介護保険の3割負担、個人単位で2018年8月から導入―厚労省
2016.12.19.(月)
高額所得者(現役世代並み相当)について介護保険の利用者負担を3割に引き上げるが、これは世帯単位でなく「個人」単位で、2018年8月から実施する―。
2017年度予算案編成などを巡る塩崎恭久厚生労働大臣と麻生太郎財務大臣との折衝などで、こういった事項が19日に決定しました。塩崎厚労省は「社会保障制度の持続可能性を考慮するとともに、急激な負担増となる方への影響について十分に配慮した」とコメントしています。
目次
高額療養費・高額介護サービス費の見直しなどで社会保障費の伸びを1400億円圧縮
2017年度の予算案編成に向けて政府は社会保障費の伸びを5000億円程度にとどめることとしており、概算要求時点(社会保障費の伸びは6400億円)から1400億円程度圧縮する必要がありました。この点について塩崎厚労省・麻生財相折衝が19日に折衝を行い、次のような措置を行うことが決まりました。
(1)高額療養費の見直し ▲220億円
(2)後期高齢者の保険料軽減特例の見直し ▲190億円
(3)入院時の光熱水費(居住費負担)の見直し ▲20億円
(4)高額薬剤(オプジーボ)の薬価50%引き下げ ▲200億円
(5)高額介護サービス費の見直し ▲10億円
(6)介護納付金の総報酬割の導入 ▲440億円
(7)協会けんぽへの国庫補助の特例減額 ▲320億円
介護保険の3割負担、「個人単位」とすることで対象者は当初見込みより減少
このうち(5)と(6)は介護保険制度改革に該当するものです。(5)の高額介護サービス費(暦月の介護保険利用者負担が過大にならないように上限を設け、超過分は介護保険制度から給付される仕組み)については、世代内・世代間の公平性を確保するために、「能力に応じた負担」を求める、つまり高所得者により高額な上限を設定する方向が社会保障審議会・介護保険部会で議論されてきました。
厚労省は介護保険部会の意見をもとに財務省や与党との調整を行い、一般区分(住民税課税世帯)の上限額(月額)を来年(2017年)8月より、これまでの3万7200円から4万4400円に引き上げることを決めました(関連記事はこちら)。
ただし急激な負担増を避けるために、1割負担(合計所得金額160万円未満)のみの世帯では、2020年7月末まで「年間上限額を44万6400円(現在の3万7200円×12)とする」との時限措置も設けられます。
(6)は、40-64歳の第2号被保険者のうち被用者保険(協会けんぽや健康保険組合など)の負担する額を、これまでの「医療保険の加入者数のみに着目した計算式」(加入者割)から、「負担能力をも加味した計算式」(総報酬割)に見直していくものです。ただし、半数程度の健康保険組合では負担増になる点に配慮し、▼2017・18年度は2分の1を総報酬割・2分の1を加入者割▼19年度は4分の3を総報酬割・4分の1を加入者割▼20年度から全面総報酬割―という段階的な導入となります(2017年8月から導入)(関連記事はこちら)。
さらに、75歳以上の後期高齢者医療制度についても17年度から全面総報酬割となり、健保組合などでの急激な負担増を考慮し、「2019年度末まで、総報酬割導入による負担増が特に大きい保険者に対する支援策」も時限的に設けられます。
また介護保険制度については、2018年8月から「現役並み所得相当」の個人について利用者負担が3割に引き上げられます。介護保険部会では、厚労省から「世帯単位で3割負担を実施してはどうか」との提案が行われていました。これによると、例えば妻の年金収入が280万円であれば、現在は1割負担ですが、夫が年金以外にも収入を持つなどして年収383万円以上である場合には、これに引っ張られて妻の利用者負担も3割に引き上げられることになりますが、「1割から3割では負担増が急激すぎるのではないか」との判断が働き、個人単位で「現役並み所得相当か否か」を判断することになります(2割負担の判断も個人単位で実施)。世帯単位で考えると、3割負担に該当する人は居宅介護サービスの利用者で13万人程度、特別養護老人ホームの入所者で1万人程度と推計されていましたが、個人単位となったことで該当者は少なくなります(関連記事はこちら)。
