2018年秋より、公益的研究に介護保険データベースからデータ提供開始―厚労省・有識者会議
2018.3.14.(水)
NDB(National Data Base)からのデータ提供と同様に、介護保険総合データベース(介護DB)のデータについても、介護サービスの質向上や介護保険制度の改善などに向けた研究のためにデータ提供が行われます。
3月14日に開催された「要介護認定情報・介護レセプト等情報の提供に関する有識者会議」では、データ提供のためのガイドラインと、サンプリングデータセットの概要が大筋で固められました。
5-6月の次回有識者会議以降、具体的な「データ提供を認めるか否か」の審査手続きなどを議論し、今秋(2018年秋)から実際にデータ提供が行われる見込みです。
目次
NDBに倣い、データ提供先や研究目的などを限定する「ガイドライン」を作成
医療分野では、レセプト情報と特定健康診査等情報を集積したNDB(National Data Base)が構築され、都道府県による医療費適正化計画の作成などに活用されています。この点、極めて重要なデータベースであり、研究者等から「当該データを使用することはできないか」との強い要請がありました。ただし、レセプトや特定健診結果などは、患者・国民の身体・精神等に関連する情報であるため、いくら研究目的とはいえ安易に提供することはできません。
そこで、厚労省は、「研究の重要性」と「患者等情報への配慮」とのバランスを考慮して、▼データ提供先を「国」「都道府県」「研究開発独立行政法人」「医師会等」「国研究助成金を受けている研究者」などに限定する▼データを用いた研究は「公益目的」のものに限定する▼提供データは研究目的達成のために「必要最小限」とする▼提供データが盗まれないような対策を求める▼研究結果を公表する場合にも、個人を特定できないよう「10件未満」のデータは表示してはならない(ゼロは表示可能)—ことなどを、「レセプト情報・特定健診等データ提供に関するガイドライン」(以下、NDBガイドライン)として定めました。さらに、データ提供を求める研究者等や研究内容が、こうした要件を満たしているかを「レセプト情報等の提供に関する有識者会議」(以下、NDB有識者会議)で個別に審査しています。
介護分野でも、▼介護レセプト▼要介護認定情報―を集積した「介護保険総合データベース」(以下、介護DB)が構築され、すでに地域包括ケア「見える化」システムなどで行政機関での利用が進められていますが、まだ研究目的でのデータ提供などは行われていません。
この点、研究者等からの「データを使わせてほしい」との要望が強いこと、社会保障審議会・介護保険部会から「公益目的の研究等であれば、データ提供を認めることが適当である」旨の意見(2016年12月)が出されていること(関連記事はこちら)、などを踏まえ、厚労省は「介護DBデータについても、NDBデータと同様に提供を行う」方針を決定。3月14日に「要介護認定情報・介護レセプト等情報の提供に関する有識者会議」(以下、介護DB有識者会議)を設置し、データ提供ガイドライン(「要介護認定情報・介護レセプト等情報の提供に関するガイドライン」、以下、介護DBガイドライン)案を提示しました。
介護DBガイドライン案の内容は、基本的にNDBガイドラインを踏襲しており、上述のとおり▼データ提供先を限定する▼公益目的に限定する(例えば、特定の介護機器の有用性を実証するような研究は認められない)▼提供データは必要最小限とする(とりあえず全データを提供してほしいといった申請は認められない)▼盗難等への対策を求める(情報セキュリティはもちろん、施錠などの物理的対策も求める)▼個人が特定できない形での研究結果公表を求める―ことなどが規定されます。
これらのうち、最後の「個人が特定できない形での公表」については、原則として▼5歳毎にグルーピングする(医療分野と同様)▼65歳未満は1グループとする(介護分野のみ)▼95歳以上は1グループとする(医療分野では85歳以上)—という具体的な数値が設定されています。
この点について、今村知明構成員(奈良県立医科大学教授)や藤井賢一郎構成員(上智大学准教授)から「100歳以上の方が7万人もおり、要介護認定率などは100歳未満と大きく異なる。100歳以上に特化した分析なども可能とすべきではないか」との問題提起がなされました。これに対し、山本隆一座長(医療情報システム開発センター理事長、「レセプト情報等の提供に関する有識者会議」の座長も務める)は、「具体的な審査の段階で『特段の必要性がある』と判断されれば柔軟な対応をとることもある」と説明しています。
また、松田晋哉座長代理(産業医科大学医学部公衆衛生学教授)からは「介護DBガイドライン案では『市町村』単位の集計が原則とされているが、『区』単位での集計も可能としてほしい」との要望も出されています。
