急性期の外科病棟だが、1か月に手術ゼロ件の病棟が全体の7%—地域医療構想ワーキング(2)
2017.7.19.(水)
高度急性期・急性期と報告している外科病棟において、全身麻酔手術が1か月にゼロ件のところが360病棟(約18%)あり、うち148病院(全体の約7%)では手術そのものがゼロ件であった—。
19日に開催された地域医療構想に関するワーキンググループ(医療計画等の見直しに関する検討会の下部組織以下、ワーキング)では、こういった分析結果が厚生労働省から報告されました。今後、病床機能報告の4機能それぞれに「その機能らしい」医療内容項目を複数設定し、それら「すべてに該当しない」病棟については、地域医療構想調整会議で機能を確認してはどうかといった方向が示されています(関連記事はこちら)。
また、医療内容だけでなく、「入院患者・退院患者の経路」を病棟機能の指標とできないかという研究内容もワーキングに報告されています。
各機能に代表的な診療行為などを設定し、機能判断の目安とできないか
一般病床・療養病床をもつ病院・有床診療所は、毎年、自院の各病棟が▼高度急性期▼急性期▼回復期▼慢性期―のいずれの機能(現在および将来)を持つのか、さらに現在の構造設備や診療実績はどうなっているのか、というデータを都道府県に報告します(病床機能報告)。この報告内容と、すでに都道府県策定した地域医療構想(2025年における4機能ごとのベッド数など)とを比較しながら、地域のあるべき医療提供体制を段階的に構築することが求められています。
現在、各病院が報告する機能については、一部、診療報酬などとの紐づけが行われていますが、定性的な基準しか定められていません。ワーキングでは、▼高度急性期▼急性期▼回復期▼慢性期—の各機能について、より明確な判断指標はないか、といった点に着目した検討も行っています。いわば「定量的基準」を探る検討ともいえるかもしれません。例えば5月10日の第4回会合では、「高度急性期を選択する循環器内科の中には、経皮的冠動脈形成術を1か月に1件も実施していないとところが103病棟ある」ことが、6月2日の第5会合では、機能ごとの人員配置状況などが報告されています。
19日の会合では、新たに次のような分析結果が報告されました。
(1)急性期と報告している病棟(1万1459病棟)のうち、895病棟・7.8%では「幅広い手術」(全身麻酔手術や人工心肺を用いた手術など)に、1572病棟・13.7%では「がん・脳卒中・心筋梗塞などへの治療状況」に、2170病棟・18.9%では「救急医療の実施状況」に、610病棟・5.3%では「全身管理の状況」に、1項目も合致していない
(2)高度急性期・急性期と報告している外科病棟(2031病棟)のうち、360病棟・17.7%では全身麻酔手術が1か月にゼロ件で、うち148病棟・7.3%病院では手術そのものを1か月に1件も実施していない
(3)高度急性期・急性期と報告している呼吸器内科病棟(681病棟)のうち、40病棟・5.9%では酸素吸入を1か月に1件も実施せず、また31病棟・4.6%では呼吸心拍監視を同じく1件も実施していない。また24病棟・3.5%では、両行為を1か月に1件も行っていない
これらは、当該病棟において代表的な診療行為と言え、例えば「手術を1か月に1件も行わない」病棟が、急性期あるいは高度急性期と報告している事態には違和感を覚えます。
そこで厚労省は、今後「その病棟機能らしい」医療内容に関する項目を複数設定し、▼A診療行為を実施しているか→▼B診療行為を実施しているか→▼C診療行為を実施しているか—という、いわば「篩」を設け、例えば「ABCすべて1回も実施していない」病棟については、その選択内容について、地域医療構想調整会議で確認することを求めています。これまでの分析内容を踏まえると、「診療科」をも勘案することになりそうです。
4機能ごとに「入棟・退棟患者の経路」に特徴あり
ところで、こうした「その病棟機能らしい」「その病棟機能に代表的な」医療内容は、高度急性期などでは比較的明確になりますが、慢性期病棟などでは代表的な医療内容が設定しにくいとの指摘があります(少なくとも現在の報告内容には含まれていない)。
この点について厚労省は、研究者に「病棟機能を判断するための指標」に関する研究を依頼しており(厚生労働科学研究費)、19日には石川ベンジャミン光一参考人(国立がん研究センター社会と健康研究センター臨床経済研究室長)から、「入院(棟)患者・退院(棟)患者の経路」が指標の1つとなるのではないか、との研究成果が報告されています。
石川参考人によれば、高度急性期、急性期、回復期、慢性期の各病棟には次のように入退棟経路に一定の特徴があります。
▼高度急性期:家庭や院内の他病棟から「入棟」が極めて多く、家庭や院内の他病棟への「退棟」が多い
▼急性期:高度急性期よりも、他院や介護施設からの入棟が少し多く、退棟先も他院や介護施設、死亡退院などが若干、高度急性期よりも多くなる
▼回復期:院内の他病棟からの入棟が半分を占め、家庭への退棟が7割を占める
▼慢性期:他院から、院内の他病棟から、家庭からの入棟がそれぞれ3分の1程度ずつで、家庭への退棟は割にとどまり、死亡退院が3割を占める
現在の病床機能報告制度では、入棟前・退棟先の状況について「毎年6月、1か月分」のデータしかありません。このため患者の出入りが少ない(入院期間が長い)回復期や慢性期の特徴・状況の分析には限界があります。しかし、今年度分(2017年度分)の報告からは1年間のデータが集積されるため、より実態にあった分析が可能になると思われます。
石川参考人は、こうしたデータを踏まえ「入院患者・退院患者の経路を、4機能を判断する指標の1つとできる可能性がある」旨の考えを示しています。
しかし、中川俊男構成員(日本医師会副会長)は、「地域医療構の実現に向けて、各医療機関が自主的に機能分化していく方向を何度も確認している。にもかかわらず、患者の流れなどを精緻に分析して指標化すれば、医療現場はまだ大混乱してしまう」と述べ、定量化論議そのものに異論を唱えています。また織田正道構成員収(全日本病院協会副会長)も「極めて興味深いデータだが、あくまで自主的に機能分化する際の目安とすべきである」とコメントしています。
これら医療提供側構成員の指摘は「定量化論議は慎重に行うべき」との考えに基づくものと言えそうですが、費用負担者である本多伸行構成員(健康保険組合連合会理事)は「いろいろな切り口で分析し、それを提示することで、各医療機関が自分で適切に4機能を判断できるようにすべきである」と述べ、定量化論議は積極的に進めるべきとの姿勢を示しています。今後の、各地域における調整会議論議や、厚労省から提示されるデータに、これまで以上に注目が集まりそうです。
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