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診療報酬改定セミナー2024 看護モニタリング

2019-21年度、社会保障費は「高齢化による増加」のみ認める、公立病院等の再編進めよ―経済財政諮問会議

2018.6.6.(水)

2019-21年度を経済再生・財政健全化に向けた「基盤強化期間」と位置づけ、この間、「社会保障関係費」の増加は高齢化による増加分に収める。ただし、年によって高齢化の状況が異なるため、柔軟な対応を図ることとする。社会保障改革に関しては「健康寿命の延伸」「地域医療構想の実現に向けた公立・公的病院の再編・統合の推進」「保険給付の在り方の見直し」などを検討してくこととする―。

 経済財政諮問会議が6月5日に開催され、こういった内容を盛り込んだ骨太の方針2018(経済財政運営と改革の基本方針 2018、仮称)の「原案」が示されました(内閣府のサイトはこちら)。

2020・21年度は「高齢者増」が少なく、厳しい診療報酬・介護報酬となる可能性も

 我が国の経済を再生し、同時に財政を健全化するための指針となる「経済財政運営と改革の基本方針」(いわゆる骨太の方針)2018年版の議論が大詰めを迎えつつあります。財政健全化に向けて、社会保障費の膨張を抑える方策を打提示するとともに、経済再生において重要となる、高度な医療技術の開発を下支えする方策が示されることになります(関連記事はこちらこちらこちら)。

6月5日には骨太の方針2018の「原案」が示され、今後、最終調整論議が行われます。

原案では、まず、財政健全化の礎となる「基礎的財政収支(PB、「歳入から国債等の借金収入を差し引いた金額」と「歳出から国債費等を差し引いた金額」とのバランス)の黒字化」が遅れている(当初目標では、2020年度までに黒字化)点を指摘。その上で、「2025年度に国・地方を合わせたPB黒字化を目指す」との新たな目標を明示し、▼「いわゆる団塊の世代が75歳に入り始める2022年度」の前まで2019-2021年度を、社会保障改革を軸とする「基盤強化期間(仮称)」と位置付ける▼基盤強化期間内の予算については、財政健全化目標と毎年度の予算編成を結び付けるための仕組みを示し、社会保障関係費等の歳出について、これに沿った予ものとする―との考えを示しました。

2016-18年度の「集中改革期間」において、社会保障関係費の伸びについては「高齢化による増加分に相当する水準、具体的には3年間で1兆5000億円」との目安が定められましたが、2019-21年度の「基盤強化期間」では、高齢化による増加分が年によって異なる(第二次世界大戦直後で、出生者が少ない)ことなどを考慮し、「柔軟に対応する」こととされました。具体的には、▼「社会保障関係費の実質的な増加を高齢化による増加分に相当する伸びに収める」方針を2021年度まで継続する▼消費増税とあわせ行う増(社会保障の充実、「新しい経済政策パッケージ」で示された介護人材の確保・社会保障4経費に係る公経済負担など)については、別途考慮する―としています。2020・21年度は高齢化増分が少ないため、社会保障関係費の増加分はかなり低い水準に抑えられるとみられ、2020年度の診療報酬改定率、2021年度の介護報酬改定率は厳しくなる可能性があります。

また2022年度以降は、団塊の世代が後期高齢者となりはじめ、医療・介護ニーズが高まり、社会保障関係費が急増するため、「高齢化要因」「人口減少要因」「経済・物価動向」「社会保障を取り巻く状況」等を総合的に勘案して、社愛保障関係費の増加分を検討していくことになります。

なお、新目標である「2025年度にPB黒字化」に向け、中間年の2021年度において▼GDPに対するPB赤字の比率:1.5%程度▼GDPに対する債務残高の比率:3%以下—という目標値(中間目標)が設定されることになります。