なお、看護小規模多機能型居宅介護など、サービス事業者数・利用者数ともに少ないサービスでは、多くの市町村において利用者数が「10名未満」となることが考えられます。こうした少数データからは、個人の特定・推測が可能となるため(「●●村で◆サービスを利用している人は○○さんしかいない」といった推測・特定が可能)、こうした場合、データ上は「-」として表記されます(NDBガイドラインでも同様)。介護保険では、サービスが細かく分かれているため、こうした「-」表示が多くなると予想され今村構成員や馬袋秀男構成員(民間介護事業推進委員会代表委員)から「使い勝手が悪いのではないか」との指摘が出ましたが、山本座長は「利用者の同意を得ずにデータを利用するのであるから、細心の注意を払わなければならない。もし少数データを使いたい場合には、利用者の同意を得ることが必要である」と述べ、理解を求めています。
このように多少の注文は付いていますが、介護DBガイドライン案は大筋で了承されており、文言修正の後、近く公表される見込みです。
いわば分析練習用に、個人特定の可能性を排除した「サンプリングデータセット」も作成
データ提供のためにガイドラインで求められている要件は、相当「ハードルが高い」と言えます。また、NDBデータについては、当初、多くの研究者から「まずデータを提供してほしい。そこから私が何かを見つけ出してみせる」という、いわゆる「探索的研究」目的での提供依頼がありました。
しかし、NDBデータは上述のように患者の重要情報であり、安易な提供は許されません。また、研究者にも「どのような情報がNDBに格納されているのかが必ずしも覚知できない」状況がありました。そこでNDB有識者会議では、いわば分析練習用に、個人の特定可能性を極力排除した「サンプリングデータセット」を作成。サンプリングデータセットをもとに、分析の練習を行い、「どういった研究が可能か」を探ってもらうこととしたのです。
介護DB有識者会議では、「介護DBにおいても、『サンプリングデータセット』を作成し、研究者の分析練習用に、比較的緩めの審査で提供可能とする」方針が固められました。例えば、次のような「個人特定の可能性を排除する」対策が採られます。
▽要介護度別に「平均+2SD(標準偏差)」を超える利用者をデータから除外する(特定しやすい高額利用者を除外する)
▽母集団から3%を抽出してデータを作成する(抽出により特定が避けられる)
▽利用回数10件未満の介護サービスについては、匿名化を行う(例えば「訪問介護サービスの生活援助、●時間以上」といった特定を難しくする)
このような対策によって、サンプリングデータセットは「母集団とは一定程度異なる特徴を持つ集団のデータ」となります。例えば、「平均+2SD」超の利用者を除外することで、要支援1では上位5.7%、要支援2では上位3.1%、要介護1では上位1.5%、要介護2では上位1.0%、要介護3-5では上位0.3%のデータが対象とならず、利用サービスの合計単位数平均などが「母集団」よりも「サンプリングデータセット」で小さくなると予想されます。
この点、「集団の特性が異なることで研究に支障がでるのではないか」とも思われますが、山本座長や武藤香織構成員(東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター公共政策研究分野教授)らは、「サンプリングデータセットは、いわば練習用である」点を強調し、母集団とサンプリングデータセットの特性の差などは、問題にはならないことを説明しています。
もっとも、実際に運用する中で「あまりに上記の『-』表示が多く、練習もできない」ことなどが判明すれば、上記の対策について見直しが検討されることになるでしょう。
模擬審査や様式準備などを進め、2018年秋から介護データ提供を開始
このようにNDB有識者会議での知見をベースにしたため、介護DBガイドライン・サンプリングデータセットの大枠は、早くも初回の介護DB有識者会議で固められました。
今後、具体的な審査手順などが検討した上で、申請受け付け・実際の審査などが進められますが、その前に介護DB有識者会議において「模擬審査」が行われる予定です。これは、「構成員が模擬的に研究目的を定めて、データ提供の申請を行う」→「有識者会議で申請内容がガイドラインに合致しているかを審査し、データ提供の可否等を決める」というもので、実際の審査に備えた「練習」「デモンストレーション」という位置づけです(2018年5-6月予定)。
その間に、厚生労働省で「申請様式の制定」などの準備や説明会開催などを進め、▼今夏(2018年7月頃)を目途に「申請の受け付け」を開始する▼今秋(2018年9月頃)以降にデータ提供を開始する―ことになるでしょう。
今後、さまざまな研究テーマが研究者や自治体から上がってくることになりますが、その中には「介護に関するエビデンス」が含まれる可能性もあります。厚労省では「エビデンスに基づく介護」の議論を「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」で進めていますが、介護DBデータをもとに、研究者レベルからも「エビデンスに基づく介護」に関する成果等が報告されるかもしれません(関連記事はこちらとこちら)。
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