オンライン服薬指導の解禁、支払基金改革、患者申出療養の活性化を断行せよ―規制改革推進会議
2018.6.4.(月)
一気通貫の在宅医療の実現に向けて「処方箋の完全電子化」「オンラインによる服薬指導と対面服薬指導の組み合わせ」を認めるほか、社会保険診療報酬支払基金改革の断行、患者申出療養の活性化を順次図っていく必要がある―。
政府の規制改革推進会議は6月4日に、こういった内容を盛り込んだ「規制改革推進に関する第3次答申—来るべき新時代へ―」をとりまとめました(内閣府のサイトはこちら)。
目次
オンライン服薬指導、処方箋電子化により、在宅での「受診から薬の授受」を可能とせよ
規制改革推進会議(以下、推進会議)は、内閣総理大臣の諮問機関として2016年9月に発足(従前は規制改革会議、2017年7月に改組)。各省庁が設けている制度・規制について、地方自治体や民間からの視点も踏まえて、見直しが行えないかを検討し、提言しています。今般の第3次答申では、既存の制度・規制には「必要性」があることを認めたうえで、▼技術革新のスピード▼多様性—を踏まえた見直しが必要と強調しています。
医療・介護に関連する事項としては、(1)オンライン医療の推進(2)医療系ベンチャーの支援(3)医薬品医療機器総合機構(PMDA)による審査の効率化(4)社会保険診療報酬支払基金(支払基金)の見直し(5)患者申出療養の普及―などが目立ちます。高齢化の進展(受給者の増加)と少子化の進行(支え手の減少)を踏まえ、推進会議ではIoT・AIを全面的に活用した▼医療資源の効率的な活用▼生産性の向上▼国民の健康寿命の延伸—が不可欠であり、そのための制度構造改革を訴えています。
まず(1)のオンライン医療については、厚労省が昨年(2017年)7月に通知「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」を発出し(関連記事はこちら)、「一定の場合には初診でも遠隔診療を行える」「離島等でなくとも遠隔診療を行える」旨などを明らかにしました。その後、2018年度の診療報酬改定では、電話再診とは異なる【オンライン診療料】等を明確にしたほか(関連記事はこちらとこちら)、自由診療も含めたオンライン診療全般のベースとなるガイドライン「オンライン診療の適切な実施に関する指針」がまとめられています(関連記事はこちら)。
このように、厚労省はオンライン医療に関する枠組みを着実に構築してきていますが、推進会議では「国民がオンライン診療の利便性は享受するために、受診から服薬指導、薬の授受までの『一気通貫の在宅医療』を実現する必要がある」と強調。具体的には、次のような制度改革・規制改革を提言しています(関連記事はこちらとこちら)。
▽オンライン診療に用いられるIoT・AIは日々進歩しており、ルールを技術革新に合わせて更新しなければ普及を妨げてしまう。またオンライン診療のガイドラインについては、実務上の細かな質疑への対応が難しい。そこで、▼技術発展やエビデンス集積状況に応じた、ガイドラインの最低「1年に1回」以上の更新▼医療関係者の実務上の細かな疑問に対応できるQ&A等の作成―を2018年度中に検討し、措置する
▽患者が職場にいながら診療を受け処方薬を受け取ることができれば、生活習慣病の重症化予防に効果的との指摘がある。「患者がオンライン診療を受診した場所(職場等)で、薬剤師が服薬指導を実施できる」よう、薬剤師法施行規則の見直しを2018年度中に検討し、2019年度の上期に実施可能とする
▽2018年度診療報酬で導入された【オンライン診療料】などについて、データを収集・解析し、エビデンスを積み上げ、成果を適切に評価することが、今後の高付加価値型診療の発展につながる。そこで、オンライン診療の一層の充実を図るために、関係学会や事業者等とも協力し、オンライン診療の安全性・有効性等に係るデータや事例の収集、実態の把握を早急に(2018年度中に)進める
