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70歳以上の高額療養費、住民税非課税世帯でも引き上げるべきか―社保審・医療保険部会

2016.12.1.(木)

 2017年の医療保険改革に向けて、厚生労働省は30日に開催した社会保障審議会・医療保険部会に見直しの方向性を提案しました。

 例えば70歳以上高齢者の高額療養費について、現役並み所得世帯の月額自己負担上限を69歳以下と同じく設定した上で、(案1)一般所得区分世帯で外来特例を廃止し、かつ住民税非課税世帯の外来特例上限を引き上げる(案2)一般所得区分世帯で外来特例は維持するが上限額を引き上げ、住民税非課税世帯では現状を維持する―という2つの案が示されています。

 委員の意見も分かれており、年末にかけて最終的な調整が行われます。

11月30日に開催された、「第101回 社会保障審議会 医療保険部会」

11月30日に開催された、「第101回 社会保障審議会 医療保険部会」

70歳以上の高額療養費、高額所得者は月額上限を引き上げ

 厚労省が提示した2017年の医療保険改革に向けた方向性を眺めてみましょう。「世代間・世代内の負担の公平化」が重要なキーワードになっています。なお厚労省提案は「法改正不要」な範囲にとどまっています。

 まず高額療養費については、次の2案が示されました(関連記事はこちら)。

【案1】現役並み所得世帯の月額自己負担上限を69歳以下と同じに設定する。一般所得区分の外来特例を廃止し、月額自己負担上限を69歳以下と同じに設定する。住民税非課税世帯で外来特例を維持するが、月額自己負担上限を引き上げる

【案2】現役並み所得世帯の月額自己負担上限を69歳以下と同じに設定する。一般所得区分の外来特例は維持するが、月額自己負担上限を引き上げる。住民税非課税世帯で現状を維持する

2017年における、70歳以上高齢者の高額療養費見直し案2点、「住民税非課税世帯で負担増を行うか、どうか」が大きなポイントとなる

2017年における、70歳以上高齢者の高額療養費見直し案2点、「住民税非課税世帯で負担増を行うか、どうか」が大きなポイントとなる

 いずれの提案も、「所得の高い高齢者には応分の負担を求める」との考えに立っており、【案1】はより「負担の公平」を目指すもの、【案2】は高齢者に配慮したものと言えます。なお、厚労省保険局総務課の城克文課長は「激変緩和を避けるために、2段階での導入をしてはどうか」との考えも示しています。来年(2017年)8月から月額自己負担上限の金額のみを変更し(第1段階)、再来年(2018年)8月から所得区分の見直しと外来特例の廃止を行う(第2段階)というものです。

高額療養費の見直しを行う場合、激変緩和のため「2段階の導入」が考えられている。また、これに合わせて高額介護合算療養費の上限額引き上げも検討されている

高額療養費の見直しを行う場合、激変緩和のため「2段階の導入」が考えられている。また、これに合わせて高額介護合算療養費の上限額引き上げも検討されている

 また、両案ともに「現役並み所得」相当世帯で月額自己負担上限を引き上げる(69歳以下の世代と同じくする)方針ですが、その対象者は約30万人と推計されています。

70歳以上の高額療養費について、厚労省は2案を提示しており、共通する「現役並み所得」相当世帯で、実際に負担増になるのは約30万人(表でグレーの網掛けがされている数字を参照)と推計される

70歳以上の高額療養費について、厚労省は2案を提示しており、共通する「現役並み所得」相当世帯で、実際に負担増になるのは約30万人(表でグレーの網掛けがされている数字を参照)と推計される

 医療保険部会では、主に費用を負担する側の委員(白川修二委員:健康保険組合連合会副会長、小林剛委員:全国健康保険協会理事長、望月篤委員:日本経済団体連合会社会保障委員会医療・介護改革部会長、藤井隆太委員:日本商工会議所社会保障専門委員会委員ら)や岩村正彦部会長代理(東京大学大学院法学政治学研究科教授)は、「世代間の負担の公平を図る必要がある」「年齢ではなく能力に応じた負担に移行する必要がある」とし、【案1】を支持する見解を明らかにしました。

