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軽微な傷病での医療機関受診では、特別の定額負担を徴収してはどうか―財政審

2018.4.12.(木)

 公的医療保険・介護保険を持続可能なものとするために、「医療費・介護費そのものの増加を抑える」「保険給付範囲の在り方を見直す」という2つの改革が必要となる。後者では、例えば「軽微な傷病での医療機関受診」について、特別の定額負担を導入してはどうか―。

 4月11日に開催された財務省の財政制度等審議会「財政制度分科会」で、こういった議論が行われました(財務省のサイトはこちらこちら(参考資料))。

軽微受診における定額負担、保険制度の在り方にも関連する重要テーマ

 高齢化の進展や、医療の高度化(オプジーボ・キイトルーダなどに代表される画期的で超高額な抗がん剤の登場など)により医療費が増加を続ける一方で、少子化により「支え手」(財政の支え手、医療・介護の担い手)が減少し、公的医療保険制度・介護保険制度の存立基盤が脆くなってきています。

高額な抗がん剤が次々に登場し、医療保険制度の基盤を脆くしつつある

高額な抗がん剤が次々に登場し、医療保険制度の基盤を脆くしつつある

 
 このため財務省は、「医療費そのものの増加を抑制する必要がある」(保険制度見直しによる負担の付け替えには限界がある)、「保険給付の在り方を大きく見直す必要がある」との考えのもと、今般、具体的な社会保障改革案を財政制度分科会に提示しました。

 具体案は次のような内容で、すでに提案されている内容が多数を占めますが、目新しい項目も散見されます。ポイントを絞って見ていきましょう。

まず、医療分野における「保険給付範囲の見直し」については、次のような提案が行われました。
(1)新たな医薬品・医療技術について、安全性・有効性に加えて経済性・費⽤対効果を踏まえて公的保険での対応の在り⽅を決める仕組みとする(▼原価計算⽅式:費⽤対効果評価を義務付け、費⽤対効果が悪いものは、「保険収載の⾒送り」「償還可能価格までの引き下げ」を行う▼類似薬効⽐較⽅式:補正加算が付される場合は費⽤対効果評価を義務付け、その結果に応じて薬価を引き下げる―仕組みとする)
(2)▼薬剤の種類に応じた保険償還率の設定▼⼀定額までの全額⾃⼰負担—制度を参考にした「薬剤自己負担率」を導入する
(3)少額受診に⼀定程度の追加負担を求め、「かかりつけ医」等への誘導策として「定額負担に差を設定する」ことも検討する

 このうち(3)は「軽微な傷病」での受診について、定率の自己負担(年齢・所得により1-3割)に加えて、「追加的な定額の自己負担」を求めるというものです。
財政審2 180411
 
 従前、財務省は「かかりつけ医以外を外来受診した場合に、特別の定額負担を設けてはどうか」との提案を行っていましたが、「かかりつけ医の定義、範囲が明確でない」「かかりつけ医を持たない国民も多い」といった指摘が、社会保障審議会・医療保険部会などで相次ぎ、方向を若干修正したと見ることもできます(もっとも「かかりつけ医等」へ誘導するため、定額負担に差を設ける(かかりつけ医等の場合には定額負担を小さくする)考えも示しています)。

 このテーマは古くから議論される「保険給付の在り方」にも関連する重要論点の1つです。保険給付の在り方を考える際、大きく▼軽微な医療は自己負担とする▼超高額な医療は自己負担とする―という両極の選択肢があり、この中間にさまざまなバリエーションが考えられます(自己負担割合を疾病によって変えていくなど)。財務省は「前者」の考え方に寄っていることが、この提案で明確になったと言えるでしょう。もちろん、▼患者にとって「自分の疾病が軽微なのか重篤なのか」を判断することは難しい▼早期治療を阻害し、かえって医療費が増加する―といった課題もありますが、そろそろ真正面から議論する時期に来ていると言えそうです(関連記事はこちら)。

