2019年10月から、勤続10年以上の介護職員で8万円の賃金アップ―安倍内閣
2017.12.11.(月)
介護職員の処遇をさらに改善するため、2019年10月から、「勤務継続10年以上の介護福祉士」の賃金が月額平均8万円程度アップするような対策を講じる。このために公費1000億円程度を投じる―。
安倍晋三内閣は12月8日、こうした方針を盛り込んだ「新しい経済政策パッケージ」を決定しました。2019年度の介護報酬改定の中で実施される見通しで、この加算を算定する介護サービス事業所が満たすべき要件(例えば、経験や技能に応じた昇給の規定など)が注目されます。
「新しい経済政策パッケージ」は、少子高齢化が進む中で経済成長を持続させるための対策をまとめたものです。2019年10月の消費税率引き上げ(8%→10%)によって生まれる税収などで安定的に2兆円の財源を確保し、「介護人材の処遇改善」や「幼児教育の無償化」などに充てるとしています。
経験などに応じた処遇改善をさらに進め、若手職員がキャリアパス描きやすく
介護分野の有効求人倍率(2016年時点で3.02%)は、全職業(1.36%)と比べて高い水準にあり、人手不足が深刻な状況です。この一因は処遇にあると考えられており、特に、男性介護職員の賃金が低いことから、他産業に人材が流出し、好景気の中でも人材不足が進んでいると指摘されています。
こうした賃金格差を縮めて介護分野の人手不足を解消すべく、政府は介護職員の処遇改善に取り組んできました。2009年度から今年度(2017年度)までの計4回の介護報酬改定などで実施された施策の改善効果を積み重ねると、トータルでみれば月額5.3万円に相当する改善が図られています(個人の給与には必ずしも反映されていません)。
しかし、人口ボリュームが大きい団塊世代が2025年までに全員75歳以上になることを踏まえれば、要介護状態の高齢者の生活を支える介護サービスの需要が増し、これに対応できる介護人材の確保が必要不可欠です。このため、政府は「新しい経済政策パッケージ」 の中で、介護人材確保の一方策として「さらなる処遇改善策」を盛り込んだのです。
具体的には、「勤続年数10年以上の介護福祉士の賃金を、月額平均8万円引き上げられる程度の財源」(公費1000億円程度)を用意し、「経験・技能のある職員の賃金が上がる」ような処遇改善を推進することで、「介護職員としてのキャリアパス」を描きやすくします。
この施策は、「消費税率10%への引き上げに伴う介護報酬改定」の中で制度化され、2019年10月から実施されます。介護報酬改定は来年度(2018年度)にもありますが、ここでは「さらなる処遇改善」が講じられない点に注意が必要です。
ちなみに、さまざまな介護サービスに設定されている【介護職員処遇改善加算】のうち、処遇改善効果が最も高い「I」(月額3万7000円相当)の算定要件では既に、「職員の経験や資格などに応じた昇給の仕組み」の整備が、事業所に求められています。
生産性を高めるため、介護事業所の帳票半減や遠隔診療のGL公表を目指す
政府の「新しい経済政策パッケージ」には、「生産性が伸び悩む分野」の制度改革を進める一環として、▼介護サービス事業所が作成する帳票などの文書量を半減させる▼遠隔診療の具体的なユースケースなどを示すガイドラインを今年度(2017年度)中に取りまとめて公表する―方針も掲げられました。
介護サービス事業所が作成する帳票などの半減に向けては、まず来年度(2018年度)中に、国や自治体が事業所に求めている帳票などの事態把握と、「当面の見直し」を実施する方針です。この段階では半減まで至りませんが、その後、事業所が独自に作成する文書の内容なども見直すことで、文書量の半減を達成するとしています。
一方で、遠隔診療に関するガイドラインではユースケースに加え、「患者との合意形成」などのルールを明示することで、「安全で効果的・効率的な遠隔診療」の普及を図ります。これと併せて、「遠隔での服薬指導をどのように進めるべきか」も検討されます。
【関連記事】