▽現在の【オンライン診療料】などは、「初診から6か月は、毎月、同一医師の対面診療を受ける」ことなどが要件になっている。今後、オンライン診療の報酬上の評価を拡充し、また、「見守り」「モニタリング」などのオンライン診療の特性に合わせた包括評価や、医療従事者の働き方改革による負担軽減を進めていくために、ガイドラインの内容を踏まえ、新設された【オンライン診療料】等の普及状況を調査・検証しつつ、2020年度以降の診療報酬改定に向けて、2019年度に検討を進め、結論を得る
▽移動困難な患者に対し、薬剤師が患者宅等を訪問して服薬指導・薬剤管理等を行う「訪問薬剤管理指導制度」があるが、実働する訪問薬剤師は不足しており、当該制度の推進だけで患者ニーズに応えることは難しい。オンライン診療や訪問診療の対象患者のような、必要に迫られた地域や患者が、地域包括ケアシステムの中でかかりつけ薬剤師・薬局による医薬品の▼品質▼有効性▼安全性—についての利益を享受できるよう、2018年度中に「薬剤師による対面服薬指導とオンライン服薬指導を柔軟に組み合わせて行う」ことについて検討し、結論を得て、2019年度の上期に実施する
▽厚労省が2016年3月に策定した「電子処方せんの運用ガイドライン」では、「電子処方箋引換証・処方箋確認番号を、患者が薬局に『持参』する」モデルが定められている。しかし、電子処方箋の交付から受取までを完全に電子化し、紙のやり取りをなくさなければ電子処方箋のメリットはなく、「一気通貫の在宅医療」は実現できない。オンラインを活用した「一気通貫の在宅医療」の実現に向けて、2018年度中に当該ガイドラインを改め、電子処方箋のスキームを完全に電子化するための具体的な工程表を作成し、公表する。
医薬品、とりわけ医療用医薬品では「重篤な副作用」を伴うものも少なくないため、薬剤師による対面での服薬指導が重要となっています。推進会議では「スマートフォンなどでも、こうした指導は可能」と考えており、今後、どういった議論・調整が行われるのか注目が集まります。
支払基金、依然として非効率であり改革を順次断行せよ
また(4)の支払基金改革は、すでに推進会議からの「提言」を受け、厚労省の「データヘルス時代の質の高い医療の実現に向けた有識者検討会」において、具体的な改革案をまとめています(関連記事はこちら)。しかし推進会議が「支部の統合」などを強く求めていたのに対し、検討会では「47都道府県への支部設置」を一定程度容認するなどしており、推進会議は「非効率な業務運営が継続し、審査における判断基準の明確化や統一性の確保が十分でない」と改めて強調(関連記事はこちら)。第3次答申でも、次のような改革を行うよう要請しています。
▽新コンピュータシステムの開発プロセスにおける内閣情報通信政策監との連携を確保する(関連記事はこちら)
●例えば、以下のような事項について、2018年に基本設計を行い、2019年度に新システムを開発し、2020年秋までに総合試験を行う
・支払基金の担う▼レセプト受付▼レセプトの適切な審査プロセスへの振り分け▼審査▼支払—などの機能単位にモジュール化されていること。
・各モジュールが、標準的な接続方式(インターフェース)で統合され、必要に応じ、モジュール単位での改善等を機動的に行え、保険者自身による利用や、外部事業者への委託等が可能な仕組みとなっている
・「レセプトへの入力ミス」など、専門的審査を待たずに是正し得る箇所について、「医療機関自ら対処し得る」ようコンピュータチェック機能を提供する等の工夫
・審査機能モジュールについて、極力、多くのレセプトを効率的・集中的に処理するため、地域ごとに設置されている現在の機能を前提にするのではなく、地域差を最小化し、できるだけ同一のコンピュータシステムで処理できる範囲を拡大する
●「コンピュータチェックに適したレセプト形式への見直し」「システム刷新」を2020年度までに実施する
▽新コンピュータシステムに係る投資対効果について、2018年中に「試算」を国民に分かりやすく開示する