 
 また(2)は、例えばフランスにおける薬剤自己負担率「▼抗がん剤等の代替薬のない⾼額医薬品:0%(全額保険償還)▼⼀般薬剤:35%▼胃薬等:70%▼有⽤度が低いと判断された薬剤:85%▼ビタミン剤・強壮剤:100%(全額自己負担)」や、一般用医薬品と医療用医薬品との価格差(湿布薬であれば、医療用は3割負担で36円だが、一般用は1008円など)などを踏まえよ、との提言です。

2018年度の診療報酬改定では「ヒルドイドソフトなど」の保険給付が議題の1つにあがりました。ヒルドイドソフトは、アトピー性皮膚炎患者に対する保湿剤などとして処方されますが、女性芸能人などが「ヒルドイドにはアンチエイジング効果があり、医療保険を使って3割負担で入手できる」といった紹介をし、一部に大量処方されているケースがあることが問題視されたのです。今回の提案は、こうした「不適切事例へのペナルティ」をも視野に入れていると考えられます。モラルハザードが横行すれば、適正化に向けた動きが強くなり、「本当に必要な患者」のアクセスが阻害されてしまいます。医療従事者・国民の双方が「適正な医療保険制度の運用」に協力しなければなりません。

地域別診療報酬や地域医療構想実現に向けた知事権限の強化、課題も多い

 また医療費そのものの増加を抑える方策として、財務省は「公定価格(診療報酬点数や薬価、特定保険医療材料価格など)の適正化」「医療提供体制の改革」が必要とし、次のような具体的な見直しを行うべきと提案しています。
(i)診療報酬本体も含め「改定率」は厳しく抑制していく
(ii)薬価制度の抜本改革の中で「残された検討課題」(費用対効果評価の本格導入など)を着実に検討し、併せて▼創薬コストの低減▼製薬企業の費⽤構造の⾒直し▼業界再編—に取り組む
(iii)かかりつけ機能を果たしていない薬局の報酬⽔準適正化など、調剤報酬の在り⽅を見直す
(iv)地域医療構想の実現に向けて、▼診療報酬・介護報酬改定のフォローアップ▼都道府県への⼿段の付与▼都道府県へのインセンティブ▼適切な進捗管理▼医療・介護を通じた在宅医療・介護施設等への転換—を行う
(v)7対1・10対1一般病棟の再編・統合など、2018年度診療報酬改定が地域医療構想に沿った「病床の再編」「急性期⼊院医療費の削減」につながるか、KPIを設定して進捗を評価し、必要に応じて「更なる要件厳格化」などを2020年度改定で実施する
(vi)介護療養・25対1医療療養から介護医療院などへの転換を促進するが、▼患者の状態像に合わない、高単価の医療療養への転換を防止する▼転換が進まない場合に介護療養の報酬⽔準を検討する(引き下げる)▼⾼齢者住まいへの転換も含めた幅広いダウンサイジング⽅針を策定する―ことなどを進める

介護療養からの医療療養への転換は、「防止せよ」と財務省は考えている

介護療養からの医療療養への転換は、「防止せよ」と財務省は考えている

 
(vii)▼診療所▼医師数▼⾼額医療機器—など「病床以外の医療資源」に関しても、配置への実効的なコントロール方策を早急に検討する
(viii)都道府県における医療費適正化の取組みに資する実効的な⼿段を付与し、医療費適正化に向けた地域別診療報酬の具体的に活⽤可能なメニューを国として⽰す

 このうち(iv)の地域医療構想の実現に関しては、▼病床再編に向けた都道府県の権限整備▼地域医療構想の進捗に応じた保険者努⼒⽀援制度・地域医療介護総合確保基⾦の配分▼病床機能報告における定量的基準の策定—などが打ち出されています。ただし、「最も多い民間医療機関に対し、都道府県が機能転換命令を行うことなどは、憲法上、難しい」「進捗の低い都道府県への基金配分を薄くすれば、さらに進捗が遅れ、格差が広がる可能性がある」「定量基準を定めることは、病床機能報告制度の否定につながる(基準を定めるのであれば報告の必要はなくなる)といった課題もあり、さらに議論を詰めてく必要があるでしょう。

