市町村が▼後期高齢者の保健事業▼介護の地域支援事業▼国保の保健事業—を一体的に実施―保健事業・介護予防一体的実施有識者会議
2018.11.26.(月)
健康寿命の延伸に向けて、市町村が、後期高齢者広域連合と連携し、「後期高齢者の保健事業」「介護の地域支援事業」「国民健康保険の保健事業」に一体的に取り組む。その際、データを活用するとともに、保健師や管理栄養士など医療専門職が事業のコーディネートを行うことが重要となる。こうした市町村の取り組みを、さまざまな面で国や都道府県が支援していく必要がある―。
11月22日に開催された「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施に関する有識者会議」(以下、有識者会議)で、こういった方針が固められました。近く、社会保障審議会の医療保険部会および介護保険部会に報告され、厚生労働省は、そこでの了承を待って「制度改正」準備に入ります(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
市町村に医療専門職を配置し、保健事業のコーディネート役を期待
2025年には、いわゆる団塊の世代がすべて後期高齢者となるため、今後、医療・介護ニーズが急速に増加していきます。その後、2040年にかけて高齢者人口の増加は続くものの、伸び率は鈍化し、併せて生産年齢人口が急激に減少していきます。このように公的医療保険制度の存立基盤が極めて脆くなる中では、「医療費の伸びをいかに、我々国民で負担できる水準に抑えるか」(医療費適正化)が重要となり、加藤勝信厚生労働大臣は「健康寿命の延伸」に力を入れていく考えを強調しています。
この点、健康保険(健保組合や協会けんぽ)・国民健康保険では「生活習慣病対策」として、特定健診(いわゆるメタボ健診)・特定保健指導を40歳以上の加入者を対象に実施。また75歳以上の後期高齢者が加入する後期高齢者医療制度では「フレイル対策」(虚弱対策)を推進。一方、介護保険制度では、保険者である市町村が「介護予防」に取り組むこととされています。
もちろん、それぞれに効果は上がっていますが、実施主体・制度が異なることなどから、▼フレイル対策を実施する後期高齢者医療広域連合(いわば後期高齢者医療制度の保険者)は限定的(国庫補助が行われるが、努力義務である)▼後期高齢者医療広域連合では、保健師や管理栄養士などの専門職配置には限界がある(保健師配置は44.7%だが、看護師配置は6.4%、管理栄養士配置は2.1%(1広域連合のみ)にとどまる)▼介護予防への取り組みが各市町村で進んでいるが、引きこもりがちな高齢者・無関心な高齢者も多く、参加率は低い(2016年度には4.2%、ただし年々上昇している)—といった課題もあります。
そこで有識者会議では、「高齢者の保健事業と介護予防を一体的に実施する」仕組みについて法制度面・実務面の検討を行い、今般、「後期高齢者の保健事業について、広域連合と市町村の連携内容を明示し、市町村において、介護保険の地域支援事業や国民健康保険の保健事業と一体的に実施する」考えをまとめるに至りました。
現在でも、高齢者の医療の確保に関する法律(高確法)第125条第3項には「後期高齢者医療広域連合は、保健事業を行うに当たり、地域支援事業を行う市町村・保険者との連携を図る」旨が規定されていますが、より強力な「一体的に実施する」旨の規定を置くことになりそうです。
制度の大枠は、▼後期高齢者広域連合では、「広域計画」(後期高齢者医療制度の運営に関する10か年計画)に「市町村との連携」内容を記載し、市町村では、その内容に沿った保健事業の実施計画を定める▼市町村が、この実施計画に沿って「後期高齢者の保健事業」「介護の地域支援事業」「国民健康保険の保健事業」に一体的に取り組む▼市町村の取り組みを、さまざまな面で後期高齢者広域連合、都道府県、国、地域医師会等、国民健康保険団体連合会、国民健康保険中央会が重層的に支援する―という形になりそうです。
市町村が行う一体的な取り組みについては、例えば次のようなものが考えられますが、地域の実情(医療資源等の状況や、民間の取り組みなど)にあった「柔軟」な内容での実施が可能な仕組みとなります。
▼医療専門職(保健師や管理栄養士など)を配置し、保健事業全体のコーディネート、データ分析、通いの場への積極的関与などを行う
▼KDB(国保データベース)に蓄積された医療・介護データを解析し、「高齢者一人ひとりの医療・介護等の情報を一括把握」や「地域の健康課題を整理・分析」などを行う
