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健康寿命延伸・ICT活用、2040年度に必要な医療・介護人材は935万人に圧縮可能―経済財政諮問会議

2018.5.22.(火)

 医療・介護の給付費(自己負担を除く)は、現状のままでは2040年に92.9-94.7兆円に膨らみ、地域医療構想の実現や医療費適正化計画の推進などによっても92.5-94.3兆円にまでしか抑えることができない。また、医療・介護・福祉分野のマンパワーは、2040年度には1065万人が必要になるが、健康寿命の延伸やICT活用などで必要数を抑えることができるが、それでも935万人が必要となる。こうした点に鑑み、「健康寿命の延伸」「医療・介護サービスの生産性向上」などに努める必要がある―。

5月21日に開催された経済財政諮問会議で、厚生労働省からこういった説明が行われました(内閣府のサイトは、こちら(費用推計)こちら(マンパワー推計)こちら(社会保障改革の方向))(関連記事はこちら)。

地域医療構想の実現等によっても、2040年度の医療・介護給付費は92.5-94.7兆円に膨張

2025年には、いわゆる団塊の世代がすべて後期高齢者となるため、今後、医療・介護ニーズが増大していくと考えられます。一方、我が国は人口減少社会に突入しており、医療・介護ニーズの伸びは鈍化していくとともに、支え手となる生産年齢人口が急速に減少していきます。このように、「2025年まで」と「2025年以降」では、若干、医療・介護を取り巻く状況が異なることから、厚生労働省は2040年に向けて、▼医療・介護費はどれほど膨らむのか▼国民の負担はどの程度になるのか▼医療・介護の支え手の状況はどう変化していくかの―を詳しく試算したものです。

まず、医療・介護給付費の膨らみ方を見てみましょう。2018年度の医療給付費は39.2兆円、介護費給付は10.7兆円で、合計49.7兆円になる見込みです。GDP(国内総生産)に対する医療・介護給付費の割合は8.8%となります。

医療・介護制度の見直しがない場合(現状投影)、2025年度には62.9-63.3兆円(医療給付費は48.7-48.3兆円、介護給付費は14.6兆円)で、対GDP比は9.7-9.8%に、2040年度には92.9-94.7兆円(医療給付費は68.3-70.1兆円、介護給付費は24.6兆円)で、対GDP比は11.7-12.0%に膨らむと予測されます。

医療・介護給付費は、現状のまま推移すると、2040年度には92.9-94.7兆円となり、対GDP比は11.7-12.0%になる見込み

医療・介護給付費は、現状のまま推移すると、2040年度には92.9-94.7兆円となり、対GDP比は11.7-12.0%になる見込み

 
医療給付費に幅があるのは、単価について「経済成長率の3分の1+1.9%-0.1%」と「賃金上昇率と物価上昇率の平均+0.7%」という2パターンを置いているためです(単純に「前者のほうが単価が高くなる」というロジックでない点に留意)。

 
医療・介護給付費の膨張は我が国の財政を圧迫してしまうため、厚労省は▼地域医療構想の策定と実現▼医療費適正化の推進(第3期医療費適正化計画)▼介護サービス・施設の適正な整備(介護保険事業(支援)計画)—などを進めています。

これらの計画が医療・介護給付費の伸びにどのような影響を与えるのかについて、厚労省は、▼医療では、病床機能の分化・連携や後発医薬品の普及などの適正化を進めることで、2040年度時点で1.6兆円を圧縮できる▼介護では、地域のニーズに応じたサービス基盤の充実を行う必要があり、2040年度で1.2兆円増加する―と見通します【計画ベース】。

▽2025年度:62.7-63.1兆円で、現状投影に比べ「0.2兆円程度の圧縮が可能」(対GDP比は9.7-9.8%で、現状投影と変わらず)
・医療給付費:47.4-47.8兆円(同0.9兆円の圧縮)
・介護給付費:15.3兆円(同0.7兆円の増加)

▽2040年度:92.5-94.3兆円で、現状投影に比べ「0.4兆円程度の圧縮が可能」(対GDP比は11.7-11.9%で、現状投影から0.1ポイント程度の圧縮)
・医療給付費:66.7-68.5兆円(同1.6兆円の圧縮)
・介護給付費:25.8兆円(同1.2兆円の増加)

