2018年度改定に向けて、入院患者に対する「医師による診察(処置、判断含む)の頻度」などを調査―中医協総会
2016.10.19.(水)
2018年度の次期診療報酬・介護報酬の同時改定に向けて、重症度、医療・看護必要度の大幅見直しによって入院医療にどのような影響が出ているのか。また、一般病棟や療養病棟などの各種病棟に入院している患者の状態像の実態はどのようなものか―。
こういった点を調べるための調査票が、19日に開かれた中央社会保険医療協議会の総会で承認されました。
厚生労働省は11-12月に調査を実施し、来年2月以降、下部組織である診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」(入院医療分科会)に報告されます。
支払側は「看護必要度が次期改定の論点」と主張、診療側は混乱まねくと反対
入院医療に関する調査については、12日の入院医療分科会で調査票案(原案)を基に詳細に検討されました。そこでの議論を踏まえて、厚労省は19日の中医協総会に、調査票の改定案を提示。改定案どおり了承されています。
原案から大きく見直されたのは、次の3点です。
(1)退院支援における「地方自治体との連携」状況に関する調査項目を追加
(2)患者像をより正確に把握するために「医師による診察(処置、判断含む)の頻度」を詳しく調べる項目を追加
(3)障害者施設等入院基本料を算定する病棟において、患者の年齢区分を調べる項目を追加
(1)は、医療・介護連携に向けた取り組みを調べるもので、「市町村との連携」「地域ケア会議への参加の有無」などを調査します。
(2)は、以前から「医師による指示の見直しの頻度」は患者の重症度を表すものではないと指摘されている点を踏まえて、新たに「医師による診察(処置、判断含む)の頻度」を調べるものです。医師自身による診察や、検査値などに基づいて考慮した結果、「以前に出した指示の見直しは不要」と判断するケースが少なくなく、これは患者が軽症で安定していることは意味しないという診療側委員の強い指摘を反映したものと言えます。
この点、総会に先立って行われた診療報酬基本問題小委員会で、支払側の平川則男委員(日本労働組合総連合会総合政策局長)から「処置と判断は分けるべきではないか」との提案がなされましたが、診療側の中川俊男委員(日本医師会副会長)は「そもそも医師の診察や指示の見直しの頻度をみるという項目自体がおかしい」と反発。厚労省案どおり調査することになっています。
また(3)は、障害者の年齢(小児なのか、成人なのかなど)によって、医療・介護の内容が変わってくる可能性が高く、そこを明らかにする狙いがあります。
さらに、やはり基本問題小委で、調査票とは別に支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会副会長)は「2018年度の次期改定では、重症度、医療・看護必要度の見直しが論点になる」と指摘。しかし、診療側の中川委員は「過去2回の改定(2014年度、16年度)で連続して重症度、医療・看護必要度を見直しており、診療現場は大混乱している。まず改定の影響を捉えるのみとすべきで、論点とする指摘は踏み込みすぎである」と不快感を示しました。
なお、総会では、支払側の幸野委員が「医師が一般名で処方し、薬剤師が適切な医薬品を選択できるように調剤権を拡大すべき」「再診料や処方料を削減するために、状態の極めて安定した患者についてリフィル処方箋を認めるべき」との考えを示した点について、中川委員が「大問題」であると噛み付く一幕もありました。中川委員は「医師は患者の状態を判断してどの医薬品が適切かを判断している。患者を診察しない薬剤師に医薬品選択を委ねるのは暴論に近い」などと反論しています。
診療側の中川委員、患者申出療養の先進医療化を懸念
19日の総会では、「患者申出療養」の1例目について報告がなされました。
患者申出療養とは、4月1日からスタートした新たな保険外併用寮費制度(保険診療と、未承認の抗がん剤などの保険外診療都の併用を認める)です。「海外で開発された未承認の医薬品(保険外診療)を使用したい」などといった患者からの申し出を起点として、安全性・有効性を患者申出療養評価会議で確認した上で、保険診療との併用を認めるものです。
9月21日に開催された患者申出療養評価会議では、腹膜播種陽性または腹腔細胞診陽性の胃がんに対する「パクリタキセル腹腔内投与及び静脈内投与並びにS-1内服併用療法」が1例目の患者申出療養として認められました。
この医療技術は先進医療として認められていますが、先進医療で定められた適格基準を満たさない患者(前化学療法の実施をしていない、緩和的胃切除例を施行された症例であるという点で基準を満たさない)から、「同療法について保険外併用を認めてほしい」との要望があり、今般、患者申出療養の対象となったものです。
ただし、適格基準を満たさない患者はこのほかにも多数いると想定され、患者申出療養においては、同療法の適格基準について▼胃がん症例全般を対象とする▼前化学療法の実施を不要とする▼ECOG Performance Statusを0-3とする(先進医療では0-1)▼年齢は85歳未満に広げる(同20歳以上75歳未満)▼卵巣以外の遠隔転移症例を除外しない▼緩和的胃切除例を施行された症例を除外しない▼多量の腹水貯留症例を除外しない―という点について、先進医療から変更しています。これにより、より多くの患者が同療法について保険診療との併用を行う事が可能となります。
しかし、診療側の中川委員は「反対はしない」とした上で、「1人1人の患者を起点とした制度であったはずだが、先進医療の要件を緩和して予定症例数を100例にまで広げるなど、患者申出療養が先進医療化してしまっている。非常に残念だ」と指摘しています。
この点について厚労省保険局医療課の迫井正深課長と眞鍋馨企画官は、患者申出療養評価会議でも同様の指摘・懸念が出されたことを説明。その上で中川委員の指摘を評価会議にも伝え、より「制度の趣旨に合ったもの」と理解されやすい形で運用していく考えを述べています。
新たな中心静脈カテーテルと、百日咳菌の検出検査を保険収載
なお、19日の総会では、次の医療機器と臨床検査について保険収載が認められました。
▼カテーテル由来の血流感染症リスク低減が期待される「COOK Spectrum M/R 含浸中心静脈カテーテルキット」(償還価格9930円、12月保険収載予定)
▼LAMP法(核酸増幅法)による百日咳菌核酸検出(D023 「7 HCV核酸検出、HPV核酸検出、HPV核酸検出(簡易ジェノタイプ判定)」360点を準用、11月保険収載予定)
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