▼多様な課題を抱える高齢者や、閉じこもりがちで健康状態の不明な高齢者を把握し、アウトリーチ支援等を通じて、必要な医療サービスに接続する
有識者会議では、こうした取り組みを可能とするための環境整備として、例えば「データの利活用を可能とするための法令の整備」などを提言しています。高齢者個々人の健康や疾病の状況を把握するには「医療・介護レセプト」の活用が有用です。しかし、これらは個人情報であり、本人の同意なしに広範に活用することはできません。そこで、法令で、例えば「一体的な保健事業の実施に医療・介護レセプトを活用できる」旨などを規定することで、円滑な情報把握・連携に向けた環境が整うと期待されるのです。
また市町村に医療専門職を配置するためには、「財源」が必要となりますが、有識者会議では「後期高齢者医療制度の保険料財源を基本とする」ことを確認した上で、▼特別調整交付金(災害などの特別な事情を考慮した交付金)▼保険者インセンティブ措置(保険者努力支援制度、特定健診の実施率向上等に取り組む国民健康保険を評価する)—などを活用することを提言しています。この点については、さらに詳細に「安定財源の確保」を検討することが必要となるでしょう。
もっとも、小規模な町村等では「自前で医療専門職を配置する」ことは難しいかもしれません。有識者会議では、こうしたケースにおいては、地域の医師会や歯科医師会、薬剤師会、看護協会などと連携することで、専門的な知見を活かした保健事業を展開することなどを提案しています。
介護予防における「通いの場」に、フレイルチェックなど保健医療視点も加味
また、こうした保健事業に地域住民が参画する場としては、介護予防事業が展開される「通いの場」が注目されます。現在、「通いの場」では、介護予防のために例えば「体操教室」などが展開されていますが、ここで健康チェックなどを積極的に行って「フレイル予備群」などを把握し、高齢者一人ひとりの状態(低栄養や筋力低下など)に応じた保健指導や生活機能向上支援、さらには必要な医療・介護サービスの受給勧奨などを行うことが期待されるのです。
もっとも「通いの場には、健康に関心の深い高齢者は積極的に参加するが、本来のターゲットである『健康増進等をあきらめてしまった高齢者』は参加しない」という課題があることも指摘されています。この点について、有識者会議では、▼気軽に参加できる機会を確保するために、駅前商店街やショッピングセンター、コンビニエンスストア等の日常生活や買い物拠点で保健事業を立ち上げる▼「フレイル状態は可逆性があり、取り組み次第で、元気な状態に戻ることも十分に可能」である旨をPRする▼スポーツジムや高齢者向けスポーツの機会に加え、様々な地域の集いの場など、多様な地域資源が存在している実態を踏まえた対応を図る―など、さまざまな角度での提案を行っています。例えば、昼間のカラオケスナックなどは、高齢者の「集いの場」となっているケースが少なくありません。もちろん、カラオケスナックで保健事業そのものを展開することは難しいかもしれませんが、保健事業をPRできる絶好の機会となることは間違いないでしょう。さまざまな取り組みにより「無関心層」も巻き込んだ保健事業の展開が期待されるのです。
なお、こうした市町村の取り組みについては、一部を「民間等に委託」することも可能です。例えばPRや参加勧奨などでは、市町村よりも民間の方が得意であると考えられます。ただし城守国斗構成員(日本医師会常任理事)らは「丸投げなどが生じないようにチェック・監視の体制にもついても定めておく必要があるのではないか」「通いの場において、怪しげな商売(例えば特定の健康食品販売等)などが行われないよう留意する必要がある」と提案しました。
「通いの場」については、介護予防に向けて、これまで「数の整備」を主眼として拡大が進められてきていますが、「保健事業」を一体的に行う場となれば、一定程度の規律・基準が設けられることになるでしょう。厚労省老健局総務課の黒田秀郎課長も「一定程度の透明性・公平性が求められることになる」と見通しています。その際、地域の医師会などの協力が得られれば、必然的に「特定の健康食品や健康器具・寝具などの販売」などが行えない仕組みとなるため、ここでも市町村と医療関係団体等との連携が重要になってきそうです。
こうした内容は、近く、社会保障審議会の医療保険部会・介護保険部会に報告されます。そこでの了承を経て、「高齢者医療確保法」「介護保険法」なども視野に入れた具体的な制度設計が厚労省で行われます。
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