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診療報酬改定セミナー2024 新制度シミュレーションリリース

地域別診療報酬には慎重論、後期高齢者の自己負担2割への引き上げも検討—医療保険部会

2018.4.20.(金)

 医療保険制度を維持する方策として、「予防・健康づくりの一体的実施」「高額な薬剤・医療技術に対する保険給付の在り方」「医療費の動向に合わせた給付率変動措置」「地域別の診療報酬」などについてどう考えていくか―。

 4月19日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で、こういった議論が始まりました(関連記事はこちらこちら)。

4月19日に開催された、「第111回 社会保障審議会 医療保険部会」

4月19日に開催された、「第111回 社会保障審議会 医療保険部会」

予防・健康づくりを一体的に実施し、健康寿命の延伸を目指す

 2025年には、いわゆる団塊の世代がすべて後期高齢者となるため、今後、医療・介護ニーズが急速に増加していきます。その後、2040年にかけては、高齢者人口の増加は続くものの、その伸び率は鈍化し、また社会保障制度を支える生産年齢人口が急激に減少していく「新たな局面を迎える」ことが分かっています。

これは、公的医療保険を初めとする社会保障の存立基盤が極めて脆くなることを意味し、加藤勝信厚生労働大臣は、医療保険等を維持するための対策として▼2040年までに健康寿命を3年以上延伸し平均需要との差を縮減する▼AI・ICT技術なども活用し、医療・介護サービスの生産性を向上する―という2つの柱を立てています。

2040年に向けた、社会保障改革の柱その1(健康寿命を延伸することで、医療費等の伸びを抑える)

2040年に向けた、社会保障改革の柱その1(健康寿命を延伸することで、医療費等の伸びを抑える)

2040年に向けた、社会保障改革の柱その2(生産性を向上させ、少人数の支え手で効果的なサービス提供を行うことを目指す)

2040年に向けた、社会保障改革の柱その2(生産性を向上させ、少人数の支え手で効果的なサービス提供を行うことを目指す)

 
あわせて、これまでにも実施されている「給付と負担の見直し」(患者自己負担率の引き上げや、高額な医療技術に対する報酬の見直しなど)も進める必要があり、厚生労働省4月19日の医療保険部会で、今後の医療保険改革に関する論点として次の4項目を例示しました。経済財政諮問会議や財政制度等審議会などでなされた提案も含まれています。

(1)予防・健康づくりの一体的実施
(2)高額な薬剤・医療技術に対する保険給付の在り方
(3)医療費の動向に合わせた給付率変動措置
(4)地域別の診療報酬

 まず(1)の「予防・健康づくりの一体的実施」は、上記2本柱の1つ「健康寿命の延伸」を目指す方策の1つと言えます。厚生労働省の研究では、「健康寿命が長い都道府県では、後期高齢者の1人当たり医療費が低い」という関係のあることが分かっており、医療保険制度の安定に向けて非常に重要な方策です。

健康寿命の長い地域では、後期高齢者の1人当たり医療費が小さい

健康寿命の長い地域では、後期高齢者の1人当たり医療費が小さい

 
 具体的には、現在、個別に展開されている▼生活習慣病対策(40歳以上を対象に市町村国保等が実施、国保の財政責任主体が都道府県となった後も、きめ細かな保健事業等は市町村が担う)▼フレイル対策(75歳以上を対象に後期高齢者医療制度を運営する後期高齢者広域連合が実施▼介護予防(65歳以上を対象に介護保険の保険者である市町村が実施)—などを、一体的に実施することでより大きな効果を目指すものです。厚労省保険局医療介護連携政策課の黒田秀郎課長は、「例えば、市町村がフレイル対策などを実施し、介護予防を実施する『場』において、一体的に実施する」ことなどが考えられる旨を説明しています。

高額な薬剤や医療技術、費用対効果評価などで適正価格を設定

 また(2)の高額薬剤・医療技術については、「保険給付外としてはどうか」といった指摘もなされています。医療費の増加要因を分析すると、近年では「高齢化」よりも、相次ぐ高額薬剤等(例えばオプジーボなど)の保険収載による「医療技術の高度化」によるところが多く、「医療費の伸びを抑えるために、高額薬剤等は『贅沢品』として保険給付外(全額自己負担)とすべきではないか」との指摘が一部になされているのです。

この点について厚労省は、我が国の公的医療保険制度では「有効性・安全性が確認され、必要かつ適切な医療は保険適用とする」ことが原則であり、この原則を堅持した上で▼効能効果追加などの状況変化に迅速に対応する▼費用対効果評価を本格導入する―ことで適正な価格設定をしていく、との考え方を示しています。今般の「薬価制度抜本改革」等が、まさにこの考え方を具現化したものと言えます。また2018年度診療報酬では、da Vinci等を用いた【ロボット支援下内視鏡手術】の保険導入が進みましたが、「従来の内視鏡手術に比べた有効性が明確でないため、点数も同等に設定する」こととなっています。

