再編・統合も視野に入れた「公立・公的病院の機能分化」論議が進む―地域医療構想ワーキング(1)
2018.5.16.(水)
高齢化の進展に伴って医療・介護ニーズが増加する側面がある一方で、我が国は人口減少社会に突入しており、地域によっては「患者数そのものが減少」しているところもある。また医師不足・地域偏在について、一定の対策は講じられているものの、解決にはまだ時間がかかる。そうした中で、病院の安定運営を含めた適切な医療提供体制を確保するためには、「病院の再編・統合」も検討していく必要がある―。
5月16日に開催された地域医療構想ワーキンググループ(「医療計画の見直し等に関する検討会」の下部組織、以下、ワーキング)で、こういった視点に立った議論が行われました。
目次
公立・公的病院の地域医療構想での位置づけ、17県で議論に着手済
2025年における医療ニーズに適切に対応するために、高度急性期・急性期・回復期・慢性期の機能ごとの必要病床数などを定めた地域医療構想の実現に向けて、各構想区域(主に2次医療圏)で地域医療構想調整会議が開かれ、病院・病床の機能分化・連携の推進に向けた議論が進められています。
議論は、(1)まず公立病院や公的医療機関等2025プランの策定対象となっている公的医療機関などの協議を、2017年度中に開始し、具体的な対応方針を速やかに決定する(2)事業計画を大幅に変更するような事情(例えば、開設者の変更など)民間医療機関についての協議を速やかに始める(3)その他の病院についての協議を今年度(2018年度)中に始める―という、大きく3ステップ(もちろん重複した議論となる)で進められ、あわせて「非稼動病棟を有する医療機関」「新設や増床の許可申請」への対応も行います(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
(1)の公立病院・公的医療機関などの協議は、多くの自治体で順調に進められていることが分かりました。管内の全公立・公的医療機関に関する議論が始まっているのは、▼山形▼群馬▼神奈川▼石川▼福井▼山梨▼長野▼岐阜▼滋賀▼兵庫▼和歌山▼広島▼徳島▼香川▼愛媛▼宮崎▼鹿児島―の17県にのぼり、他の多くの自治体でも相当程度、議論に着手できている状況が伺えます。
さらに、福井県では全公立・公的医療機関について、各医療機関が策定した改革プランをベースに、地域医療構想会議の中で「具体的対応方針」(例えば、病床の機能転換やベッド数の見直しなど)が取りまとめられています。全国ベースでは823の公立病院のうち38病院について、834の公的病院等のうち70病院について、具体的対応方針が固められています。
ところで、「地域医療構想の実現」について、一部には「過剰な急性期病床を削減し、不足する回復期に機能転換する」という単純な構図と捉える向きもありますが、地域によって疾病構造・人口動態・地理的状況・医療資源は区々であり、一律の議論はできません。
「医療資源が豊富、かつ急性期病床が過剰」な地域では、前者のように「急性期から回復期への転換」が中心課題になると思われますが、「医療資源が不足しており、地域の医療ニーズに応えるために、急性期を含めて医療提供体制の強化を行わなければならない」地域や、「同じ機能を持つ病院が複数あるが、人口の減少などが進み、資源の集約化が必要となる」地域などでは、分散した資源(医師、看護師などのマンパワーも当然含む)を集約するために、「病院の再編・統合」が重要な選択肢の1つとなります。
5月16日のワーキングでは、茨城県と徳島県から、「病院の再編・合併」事例に関する報告が行われました。
医師不足などの課題に対応するために、病院の合併を選択する事例も
茨城県の筑西・下妻医療圏では、公立の2病院が急性期医療を担っていましたが、医師不足によって診療機能の縮小をせざるを得ず、これがために半数程度の患者が近隣医療圏・近隣県の医療機関受診を余儀なくされていました。こうした状況を改善するため、2つの公立病院と1つの民間病院が再編統合し、2つの公立病院(1病院は地方独立行政法人化、1病院は再編に参加した民間病院が指定管理者となる、ベッド数はトータルで173床減)に生まれ変わります(今年(2018年)10月開院予定)【公立の県西総合病院、公立の筑西市民病院、民間の山王病院→公立の茨城県西部メディカルセンター、公立のさくらがわ地域医療センター】。