地域医療構想の実現や医療費適正化計画などにより、医療・介護給付費は、2040年度には92.5-94.37兆円となると考えられる

地域医療構想の実現や医療費適正化計画などにより、医療・介護給付費は、2040年度には92.5-94.37兆円となると考えられる

 
 
 このように、地域医療構想の実現や医療費適正化を推進することで「疾病や状態像に応じてその人にとって適切な医療・介護サービスが受けられる」ことになりますが、医療・介護給付費の圧縮効果は限定的なことが分かります。

なお、年金などを加味した社会保障全体で見ると、2018年度には121.3兆円(対GDP比21.5%)であったものが、2025年度には140.2-140.6兆円(同21.7-21.8%)に、2040年度には188.2-190兆円(同23.8-24.0%)に膨らむ見通し。さらに、アベノミクスによる経済成長が実現した場合には、医療・介護給付費は、2025年度には65.8-67.3兆円(医療給付費は49.3-50.8兆円、介護給付費は16.5兆円、対GDP比は9.3-9.5%)に、2040年度には99.2-104.1兆円(医療給付費は70.5-75.4兆円、介護給付費は28.7兆円、対GDP比は10.7-11.2%)に抑えられると予測されます。

年金などを加えた社会保障給付費全体で見ると、地域医療構想の実現などによって、2040年度には188.2-190兆円となり、対GDP比は23.8-24.0%になると考えられる

年金などを加えた社会保障給付費全体で見ると、地域医療構想の実現などによって、2040年度には188.2-190兆円となり、対GDP比は23.8-24.0%になると考えられる

アベノミクスによって経済成長が実現した場合、2040年度の医療(赤色部分)・介護給付費(橙色部分)は増加するものの、対GDP比は低く抑えられると考えられる

アベノミクスによって経済成長が実現した場合、2040年度の医療(赤色部分)・介護給付費(橙色部分)は増加するものの、対GDP比は低く抑えられると考えられる

 

2040年度には1065万人の医療・介護人材が必要だが、健康寿命延伸などで軽減可能

次に、医療・介護・福祉分野で必要となるマンパワーについて見てみましょう。上述のとおり、人口減少社会では「医療・介護を直接支える人材」の確保が、極めて重要な課題となります。

上述した計画ベース(地域医療構想の実現など)に基づくと、2025年度には931万人(医療322万人、介護406万人など)が必要となり、全就業者のうち14.7%が医療・介護・福祉に携わらなければ、この計画を達成できません。

また2040年度には、1065万人(医療328万人、介護505万人など)のマンパワーが必要となり、これは全就業者の18.8%が医療・介護・福祉分野で働くことでやっと実現できます。

ただし、例えば「健康寿命を延ばし、医療・介護ニーズを減少させる」ことで、医療・介護・福祉分野で必要なマンパワーを少なくすることができます。また、「IT等を活用して業務の効率化を図る」ことによって、やはり必要となるマンパワーを減らすことが可能です。

この両者を実現できた場合、2040年度に医療・介護・福祉分野で必要となるマンパワーは935万人となり、全就業者の16.5%で済む計算です。計画ベースに比べて130万人・2.3%の減少が見込め、人材確保が困難な状況の下では極めて大きな数字と言えるでしょう(医療では293万人が必要で、計画ベースに比べて35万人減、介護では438万人が必要となり、計画ベースに比べて67万人減)。

なお、「健康寿命の延伸」による効果は、2040年度時点で81万人(医療17万人・介護44万人など)、「IT等活用」による効果は、同じく53万人(医療16万人・介護26万人など)ののマンパワー必要量「減」と見込まれます。

2040年度には医療・介護分野で1065万人の従事者が必要になる(全就業者の18.8%)と見込まれるが、健康寿命の延伸によるニーズ減、ICT等活用による生産性向上によって、130万人少ない935万人(同16.5%)で済むと考えられる

2040年度には医療・介護分野で1065万人の従事者が必要になる(全就業者の18.8%)と見込まれるが、健康寿命の延伸によるニーズ減、ICT等活用による生産性向上によって、130万人少ない935万人(同16.5%)で済むと考えられる

 

「健康寿命の延伸」と「ICT等活用による生産性の向上」が今後の社会保障改革の柱

 こうした試算結果を踏まえて厚労省は、今後の社会保障改革においては、「健康寿命の延伸」と「ICT等の活用による業務の効率化・生産性の向上」が欠かせないことを改めて強調しています(関連記事はこちら)。