▽2018年度に実施するモデル(実証)事業において、支部の最大限の集約化・統合化を前提に、集約化の在り方(▼集約可能な機能の範囲▼集約化の方法▼集約化に伴う業務の在り方—など)を早急に検証し、結論を得た上で公表する。あわせて、その検証結果を踏まえた法案を2019年の国会に提出する
▽審査の一元化に向けた体制を整備する
●各支部で独自に設定しているコンピュータチェックルールについて、2018年度上期に「具体的な差異の内容」を把握し、一元化に向けた具体的な工程表を示す
●次の事項について2018年度中に検討し、結論を得る
・「データに基づき、支払基金本部で専門家が議論を行う体制を整備し、エビデンスに基づいて審査内容の整合性・客観性を担保する」仕組み
・審査支払機関の法的な位置づけやガバナンス
・審査委員会の三者構成の役割と必要性
●次の事項について、2018年度から検討を初め、2019年度に中間報告を行い、2020年度までに結論を得る
・支払基金と国保中央会等の「保険者の代行機関」としての最も効率的な在り方
・各都道府県に設置されている審査委員会の役割と必要性
▽2018年度に手数料体系の見直し(各保険者と支払い基金の間で、業務・作業に見合った価格を定める仕組み)を検討し、結論を得て、2019年までに実施する
患者申出療養、患者への周知、医療機関の負担軽減により活性化せよ
また(5)の患者申出療養は、一昨年(2016年)4月からスタートした新たな保険外併用療養制度(保険診療と、未承認の抗がん剤などの保険外診療との併用を認める仕組み)です。「海外で開発された未承認(保険外)の医薬品や医療機器を使用したい」などの患者からの申し出を起点として、安全性・有効性を専門家の会議で確認した上で、保険診療との併用を認めるもので、これまでに「腹膜播種・進行性胃がん患者へ「パクリタキセル腹腔内投与・静脈内投与・S-1内服併用療法」など4種類が認められています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
推進会議では、実施計画などを作成する医療機関側の負担が大きいことなどが「4種類にとどまっている」原因ではないかと分析し、次のような見直しによって制度の活性化を図るべきと提言しています。
▽「患者の気持ちに寄り添う」という制度趣旨に鑑み、患者が新たな治療を希望した場合には、安全性・有効性等が確認される限り原則として制度を迅速に利用できるよう、2018年度から具体的な運用改善策を検討し、結論を得次第、所要の措置を講ずる
▽困難な病気と闘う患者がこれを克服しようとする場合に、選択肢として患者申出療養が適切に認知され、患者が制度を容易に利用できるよう、▼制度の周知方法▼医療機関の負担軽減(Q&Aの策定、書面の簡素化、既に実施された患者申出療養・先進医療の臨床研究計画書の可能な範囲での提供など)—を、2018年度中に検討し、実施する
いずれも「重要なテーマ」ですが、すでに専門家等による慎重な議論(例えば患者申出療養については中央社会保険医療協議会)が行われています。今後、推進会議の提言を踏まえ、どういった議論が展開されるのか、注目する必要があります。
【関連記事】
オンライン服薬指導、実証実験前の段階で「評価基準」は定められない―厚労省
オンライン服薬指導・処方箋完全電子化で「一気通貫の在宅医療」実現せよ―規制改革推進会議
保険診療上の【オンライン診療料】、実施指針よりも厳格に運用―疑義解釈1【2018年度診療報酬改定】(3)
【2018年度診療報酬改定答申・速報6】がん治療と仕事の両立目指し、治療医と産業医の連携を診療報酬で評価
【2018年度診療報酬改定答申・速報5】在総管と施設総管、通院困難患者への医学管理を上乗せ評価
【2018年度診療報酬改定答申・速報4】医療従事者の負担軽減に向け、医師事務作業補助体制加算を50点引き上げ
【2018年度診療報酬改定答申・速報3】かかりつけ機能持つ医療機関、初診時に80点を加算
【2018年度診療報酬改定答申・速報2】入院サポートセンター等による支援、200点の【入院時支援加算】で評価
【2018年度診療報酬改定答申・速報1】7対1と10対1の中間の入院料、1561点と1491点に設定