フレイル対策など強化して健康寿命を延ばし、平均寿命との差を縮小する

次に、具体的な社会保障改革案を眺めてみましょう。財政健全化のために社会保障関係費の伸びを、国民が負担できる水準に抑える必要がありますが、高齢化が進行する中では、必然的に社会保障ニーズが増加するため、単なる抑制では国民生活が極めて不安定になります。また少子化が進行する中では、費用面はもちろん、サービス面についても「支え手」が減少していくため、「効率化」や「支え手の拡大」などを検討・実行していくことが求められます。

このため、健康づくりを進め、「医療・介護費の伸び」そのものを抑える方策の重要性が強調されます。具体策として、▼健康寿命を延伸し、平均寿命との差の縮小を目指す▼「糖尿病等の生活習慣病」「認知症」の予防に重点的に取り組む▼生活習慣病の重症化予防を、都道府県・国民健康保険団体連合会・医師会等が連携して進める▼日本健康会議について、都道府県レベルでの開催促進など、多様な主体の連携により無関心層をも含めた予防・健康づくりを社会全体で推進する▼医療・介護データの整備・分析を進め、保険者機能を強化する▼科学的根拠に基づく施策を重点化しつつ、予防・健康づくりに頑張った者が報われる制度を整備する▼認知症研究開発を重点的に推進する▼認知症予防に関する先進・優良事例を収集・横展開する▼認知症疾患医療センターの司令塔機能を引き続き強化していくため、相談機能の確立等、地域包括支援センター等との連携を進めることを通じ、地域包括ケアシステムの整備を推進する▼高齢者の通いの場を中心とした介護予防(フレイル対策含む)や生活習慣病等の疾病予防・重症化予防、就労・社会参加支援を都道府県と市町村が一体的に実施する仕組みを検討する▼インセンティブの活用により「健康寿命の地域間格差」解消を目指す▼生涯を通じた歯科健診の充実、入院患者や要介護者をはじめとする国民に対する口腔機能管理の推進、地域における医科歯科連携の構築など歯科保健医療の充実に取り組む―ことなどを掲げました。

あわせて、少子化が進行する中では「元気な高齢者が社会保障の支え手となる」ことなども重要な視点の1つです。具体的には、▼働き方の多様化を踏まえ、勤労者が広く被用者保険でカバーされる「勤労者皆保険制度」を検討する▼年金受給開始年齢の柔軟化など、高齢者の勤労に中立的な公的年金制度を整備する▼自治体への財政的インセンティブを活用し、「元気で働く意欲のある高齢者」を介護・保育等の専門職の周辺業務において育成・雇用する取り組みを全国に展開する―考えを示しました。

さらに、人生の最終段階などにおいて、「自分自身の望む医療・介護を受ける(また望まない医療・介護を受けない)」環境を整備するために、「人生の節目で『緊急治療の在り方』等などを本人・家族・医療者等が十分話し合うプロセス」(ACP、Advanced Care Planning)の全国展開、「本人の意思を関係者が随時確認できる仕組み」の構築、「在宅看取りの先進・優良事例」の横展開なども推進されます。これらは「社会保障関係費の抑制」にも間接的に関係しますが、「自己決定」と、それを社会が支える環境に重点を置いたものとみるべきでしょう。

個別病院名・ベッド数示した機能分化方針を2018年度に策定、公立病院の再編等も促進

 このような「健康づくり」の重要性は議論を待たないところですが、効果が現れるには時間もかかり、また高齢化の進行で医療・介護ニーズは増加していくため、「効率的・効果的な医療・介護提供体制」を構築していくことが不可欠です。骨太の方針2018では、次のような施策が提言される見込みです。病院・病床の機能分化・連携の強化を目指す「地域医療構想」の実現に向けて、診療報酬も含めた詳細な提言が改めてなされている点が注目され、公立・公的病院を中心とした「再編・統合」が加速化することになりそうです(関連記事はこちらこちらこちら)。