このほか、▼生活援助中心の訪問介護について人員基準の緩和と、それに応じた報酬設定(つまり引き下げ、2018年度介護報酬改定)▼通所介護などの給付の適正化(18年度改定)▼軽度者に対する生活援助サービスなどの地域支援事業への移行の検討(19年度末まで)▼国よる福祉用具貸与の全国平均価格の公表(18年10月施行)▼福祉用具貸与者への利用者への説明義務(18年4月・10月施行)▼商品ごとの貸与価格上限【全国平均貸与価格+1SD(標準偏差)】(18年10月施行)▼自立支援・重症化防止などの取り組みを行う保険者への財政的インセンティブ付与の検討(18年4月施行)―が行われます(関連記事はこちらとこちら)。
なお、来年度(2017年度)には介護職員を対象に、さらなる処遇改善(新たな介護職員処遇改善加算の区分創設)のための臨時報酬改定が実施されます。
高額療養費、当初の厚労省提案よりも負担増を緩和した見直しに
(1)から(3)は医療保険制度改革に該当するものです。(1)の高額療養費(暦月の医療費自己負担が過重にならないよう上限を設け、超過分が医療保険から給付される仕組み)については、高所得者の上限額が次のように引き上げられます(関連記事はこちら)。
【現役並み所得者】
(a)来年(2017年)8月より、外来上限特例の上限額を、現在の4万4400円から5万7600円に引き上げる
(b)再来年(2018年)8月より、外来上限特例を撤廃した上で、所得区分の細分化と上限額引き上げを行う
▼年収約1160万円超:25万2600円+(医療費-84万2000円)×1%(多数回該当の場合は14万100円)
▼年収約770-1160万円:16万7400円+(医療費-55万8000円)×1%(同9万3000円)
▼年収約370-770万円:8万100円+(医療費-26万7000円)×1%(同4万4400円)
【一般所得者】
(i)来年(2017年)8月より、負担上限額を、現在の4万4400円から5万7600円に引き上げる(多数回該当の場合は4万4400円)。外来上限特例の上限額について、現在の1万2000円から1万4000円に引き上げ、年間14万4000円の上限を設ける
(ii)再来年(2018年)8月より、外来上限特例の上限額について、1万4000円から1万8000円に引き上げる
あわせて高額医療・高額介護合算療養費制度(医療・介護の合計利用者負担が過大にならないよう、負担上限を設ける仕組み)についても、2018年8月より、現役並み所得区分の上限額を、▼年収約1160万円超:212万円(現在は67万円)▼年収約770-1160万円:141万円(同)▼年収約370-770万円:67万円(現在から据え置き)―に引き上げられることになります(関連記事はこちら)。
社会保障審議会・医療保険部会で示された厚労省案よりも、負担増が相当程度緩和されています。
また(3)は、65歳以上の医療療養病床加入者について居住費負担(光熱水費負担)を新たに求める、あるいは負担額を引き上げるもので、次のように医療保険部会で厚労省から提案された内容と同一です。なお、難病患者には居住費負担は求めません。
▼医療区分1:現在の「1日当たり320円」を、来年(2017年)10月から「1日当たり370円」に引き上げる
▼医療区分2・3:現在は負担がないが、来年(17年)10月から「1日当たり200円」の負担を新たに求め、さらに再来年(18年)4月から「1日当たり370円」に引き上げる
このほか、▼後期高齢者の保険料負担軽減特例の一部(所得割の軽減特例など)を段階的に法律本則に戻す▼金融試算を考慮した負担の在り方について検討する(2018年度末まで)▼かかりつけ医普及の観点から、現在の選定療養費(紹介状を持たない場合の200床・500床以上の特別負担)の対象見直しなどを検討する(17年末まで)▼かかりつけ医以外を受診した場合の定額別途負担について検討する(28年度末まで)―などの見直しが行われます。
また19日には、消費増税(5%→8%)を活用した社会保障の充実について、2017年度には▼子ども・子育て支援に6960億円程度▼病床機能分化・連携の推進、在宅医療の推進などに1350億円程度(地域医療介護総合確保基金の医療分など)▼地域包括ケアシステムの構築に2350億円程度(同基金の介護分や、地域支援事業の充実など)▼医療・介護保険制度改革(国保への財政支援など)に5350億円程度▼難病・小児慢性特定疾病にかかる公平・安定的な制度運用に2090億円程度―などが配分されることも示されました。
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