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中重度者・医療ニーズのある者が入居する有料老人ホームは「登録制」とし、職員配置や研修受講等の基準を設けてはどうか—有料老人ホーム検討会

2025.10.16.(木)

有料老人ホームの入居者は、「居住場所」と「介護サービス提供」の双方をホーム側に依拠しており、非常に弱い立場にある。入居者保護のために「行政の関与強化による一定の規制」を図る必要がある—。

このため、例えば中重度者・医療ニーズのある者が入居する有料老人ホームは「登録制」とし、職員配置や研修受講等の基準を設けてはどうか—。

10月3日に開催された「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」(以下、検討会)で、こうした「とりまとめ」素案が大筋で了承されました。今後、駒村康平座長(慶應義塾大学経済学部教授)と厚生労働省で、委員意見を踏まえた文言調整を行った後、パブリックコメントを募集します。その後、国民からの意見を踏まえて最終とりまとめに向けた議論を行うことになります(その後、社会保障審議会・介護保険部会等における介護保険制度改革論議につなげられる、関連記事はこちら)。

「すべての有料老人ホーム」を登録制とし、基準も設けるべきとの声も

▼都市部では介護保険施設の整備が難しい(土地代等が高いため、介護報酬での経営が難しい)▼比較的所得の高い層では「より良いサービス」を求める—などの理由から「有料老人ホーム」のニーズが高まっています。

しかし昨今、有料老人ホームなどをめぐって▼ホームの経営が破綻し入居者が行き場を失ってしまう▼ホーム側が病院や紹介会社に高額な紹介料を支払って重度の入居者の紹介を受けることがある▼一部の住宅型有料老人ホームで過剰な介護サービス提供(いわゆる囲い込み、例えば、有料老人ホームが入居者に「同一法人等の介護サービス」受給を義務付け、必要性にかかわらず区分支給限度基準額いっぱいまでサービスを提供するなど)が行われている▼要介護高齢者・家族の視点には「様々な高齢者向け住宅があるが、介護サービス利用の仕方も、費用等も大きく異なり、どこが自身に適しているのかが分かりにくい—といった問題点が指摘されています。

有料老人ホームでは過剰サービス提供が起こりやすい(社保審・介護保険部会(2)6 250317)



検討会ではこうした問題の解決に向けて、例えば▼「民間の創意工夫」に水を差さない形で、一定の規制(事前の登録制、自治体(都道府県、市町村)の指導権限の強化など)を考えるべきではないか▼実質的に「介護の場」となっていることを考慮し、事業者側の負担にも配慮しながら、例えば「重度者が恒常的に多く入居している」ホームなどについて、介護・医療の専門職配置の基準なども検討すべきではないか—といった方向で検討が進んでいます。

厚生労働省老健局高齢者支援課の濵本健司課長は、これまでの議論を踏まえた「とりまとめ素案」を検討会に提示。そこでは次のような方向成案が示されています。

●「とりまとめ素案」はこちら(今後、文言が調整されます)

【有料老人ホームにおける安全性、サービスの質の確保】
▽一定の有料老人ホームについて、行政の関与により入居者保護を強化すべく「登録制」などの事前規制導入を検討する必要があるのではないか
▽事前規制の対象は「中重度の要介護者や、医療ケアを要する要介護者などを入居対象とするホーム」とすることが考えられ、特定施設やサービス付き高齢者住宅との均衡に配慮しつつ現行の標準指導指針を一つの基準としつつ「職員体制や運営体制に関する一定の基準」や「併設介護事業所が提供するサービスや職員体制・運営体制との関係が曖昧にならないような基準」を法令上設ける必要があるのではないか
・介護・医療ニーズや夜間における火災・災害等緊急時の対応を想定した職員の配置基準、ハード面の設備基準、虐待防止措置、介護事故防止措置や事故報告の実施など
▽看取りまで行うホームについては「看取り指針」の整備が必要ではないか
▽特定施設と同様に、認知症ケア、高齢者虐待の防止、身体的拘束等の適正化、介護予防、要介護度に応じた適切な介護技術に関する「職員研修」も必要ではないか
▽基準等の策定に際しては、自治体ごとに解釈の余地が生じにくい具体的な形で規定する必要があるが、各地域における実情を反映できるよう「一定の事項については参酌基準とする」ことが適切ではないか

【介護・医療との適切な連携体制】
▽適切なアセスメントに基づいた「質の高いケアプランの作成・サービス提供」につなげることを確保する必要があるのではないか
▽入居者・家族の相談窓口となる担当者の明確化、スタッフによる介護・医療現場のケアカンファレンス参加も考えられるのではないか
▽入退院支援加算の連携の仕組みを参考にするなど、地域の医療機関の地域連携室と高齢者住まいの連携を深めていく必要があるのではないか

【サービスの見える化】
▽客観性・専門性を有した「第三者が外部からサービスの質を評価する」ことが必要ではないか。事業者団体による既存の第三者評価の仕組みを制度的に位置付けることも必要ではないか