地域医療構想の実現に向けた、具体的なてこ入れ案

地域医療構想の実現に向けた、具体的なてこ入れ案

 
また(viii)の「地域別診療報酬」には、「かえって医療費を高くするのではないか」との指摘もあります。現在は、オールジャパンという単位で「診療側と支払側との価格交渉」が中央社会保険医療協議会で行われていますが、これを都道府県単位で行った場合、「診療側のパワーが増し、支払側のパワーはさらに下がるのではないか」と考えられるのです(「診療報酬に詳しく、交渉能力に長ける」医師等は全国に多数いるが、「診療報酬に詳しく、かつ交渉能力に長ける」保険者関係者等の状況は未知数)。また、全都道府県で一定水準以上の事務局機能を果たせるか、というテーマについても疑問を持つ識者が少なくありません。効果・運用の双方でまだまだ課題があり、地域別診療報酬は「もう少し先の検討テーマ」と言えるかもしれません。

ケアマネジメントへの利用者負担導入など、近く正面からの議論を

 介護分野の「保険給付範囲の見直し」としては、次の2つの提案が行われました。
▼居宅介護⽀援(ケアマネジメント)への利⽤者負担導入
▼⼀層の総合事業の推進

 双方とも社会保障審議会・介護保険部会を中心に、専門家による議論が行われ「時期尚早」との結論が出ています。例えば、前者の「ケアマネジメントへの利用者負担」には「介護保険利用を阻害する」「利用者・家族によるプラン変更が助長される」といった懸念が、後者には「要支援1・2の訪問・通所介護が総合事業へ移行して間もなく、状況を把握しないままに拡大することは極めて危険である」との指摘が強いためです。

 もっとも前者については、利用者負担導入で「ケアマネジャーの意識も変わり、ケアマネジメントの質が高まる」ことが強く予想され、また後者については、今後データが集積される中で、「他サービスやより重度者の総合事業への移行」が可能かどうか実証されていきます。そう遠くない将来、両者については真正面から議論が行われることになるでしょう。

診療所や介護事業所の再編・統合なども、近い将来重要検討テーマに

高齢化の進行によって、介護費は著しい増加を見せており、「介護費用の伸びを抑える方策」が今後の最重要テーマの1つとなることは間違いありません。財務省は、次のような提案を行っています。
(a)在宅と施設の公平性確保も踏まえ、「多床室の室料相当額」も基本サービス費から除外する
(b)保険者機能強化推進交付⾦(自立支援等に積極的に取り組み市町村・都道府県へのインセンティブ)について、指標の達成状況がよくない⾃治体について、原因を分析し、都道府県・市町村の取組を⽀援する
(c)頻回なサービス利用に対する「保険者によるケアプランチェックのための指針」等を早急に策定・周知し、利⽤者の状態像に応じたサービスの利⽤回数や内容等についての標準化を進める
(d)介護費の地域差縮減に向けて、在宅サービスについても▼総量規制▼公募制—などのサービス供給量を⾃治体がコントロールできる仕組みを導⼊する
(e)⼈材の確保・有効活⽤やキャリアパスの形成によるサービスの質の向上などの観点から、「介護サービスの経営主体の統合・再編」等を促す

このうち(d)は、医療でも同様の問題意識が顕在化しています(診療所開業規制の是非など、さらに上記(vii)との関連)。また、これらは(e)の再編・統合とも共通要素があります。例えば、訪問看護ステーションについては、「数の整備」とともに「規模の拡大」が、以前より重要なテーマに据えられています。大規模化によって、個々の看護師の負担が減り、またサービス提供体制を手厚くする(例えば24時間・365日対応など)ことが可能です。また、再編・統合によって総務部門などの共通コストを低廉にすることが可能で、経営的なメリットもあります。さらに、業務負担軽減は「働き方改革」とも同じ方向を向いていると言えます。

高齢化だけでなく、少子化が進行する我が国では、医療・介護サービスの担い手不足が深刻化しており、今後、深刻度は増していきます。近い将来、病院だけでなく、診療所や介護施設・事業所においても「再編・統合」が検討すべき重要テーマの1つとなりそうです。

諸国における診療所開業等の状況

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