後期高齢者の医療費一部負担、早急に「原則2割」へ引き上げよ―被用者保険5団体
2018.5.28.(月)
医療保険制度の持続可能性を考慮し、75歳以上の後期高齢者の医療費一部負担を早急に「原則2割」に引き上げるとともに、高齢者医療制度への拠出金負担の軽減、医療費の適正化推進などを、骨太方針2018に盛り込むべきである―。
健康保険組合連合会、全国社会保険協会(協会けんぽ)、日本経済団体連合会、日本商工会議所、日本労働組合総連合会の被用者保険5団体は5月25日に、加藤勝信厚生労働大臣に宛てて、こういった要望書を提出しました(関連記事はこちらとこちら)。
医療費の伸びを抑えるため、診療報酬の包括化や適切な受診行動促進なども進めよ
我が国の財政を健全化し、同時に、経済を再生するために毎年度、「経済財政運営と改革の基本方針」(いわゆる骨太の方針)を策定します。そこでは、高齢化の進展や医療技術の高度化などにより膨張を続ける社会保障費を、我々国民が負担しきれる範囲に抑えるための方策も打ち出され、現在、「骨太の方針2018」策定に向けた検討が経済財政諮問会議を中心に進められています(関連記事はこちらとこちら)。
2025年には、いわゆる団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となるため、今後、医療・介護費が急速に増加していくと考えられ、被用者保険5団体は、「骨太の方針2018」において、将来にわたり持続可能な医療保険制度を構築するために「一歩踏み込んだ改革に取り組むことが急務」とし、今般、加藤厚労相に宛てて次の5項目を踏まえた改革を行うよう要望しました(厚労省保険局の鈴木俊彦局長に手渡し)。
(1)後期高齢者の医療費一部負担2割への引き上げ
(2)高齢者医療への拠出金負担軽減
(3)社会保障給付の効率化による持続可能性の確保
(4)医療費の適正化
(5)保険者機能の強化
まず(1)は、現在「原則1割」となっている75歳以上の後期高齢者の医療費一部負担を「原則2割」に引き上げるよう求めるものです。
医療費は「国民全員が負担している」という意識を涵養するため、また過剰な医療機関受診を抑制するため、医療機関を受診した際には、患者自身が医療費の一部を負担することとなっています(窓口負担)。この点、「1人当たり医療費に対する年間自己負担額(一部負担の額)」の割合を年齢別に見ると、▼20-64歳(3割負担):22.3%[年間の1人当たり医療費は17万5000円]▼65-69歳(3割負担):21.1%[同42万2000円]▼70-74歳(2割負担):12.6%[同56万2000円]▼75歳以上(1割負担):8.1%[同91万8000円]―となっています(2012年度)。さまざまな見方ができますが、「高齢者では傷病に係る機会が多くなるため、1人当たり医療費は必然的に高くなる。その一方で、負担割合が小さく、世代間の不均衡が大きい」と見る向きもあります。
医療費一部負担は、年齢・所得に応じて1-3割に設定されていますが、「世代間の負担の公平性」を確保するために、70-74歳(前期高齢者)では、従前の「原則1割」から段階的に「原則2割」に引き上げられています。具体的には、2014年度から「新たに70歳に到達する人において2割負担とする」という形が採られて、現在(2018年度)は70-74歳の前期高齢者において「原則2割」負担となっています。69歳以下では「3割負担」となるので、70-74歳の自己負担割合が「1割→2割」に引き上げられたとしても、個人単位でみれば「3割→2割」への負担軽減となる形です。
被用者保険5団体は、さらなる世代間の公平性を確保することが重要とし、75歳以上の後期高齢者の一部負担についても、低所得者に配慮した上で、早急に「原則2割」とするべきと要望しています。
また(2)では、高齢者医療制度への現役世代からの拠出金負担が被用者保険財政を圧迫している(健保組合でみると、2018年度には拠出金負担が40%以上50%未満の組合が全体の60.5%を占めている)ことに鑑み、「安定財源を確保した上で、公費負担を拡充するなどし、現役世代の負担を軽減し、保険者の健全運営に資する措置を講じよ」と求めています。
さらに(3)では、医療費そのものの伸びを抑えるために、▼医療機能の分化・連携による医療の効率化▼医療の地域間格差の是正▼終末期医療費の在り方の見直し(患者の意思の尊重)▼適切な受診行動の促進など、医療の有り様の見直し▼薬価制度の抜本改革の推進▼後発医薬品のさらなる使用促進▼診療報酬の包括化▼ICTを活用した医療費適正化・効率化―などを総合的に実施するよう要望しています。
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