【入居契約の透明性確保】
▽消費者保護の観点から、契約書や重要事項説明書、ホームページなどで「事業者が十分な説明や情報提供を行う」ことを確保する必要があるのではないか
▽契約書や重要事項説明書を「契約前に書面で説明・交付する」ことを義務づける必要があるのではないか(特定施設・住宅型の種別、介護保険施設等との相違点、要介護度や医療必要度に応じた受入れの可否、入居費用や介護サービスの費用、別途必要となる費用、施設の運営方針、介護・医療・看護スタッフの常駐の有無、看取り指針の策定の有無、退去・解約時の原状回復や精算・返還等に関する説明)
▽とくに「有料老人ホームと同一・関連法人の介護事業者によるサービス提供が選択肢として提示される」場合には、「実質的な誘導」が行われないよう、中立的かつ正確な説明が確実に実施される必要があるのではないか
▽要介護状態や医療処置を必要とする状態になった場合に、「外部サービス等を利用しなが ら住み続けられるか」「看取りまで行われるか」「退去を求められるか」についても、しっかりとした説明が確実に実施される必要があるのではないか

【情報公表の充実】
▽入居希望者や家族、ケアマネジャー、医療ソーシャルワーカー等が活用しやすい「有料老人ホームの情報公表システム」が必要ではないか

【入居者紹介事業の透明性の確保】
▽高齢者や家族、自治体、医療機関、地域包括支援センター、ケアマネジャー、医療ソーシャルワーカー等が「適切に事業を運営している紹介事業者」を確実に確認・選択できる仕組みが必要ではないか
紹介事業者届出公表制度を前提に「公益社団法人等が一定の基準を満たした事業者を優良事業者として認定する仕組み」の創設が有効ではないか
▽紹介手数料の設定は、賃貸住宅の仲介を参考に、例えば「月当たりの家賃・管理費等の居住費用をベースに算定する」ことが適切ではないか
紹介事業者届出公表制度に基づく情報公表の仕組みを充実させ、紹介事業における業務内容やマッチング方法、紹介可能なエリア、提携する高齢者住まい事業者、紹介手数料の設定方法等について検索可能なシステムを作る必要があるのではないか

【有料老人ホームの定義】
▽例えば、介護事業者が入居者に対して介護食等を提供している場合には「食事の提供を行っている」と判断すべきだが、自立の入居者が自らの意思で併設の食堂を利用している場合には 「食事の提供を行っているとは判断されない」ことを明確化する必要があるのではないか

【地域毎のニーズや実態を踏まえた介護保険事業(支援)計画の作成に向けた対応】
▽市町村・都道府県の介護保険事業(支援)計画策定に当たって、「外付けの介護サービスが利用されている住宅型有料老人ホーム」に係る情報を把握できる仕組みが必要ではないか
▽次期介護保険事業(支援)計画の策定に向けて、高齢者住まいごとの基本情報(例えば定員数や実際の入居者数、特定施設の指定の有無などの情報の一覧)、入居者の要介護度別の人数や割合などの集計情報、高齢者住まいのマッピングなどを市町村自身で把握・整理していく仕組みが必要ではないか

【参入時の規制の在り方】
▽介護保険サービス提供事業所がホームと同一経営主体の場合は、例えば「居宅介護支援事業所(ケアマネ事業所)を含めた主たる介護保険サービス事業者等としてまとめて公表し、協力医療機関がある場合は、そこも含め公表し、有料老人ホームを選択する際の情報とする」ことが想定される

【標準指導指針】
▽登録制といった事前規制の導入に伴い、都道府県等が事業の開始前・開始後ともに効果的な対応を取れるよう「老人福祉法に基づく統一的な基準」として策定することが必要ではないか

【参入後の規制のあり方】
▽「更新制」「一定の場合に更新を拒否する仕組み」が必要ではないか
▽経営継続が困難と見込まれる事業者に対しては、迅速な事業停止命令等の行政処分を可能とするための整理が必要ではないか
▽事業廃止や停止等の場合には、事業者が、十分な時間的余裕を持って説明し、入居者の転居支援、介護サービス等の継続的な確保、関係機関や家族等との調整について行政と連携しながら責任を持って対応することに関する一定の義務づけが必要ではないか

【ケアマネジメントのプロセスの透明化】
▽「有料老人ホームへの入居時に入居希望者の自由なサービス選択が確保される」ことが重要であり、介護事業所と提携する有料老人ホームにおいてケアマネ事業所やケアマネジャーの独立性を担保する体制の確保として、「指針の公表」「施設長・管理者への研修」「相談担当者の設置」等の措置を行うこととしてはどうか
▽入居契約において「ホームと資本・提携関係のある介護サービス事業所やケアマネ事業所の利用を契約条件とすること」「利用する場合に家賃優遇といった条件付けを行うこと」「かかりつけ医やケアマネジャーの変更を強要すること」を禁止する措置を設けてはどうか
▽有料老人ホームにおいて「入居契約とケアマネジメント契約が独立していること」「契約締結やケアプラン作成の順番といったプロセスにかかる手順書やガイドラインをまとめておき、入居希望者に対して明示すること」「契約締結が手順書やガイドライン通りに行われていること」などを行政が事後チェックできる仕組みが必要ではないか