処遇改善加算IVとVを廃止、介護ロボット導入で要件緩和―第153回介護給付費分科会(1)
ケアマネは入院3日以内に情報提供を、集中減算は3サービスに限定―介護給付費分科会(3)
老健の基本報酬、在宅機能に応じたメリハリ強く―介護給付費分科会(2)
介護医療院の方向性固まる、「1年限りの加算」で転換促す―介護給付費分科会(1)
多床室ショートステイの介護報酬、従来型個室並みに引き下げ―介護給付費分科会(2)
特養での医療ニーズ対応を強化すべく、配置医の夜間診療などを高く評価―介護給付費分科会(1)
居宅療養管理指導でも「単一建物居住者」の人数で評価へ―介護給付費分科会(3)
診療報酬でも、「同一・隣接建物に住む患者」への訪問で減算などを検討—中医協総会(1)
通所介護・リハの基本報酬を見直し、1時間刻みに細分化―介護給付費分科会(2)
介護保険の訪問看護、ターミナルケアの実績さらに評価へ―介護給付費分科会(1)
集合住宅への訪問介護など、減算対象を拡大へ―介護給付費分科会(2)
介護のエビデンス構築に向けたデータ提出、当面は事業所を限定―厚労省・科学的介護検討会
生活援助の介護人材育てるも、報酬下げの可能性―介護給付費分科会(1)
「ある状態の要介護者にどの介護サービスが効果的か」などのエビデンスを構築—厚労省・科学的介護検討会
2018年度同時改定、「対面診療と遠隔診療の組み合わせ」や「自立支援に効果ある介護」を評価—未来投資会議
2018年度診療報酬改定、効果的・効率的な「対面診療と遠隔診療の組み合わせ」を評価—安倍内閣が閣議決定
遠隔診療の取扱い明確化し、2018年度改定でICT活用した生活習慣病管理など評価せよ―規制改革会議
2018年度診療報酬改定で、オンライン診療を組み合わせた生活習慣病対策などを評価—未来投資会議
介護職員処遇改善加算のIVとV、2018年度改定で廃止に向け検討—介護給付費分科会(2)
自立支援に資する介護、「要介護度の改善」だけでない点で一致—介護給付費分科会(1)
介護老健の在宅復帰・リハビリ・医療提供の各機能をどう充実させるか—介護給付費分科会(2)
介護医療院、報酬設定論議始まる!医療療養からの転換を危惧する声も—介護給付費分科会(1)
特養ホーム、医療ニーズ勘案し「介護医療院」などとの役割分担をどう考えるか—介護給付費分科会(2)
ケアマネの特定事業所集中減算、廃止含めた見直し要望が多数—介護給付費分科会(1)
生活援助中心の訪問介護、給付切り下げに賛否両論—介護給付費分科会(2)
2018年度改定でも「訪問看護の大規模化」や「他職種との連携」が重要論点—介護給付費分科会(1)
通所介護の「質」をどのように考え、報酬に反映させるべきか—介護給付費分科会
介護報酬の居宅療養管理指導、在宅医療の診療報酬に合わせた体系としてはどうか—介護給付費分科会(2)
退院後2週間未満の訪問リハ開始が効果的だが、3割の要介護者では実現できず—介護給付費分科会(1)
認知症デイサービスはIIIa以上、一般デイではIIb以下が主に利用—介護給付費分科会
定期巡回や看多機の整備進まず、「ニーズの実態を精査すべき」との指摘も—介護給付費分科会(2)
一部有識者が提唱する「新型多機能」、小多機の理念に反すると猛反発—介護給付費分科会(1)
2018年度介護報酬改定に向けキックオフ、夏までに第1ラウンドの議論終える—介護給付費分科会
オンラインでのサービス担当者会議などを可能にし、医療・介護連携の推進を—中医協・介護給付費分科会の意見交換(2)
要介護・維持期リハビリ、介護保険への移行を促すため、診療報酬での評価やめるべきか—中医協・介護給付費分科会の意見交換(1)
訪問看護、2018年度同時改定でも事業規模拡大などが論点に―中医協・介護給付費分科会の意見交換(2)
医療機関での看取り前の、関係者間の情報共有などを報酬で評価できないか―中医協・介護給付費分科会の意見交換(1)
審査支払機関改革やデータヘルス改革の実現に向け、データヘルス改革推進本部の体制強化―塩崎厚労相
団塊ジュニアが65歳となる35年を見据え、「医療の価値」を高める―厚労省、保健医療2035