 一方、兼子久委員(全国老人クラブ連合会理事)や遠藤秀樹委員(日本歯科医師会常務理事)、菊池令子委員(日本看護協会副会長)らは、「住民税非課税世帯に負担増を求めるのはいかが」とし、仮に高額療養費を見直すとしても【案2】とすべきとの考えを示しています。また後期高齢者医療制度を運営する横尾俊彦委員(全国後期高齢者医療広域連合協議会会長、佐賀県多久市町)は、激変緩和を避けるために、「第1段階(2017年8月から)は【案2】とし、第2段階(2018年8月)から【案1】に移行してはどうか」との提案も行いました。

 このテーマについては、「住民税非課税世帯」に負担増を求めるかどうかが大きな論点になります。医療保険部会では【案1】を推す意見が想定程度見られましたが、低所得者世帯の負担増には批判も強いと考えられ、今後の調整が注目されます。

 なおこれに関連して城総務課長は、高額介護合算療養費制度の見直しも提案しています。

医療区分2・3の療養病床入所者(65歳以上)にも光熱水費負担を求める

 医療機関に入院する患者に居住費(光熱水費)を負担してもらうべきかという論点について、厚労省は、65歳以上で療養病床に入院する▼医療区分1の患者について、現在の光熱水費負担1日320円を、来年(2017年)10月から370円に引き下げる▼医療区分2と3の患者について、光熱水費として新たに来年(2017年)10月から200円、2018年4月から370円の負担を求める―ことを提案しています。ただし難病患者については、光熱水費負担は求めません(関連記事はこちらこちら)。

医療療養に入院する65歳以上・医療区分1の患者について光熱水費負担を引き上げるとともに、65歳以上・医療区分2・3の患者にも新たに光熱水費負担を求めることが提案されている

医療療養に入院する65歳以上・医療区分1の患者について光熱水費負担を引き上げるとともに、65歳以上・医療区分2・3の患者にも新たに光熱水費負担を求めることが提案されている

 この提案に対し、新谷信幸委員(日本労働組合総連合階副事務局長)や松原謙二委員(日本医師会副会長)は「医療区分2と3は医療費の必要性が高く入院している人で、光熱水費負担を求めるべきではない」と反対。

 一方、白川委員は「療養病床だけでなく、一般病床にも長期入院患者は少なからずいる。そういった人にも光熱水費負担を求めるべきである」と厚労省に提案しています。

 介護保険では、施設入所者に光熱水費負担を求めていますが、これは「居住」者に応分の負担を求めるという考えに立つものと言えます。医療保険の病床に入院する患者に、「居住」者としての負担を求めるべきか、年末に向けた最終調整を待つ必要があります。

現行制度では、一般病床の入院患者等では、食材費のみ患者負担となっているが、在宅療養患者等との公平性を考慮した見直しが検討されている

現行制度では、一般病床の入院患者等では、食材費のみ患者負担となっているが、在宅療養患者等との公平性を考慮した見直しが検討されている

子ども医療費の助成に基づく国庫負担減額、どこまで見直すべきか

 子どもの医療費(患者自己負担)を助成する市町村が圧倒的多数ですが、患者自己負担の減免は、医療費の増加を招くことが知られています(長瀬効果)。このため厚労省は「市町村が独自の判断で子ども医療費の助成(現物給付)を行った場合、増加する医療費を国民全体で負担することは不合理であり、国庫負担を減額する」措置を取っています。

市町村の判断で一部負担を減免した場合、その内容に応じて市町村国保への国庫負担が減額される(減額調整)。未就学児之自己負担をゼロ(無料)にした場合には、国庫負担は86.11%に減額される。

市町村の判断で一部負担を減免した場合、その内容に応じて市町村国保への国庫負担が減額される(減額調整)。未就学児之自己負担をゼロ(無料)にした場合には、国庫負担は86.11%に減額される。

 この減額措置が「少子化対策に逆行する」との指摘があることから、厚労省は今般、次の2つの見直し案を提示しました。いずれも減額措置の範囲を縮小するものです(関連記事はこちら)。

