フレイル対策と介護予防の一体実施、「無関心層の参加」が重要課題―社保審・介護保険部会
2018.8.1.(水)
フレイル対策と介護予防事業を一体的に実施し、健康寿命の延伸(平均寿命との格差縮小)を目指す。また介護保険のデータベースと医療保険のデータベースとを連結・解析可能とすることで「より質の高い医療・介護サービスの提供」につなげる―。
7月26日に開催された社会保障審議会・介護保険部会でも、こういった方針が了承されました(社会保障審議会・医療保険部会では既に了承済)。フレイル対策と介護予防の一体実施には「無関心層の参加を促すような工夫」、データベースの連結には「個人が特定されないような配慮」を行う必要があるとの提案がなされ、今後、制度設計の中で検討していくことになります(関連記事はこちらとこちら)。
目次
フレイル対策と介護予防を一体的に実施することで、健康寿命の延伸を目指す
2025年には、いわゆる団塊の世代がすべて後期高齢者となるため、今後、医療・介護ニーズが急速に増加していきます。その後、2040年にかけて高齢者人口の増加は続くものの、伸び率は鈍化し、併せて生産年齢人口が急激に減少していくため、介護保険制度を初めとする社会保障の存立基盤が極めて脆くなっていきます。
そうした中では、「負担の公平性をどう担保していくか」といった「制度面」の議論はもとより、「医療費・介護費の伸びをいかに、我々国民で負担できる水準に抑えるか」(適正化)がさらに重要になってきます(関連記事はこちらとこちら)。
この医療費・介護費適正化の一環として「健康寿命の延伸」が極めて重要なテーマとなります。厚生労働省は、75歳以上の後期高齢者が加入する後期高齢者医療制度の中で実施している「フレイル対策」(虚弱対策)と、介護保険制度の中で実施している「介護予防」を一体的に実施する考えを打ち出しています。現在、両者はそれぞれに効果を上げていますが、▼高齢者の「通いの場」を拠点として、フレイル対策を含めた介護予防と疾病予防・重症化予防を一体的に推進する▼市町村が「通いの場」の立ち上げや運営を支援するなどして、拠点を拡大する▼市町村と地域医師会等が連携し、必要な受診勧奨や保健指導に関する情報の共有などを行う―といった構想が示されているのです。厚労省老健局老人保健課の鈴木健彦課長(当時)は「両事業を一体的に実施することで、これまでの単独事業では見つけられなかった『健康上のハイリスク者』を見つけられる可能性も出てくるのではないか」と期待を寄せています。
ただし、事業の一体的実施に向けては、さまざまな制度的・技術的な課題に直面するケースもありそうです(財源、人員なども含めて)。厚労省は、有識者会議を設置し、制度的・技術的な論点を整理することを提案。この方針は7月26日の介護保険部会で了承されました。厚労省は、近く人選を行い、有識者会議の初会合を実施。1か月に1回程度のペースで議論を進め、年内に意見とりまとめとなる予定です(関連記事はこちらとこちら)。
なお、委員からは「若年者の加入する医療保険で実施している特定健康診査・特定保健指導との連続性を確保するべきである」(安藤伸樹委員・全国健康保険協会理事長)、「医学的・科学的な視点に立って事業を実施し、データ集積・分析を行い、PDCAサイクルを回していく必要がある」(江澤和彦委員・日本医師会常任理事)といった注文が付きました。
また、複数の委員から「無関心層が参加したくなるような工夫を凝らす必要がある」といった本質的な提案もなされました。例えば江澤委員は、「現在、要支援者に対する地域支援事業が全国で展開されているが、『多様なサービス』は少なく、従前の訪問介護・通所介護に相当するサービスが多い。保険者が工夫を凝らし、住民が自主的に参加したくなるような仕掛けを検討する必要がある」と指摘しています。もちろん、具体的な工夫は、先進事例(静岡県、三重県津市、東京都多摩市など)も踏まえて、個別市町村(介護保険の保険者)で検討されますが、有識者会議でもヒントになるような議論が行われることが期待されます。
NDBと介護DBの連結、個人が特定されないような配慮などを十分に
また7月26日の介護保険部会では、NDB(National Data Base:医療レセプトと特定健診に関するデータベース)と介護DB(介護保険総合データベース:介護レセプトと要介護認定に関するデータベース)の利活用を拡大し、さらに両データベースの連結を進める方針も了承されています。
両データベースを、匿名性を確保した上で連結し、解析を進めることで、例えば「特定健診で●●のリスクありとされたAさんが、その後、どのような疾病に罹患し、高齢になった際には、●●の機能が低下し、要介護状態となった。しかし、●●介護サービスを受けることで要介護度が一定程度改善した」といった知見が明らかになれば、より効果的な保健指導を実施することなどが期待されます(関連記事はこちらとこちら)。
もっともデータベースの連結によって、匿名化されているとはいえ、個人の特定可能性は高まります。とくに人口の少ない町村に居住する人では、その危険性が高まります。介護保険部会では「プライバシーへの配慮」をこれまで以上に求める意見が出されています。
この点、NDB・介護DBの連結について議論している「医療・介護データ等の解析基盤に関する有識者会議」でも、同様の認識に立ち、今秋(2018年秋)以降、セキュリティ確保を含めた技術的な課題について具体的に検討していくこととなっています。
介護保険における「財政運営の都道府県化」、制度の建付けも踏まえた慎重な検討が必要
なお、7月26日の介護保険部会では武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)から、「医療療養病床から介護医療院への転換を進めるために、介護保険の実務は市町村に置いたまま、財政を都道府県単位化してはどうか」との提案が行われました。
2017年の介護保険改正で、▼医療▼介護▼住まい―の3機能を併せ持つ、新たな介護保険施設として「介護医療院」が創設され、2018年度の介護報酬改定で点数設定がなされました。当面、介護療養病床(介護療養型医療施設)や医療療養からの転換が期待されていますが、しかし、医療療養から転換した場合、その費用が医療保険から介護保険に移るため、小規模な市町村では「介護費の急増→介護保険料の高騰」を恐れ、転換に躊躇していると武久委員は指摘。その上で、「介護保険の実務は市町村に置いたまま、財政を都道府県単位にしてはどうか」(広域化によって、介護費の急増・介護保険料の高騰を吸収できる)と提案しているのです(関連記事はこちらとこちら)。
この点、厚労省老健局総務課の北波孝課長は、「介護保険制度は地域保険として、保険者である市町村が給付とサービスとの双方を管理する仕組みをとっている。その建付け・趣旨も踏まえて検討する必要がある」と慎重な答弁をするにとどめています。
国民健康保険では「実務を市町村に残したまま財政責任主体を都道府県とする」との見直しが行われ、武久委員の提案もこれを踏まえたものです。ただし、国民健康保険(医療保険)と介護保険を比べると、「医療保険では、被保険者(住民)がより広域的に医療機関を受診する」(例えば、北海道や沖縄県のがん患者が、東京都の病院に入院することは珍しくはない)実態などを踏まえると、国保とは異なる観点からの検討も必要になりそうです。
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