2016年度診療報酬改定で、7対1病棟の入院患者像や病床利用率はどう変化したのか―入院医療分科会
2016.10.14.(金)
2016年度の診療報酬改定で大幅に見直された「一般病棟用の重症度、医療・看護必要度」や「退院支援加算」(退院調整加算からの組み換え)によって、医療現場にはどのような影響が出ているのか―。
12日に開かれた診療報酬調査専門組織の「入院医療等の調査・評価分科会」(入院医療分科会)では、こういった点を把握するための調査票が固められました(関連記事はこちら)。
親組織である中央社会保険医療協議会の了承を待って、近く調査が開始されます。
目次
入院医療に関する診療報酬改定、入院医療分科会の議論がベースとなる
2014年度の診療報酬改定は、7対1・10対1病棟での特定除外制度を事実上廃止するなど、病院・病床の機能分化に先鞭をつける大きな見直しが行われましたが、具体的な内容は実質的に入院医療分科会で決まりました。
また前回の2016年度改定では、入院医療分科会の所掌は「専門的な調査・分析」と「技術的な課題に関する検討」にとどめられることになりましたが、一般病棟やICUにおける重症度、医療・看護必要度(以下、看護必要度)の見直しなど、改定の柱は実質的に分科会で固められました(関連記事はこちらとこちら)。
このように、入院医療に関する診療報酬改定について、入院医療分科会の議論は極めて重いものとなっており、2018年度の診療報酬・介護報酬同時改定でも、同様の構図になると予想されます。入院医療分科会では、まず「前回改定の効果・影響」を詳細に調査し、その結果やDPCデータ・NDBデータをベースにして、入院医療における課題を洗い出し、解決に向けた方策を探るという形で検討・議論が進められます。
12日に開かれた入院医療分科会では、2016年度改定が入院医療に与えた影響を把握するための下記の4項目に関する調査(2016年度調査)の調査票が厚生労働省から提示され、概ね了承されています。
(1)一般病棟入院基本料・特定集中治療室管理料における看護必要度などの施設基準の見直しの影響(その1)
(2)地域包括ケア病棟入院料の包括範囲の見直しの影響
(3)療養病棟入院基本料などの慢性期入院医療における評価の見直しの影響
(4)退院支援における医療機関の連携や在宅復帰率の評価の在り方
看護必要度見直しの影響を詳しく調査、Hファイルも活用
看護必要度については、一般病棟では▼A項目における救急搬送患者などの追加▼B項目における認知症患者の抽出を目指す項目見直し▼手術症例を中心としたC項目の新設―が行われました。また、7対1病棟については、施設基準のうち「看護必要度の基準(A項目2点以上かつB項目3点以上、A項目3点以上、C項目1点以上)を満たす重症患者割合」が、従前の15%以上から25%以上(200床未満では23%の経過措置あり)に引き上げられました(関連記事はこちらとこちら)。
多くの7対1病院にとって、こうした見直しは「施設基準の厳格化」でもあり、全病棟で7対1を維持するか、一部あるいは全部を他の入院料に転換するかが、重要な経営判断の1つとなっています。また7対1を維持するためには、重症患者割合を高める必要があり、「急性期治療を一定程度終え、看護必要度が低くなってきた患者の退院支援」や「後方病院や介護施設などとの連携強化」などが進められています。
こうした状況を把握するため、今般の調査では、急性期病院における▼病棟構成の現状と変化▼重症患者割合―などのほか、「在宅復帰率」「病床利用率」「退院支援加算の算定状況」なども詳しく調べられます。前述のとおり、重症患者割合を高めるために、急性期治療を終えた患者に積極的な退院支援を行い、在院日数を短縮していくことが必要です。ただし在院日数の短縮は病床利用率の低下にもつながるため、厚労省は「病床利用率の現状と、1年前からの変化」も調べることにしています。
また、同じ7対1病院であっても、「7対1病棟のみで構成される病院」と「7対1と地域包括ケア病棟や回復期リハビリ病棟のケアミクスを行っている病院」とでは、患者の動向が異なることが予想されます。この点について厚労省は「施設表で病院のタイプを判断し、病床利用率も加味してタイプ別の分析を行う」考えです。
この点、武井純子委員(社会医療法人財団慈泉会本部相澤東病院看護部長)は、「A項目の追加やC項目新設により、院内での多職種連携が進んだほか、医師の看護必要度への理解が深まってきているという状況もあるようだ。そうした点も見えるようにしてはどうか」と提案しています(関連記事はこちらとこちら)。
なお今般の調査では、個別患者を対象として、1週間の中で「看護必要度のどの項目を満たしているのか」の把握も行われます(補助票)。これにより、より入院患者の状態が明確になることが期待されます。
ただし、個別患者について改めて看護必要度の評価状況を転記することは病院にとって少なからず負担となるため、厚労省は「Hファイル」(看護必要度の生データ)の提出を行っている病院(DPC病院やデータ提出加算届け出病院)では、補助票の提出は不要としています。逆に見れば、患者像の把握に向けて「Hファイル」が最大限活用されることになります。
患者像の把握は、医師による「指示見直しの頻度」だけでなく「診察の頻度」も勘案
2014年度改定・16年度の診療報酬改定では、療養病棟や障害者施設、特殊疾患病棟などの慢性期入院医療についても「在宅復帰機能強化加算」の新設などの重要な見直しが行われました(関連記事はこちら)。
その際、各病棟の入院患者像を明確にする指標として、厚労省は「医師による指示の見直しの頻度」などを選択しました。今般の調査でも、こうした指標で継続した調査を行うこととしています。
しかしこの点について、神野正博委員(社会医療法人財団董仙会理事長、全日本病院協会副会長)や池端幸彦委員(医療法人池慶会理事長、日本慢性期医療協会副会長)、石川広巳委員(社会医療法人社団千葉県勤労者医療協会理事長、日本医師会常任理事)は、「医師が毎日診察したり、看護師から詳細な状況報告を受けて、結果として『指示の変更はなし』と判断することもある。これを持って、患者の重症度の判断につなげるのは間違っている」旨を強調しました。例えば、ICUの入院患者に対し、毎日診察を行った結果、『現在の薬剤投与を継続』と判断して、指示変更をしていなくとも、その患者が重症であることには疑いがないということを池端委員は例示しています。
厚労省保険局医療課の担当者はこうした意見を踏まえて、新たに「医師の診察(判断、処置など)の頻度」という設問項目を追加することを明確にしました。2018年度改定に向けて、「医師の指示見直しの頻度」と合わせて「医師の診察の頻度」という指標で、各病棟の患者像を見ていくことになります。
なお池端委員は、「療養病棟でもデータ提出加算の届け出をし、DPCデータを提出する病院が増えてきている。ここから、療養病棟においてどのような医療行為を行っているのかが見えてくる。それをベースにして『医療区分』の見直しに向けた議論を始めるべき」と提案しています。
療養病棟では、患者の罹患疾病や処置の内容などに応じた医療区分を設定し、入院基本料のベースとしています(医療区分3のほうが、医療区分1よりも点数が高い)。ただし、医療区分3はスモンなど、医療区分2は筋ジストロフィーなどとなっているものの、医療区分1は「医療区分2、3以外」と定義され、医療区分1には軽症から重症までさまざまな患者が混在していると指摘されます。池端委員は、客観的なデータをもとに医療区分のあり方を議論すべきとの考えを強調しているのです。2018年度改定に向けて、どのような議論が行われるのかが注目されます(関連記事はこちら)。
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