【自治体による実態把握】
▽有料老人ホームがケアマネ事業所や介護サービス事業所と提携する場合は、有料老人ホームが事前に提携状況を行政に報告・公表し、ケアマネ事業所や介護サービス事業所の契約に関して中立性が担保されるための体制を行政がチェックできる仕組みが必要ではないか
▽住宅型有料老人ホームやサ高住に入居した場合に、ケアマネ事業所が保険者に連絡票を届け出ることでホームとケアマネ事業所の情報を紐づけることが有効ではないか

【住まい事業と介護サービス等事業の経営の独立】
▽妥当性が担保されない事業計画に対する行政の事前チェックが働くことが必要ではないか
▽有料老人ホーム運営事業者が介護サービス等と同一・関連事業者である場合は、ホーム事業部門の会計と、介護サービス等部門の会計が分離独立して公表され、その内訳や収支を含めて確認できることが必要ではないか

【地域に対する透明性の向上】
▽有料老人ホームが地域と交流し、地域の中でより積極的な役割を果たしていくことが重要ではないか。地域密着型サービスの運営推進会議や、地域の医療・介護連携会議への参加推奨なども行い「地域での顔の見える関係づくり」を通じた透明性の向上を促すことが必要ではないか

【特定施設への移行】
▽「入居者が必要とする介護サービスが特定施設と変わらない」「一定人数以上の中重度の要介護者を中心に受け入れる」等の場合には、人員や設備、運営体制について一定以上の体制が求められる特定施設への移行を促すことが考えられるのではないか

【外部型特定の活用】
▽人員などの体制確保が困難で、一般型特定施設への指定申請が難しい場合は「外部サービス利用型特定施設」へ指定申請を行うことも考えられるため、住宅型有料老人ホーム等の移行も想定した基準や介護報酬体系の整備も検討する必要があるのではないか



これまでの議論・意見を整理した内容であり特段の反対意見は出ていませんが、次のような意見・注文も出ています。

●全般について
▼自治体によるバラつきが生じないような配慮が重要である(川田力也構成員:民間介護事業推進委員会代表委員)—

●情報公表について
▼例えば「地域の介護サービスを利用可能である」「要介護者や認知症患者への対応が可能である」等の情報をホーム側が公表することが重要である(高野龍昭構成員:東洋大学福祉社会デザイン学部教授)—

●登録制について
▼施設が「中重度者対応」などを謳っている場合や、中重度者等が後に入所した場合にも「登録制」の適用や「人員配置等の基準遵守」が求められる(井上由起子座長代理:日本社会事業大学専門職大学院教授)▼登録制等の対象を「中重度者が入所する施設」などに限定した場合、それ以外のホームは現状どおり届け出制となるのだろうか。両者には大きなギャップがあり、「規制逃れ」などが生じないように留意する必要がある(中澤俊勝構成員:全国有料老人ホーム協会理事長、高齢者住まい事業者団体連合会副代表幹事)▼有料老人ホーム入居者は、誰しもが要介護状態に陥るリスクを抱えており、すべての有料老人ホームを登録制等の対象にすべきではないか(江澤和彦構成員:日本医師会常任理事)▼登録制については「新規開設者」だけではなく、「既存事業者」も対象とすべき。ただし経過措置などは適切に設けるべき(川田構成員、中澤構成員、倉田賀世構成員:熊本大学法学部教授)—

●契約内容の明確化など
▼契約内容の明確化等は「入居者の保護」と同様に、過剰介護等を防止する意味で「ホーム、ホームスタッフの保護」にもつながる点に留意すべき(矢田尚子構成員:日本大学法学部准教授)

●適正なサービスの確保について
▼いわゆる「囲い込み」防止のため、介護相談員派遣事業(市町村から派遣された相談員が入居者の声を聴いて、トラブル等を解決する事業)の活性化を図ってはどうか(高野構成員)▼「ホーム指定のケアマネ事業所、訪問介護事業所などを利用することを条件に家賃を低く設定している」ようなケースでは、新たな仕組みによって「家賃が高額になり、入居者が退去せざるを得なくなる」事態が生じかねない。そうした事態への対応を検討しておくべき(濵田和則構成員:日本介護支援専門員協会副会長)—



今後、こうした意見を踏まえて駒村座長と厚労省で「とりまとめ素案」の内容を調整し、パブリックコメントを募集。その後、パブリックコメントの内容も踏まえて検討会でさらに議論し、今秋(2025年秋)の意見とりまとめをめざします(その後、社会保障審議会・介護保険部会等における介護保険制度改革論議につなげられる、関連記事はこちら)。



病院ダッシュボードχ ZEROMW_GHC_logo

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