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NDB・介護DBの利活用を促進、両者の連結解析も可能とする枠組みを―厚労省・医療介護データ有識者会議

2018.7.13.(金)

 NDB・介護DBの利活用を促進するために、根拠法(高齢者医療確保法、介護保険法)を改正し、利用目的に「第三者提供」なども含める。また、両データベースについて、匿名性を維持するなどセキュリティを確保した上で、データの連結解析を可能とする―。

 7月12日に開催された「医療・介護データ等の解析基盤に関する有識者会議」で、こういった方針が概ね固められました(関連記事はこちら)。

 近く社会保障審議会の医療保険部会(NDBの根拠法である高齢者医療確保法の見直しを検討する場)と介護保険部会(介護DBの根拠法である介護保険法の見直しを検討する場)に報告し、了承を得た後、今夏から秋(2018年)にかけて詳細を議論し、来年(2019年)の通常国会への改正法上程を目指します。

7月12日に開催された、「第5回 医療・介護データ等の解析基盤に関する有識者会議」

7月12日に開催された、「第5回 医療・介護データ等の解析基盤に関する有識者会議」

 

NDB・介護DB、利用目的を整理し、連結解析を含めた「利活用を促進」を目指す

 「患者にどのような疾病に罹患し、どのような医療を提供したか」といったデータを一元的に集約し、医療・介護等の質向上を目指す「全国保健医療情報ネットワーク」を2020年度に本格稼働させるべく、データベースの構築等に向けた議論が進んでいます(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。

その一環として、厚労省の「医療・介護データ等の解析基盤に関する有識者会議」(以下、有識者会議)では、数多くある公的な医療・介護データベースのうち、まずNDB(National Data Base:特定健診・医療レセプト情報を格納)と介護DB(介護保険総合データベース:要介護認定情報と介護レセプト情報を格納)について、更なる利活用の推進に向けた方策や両データベースを連結する際の課題などについて検討を行っています(関連記事はこちら)。

これらデータの利活用を推進・拡大するとなれば、「個人情報が漏えいしないか」という点が気になります。この点、NDB・介護DBともに、情報格納時に個人を特定できないように匿名化を施すとともに、データの提供時には有識者の会議で「個人の特定に至らないか」が再確認されています(二重のチェック)。有識者会議では「利活用の拡大やデータベースの連結にあたっても、こうした匿名化等の取り組みを継続する」ことを議論の前提としています。

例えばNDBでは、データを格納する段階で「匿名化」を行い、個人が特定できないような状態で格納される。さらに研究者等へデータ提供する段階で、有識者において「個人の特定可能性がないか」を再チェックされる

例えばNDBでは、データを格納する段階で「匿名化」を行い、個人が特定できないような状態で格納される。さらに研究者等へデータ提供する段階で、有識者において「個人の特定可能性がないか」を再チェックされる

 
 
まず、データの利活用を拡大するにあたって有識者会議では、「利用目的の整理が必要ではないか」としています。

NDBについては、根拠法である高齢者医療確保法(高齢者の医療の確保に関する法律)が「厚労省・都道府県による医療費適正化計画の作成や調査・分析」に、介護DBについて介護保険法が「都道府県・市町村の介護保険事業(支援)計画の作成、実施、評価など」に利用を限定しています。しかし、いずれのデータも医療・介護施策の推進や、サービスの質向上等に向けて極めて有用であるため、運用上、他の利用(政策立案や公益的研究など)が認められています。

今後、さらに利活用を推進していくためには、法律で利活用の目的を拡大するとともに、データ連結を睨み「利用目的の整合性を図る」ことが必要と有識者会議は結論づけています。

NDBでは、法律では「医療費適正化対策のための利用」しか認めておらず、政策への活用や研究者等へのデータ提供は「運用」の中で行われている

NDBでは、法律では「医療費適正化対策のための利用」しか認めておらず、政策への活用や研究者等へのデータ提供は「運用」の中で行われている

NDBと介護DBの概要。両者は類似点も多いが、利用目的などに法定上の違いがあり、今後、連結を行う場合には、そういった点を事前に整理しておかねればならない

NDBと介護DBの概要。両者は類似点も多いが、利用目的などに法定上の違いがあり、今後、連結を行う場合には、そういった点を事前に整理しておかねればならない

 

