▼職員状況―など)については、森村委員から「情報は多くなれば、より活用の幅が広がるが、医療現場の負担が重くなる。バランスを見た洗い直しが必要である」といった指摘が出ており、今後、具体的に検討していくことになります。
EMIS見直しには、多額の予算や技術的限界などもあることから、厚労省では「継ぎ接ぎの修正ではなく、しっかりした見直し案を考えたい」と考えており、一定の時間がかかりそうです。
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