 なお、「保険給付外」(全額自己負担)のほかにも、「薬剤の種類に応じて保険給付率を変える」という手法も考えられそうです(例えば、抗がん剤などの代替品のない医薬品では保険給付率を高く(自己負担を少なく)し、一般用医薬品と類似するような医薬品では保険給付率を低く(自己負担を多く)する、というフランスなどに倣った仕組み)。しかし、医療費を押し上げる「高額薬剤」は、現時点では抗がん剤などに多く、「医療費抑制に対してどこまでの効果があるのかは疑問」との声にも耳を傾ける必要があるでしょう。

75歳以上高齢者の自己負担割合を2割に引き上げるべきか、負担能力も勘案すべきか

また(3)医療費の動向に合わせた給付率変動措置とは、例えば「ある年度の医療費が大幅に増加した場合、翌年度の患者負担割合を機械的に引き上げることで、公費等の負担増を抑える」などといった仕組みのことです。

厚労省は、この仕組みについて、▼患者の受診行動や家計などの実態が考慮されず、患者負担が過大になる恐れがある▼患者負担が頻繁に変われば、国民の安心を損ねる恐れがある―といった課題があると指摘し、「慎重に検討する必要がある」としています。

この仕組みについて医療保険部会では慎重意見が相次ぎましたが、「給付率」については「引き上げを検討すべき」との指摘も出ています。

医療費の支払いを行う医療保険者の立場で出席する佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)や安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は、「75歳以上の後期高齢者について、医療費に比べて自己負担割合が低すぎる。2割への早急な引き上げが必要である」と訴えました。70-74歳の前期高齢者の自己負担割合が段階的に「1割→2割」へと引き上げられており、現在2割負担の前期高齢者が75歳の後期高齢者となるタイミングで「1割→2割」へ引き上げれば、「個人単位で見れば負担増にはならない」ことを佐野委員は強調しています。

70-74歳の前期高齢者の自己負担割合は、段階的に1割から2割に引き上げられているが、個人単位では「従前1割であったものが2割にアップする」わけではない

 
これに対し、兼子久委員(全国老人クラブ連合会理事)や横尾俊彦委員(全国後期高齢者医療広域連合協議会会長・佐賀県多久市長)らは、「年齢ではなく、負担能力に応じた負担とすべき」と反論。

今後、医療保険部会での最重要論点の1つとなりそうです。

地域別の診療報酬、都道府県サイドからも慎重論

さらに(4)は、高齢者医療確保法(高齢者の医療の確保に関する法律)第14条に規定される「医療の効率的提供・医療費適正化を推進するために必要と認められるときは、合理的と認められる範囲内において、予め厚生労働大臣と協議した上で、都道府県が診療報酬と異なる定めをできる」との規定に基づく地域別診療報酬の是非に関する論点です。

財政制度等審議会などでは「国が具体的な活用方法を示し、都道府県を後押しすべき」旨の議論がなされていますが、医療保険部会では、都道府県代表委員も含めて「慎重論」が相次ぎました。地域別診療報酬には効果等にも疑問の声(かえって医療費が高くなるとの指摘もある)がある点なども考慮した議論が求められそうです。

診療報酬に関連して武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)は、「急性期病床における長期入院の是正」を強く求めています。

 
 今後、個別論点に沿って、より具体的な議論が行われることになります。

NDBと介護DBとの連携解析、技術的論点を今秋にもまとめる

なお、NDB(National Data Base:医療レセプトと特定健診等情報を格納したデータベース)と介護DB(介護保険総合データベース:介護レセプトと要介護認定情報を格納したデータベース)の連結に向けた検討が始まることが厚労省から報告されています。

膨大な健康・医療・介護データを集積・分析し、健康・医療・介護施策のパラダイムシフトを行うために、健康・医療・介護のビッグデータを連結・分析する「保健医療データプラットフォーム」構築に向けた検討が本格化しています(データヘルス改革)。

このデータヘルス改革の一環として、NDBと介護DBの連結解析に関する技術的な論点整理が有識者の検討会で行われ、今秋(2018年秋)にも報告書がまとめられます。NDB・介護DBのデータを連結して解析することで、例えば「壮年期に●●の健診データに問題があった人は、◆◆疾病に罹患しやすいが、▲▲の治療法が効果的である。また、こういった方が高齢になると、心身の○○機能が低下して要介護状態になりやすく、その場合□□介護サービスの提供が改善に向けて効果的である」といったエビデンスが構築されれば、より効果的かつ効率的な保健指導・診療・介護予防・介護サービス提供が可能になると期待されます。
 
 
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