▽地域医療構想の実現に向け、「個別の病院名」「転換する病床数」等の具体的対応方針について、2018年度中の策定を推進する

▽公立・公的医療機関については、地域の医療需要等を踏まえつつ、「民間医療機関で担うことができない高度急性期・急性期医療や不採算部門、過疎地等の医療提供」等に重点化するよう医療機能を見直し、これを達成するための「再編・統合」論議を進める

▽自主的な機能分化・連携が進まない場合への「都道府県知事の権限」について検討を進める

▽病床機能の転換や介護医療院への移行などが着実に進むよう、「地域医療介護総合確保基金」「入院基本料の見直し」による病床再編の効果などを検証し、必要な対応を検討する

▽病床のダウンサイジング支援の追加的方策を検討する

 
このほか、医療・介護提供体制の再構築に向けて、▼高額医療機器の共同利用を一層推進し、効率的配置・稼働率向上を促進する▼医学部入学定員は、2020・21年度は、暫定的に2019年度の定員を超えない範囲とし、2022年度以降は、定期的に医師需給推計を行った上で、医師偏在の状況等に配慮しつつ、「減員」に向けた検討を行う▼「1人当たり医療費の地域差半減」「1人当たり介護費の地域差縮減」に向けて、進捗の遅れている地域の要因を分析し、保険者機能の一層の強化を含め、更なる対応を検討する▼「地域別の診療報酬」について、都道府県の判断に資する具体的な活用策の在り方を検討する▼レセプト情報を活用し、本人同意の下、医師や薬剤師が投薬歴等を閲覧できる仕組みの構築や、診療報酬での評価等により、多剤投与の適正化を推進する▼介護保険の財政的インセンティブの評価指標(自立支援、重度化防止への取り組み状況)による評価結果を公表し、取組状況の「見える化」や改善を進める▼新たな「地域別の将来人口推計」の下で、大都市や地方圏での医療・介護提供に係る広域化等の地域間連携を促進する―方針が打ち出される見込みです。

アウトカム評価の推進、医療・介護・健康データベースの本格運用など進めよ

 また少子化が進行し、医療・介護等のサービス提供者確保が困難となる中では、医療・介護従事者1人当たりの生産性を向上させることが不可欠となります。骨太の方針2018では、ICT等の活用や、必要性の低い業務・手続きの削減、タスク・シフティングなどさまざまな角度からの提言を行うことになります。

 目立つ具体策としては、▼診療報酬・介護報酬の適正化・効率化を推進しつつ、安定的に質の高いサービスが提供されるよう、ADL改善など「アウトカム」に基づく支払いの導入等を進める▼被保険者番号の個人単位化とオンライン資格確認を導入する▼医療・介護・健康データを連結し、分析可能とする「保健医療データプラットフォーム」について、2020年度の本格運用開始を目指す▼クリニカル・イノベーション・ネットワークとPMDA(医薬品医療機器総合機構)の医療情報データベース(MID-NET)を連携させ、治験・臨床研究や医薬品の開発、安全対策等に活用する▼社会保険診療報酬支払基金業務効率化・高度化計画を着実に進める▼医療・介護・福祉サービスにおけるAI(人工知能)の実装、ケア内容等のデータを収集・分析するデータベースの構築、ロボット等の活用を図る―ことなどがあげられます。

このうち「アウトカム評価」については、2016年度の診療報酬改定での【回復期リハビリテーション病棟入院料】におけるリハビリ実績指数による評価の導入(関連記事はこちら)、2018年度の介護報酬改定での通所介護の【ADL維持等加算】導入されるなど(関連記事はこちらこちらこちら)、積極的な検討が進められています。ただし、いわゆるクリームスキミングの防止など、検討・配慮しなければならない要素は多岐にわたるため、中央社会保険医療協議会や社会保障審議会・介護給付費分科会での総合的に議論していく必要があります。

