健康寿命延伸に向け、「高齢者の保健事業」と「介護予防」を一体的に実施・推進―社保審・医療保険部会(1)
2018.7.19.(木)
公的医療保険制度の持続可能性を高めるためには、保険制度の見直しなどにとどまらず、医療費の適正化が重要となり、「健康寿命の延伸」にこれまで以上に取り組んでいく必要がある。そこで、現在、別個に実施されている「高齢者の保健事業」と「介護予防」を一体的に実施することで、より効果的な健康づくり・介護予防につなげることが期待できる。有識者で一体的実施に向けた制度的・技術的課題を議論し、年内に意見を取りまとめる―。
7月19日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で、こういった方針が了承されました(関連記事はこちら)。
保健事業・介護予防の一体的実施に向け、制度的・技術的論点を有識者会議で整理
2025年には、いわゆる団塊の世代がすべて後期高齢者となるため、今後、医療・介護ニーズが急速に増加していきます。その後、2040年にかけて高齢者人口の増加は続くものの、伸び率は鈍化し、併せて生産年齢人口が急激に減少していくため、公的医療保険を初めとする社会保障の存立基盤が極めて脆くなっていきます。
そうした中では、「負担の公平性をどう担保していくか」「高齢者医療制度をどう支えていくか」「診療報酬の仕組みや水準をどう考えるか」という保険制度面の議論はもとより、「医療費の伸びをいかに、我々国民で負担できる水準に抑えるか」(医療費適正化)というテーマが重要になってきます(関連記事はこちらとこちら)。
この医療費適正化の一環として「健康寿命の延伸」が極めて重要なテーマとなります。厚労省の研究では、「健康寿命が長い都道府県では、後期高齢者の1人当たり医療費が低い」という関係のあることも分かっています。そこで加藤勝信厚生労働大臣は「健康寿命の延伸」に向け、(1)次世代の健やかな生活習慣形成(2)疾病予防・重症化予防(3)介護・フレイル予防―の3つの柱を打ち立てました。
もちろん、3つの柱については、現在もさまざまな施策が進められています。例えば、健康保険(健保組合や協会けんぽ)・国民健康保険では「生活習慣病対策」として、特定健診(いわゆるメタボ健診)・特定保健指導を40歳以上の加入者を対象に実施。また75歳以上の後期高齢者が加入する後期高齢者医療制度では「フレイル対策」(虚弱対策)を推進。一方、介護保険制度では「介護予防」が組み込まれています。
これらはそれぞれに効果が上がっていますが、実施主体が別個であることも手伝い、次のような課題も指摘されています。
▽フレイル対策を実施する後期高齢者医療広域連合(いわば後期高齢者医療制度の保険者)は限定的である(国庫補助が行われるが、努力義務である)
▽後期高齢者医療広域連合は、いわば「市町村の集合体」であり、保健師や管理栄養士などの専門職配置には限界がある(保健師配置は44.7%だが、看護師配置は6.4%、管理栄養士配置は2.1%(1広域連合のみ)にとどまる)
▽介護予防に取り組み各市町村で進んでいるが、引きこもりがちな高齢者・無関心な高齢者も多く、参加率は低い(2016年度には4.2%、ただし年々上昇している)
厚労省は、こうした課題を解決する方策の一つとして「高齢者の保健事業と介護予防を一体的に実施する」仕組みを構築してはどうかと提案。例えば、▼高齢者の「通いの場」を拠点として、フレイル対策を含めた介護予防と疾病予防・重症化予防を一体的に推進する▼市町村が「通いの場」の立ち上げや運営を支援するなどして、拠点を拡大する▼市町村と地域医師会等が連携し、必要な受診勧奨や保健指導に関する情報の共有などを行う―といった構想が示されています(関連記事はこちら)。
また既に、独自に「高齢者の保健事業」と「介護予防」との連携を進めている自治体もあります。例えば静岡県の川根本町や森町では介護予防教室と健康相談を一体的に実施。同じく袋井市では、住民主体の「通いの場」に、保健師等が出向き健康教育や健康相談を実施しています。「ワンストップ」で複数のサービスを受けられることは、高齢者を初めとする地域住民にも歓迎されていることでしょう。
もっとも、こうした構想を実現するにあたっては、さまざまな制度的・技術的な課題に直面するケースもありそうです(財源、人員なども含めて)。厚労省は、有識者会議を設置し、制度的・技術的な論点を整理することを提案。近く、人選を行い、有識者会議の初会合を実施。1か月に1回程度のペースで議論を進め、年内に意見とりまとめとなる予定です。
KDBを活用したターゲットの絞り込み、若年世代からの健康づくりなど求める声も
こうした方針について医療保険部会では、多数の委員から「大賛成」との賞賛の声が上がりました。もっとも、「高齢者だけでなく、現役世代からの健康づくり教育なども重視すべき」などといった注文も付いています。
安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)や望月篤委員(日本経済団体連合会社会保障委員会医療・介護改革部会長)、横尾俊彦委員(全国後期高齢者医療広域連合協議会会長、佐賀県多久市長)らは「被用者保険の実施している保健事業」との連続性も考慮すべきと提案。
また原勝則委員(国民健康保険中央会理事長)は、「KDB(国保データベース、国民健康保険団体連合会の保有する健診・医療・介護データを格納)の活用」を提案。健康づくり・介護予防を効果的に実施するためには、一定程度ターゲットを絞り重点的に実施することが有用で、その際に、KDBのデータが極めて有用と考えられます。原委員は、これまでにKDBを活用し「要介護者では、▼心臓疾患▼筋骨格系疾患▼高血圧症―などに罹患しているケースが多く、とくに75歳以上の後期高齢者で顕著である。ここから、心臓疾患・高血圧症対策として早期からの生活習慣病予防の推進、筋骨格系疾患対策としてフレイル対策を充実すべき、といった方向が見えてくる」と一例を紹介しています。
なお、関連して松原謙二委員(日本医師会副会長)は、「特定健診等の実施主体を市町村に変更することで、家族(被扶養者)や高齢者を含めた地域の居住者全体に対応できる」と、特定健診等の制度見直しも検討すべきと提案しています。
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