「公益性があり、政策的に優先度の高い」研究へ、積極的にデータ提供

では、どういった範囲にまで利活用目的を拡大すべきでしょう。有用なデータであり、民間を含めた第三者へ情報提供を行うことが、今後の優れた研究推進に役立ちますが、一方で、いくら「個人が特定できない」とはいえ、機微性の高いデータであることに疑いはなく、またこれらは「国民共通の財産」であるため、例えば、一営利企業の製品開発のためにデータ提供を行うことは好ましくないと考えられそうです。

有識者会議では、こうした点を勘案し、「第三者提供の枠組みを法定する」とともに、▼公益性が認められる▼政策的観点からも優先的な分析・研究と認められる―という2つの要件を満たすことを「利活用(データ提供)の条件」とすべきとの考えをまとめています。データ提供の対象は広く設定した上で、「研究内容で縛りをかける」形です。

具体的に、どういった場合に「公益性が認められる」「政策的観点から優先度の高い研究と認められる」のかなどは、法改正後に、有識者を交えて議論を行って詰めていくことになるでしょう(現在は枠組みの議論であり、「どういった研究が優先度が高いのか」などの運用に関する議論は、枠組み(改正法)を固めた後に行うことになるため)。

利活用促進のため、審査の迅速性・円滑性確保や利用者支援を進める

このように第三者提供を促進していく場合には、「利用目的」(公益性などの要件を満たしているのか)、「データ提供の範囲」(不必要に広範囲のデータ提供にならないか)、「データ管理を適正に行えるのか」(匿名加工情報とはいえ、漏洩しないような体制を確保できているか)、「データを活用した成果物(論文など)をどのように発表するのか」(発表の段階で個人特的などがなされないようになっているか)などを審査することが必要です。

有識者会議では、こうした審査について▼迅速性(審査が遅延すれば利活用が進まない)▼円滑性(NDBと介護DBで同様な審査が行われる必要がある)―を確保するとともに、「役割分担」(国が審査しなければいけない部分と、他の主体に委ねても問題ない部分との切り分け)が必要と指摘しています。利活用が推進され、データ提供の申請件数が増加すれば、すべてを国で審査することが難しくなると予想されるためです。

また、第三者提供を拡大していくための、いわば環境整備として、有識者会議では「利用者支援の重要性」を指摘する声が多数出されました。例えば、ある研究を行う際に、「提供を求めるデータを●●の範囲に限定することが効果的である」といった知識・技術が必要です。これがない場合には、「闇雲に膨大なデータ提供を求め、結果として申請が却下されてしまう(過度なデータ提供は好ましくない)」、「誤った範囲のデータ提供を求め、十分に研究に活かされない」といった事態を招くことにもなりかねません。この点、松田晋也構成員(産業医科大学医学部公衆衛生学教授)は、「○○の分析を試みたい場合には、□□の診療報酬に着目すると良い」などいった簡易マニュアルや事例集などを準備してはどうかと提案しています。ほかにも「申請マニュアルの整備」「データベースの基礎知識(どのようなデータがどのように格納されているのか)」「解析時の留意点」などに関する研修を行ってはどうかと、有識者会議は提案しました。

こうした利用者支援の一環として「サンプリングデータセット」や「オープンデータ」があります。通常、データ提供を希望する研究者は「▲▲の研究を行うために、△△の範囲のデータ提供を求める」旨を申請しますが、上述のように「適正にデータの範囲を絞る」ためには相応の知識・技術が必要です。こうした知識・技術を得るためのいわば練習用として、個人属性などを排除し、予め国で範囲を絞ったデータ集である「サンプリングデータセット」や、一般国民でも活用できる定式化したデータ集である「オープンデータ」が用意されているのです(NDBでは提供が始まっており、介護DBでも準備中)。有識者会議では、利用者側(研究者など)のニーズを十分に踏まえて、データセットやオープンデータの在り方を改めて検討することも提言しています。NDBと介護DBが連結されれば、「データの範囲を絞る」ために、より高く広範な知識・技術が求められるためです。

