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支払基金の都道府県支部、ICT進展する中で存在に疑問の声も―質の高い医療実現に向けた有識者検討会

2016.12.22.(木)

 「審査におけるコンピュータチェックルールを公開し、医療機関での請求前チェックを可能とする」「社会保険診療報酬支払基金の『審査・支払システム刷新計画』を全面的に見直し、2020年度中に稼働させる」「支払基金と国民健康保険団体連合会が保有するビッグデータを活用し、保険社機能を強化していく」―。

 21日に開催された「データヘルス時代の質の高い医療の実現に向けた有識者検討会」で、こういった内容を盛り込んだ「議論の整理」案が厚生労働省から提示されました(関連記事はこちらこちらこちら)。

 支払基金の組織・体制の見直しや、審査の一元化といった事項については委員間で意見の隔たりが大きく、21日の会合でも「支払基金の都道府県支部を存続させるか、集約していくべきか」で大きな議論となっています。

12月21日に開催された、「第8回 データヘルス時代の質の高い医療の実現に向けた有識者検討会」

12月21日に開催された、「第8回 データヘルス時代の質の高い医療の実現に向けた有識者検討会」

レセプトの医療機関事前チェックは方向性固まるが、審査の一元化は賛否両論

 検討会では、規制改革会議の指摘を踏まえて、▼レセプト審査基準の統一を図り、それを公開する▼支払基金の業務のうち不要・非効率なものを削減する▼支払基金でなければ適切に実施できない業務があれば、それを運用するための組織・体制をゼロベースで検討する―などといったテーマについて議論を行ってきました。21日には、これまでの意見を踏まえた「議論の整理」案が厚労省から提示されました。次のような点がポイントと言えます。

【審査業務の効率化・審査基準の統一化】

▼支払基金内に専任のCIO(Chief Information Officer)と、それを支援するICTの専門家によるタスクフォースを設置し、コストパフォーマンスが高く最適な設計思想に基づく業務・システムを実現する、現在の『システム刷新計画』は全面的に見直す

▼審査支払機関(支払基金と国保連)のコンピュータチェックルールを公開し、レセプト請求前に医療機関でのチェックを可能とする

▼コンピュータチェックルールやチェック結果の差異の把握・分析や統一化などについて、厚労省・医師会など・支払基金・国保連に加え、関連政府機関、ICT関連の有識者などが集い、具体的に点数表の解釈や地域の差異を明確化していくなど、定期的にPDCAを回して継続的に検討していく場を設ける

【ビッグデータ活用】

▼健康・医療・介護のデータベースを連結しプラットフォーム化していくことで、個人の保健医療に関するヒストリーをビッグデータとして分析することを可能にし、医療の質向上につなげる。その際、既存インフラを最大限活用する観点から、支払基金・国保連で管理・運営・分析などを行う

▼データベース間の連携が行えるよう、支払基金・国民健康保険中央会が医療等 IDの発行を行うとともに、当該IDを利用して保健医療に関するビッグデータを活用していくべき

【支払基金の組織・体制の在り方】

▼2021年1月に実現予定であった審査・支払システム刷新計画を全面的に見直し、ビッグデータ活用のためのシステムの実装時期も踏まえ2020年度中に新システムを実施できるようにする

▼システム刷新による業務効率化を踏まえ、47都道府県における支部の職員体制・規模を必要最小限のものに縮小していく

▼審査の一元化については、積極的に進めるべきとの意見と困難であるとの意見と両論があった

 さらに、こうした意見・提言の実現に向けて▼具体的な改革スケジュールや内容などを盛り込んだ改革工程表の基本方針▼データプラットフォーム構築や活用方策に関する具体的な工程表―について「来春(2017年春)を目途に取りまとめる」考えも明示。合わせて支払基金改革に必要な法整備(社会保険診療報酬支払基金法の改正案)を2018年の国会に提出することも求めています。

支払基金支部を存続させるか否かで激論に

 このうち支払基金の支部については、委員からさまざまな意見が出されました。規制改革会議メンバーでもある林いずみ構成員(桜坂法律事務所弁護士)は、個人的な見解であると前置きをした上で「支部の集約化」を図るべきと提案しました。コスト削減の重要性と合わせて、ICT技術の進展(例えば紙レセプトから電子レセプトへの転換など)により必ずしも全都道府県に支部を置く必要がないこと、さらに専門医の確保など集約化によるメリットが大きいことなどを理由としています。

 これに対し、三師会代表の構成員(松原謙二構成員:日本医師会副会長、山口武之構成員:日本歯科医師会理事、森昌平構成員:日本薬剤師会副会長)は、「医療には地域性があり、そもそも審査の一元化には反対している。支部と地域医療機関とで顔の見える状況が、支払基金への信頼関係を醸成してきた」「疑義などを支払基金に伝える際、隣の県にしか支部がないというのでは困る。とことなどをあげ、支部の集約化に強く反対しました。

 しかし、他の委員からは「支払基金の業務効率化の方向は固まっているものの、どのように効率化していくかの具体的な議論をしていない。にも関わらず『支部の存続が必要である』といった議論が行われるのはおかしい」といった指摘も出ています。この点について森田朗座長代理(国立社会保障・人口問題研究所長)は、「医療の地域性が言われるが、合理的な説明を受けた記憶がない。支部と地域医療機関との信頼関係が重要というが、現在、『国民が健康保険への信頼を失いつつある』という状況を認識しなければいけない。これまで優れていた仕組み(例えば支払基金の支部)が、これからも優れた仕組みでありつつけるとは限らない。かつては『紙レセプトを手渡すことが困難』という物理的な理由で支部の存在意義があったが、ICTが進展する中でその点に合理性があるのだろうか。地域による差異に合理性があるのかをデータ集積していく中で把握し、合理性がなければ一元化していくべきである」と強調しています。

 なお宮田裕章構成員(慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教授)はこの点について、「ビッグデータの活用の中で、データの質が非常に重要となる。データの質の担保(例えばデータクリーニングなど)を支払基金の支部が担うようになれば、支部を都道府県単位で置くことにも意義がある」と述べ、今後、支払基金がどのような業務を担うかで支部の存否に係る議論が変わってくるとの見解を示しています。

 

 このほか、「ビッグデータ活用の前に、データの精度管理などの重要性を指摘するべきである」(山本雄士構成員:ソニーコンピュータサイエンス研究所リサーチャー)、「断片的な見える化によって、医療の質が下がる可能性もある。見える化の後に、何をするのかも考える必要がある」(西村周三座長:医療経済研究機構所長)、「医療機関による事前コンピュータチェックは是非進めてほしい」(大道道大参考人:日本病院会副会長)といった指摘が出されています。

 こうした意見を踏まえた修正を行い、検討会では26日にも「議論の整理」を取りまとめたい考えです。

 
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