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75歳以上の後期高齢者の医療費自己負担、段階的に2割に引き上げよ―財政審

2018.4.26.(木)

 公的医療保険制度における「世代間の負担の公平性」を図るため、75歳以上の後期高齢者について自己負担(窓口負担)を2割に引き上げるべきである。また介護保険においても、給付と負担のバランスを考慮し、自己負担を2割に引き上げる必要がある。さらに、医療費の大幅増があった場合に、自動的に給付率(保険から給付される割合)を調整する仕組みを検討するべきである—。

4月25日に開催された財務省の財政制度等審議会「財政制度分科会」で、こういった議論が行われました(関連記事はこちらこちら)。

新たに75歳に到達する人から2割とすることで、個人単位の自己負担増は避けられる

 高齢化の進展や医療技術の高度化などによって医療費・介護費等が増加し、我が国の財政を圧迫していると指摘されます。このため財政制度分科会では、財政の健全化に向けて、社会保障改革の議論を独自に進めています。

財務省は改革の視点として、▼保険給付範囲の見直し(軽度傷病における特別負担の設定や、費用対効果評価の導入など)▼公定価格と提供体制の見直し(診療報酬マイナス改定や地域医療構想の推進など)▼給付と負担のバランス確保―の大きく3点を掲げ、4月25日には3点目の「給付と負担のバランス確保」に焦点が合わせられました。

具体的には、次の5項目の改革案が提示されています。
(1)後期高齢者における医療費窓口負担の見直し
(2)介護保険の利用者負担見直し
(3)医療保険における「金融資産を考慮した負担を求める仕組み」の導入
(4)後期高齢者医療制度における「現役並み所得」の判定方法見直し
(5)医療保険の給付率を自動的に見直す仕組みの導入

まず(1)は、2019年度から新たに75歳に到達する人について、医療費の自己負担(窓口負担)を、現在の1割から2割に引き上げるよう求めています。70-74歳の医療費自己負担は、2014年度から「新たに70歳に到達する人において2割負担とする」という形で段階的に引き上げられており、現在(2018年度)は74歳の人において2割負担となっています。69歳以下では「3割負担」ですから、70-74歳の自己負担割合が「1割→2割」に引き上げられたとしても、個人単位でみれば「3割→2割」への負担軽減となるのです。

70-74歳の前期高齢者の自己負担割合は、段階的に1割から2割に引き上げられているが、個人単位では「従前1割であったものが2割にアップする」わけではない

 
 この「2018年度に74歳となった人」は、2019年度には75歳、つまり後期高齢者医療制度に加入することになりますが、そのタイミングで「新たに後期高齢者になる人について医療費自己負担を2割に引き上げる」ことができれば、個人単位での自己負担増をせずに(2割負担のまま後期高齢者医療制度に移ることになる)、自己負担割合の引き上げが可能となるのです。もっとも法改正が必要であり、2019年度から導入する場合には、遅くとも今の通常国会に改正法案が提出されている必要があります。
2018年度には、70-74歳の前期高齢者で医療費自己負担は2割となっており、2019年度に「新たに75歳以上に到達する人から、後期高齢者医療制度でも自己負担は2割とする」仕組みを導入すれば、円滑な自己負担引き上げが可能となる

2018年度には、70-74歳の前期高齢者で医療費自己負担は2割となっており、2019年度に「新たに75歳以上に到達する人から、後期高齢者医療制度でも自己負担は2割とする」仕組みを導入すれば、円滑な自己負担引き上げが可能となる

 
この仕組みについては、社会保障審議会・医療保険部会でも、保険者代表の佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)らから提案されており、また70-74歳で導入されたものであることを考えると、実現の可能性は比較的高そうに思えます(関連記事はこちら)。

なお財務省は、「すでに後期⾼齢者となっている者についても、数年かけて段階的に2割負担に引き上げるべき」とも付言しています。「後期高齢者医療制度における世代内の負担の公平性」を考えたものと言えますが、これでは、前述の「個人単位での負担増を避けて、自己負担割合を上げる」仕組みを導入する必要性は低くなり、提言の趣旨が見えにくくなっています。

医療費増に応じて給付率を調整する仕組み、医療保険では「負担増の緩和」になるのか

また(5)の給付率を自動的に調整する仕組みは、例えば「医療費が大幅に増加した場合に、給付率(年齢や所得に応じて7-9割)を下げる(逆に言えば自己負担割合を上げる)」ようなイメージです。

財務省は、医療費が大幅に増加した場合でも、保険料率等のアップを抑えるために、給付率を減らしてはどうか(下段)と提案している

財務省は、医療費が大幅に増加した場合でも、保険料率等のアップを抑えるために、給付率を減らしてはどうか(下段)と提案している

 
すでに公的年金制度では「現役世代の負担が過重にならないように、年金額の伸びを抑えることでバランスをとる」仕組み(マクロ経済スライド)が導入されており、医療保険制度にも、この考え方に倣ってはどうかという提案です。

この仕組みの趣旨は「負担者の過重な負担を避ける」ことが狙いとされ、年金制度では「現役世代が保険料を負担し、高齢者が年金給付を受ける」(つまり、ある時点できれば負担者と受益者が異なる)仕組みゆえに短期的には効果(過重な負担を避ける)が分かりやいと言えるでしょう(もっとも長期的に見れば、保険料の減少は、将来受け取る年金額の減少を意味する点には留意が必要です)。

一方、医療保険制度では負担者と受給者が重複するために、その効果が分かりにくいとも思えます。例えば、給付率調整で保険料率が上がらなくても、給付率が減り自己負担が増えれば、結果として「財布から出ていくお金は変わらない」ため、負担増は避けられないのです。

ただし、給付率が減少すれば、医療費の4分の1を占める国費負担が減少するため、「財政健全化」に向けた効果は明確に現れます。

医療保険部会では、この仕組みへの慎重論が強く出されており、実現可能性の程度は不明と言わざるを得ないでしょう(関連記事はこちら)。

 
 このほか、(2)では「介護保険における給付と負担のバランスを考慮し、自己負担を2割に引き上げる(現在、原則1割負担で、高所得者のみでは2-3割負担)」、(3)では「マイナンバー制度を活用して、金融資産を勘案した自己負担割合などを設定する」、(4)では「元気世代より高い所得を得ている人でも『現役並み所得』と見做されてない現行基準を改善する」ことを提案しています。

高所得の高齢者でも「現役並み所得」とカウントされないケースが多いと財務省は指摘する

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