 
 なお、介護離職ゼロに向けた介護人材確保のため「介護職員の更なる処遇改善を進める」考えも明示される見込みです。待機児童解消などを含めて「2兆円規模」の政策を実行し、我が国の社会保障制度を、お年寄りも若者も安心できる「全世代型」の制度へと大きく転換していく構想も打ち出されます。

必要な保険給付をできるだけ行いながら、自助・共助・公助の範囲見直しも検討

前述のとおり、健康寿命が延伸しても、高齢化の進行で医療・介護費は増加していきます。これを、いかに「公平に」負担するかが、医療保険制度・介護保険制度改革の根本的な視点となります。

骨太の方針2018では「必要な保険給付をできるだけ効率的に提供しながら、▼自助▼共助▼公助—の範囲も見直していく必要がある」と指摘。将来的には、「保険給付範囲の大胆な見直し」(極論では「軽度傷病」は保険給付から外すなど)、「混合診療の在り方」などが正面から議論される可能性も否定できません。

また保険制度改革の具体案としては、次のような項目が提示される見込みです。

▽高齢者医療制度や介護制度において、所得に加え「資産」の保有状況を適切に評価し、「能力に応じた負担」を検討する。団塊の世代が後期高齢者入りするまで(2021年度まで)に、「後期高齢者の窓口負担の在り方」について検討する

▽介護のケアプラン作成、多床室室料、介護の軽度者への生活援助サービスについて、給付の在り方を検討する

▽医療・介護における「現役並み所得」の判断基準を、現役との均衡の観点から見直しを検討する

▽新薬・新医療技術の保険収載等に際して、「費用対効果」「財政影響」などの経済性評価、保険外併用療養の活用などを検討する

▽薬剤自己負担の引上げについて、市販品と医療用医薬品との価格バランス、医薬品適正使用の観点を踏まえつつ、対象範囲を含め幅広い観点から検討し、必要な措置を講ずる

▽かかりつけ医・かかりつけ歯科医・かかりつけ薬剤師の普及を進めるとともに、「外来受診時等の定額負担」導入を検討する

▽保険給付率(保険料・公費負担)と患者負担率のバランス等を定期的に見える化しつつ、診療報酬とともに保険料・公費負担、患者負担について総合的な対応を検討する

最後の項目からは、財政制度等審議会が提言した「医療給付費や経済・人口の動向に応じて、給付率を調整する仕組み」が見え隠れしています(関連記事はこちら)。大雑把に言えば「医療費が予想を超えて増大した場合などには、保険給付率(7-9割)を引き下げ、患者の自己負担割合(1-3割)を引き上げる」という仕組みです。原案では、真正面からの記載はなされていませんが、将来も含めて注目すべきテーマの1つと言えます。

AIを活用したケアプラン作成、2019・20年度の全面薬価改定などにも言及

このほか、社会保障改革に向けて、骨太の方針2018には、次のような提言がなされる見通しです。

▼科学的介護を推進し、栄養改善を含め自立支援・重度化防止に資するAIも活用した科学的ケアプランの実用化に向けた取組を推進する▼認知症、がんゲノム医療等について、優先順位を設け、それに基づく予算の重点配分を行う▼「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」に基づき、国民負担の軽減と医療の質の向上に取り組むとともに、革新的新薬を評価しつつ、長期収載品の薬価をより引き下げる▼バイオ医薬品、バイオシミラーの研究開発・普及を推進するなど、医薬品産業の国際競争力を強化する▼費用対効果評価については2018年度中に本格実施に向けた結論を得る▼2019・20年度は全品目の薬価改定を行う▼2020年度の薬価改定に向け、新薬創出等加算対象品目を比較薬とする場合の薬価算定の見直し、効能追加等による革新性・有用性の評価、長期収載品の段階的な価格引下げまでの期間の在り方等について、所要の措置を検討する▼患者本位の医薬分業を実現するための調剤報酬の在り方を検討する―。
 
 
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