子ども医療費を市町村が助成した場合の国庫負担減額、どう見直すべきか―社保審・医療保険部会
2016.11.21.(月)
子ども医療費を助成している市町村の国保については、現在、国庫負担金が減額されています。社会保障審議会の医療保険部会では、この減額措置を廃止する方向で議論が進められていますが、「医療費の助成対象となる子どもの年齢に制限を設けず、減額措置を廃止する」べきか、それとも「未就学児に対する医療費助成についてのみ、減額措置を廃止する」べきかで委員の意見は分かれています(関連記事はこちらとこちら)。
減額措置を廃止する方向では、委員の意見は一致しているが
我が国の医療保険精度では、年齢や収入に応じて「かかった医療費の1-3割を負担する」ことになっています(利用者負担、窓口負担)。受益を受けた人にも一定の負担を課すことで、不必要な医療機関受診を抑制することが必要なためです。
一方、子どもの医療費については自治体の判断で「利用者負担の補填」が行われるケースがあります。厚生労働省の調査によれば、「未就学児の医療費については、全市町村で何らかの助成が行われている」「就学年齢を超える子どもへの医療費助成については、市町村で実施状況にバラつきがある」ことなどが分かっています。助成の手法としては、大きく▼そもそも窓口での負担をなくす(現物給付)▼一度窓口負担を支払ってもらった上で、後に負担額の還付を行う(償還払い)―の2つがあります。
このうち前者の手法を用いた場合、医療費が過度に増加することが経験的に分かっています(長瀬効果)。市町村独自の判断で医療費膨張を招き、これを国民全体で負担することは好ましくないとして、厚労省はこうした市町村国保について、国庫負担金の減額を行っています(医療費の増加分は市町村が負担する)。しかし、市町村などからは「子どもの医療費助成は少子化対策の一環であり、国庫負担の減額は行うべきでない」との批判が出ています。
この問題については、これまでにも医療保険部会や「子どもの医療制度の在り方等に関する検討会」で議論され(今年6月に閣議決定されたニッポン一億総活躍プランでも、年末までに検討し、結論を出すよう指示されている)、「助成減額措置を廃止する」方向が見出されました。18日の医療保険部会でも同様に、助成減額措置を求める意見が数多くだされました。
ただし、「医療費補填対象の年齢を限定せず、減額措置を廃止する」べきか「未就学児を対象とした医療費補填についてのみ、減額措置を廃止する」べきかで、委員の意見は分かれました。
渡辺廣吉委員(全国町村会行政委員会委員/新潟県聖籠町長委員)や山本圭子参考人(栃木県保健福祉部保健医療監、福田富一委員:全国知事会社会保障常任委員会委員長・栃木県知事の代理として出席)らは、少子化対策の重要性や、中学生・高校生では医療費が少ない(医療機関の受診率が下がる)ことなどを述べ、前者の「医療費補填対象の年齢を限定せず、減額措置を廃止するべき」と要望しました。
これに対し、白川修二委員(健康保険組合連合会副会長)や堀真奈美委員(東海大学教養学部人間環境学科教授)、岩村正彦部会長代理(東京大学大学院法学政治学研究科教授)らは、少子化対策は全国一律であるべきとし、「現在、全市町村で実施されている『未就学児を対象とした医療費助成』の部分のみ、減額措置を廃止する」べきと反論しています。
さらに岩村部会長代理らは「医療費助成を行うとしても、患者窓口負担は必ず残す必要がある」と強調しています。自己負担がゼロになれば「医療費を誰が負担しているのか」という意識が希薄になり、不要な受診が増えることがかつての老人保健制度で経験的にも、またさまざまな研究から論理的にも明らかになっています。この指摘は重く受け止めるべきでしょう。
なお助成減額措置を見直す場合、市町村の財政負担が軽減されることになります。厚労省は、浮いた財源を少子化対策に用いることが必要と考えています。この点について堀委員は、▼小児科のかかりつけ医養成▼子ども救急医療体制の整備▼子どもに関する医療の相談事業―実施などを、減額廃止の要件とすべきと提案しています。
年末に向けて、医療保険部会でさらなる調整が行われます。
外来の機能分化に向けて、「患者負担の在り方」を時間をかけて議論する方向
また18日の医療保険部会では、「かかりつけ医の普及の観点からの外来時の定額負担」が改めて議題に上がりました。
10月26日の前回会合では、「かかりつけ医以外を外来受診した場合、通常の1-3割負担とは別に定額の負担を課す」ことについて議論され、多数の委員から「かかりつけ医の普及は進めるべきだが、『かかりつけ医』の定義が定まっておらず、若人はかかりつけ医を持ってないことなどに鑑みると、外来時の定額負担導入は好ましくない」という反対意見が出されました。
厚労省は、今般、前回議論を踏まえ「外来の機能分化・連携やかかりつけ医の普及の観点から、患者負担の在り方について幅広く検討する場合、どのような案が考えられるか」という。少し大きな議論を求めたものです。
この点について白川委員は、「患者負担の在り方を幅広く議論する時期にきていると思う。ただし『年内』といった期限は設けず、じっくりと時間をかけて議論するテーマである」との見解を示しています。
また樋口恵子委員(高齢社会をよくする女性の会理事長)は、「必ずしても『定額負担』に反対ではなく、方向として有り得ると思う」との見解を示した上で、「議論のゴールをどこに持っていきたいのかが見えない。例えばイギリスのように『全国民がかかりつけ医(General Practitioner、GP)を持つ』(かかりつけ医以外に係る場合には、自己負担が増えたり、保険給付されないなど)とするのであれば、それは無理な話である」と述べ、厚労省に「外来機能分化の将来像」を明確にするよう求めています。
また18日の医療保険部会では、「高額介護合算療養費」(医療費と介護費の合計が、暦月で一定額を超える場合、超過分が保険から給付される仕組み)について、「高額療養費の上限額を引き上げる方向で議論が進んでおり、その場合には、高額介護合算療養費の上限額も連動して引き上げるべき」との意見が数多くだされました。
なお高額介護合算療養費そのものについて「国民に認知されていない」「制度が複雑すぎる」といった批判も出ており、将来的に改善に向けた議論が行われそうです。
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