【案1】未就学児までの医療費助成を対象として減額措置を見直す

【案2】未就学児までの医療費助成を対象として減額措置を見直すが、「何らかの一部負担金」や「所得制限」を設けている場合に限定する

 都道府県や市町村を代表する委員・参考人は、少子化対策の重要性や住民ニーズの大きさを訴え、【案1】【案2】以外の「年齢制限を設けずに、医療費助成の減額を見直す」ことが妥当としています。厚労省の調査によれば、【案2】の対象となる(つまり減額措置が見直される)自治体は24-27%程度となるため、渡邊廣吉委員(全国町村会行政委員会委員、新潟県聖籠町長)は「自治体間で不公平が生じてしまう。制限を設けるべきではない」と強く主張しています。

子ども医療費の助成状況。未就学児については、入院・外来ともにすべての市町村で何らかの医療費助成が行われている。

子ども医療費の助成状況。未就学児については、入院・外来ともにすべての市町村で何らかの医療費助成が行われている。

 これに対し白川委員らは「全国一律に行われている医療費助成は『未就学児まで』を対象としたものであり、年齢制限は公平性に資する」旨の考えを述べたほか、「例えば年収2000万円の世帯に対し、子どもだからといって医療費を助成するべきであろうか。【案2】の対象市町村は限定されているが、逆に市町村側が【案2】の方向にシフトしていくべきである」と反論しています。

後期高齢者の保険料、軽減措置をどこまで見直すべきか

 また現在、毎年の予算措置で行われている「後期高齢者に対する保険料負担の軽減措置」についても、次のような見直し案が提示されました(関連記事はこちら)。

【案1】所得割の5割軽減措置を来年度(2017年度)から本則に戻し(廃止)、均等割の9割・8.5割軽減措置を来年度から段階的に本則に戻していく(新規に後期高齢者となる人では軽減措置は適用せず)

後期高齢者の保険料軽減措置の見直し案1。所得割を本則に戻すことと合わせ、低所得者における均等割の9割・8.5割軽減を段階的に本則に戻す内容である

後期高齢者の保険料軽減措置の見直し案1。所得割を本則に戻すことと合わせ、低所得者における均等割の9割・8.5割軽減を段階的に本則に戻す内容である

【案2】所得割の5割軽減措置を来年度(2017年度)から本則に戻すが、均等割の軽減措置については「介護保険料軽減の拡充」「年金生活者支援給付金の支給」と合わせて実施する(現段階では軽減措置を維持する)

後期高齢者の保険料軽減措置の見直し案2。所得割を本則に戻すが、低所得者における均等割の軽減措置については、他施策と合わせて実施することとしている

後期高齢者の保険料軽減措置の見直し案2。所得割を本則に戻すが、低所得者における均等割の軽減措置については、他施策と合わせて実施することとしている

 このテーマについては社会保障制度改革推進本部による「医療保険制度改革骨子」で「介護保険料軽減の拡充」「年金生活者支援給付金の支給」と合わせて実施することが明確に支持されていることから、【案2】のほうが有力な選択肢と言えるかもしれません。

 

 このほか医療保険部会では、(1)かかりつけ医以外を受診した場合の別途定額負担の導入(2)スイッチOTC化された医薬品の保険償還率見直し(3)金融資産を考慮した負担のあり方―についても議論されましたが、城総務支持については「引き続きの検討課題」と位置づけるにとどめました。なお、(1)は外来の機能分化を目指すものとされており、今後「選定療養による定額負担」(特定機能病院や一般病床500床以上の地域医療支援病院など)の対象見直しなどを含めて、幅広く議論していくことになっています(関連記事はこちら)。

 

 なお、任意継続被保険者制度(健康保険の被保険者が、退職後も自らの選択で、最大2年間、従前の健康保険に加入できる仕組み)について白川委員から見直しを求める強い要望が出ていました。しかし厚労省は「短時間労働者の適用拡大(3年後)と合わせて議論すべき」とするにとどめました。白川委員は「就労者は被用者保険に、それ以外は国保にという流れに逆らう」として、強い不満を述べています。

  
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