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診療報酬改定セミナー2024 看護モニタリング

高額療養費の見直しで720億円、療養病床の居住費負担見直しで50億円の医療費適正化―社保審・医療保険部会

2017.1.26.(木)

 昨年(2016年)末に塩崎恭久厚生労働大臣と麻生太郎財務大臣との折衝によって決定された「高額療養費制度の見直し」により全体で約720億円(給付費ベース)、「医療療養病床における居住費負担の見直し」により全体で約50億円(同)の医療費適正化効果が見込まれる―。

 25日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で、厚生労働省からこのような説明が行われました。

 これまでに「国費の縮減額」は明示されていますが、医療費自体に対する影響額が明らかにされたのは初めてです。この点、白川修二委員(健康保険組合連合会副会長)は「医療費全体(2014年度の国民医療費は40兆8071億円)に比べると、効果は小さい。このままでは近い将来、医療保険制度が破綻するのは明らかである。引き続き改革に取り組んでほしい」とコメントしています。

1月25日に開催された、「第103回 社会保障審議会 医療保険部会」

1月25日に開催された、「第103回 社会保障審議会 医療保険部会」

委員からは「医療費全体に比べて適正化効果が小さい」との指摘

 医療保険制度改革については、経済財政諮問会議が作成した「経済・財政再生計画 改革工程表2016改定版」をベースに医療保険部会で具体案を検討し、昨年(2016年)12月8日に議論の整理が行われました。厚労省はその後、与党との調整を行い、さらに12月19日に塩崎厚労省と麻生財相の折衝を経て、次のような案がまとまりました。

(1)高額療養費の見直し

(2)後期高齢者の保険料軽減特例の見直し

(3)入院時の光熱水費(居住費負担)の見直し

 (1)は70歳以上の高齢者のうち、現役並み所得(年収370万円以上)・一般所得(年収156万-370万円)の人について月額負担上限を引き上げるものです。厚労省は、この見直しで「国費が220億円縮減できる」ことを明らかにしていますが、25日の部会では、さらに医療費全体への影響額(適正化額)が次のようになることが報告されました。

▼給付費ベース(自己負担分を除く)で約720億円(公費330億円、保険料390億円)の適正化

▽公費330億円の内訳:国費220億円、地方負担100億円

▽保険料390億円の内訳:協会けんぽ130億円、組合健保130億円、共済組合40億円、市町村国保50億円、後期高齢者広域連合40億円

高額療養費について一部見直しを行う(高所得者には若人と同程度の負担を求める)

高額療養費について一部見直しを行う(高所得者には若人と同程度の負担を求める)

 

 また(3)は、医療療養病床の65歳以上の入院患者における居住費負担(光熱水費相当)を見直す(医療区分1で負担額引き上げ、医療区分2・3で負担を新設、ただし難病患者は除く)ものです。これについても、次のような医療費適正化効果があることが明らかにされました。

▼給付費ベース(自己負担分を除く)で約50億円(公費30億円、保険料20億円程度)の適正化

▽公費30億円の内訳:国費20億円、地方負担10億円

▽保険料20億円の内訳:協会けんぽ8億円、組合健保8億円、共済組合3億円、市町村国保3億円、後期高齢者広域連合3億円

療養病床における65歳以上入院患者の居住費負担を見直す(医療区分1では増額、医療区分2・3では新設)

療養病床における65歳以上入院患者の居住費負担を見直す(医療区分1では増額、医療区分2・3では新設)

 

 (2)は保険料負担を国費で緩和しているもので、見直しによって国費負担が190億円減少します。なお上記金額は、端数処理の関係で合計が合わないことがあります。

国保の保険料軽減特例措置について一部を見直す(本則に段階的に戻していく)

国保の保険料軽減特例措置について一部を見直す(本則に段階的に戻していく)

 

 こうした説明に対し、白川委員は「政治の圧力の中で改革案をまとめた厚労省は評価できる」と賞賛したものの、「医療費全体から見れば、適正化効果は小さい。この程度の適正化では、医療保険財政が近い将来破綻することは明らかである」と述べ、引き続きの改革が必要との見解を明らかにしました。

支払基金法の改正案、医療保険部会でも議論

 また25日の部会には、昨年末で議論を終えた「データヘルス時代の質の高い医療の実現に向けた有識者検討会」の報告書(1月12日公表)の内容が、厚労省保険局保険課の宮本直樹課長から説明されました(関連記事はこちら)。

 内容のポイントをいくつかあげると、▼審査業務の効率化・審査基準の統一化に向けて、審査支払機関(社会保険診療報酬支払基金と国民健康保険団体連合会)のコンピュータチェックルールを公開し、レセプト請求前に医療機関でのチェックを可能とする▼健康・医療・介護のデータベースを連結しプラットフォーム化していくことで、個人の保健医療に関するヒストリーをビッグデータとして民間を含めた専門家が分析することを可能にし、医療の質向上につなげる▼支払基金の「審査・支払システム刷新計画」を全面的に見直し、ビッグデータ活用のためのシステムの実装時期も踏まえ2020年度中に新システムを実施できるようにする―といった点が注目されます。

 また、こうした改革を進めるために(1)業務効率化(2)ビッグデータ活用―のそれぞれについて工程表の基本方針を来春(2017年4-5月)にも固める方針も報告書に示されています。宮本保険課長はさらに、「工程表をまとめた後、来年(2018年)の通常国会に社会保険診療報酬支払基金法の改正案を提出することになる。法案作成に向けては、医療保険部会で議論してもらう」との考えも示しています。ただし、医療機関における事前のレセプト審査などは、特段の法規改正を経ずに実施することができる見込みです。

今後、改定基本方針や医療保険改革について検討

 ところで、医療保険部会では今後、▼2018年度診療報酬改定の基本方針▼医療保険改革(経済・財政再生計画改革工程表2016改定版)▼任意継続被保険者制度の見直し▼高齢者医療制度の在り方―などについて議論していくことが、厚労省保険局総務課の城克文課長から説明されました。

 医療保険改革については、工程表で2017年末・2017年度末が期限とされている「かかりつけ医の普及に向けた選定療養による定額負担の対象見直し」や「都道府県別診療報酬(高齢者医療確保法第14条)の活用方法」などがあります。

  

 また任意継続被保険者制度については、被用者保険サイドの白川委員が「議論は尽くされており、厚労省も被用者保険側の意見を『もっともである』と受け止めてくれたと思う。あとは財源確保のみで、2018年度予算の概算要求の中にきちんと書き込んでほしい」と要望しましたが、国保サイドの原勝則委員(国民健康保険中央会理事長)は「任意継続被保険者制度の見直しは国保へも影響する(被保険者が被用者保険から国保に移ることになる)ので、慎重に検討すべき」と反論しました。城総務課長は「論点は出ているが、部会としての『答え』はまだ出ていないと思う。さらなる議論が必要」との見解を示しました。

  

 なお、診療報酬改定基本方針の論議は、通常、夏頃からスタートしますが、委員からは「すでに中央社会保険医療協議会で改定論議が始まっている。部会のスケジュールが遅い」との指摘があるため、検討スケジュールが前倒し(夏前から議論を始める)される可能性も否定できません(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。

  
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