2040年に向けた、社会保障改革の柱その1(健康寿命を延伸することで、医療費等の伸びを抑える)

2040年に向けた、社会保障改革の柱その1(健康寿命を延伸することで、医療費等の伸びを抑える)

2040年に向けた、社会保障改革の柱その2(生産性を向上させ、少人数の支え手で効果的なサービス提供を行うことを目指す)

2040年に向けた、社会保障改革の柱その2(生産性を向上させ、少人数の支え手で効果的なサービス提供を行うことを目指す)

 
社会保障改革について、これまでは、ともすると「負担の付け替え」論議が中心となっていたきらいがあります。例えば、後期高齢者の医療費が膨張する中で、若人からの支援について「従前の『頭数』による支援金額の決定方式から、『負担能力』も加味した支援金額の決定方式への移行」(総報酬割の段階的導入)などが議論・実施されてきました。もちろん、「公平な負担」を目指す改善は、社会保障制度の安定性(国民の制度に対する信頼と連帯意識が制度のベースとなる)を確保する上で欠かせず、今後も継続していく必要があります。ただし、社会保障費全体が我々が負担しきれない水準にまで膨張してしまえば、「負担の在り方」の見直しでは対応しきれなくなってしまいます。

健康寿命の延伸に向けて、厚労省は、現在個別に展開されている▼生活習慣病対策(40歳以上を対象に市町村国保等が実施、国保の財政責任主体が都道府県となった後も、きめ細かな保健事業等は市町村が担う)▼フレイル対策(75歳以上を対象に後期高齢者医療制度を運営する後期高齢者広域連合が実施▼介護予防(65歳以上を対象に介護保険の保険者である市町村が実施)—などを、一体的に実施し、より大きな効果を目指す考えです。

また健康寿命の延伸は、「元気な高齢者」の増加も意味します。生産年齢人口とされる若人が減少する中で、「元気な高齢者」が医療・介護の支え手となることで、医師や看護師などの専門職が、本来業務に専念でき、「少ない専門職」による大きなパフォーマンスの達成が期待されます(関連記事はこちら)。

 
一方、ICTの活用は、「働き方改革」の中でも注目され、その進化スピードは目を見張るものがあります(例えばスマートフォンを活用したテレビ電話システムなどは、かつては空想の世界でしか存在しなかった)。例えば2018年度の診療報酬改定でも、【オンライン診療料】等が導入されるなど、活用の幅は確実に広がっており、さらなる推進が期待されます(関連記事はこちらこちら)。

地域医療構想の実現に向け、診療報酬や基金によるインセンティブ付与などを検討

ところで、こうした試算の前提の1つとして「地域医療構想の実現」があげられます。2025年における医療ニーズを勘案して、一般病床・療養病床を▼高度急性期▼急性期▼回復期▼慢性期―に機能分化し、より効率的な医療提供体制を構築する構想です。

すでに全都道府県で地域医療構想は策定されており、現在は、「地域医療構想の実現に向けて、各都道府県や構想区域(主に2次医療圏)における地域医療構想調整会議の議論をいかに活性化させるか」というフェーズに移っています(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。

この点について厚労省は、5月21日の経済財政諮問会議において、「地域医療構想調整会議における議論の徹底した進捗管理」とともに、「医師確保対策」(改正医療法)や「インセンティブ」(診療報酬や地域医療介護総合確保基金等)、「知事の権限」(改正医療法)などを組み合わせることで、「具体的対応方針」の速やかな策定に向けて、一層の取組を加速させる考えを強調しています。

地域医療構想の推進に向けた厚労省の考え

地域医療構想の推進に向けた厚労省の考え

 
さらに安倍晋三内閣総理大臣は、「地域医療構想の着実な実現には2018年度が非常に重要である」とし、厚労省に対し▼今年秋(2018年秋)を目途に、全国の対応方針の策定状況を中間報告を示し、先進事例の横展開など、今年度中の対応方針の策定を後押しする▼病床の転換や介護医療院への移行などが着実に進むよう、地域医療・介護のための基金や診療報酬改定等、これまでの推進方策の効果・コストを検証する▼有識者の意見も聞きながら、更なる実効的な推進方策を検討・実施する―よう指示しています。
 
 
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