16年度改定に向け、入院の診療報酬見直しのベースが確定―入院医療分科会が最終とりまとめ
2015.10.15.(木)
2016年度の次期診療報酬改定に向けて入院医療の課題などを調査・分析する、診療報酬調査専門組織の「入院医療等の調査・評価分科会」が15日、最終とりまとめを行いました。
文言の整理を行った上で、近く親組織である中央社会保険医療協議会に報告します。
最終報告には、▽一般病棟用の重症度、医療・看護必要度(以下、看護必要度)の見直し▽特定集中治療室用の看護必要度の見直し▽地域包括ケア病棟における手術・麻酔の包括範囲からの除外▽慢性期入院医療の報酬体系見直し―などが盛り込まれました。入院医療の報酬見直しはこの最終とりまとめがベースになるため、ここに盛り込まれた事項に注目する必要があります。
入院医療分科会では、前回の14年度診療報酬改定後に入院医療の現場がどのような状況になっているかを調査・分析し、そこから課題や解決方法などを探ってききました。中医協からは、「調査結果の分析および技術的課題に関する検討」に専念せよとの指示が出されましたが、最終とりまとめでは、かなり具体的な見直し内容が暗に提案されています。
主な提案内容を、最終とりまとめから読み取ってみると以下のようなものが挙げられます。
(1)一般病棟用の看護必要度を見直す(関連記事はこちら)
(2)特定集中治療室用の看護必要度を見直す(関連記事はこちら)
(3)短期滞在手術等基本料3について、▽一部点数設定の細分化▽人工腎臓の包括範囲からの除外▽新たに3技術を追加する―との見直しを行う(関連記事はこちら)
(4)総合入院体制加算2について、何らかの実績要件を設定する(関連記事はこちら)
(5)地域包括ケア病棟入院料について、手術・麻酔(ブロック注射を除く)の包括範囲からの除外を検討する(関連記事はこちら)
(6)医療資源の乏しい地域における診療報酬の特例(入院料の施設基準緩和など)について対象地域を見直す(関連記事はこちら)
(7)療養病棟入院基本料について、▽在宅復帰機能強化加算の「病床回転率」要件を見直す▽基本料2にも医療区分2・3の患者割合要件を設定する▽医療区分2・3のうち「頻回の血糖検査」などにきめ細かい評価手法を導入する―などを行う(関連記事はこちら)
(8)障害者施設や特殊疾患病棟に入院する脳卒中患者について、療養病棟と同様の評価とする(関連記事はこちら)
(9)退院支援に係る取り組みを強化するため、▽多職種カンファレンス▽病棟への専従・専任の退院支援看護師の配置―などの診療報酬での評価を検討する(関連記事はこちら)
(10)一般病棟や地域包括ケア病棟からの「自宅などへの退院」をより進めるために、在宅復帰率の見直しを行う(関連記事はこちら)
多くの項目は8月に行われた中間とりまとめに盛り込まれており、今般の最終とりまとめでは、(2)の特定集中治療室用の看護必要度見直しが追加されました。
特定集中治療室の一部では、「心電図モニター」「輸液ポンプ」「シリンジポンプ」の3項目のみで「A項目3点以上」という要件を満たしている患者が極端に多いことが厚労省の調査から明らかになりました。
「心電図モニター」「輸液ポンプ」「シリンジポンプ」の3項目のみの患者には、▽医師による指示見直し・看護師による直接看護提供の頻度が少ない、比較的「状態の安定した」患者の割合が多い▽包括範囲出来高実績点数の低い患者の割合が多い―という特徴があります。
このため、特定集中治療室では、「重症度が低いと考えられる『A項目2点以下の患者』のほうが、重症度が高いと考えられる『A項目3点の患者』よりも、状態が安定し、医療資源投入量が少ない患者の割合が多い」という逆転現象が生じてしまっています。入院医療分科会では、A項目3点には「心電図モニター」「輸液ポンプ」「シリンジポンプ」のみの患者が混在しているためと分析しています。
さらに分科会では、「心電図モニター・輸液ポンプ・シリンジポンプの3項目にのみ該当する患者の看護必要度の評価を適正化し、基準から外れる患者は一定の割合に限って入室の対象とする」ことなどを行ってはどうかと少し踏み込んだ提案を行っています。
このほか特定集中治療室については、薬剤師配置によって「業務負担軽減」や「副作用の回避」などの効果が出ていることを紹介し、「薬剤師配置に対する診療報酬上の評価」を行うことも提案しています。
なお、前回の14年度改定では、より充実した高度医療を行う特定集中治療室の評価(管理料1と管理料2)を新設し、施設基準の中に「1床当たりの床面積20平方メートル以上」という規定が設けられました。これについて岡村良隆委員(和歌山県立医科大学理事長・学長)は「20平方メートルの基準をぎりぎり満たせず困っている病院も少なくない」と指摘し、基準の緩和を要望しました。
しかし、厚労省保険局医療課の担当者は「学会などとの意見交換を経て20平方メートルの基準を設定したが、異論のあることも承知している」と述べるにとどめており、次期改定で緩和されるかどうかは中医協の議論を待つ必要があります。
ところで、ハイケアユニット(HCU)でも「心電図モニターや輸液ポンプに該当する患者が極めて多い」ことが分かっていますが、最終とりまとめでは「今後、(特定集中治療室と)同様の観点から分析し検討していく必要があるとの意見があった」との記載にとどめており、16年度の次期改定での見直し対象になるかは固まっていません。
最終報告では、7対1、10対1、集中治療室を持ち、地域包括ケア病棟を設置している病院では「自院の急性期病床から自院の地域包括ケア病棟への転棟」患者が特に多い状況も報告されています。
厚労省が、7対1、10対1、集中治療室を持つ病院で、地域包括ケア病棟の入院患者が、入院前にどこにいたのかを調べたところ、実に81%が「自院の急性期病棟」であったことが分かりました。
また、これらの病院のほとんどが「自院の急性期病棟からの受け皿」として地域包括ケア病棟を設置したことも明らかになりました。
中医協では、診療側の鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)を中心に「大病院は急性期に特化すべきで、ケアミックスは認めるべきでない」旨の主張を強く行っており、最終とりまとめが、今後の議論にどう影響するのか注目が集まります(関連記事はこちら)。
(1)の一般病棟用の看護必要度見直しでは、「A項目に新たに『開腹・開胸手術直後』『無菌治療室での管理』を追加してはどうか」との提案が暗に行われています。
この点について筒井孝子委員(兵庫県立大学大学院経営研究科教授)は、「無菌治療室に入室している患者の実態データが出ていない点には留意が必要だ。無菌治療室の患者では、▽点滴ライン同時3本以上▽心電図モニター▽シリンジポンプ▽麻薬注射薬の使用▽免疫抑制剤の使用(いずれもA項目)―に該当するケースがある。A項目に無菌治療室管理を追加してダブルカウントにならないように慎重に検討する必要がある」と、今後の中医協論議に注文を付けました。
また(10)の在宅復帰率について、例えば「7対1から自宅への退院」と「7対1から地域包括ケア病棟への退院(転院)」が同等に扱われている現状を見直すべきとの指摘がありますが、神野正博委員(社会医療法人財団董仙会理事長)は「在宅復帰率要件は前回の14年度改定で導入されたもので、まだ日が浅い。次期改定では見直すべきではない」との考えを表明しています。
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