また、利活用が拡大すれば、データ抽出等に係るコストなども増大します。このため有識者会議は、「データベース保有者は国であるため、基本的な部分の費用は国が負担する」とした上で、「利用者にも一定の費用負担を求める」ことを具体的に検討してく必要があると指摘しています。もっとも費用が過大となれば利活用が進まないため、「利活用を躊躇しない水準・金額」となることでしょう。

NDBと介護DBの連結に向け、個人単位の被保険者番号や医療等IDの活用も検討

こうした利活用の推進の延長として、「NDBと介護DBの連結」に期待が集まっています。例えば、両データから「若い頃に●●の生活習慣を持ち、健診で■■と判定された人は、近く○○疾病に罹患する可能性が高い。こうした人は高齢になると▲▲により要介護状態になる可能性が高く、その際には△△というケアが状態の維持・改善に有効である」といった知見が明らかになれば、効果的かつ効率的な「保健指導」「治療」「介護」が可能になります。

両データベースはデータ格納時点で匿名化が行われていますが、技術的に「NDBに格納されているAさんのデータ」と「介護DBに格納されているAさんのデータ」を紐づけることができ、「匿名情報としての性質を維持した上での連結解析」が可能とされています。

今後、高い精度での紐づけ(連結解析)を可能とするために、例えば「個人単位の被保険者番号」や、いわゆる医療等ID(医療等分野における識別子)に関する検討状況を踏まえながら、その活用可能性について検討していくことになります。

 
ところで、紐づけを行うことで「個人を特定できる可能性」は高まっていきます。さらに、仮に後述する難病等のデータベースとの紐づけなども視野に入ってくれば、その可能性はさらに高まるでしょう(難病の研究者などから「NDBと難病DBとの連結による研究成果の向上を目指したい」などの要望があれば連結を検討することになるが、現時点では未定である点に留意)。

こうした問題について有識者会議の石川広己構成員(日本医師会常任理事)は、「個人特定の可能性が高いデータを第三者提供、公表することは大きな問題である。しかし、分析・研究を可能とするデータベースの構築(連結)には重要な意味がある」と指摘。厚労省保険局医療介護連携政策課の黒田秀郎課長も、「例えば行政内部や研究機関内部での研究に役立てることが可能になる」とその意義を説明しています。

2018年秋には見直し内容を固め、2019年の通常国会に改正法案提出を目指す

有識者会議の考えは、近く医療保険部会・介護保険部会に報告され、その後、改め有識者会議で今夏から秋(2018年)にかけて、より具体的な検討を行っていきます。例えば、上述した「目的の法制化」「第三者提供の具体的な枠組み」「セキュリティ確保を含めたNDBと介護DBの連結」「他の公的データベース(難病DBや小児慢性特定疾患DB、DPCデータベース、全国がん登録データベース、MID-NET)との関係の整理」などが現時点での検討テーマにあげられています。

公的データベースの概要、NDBや介護DBは格納時点で匿名化されるが、難病や小児慢性特定疾患のDBは匿名化されていない(本人の同意を得て実面で格納)

公的データベースの概要、NDBや介護DBは格納時点で匿名化されるが、難病や小児慢性特定疾患のDBは匿名化されていない(本人の同意を得て実面で格納)

 
2020年度の稼働に向けて、有識者会議や社会保障審議会の意見を踏まえて厚労省は改正法案(高齢者医療確保法、介護保険法)を準備し、来年(2019年)の通常国会に提出することになるでしょう。夏以降、厚労省から、例えば「研究の公益性を確保するために、こういった規定を置く」ことなどが見えるような改革案が示され、それをもとに有識者会議でより具体的な議論を行っていくことになります。
 
 
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