抗菌剤の適正使用推進、地域包括診療料などの算定促進を目指す—第375回 中医協総会(2)
オンライン診療等の実施指針案を固まる、技術革新等踏まえて毎年改訂―厚労省検討会
オンライン診療、セキュリティ対策を十分行えばスマホ同士でも可能―厚労省検討会
オンライン診療のルール整備へ議論開始―厚労省検討会
2019年10月から、勤続10年以上の介護職員で8万円の賃金アップ―安倍内閣
2018年度診療報酬改定、効果的・効率的な「対面診療と遠隔診療の組み合わせ」を評価—安倍内閣が閣議決定
2018年度診療報酬改定で、オンライン診療を組み合わせた生活習慣病対策などを評価—未来投資会議
遠隔診療、「離島」「在宅酸素療法」などはあくまで例示、場合によっては初診でも可能―厚労省
オンライン診療料、要件緩和や初診での導入など検討せよ―規制改革推進会議ワーキング
阪大病院での患者申出療養すべてで死亡含む重篤事象が発生、適切な患者選択を―患者申出療養評価会議
有効性・安全性の確立していない患者申出療養、必要最低限の患者に実施を—患者申出療養評価会議
心移植不適応患者への植込み型人工心臓DT療法、2例目の患者申出療養に―患者申出療養評価会議
2018年度改定に向けて、入院患者に対する「医師による診察(処置、判断含む)の頻度」などを調査―中医協総会
患者申出療養、座長が審議の場を判断するが、事例が一定程度集積されるまでは本会議で審議―患者申出療養評価会議
患者申出療養評価会議が初会合、厚労省「まずは既存の先進医療や治験の活用を」
患者申出療養の詳細固まる、原則「臨床研究」として実施し、保険収載を目指す―中医協
患者申出療養の提案受けた臨床研究中核病院、「人道的見地からの治験」の有無をまず確認―中医協総会
大病院受診、紹介状なしの定額負担など16年度から-医療保険部会で改革案まとまる
審査支払機関改革やデータヘルス改革の実現に向け、データヘルス改革推進本部の体制強化―塩崎厚労相
レセプト請求前に医療機関でエラーをチェックするシステム、2020年度から導入—厚労省
混合介護のルール明確化、支払基金のレセプト審査一元化・支部の集約化を進めよ—規制改革会議
支払基金の支部を全都道府県に置く必要性は乏しい、集約化・統合化の検討進めよ—規制改革会議
審査支払改革で報告書まとまるが、支払基金の組織体制で禍根残る―質の高い医療実現に向けた有識者検討会
支払基金の都道府県支部、ICT進展する中で存在に疑問の声も―質の高い医療実現に向けた有識者検討会
レセプト審査、ルールを統一して中央本部や地域ブロック単位に集約化していくべきか―質の高い医療実現に向けた有識者検討会
支払基金の組織・体制、ICTやネット環境が発達した現代における合理性を問うべき―質の高い医療実現に向けた有識者検討会
診療報酬の審査基準を公開、医療機関自らレセプト請求前にコンピュータチェックを―質の高い医療実現に向けた有識者検討会
都道府県の支払基金と国保連、審査基準を統一し共同審査を実施すべき―質の高い医療実現に向けた有識者検討会で構成員が提案
レセプト審査基準の地域差など、具体的事例を基にした議論が必要―質の高い医療実現に向けた有識者検討会
支払基金の改革案に批判続出、「審査支払い能力に問題」の声も―質の高い医療実現に向けた有識者検討会
診療報酬審査ルールの全国統一、審査支払機関の在り方などをゼロベースで検討開始―厚労省が検討会設置
診療報酬の審査を抜本見直し、医師主導の全国統一ルールや、民間活用なども視野に―規制改革会議WG
ゲムシタビン塩酸塩の適応外使用を保険上容認-「転移ある精巣がん」などに、支払基金
医療費適正化対策は不十分、レセプト点検の充実や適正な指導・監査を実施せよ―会計検査院
レセプト病名は不適切、禁忌の薬剤投与に留意―近畿厚生局が個別指導事例を公表
16年度診療報酬改定に向け「湿布薬の保険給付上限」などを検討―健康・医療WG
団塊ジュニアが65歳となる35年を見据え、「医療の価値」を高める―厚労省、保健医療2035