また同じ茨城県の鹿行医療圏では、深刻な医師不足による公的2病院(済生会と労災)が2次救急医療を十分に担えず、同医療圏にある神栖市では7割の患者が市外の医療機関を利用せざるを得ない状況でした。これを改善するために、両公的病院を再編統合し、1つの本部病院(350床)と1つの分院(10床)に再編し、本部病院に資源・機能を集約することが決まっています(ベッド数はトータルで18床減、2019年4月に分院を開院し、早期日本院を増築する予定)【神栖済生会病院、神栖労災病院→神栖済生会病院の本院と分院】。
設立母体の異なる後者の合併事例について茨城県は、「マンパワー確保のために、一定期間、済生会の高水準の給与保障が必要となった。こうした点への支援(補助金や地域医療介護総合確保基金の活用など)があるとよいのではないか」と付言しています。
また後者の合併に向けた協議に実際に参画した岡留健一郎構成員(日本病院会副会長)は、「地域医療構想のはるか前に、『医療資源が乏しく、かつ散在している地域で、どう医療提供体制を確保していくか』という問題意識から、自然発生的に再編・統合の議論が始まった。地域の特性を十分に踏まえた議論が必要である」と述べ、全国一律の地域医療構想実現論を牽制しています。
一方、徳島県の南部医療圏にある阿南市には、老朽化・医師の高齢化に悩む阿南共栄病院(JA徳島厚生連)と、深刻な医師不足・高齢化という問題を抱える阿南医師会中央病院(阿南市医師会立)とで、「地域の基幹病院」設立に向けた協議が進められてきました。協議には難しさも伴いましたが、阿南市が参加し、「阿南市医師会が、医師会中央病院の資産・経営権をJA徳島厚生連に無償譲渡する」ことが決まり、JA徳島厚生連「阿南医療センター」に生まれかわります(ベッド数はトータルで174床減)。阿南医療センターでは、従前に両病院が有していた▼地域医療支援病院▼救急告示病院▼災害拠点病院▼臨床研修指定病院―などの機能を引き継ぐとともに、「救急患者受け入れ体制の充実」「緩和ケア病棟の設置」「リハビリの充実、訪問診療の充実」などの機能強化も行います。
どのように「医師会からJA徳島厚生連への資産・経営権の『無償』譲渡」が実現したのか、その背景が注目されそうです。
なお、厚生労働省が341構想区域について調べたところ、少なくとも24区域で、病院の再編・統合論議が進んでいることが分かりました。例えば、▼青森県:国立弘前病院と弘前市立市民病院の合併▼宮城県:栗原市立栗原中央病院と宮城県立循環器・呼吸器病センターの合併▼愛知県:岡崎市民病院と愛知県がんセンター愛知病院の合併▼鹿児島県:鹿児島医療センターと鹿児島逓信病院―などです。
病院の合併を含む再編・統合には、上述のような「給与」のほかにも、「県立病院が合併後に市立病院となる場合の身分をどう考えるか」、「役職はどうなるのか(例えば新看護部長はA病院とB病院のいずれの看護部長が就くのか)」、「地域住民の賛同は得られるのか」など、考慮しなければならないテーマ・課題が多数あり、これらに十分に配慮せずに議論を進めた結果、十分な効果が得られないケースも少なくありません。メディ・ウォッチでは、病院合併が成功した好事例の代表ケースである「日本海総合病院」の栗谷義樹院長(当時、現在は山形県・酒田市病院機構理事長)に、合併を検討・実行する際のポイントを伺っています。是非、ご覧ください(当該記事はこちら)。
秋田・福島・京都・大阪・沖縄では、公立・公的病院論議が始まらず
前述のように、地域医療構想調整会議では、公立・公的医療機関に関する議論が行われていますが、▼秋田県▼福島県▼京都府▼大阪府▼沖縄県―では「手つかず」となっています(宮城県は精査中)。
未着手の理由は、「公的医療機関等改革プラン策定が年度末となり、調整会議の論議に間に合わなかった」(秋田県)、「民間病院が多く、公民あわせて議論をしていく必要があった」(大阪府)などさまざまですが、各府県とも今年度(2018年度)中に議論を開始するととしており、早急なスケジュール調整などの準備が求められます。
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