心移植不適応患者への植込み型人工心臓DT療法、2例目の患者申出療養に―患者申出療養評価会議
2017.2.7.(火)
心臓移植の要件を満たさない患者に対し、未承認医療機器の「耳介コネクター」を用いた植込み型人工心臓(Jarvik2000植込み型補助人工心臓システム・耳介後部モデル)によるDT(Destination Therapy:長期在宅治療)療法を2例目の患者申出療養として認め、保険診療との併用を可能とする―。
6日に開催された患者申出療養評価会議で、こうした内容が了承されました。厚生労働省は遅くとも3月6日まで(1月23日の技術申請から6週間以内)に本件について告示する考えです。
ただし患者申出療養制度について、「患者の思いに応える」との要請と、「保険収載を目指すために症例を集積する」との要請について、どうバランスをとっていくかが大きなテーマとして浮上しており、今後、評価会議や中央社会保険医療協議会で議論される模様です。
腎機能障害のある患者など心移植不適応患者において、本技術でQOL向上を期待
患者申出療養は、昨年(2016年)4月1日からスタートした新たな保険外併用療養制度(保険診療と、未承認の抗がん剤などの保険外診療との併用を認める仕組み)です。「海外で開発された未承認(保険外)の医薬品や医療機器を使用したい」などといった患者からの申し出を起点として、安全性・有効性を患者申出療養評価会議で確認した上で、保険診療との併用を認めるものです。患者申出として前例のない技術については申請から6週間以内、前例のある技術については申請から2週間以内に適否を判断することになっています。
6日の患者申出療養評価会議では、2例目の技術として「耳介後部コネクターを用いた植込み型補助人工心臓による療法」について審議し、患者申出療養として保険診療と保険外診療との併用を可能とすることが了承されました。この技術は1月23日に申請されており、6週間後の3月6日までに告示される見込みです。
重度の心疾患患者では心臓移植が最終的な治療法となり、移植までのつなぎ期間として植込み型人工心臓を用いたBTT療法(bridge to transplant)が保険適用となっていますが、▼65歳以上▼肝臓・腎臓の(不可逆的)機能障害▼他の疾患による予後が5年以上(悪性腫瘍など)―の患者は対象外であり、こうした患者は体外式の人工心臓によって事実上、ベッドでの安静を余儀なくされています。また長期間の植込み型人工心臓を用いたDT療法については、現在、治験が行われていますが、ここでも腎機能障害などの患者は除外されています。
この点、海外では移植を前提としないDT療法が広く実施されており、今般、腎臓機能障害を持ち、心臓移植やDT治験の対象とならない患者から、未承認の医療機器である「耳介後部コネクターを用いたJarvick2000植込み型補助人工心臓システム」(耳介後部モデル)を用いDT療法について、患者申出療養として保険診療との併用を行いたいとの申請がなされました(大阪大学医学部附属病院にて実施)。
専門家による事前評価では、「有効性については現時点で判断できないが、在宅療養が可能となり社会復帰も期待できる」「感染症リスクが小さいと考えられ安全性も一定程度担保できる」と判断されました。評価者の1人である磯部光章技術専門委員(東京医科歯科大学大学院循環制御内科学教授)は「患者の希望、Jarvick2000の成績、実施医療機関である阪大病院の実績を踏まえると、患者申出療養として認めることが妥当ではないか」とコメントしています。
こうした未承認の医薬品・医療機器を用いた技術については、別に「先進医療B」で研究・症例を蓄積し、保険収載を目指す手法もあります。しかし先進医療では「有効性について既存の技術と比べて優越している」ことが承認にあたって重要となるところ、本件では「予定症例数も少なく、既存技術に比べて優越性を証明することは難しい」ことから患者申出療養として申請されています。
評価会議では、「DT療法について海外では血栓の発生や感染症などの有害事例も報告されていると聞く。患者にはその点も説明してほしい」(天野慎介委員・全国がん患者団体連合会理事長)、「DT療法の保険収載を目指すにあたり費用対効果も研究していく必要がある」(磯部技術専門委員)との指摘が出ましたが、技術そのものに対する異論は出されず、患者申出療養として了承されました。
対象患者は、既存の内科的・外科的治療で改善が認められない重症心不全患者のうち、20歳以上で、心臓移植・DT療法治験から除外された患者となります。この技術を実施するための施設要件として▼500床以上・7対1看護以上▼心臓血管外科を標榜▼心臓血管外科の専門医を1名以上配置▼循環器内科の専門医を1名以上配置―など、実施責任医師の要件として▼腎臓血管外科専門医▼当該技術の経験年数が5年以上―などが設定されています。
患者申出療養は「保険収載」を目指す仕組み、制度への理解が浸透していない可能性も
ところで患者申出療養は、最終的に保険収載を目指すものであることから「実施計画」を定め、そこには目標症例数などを盛り込むことが必要で、今般の技術では「5年間で6症例」を集積することを目指しています。
この点について石川広己委員(日本医師会常任理事)は、「患者申出療養は、治療困難な疾病と闘う患者の思いを起点とする仕組みである。1例ずつ状況を見ていくべきで、当初から目標症例数などを設定するのはおかしいのではないか。医師会の内部でも同様の議論が出ている」と指摘しました。
これに対し厚労省保険局医療課の眞鍋馨企画官は、「患者申出療養は、『患者の思い』に応えるという側面があり、その一方で『保険収載を目指す』ものである」という制度の基本設計について改めて説明し、理解を求めました。また福井次矢座長(聖路加国際病院院長)も同様に、「患者申出療養には、コッパッショネートユース(代替療法がない場合などに、限定的に未承認技術を用いることを可能とする仕組み)的な要素がある一方で、保険収載に資するデータ蓄積も必要となる」ことを丁寧に説明しましたが、石川委員は十分には納得していない様子です。患者申出療養の1例目(腹膜播種陽性または腹腔細胞診陽性の胃がんに対する「パクリタキセル腹腔内投与及び静脈内投与並びにS-1内服併用療法」)に関しても同様の意見が出ており、今後もこのテーマについて議論が行われることになりそうです。
先にも述べましたが、患者申出療養は「困難な疾病に闘う患者の思い」を起点としますが、あくまで当該技術の保険収載を目指す仕組みです。そのために▼対象患者の基準▼実施可能な施設や医師の基準―などを盛り込んだ計画書を作成し、その妥当性を評価会議で審議することになります。当然、計画書には「どの程度の症例を蓄積しようと考えているのか」も盛り込む必要がありますが、制度に対する十分な理解が浸透していない可能性も考えられます(関連記事はこちらとこちらとこちら)。この点について手良向聡委員(京都府立大学生物統計学教室教授)から「症例目標を定めないのであれば、安全性くらいしか評価はできない。例えば期間だけ定め、1例ずつ評価を行い、安全性に問題が出た時点で当該技術の実施をストップするという方法しかない」との指摘も出ていますが、これは患者申出療養の制度設計そのものを見直す必要があり、現時点で具体的な検討テーマとなるかは決まっていません。
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