医療療養から介護医療院へ転換進めるため、介護保険も「都道府県化を保険者」とせよ―日慢協・武久会長
2018.5.17.(木)
財務省が財政制度等審議会・財政制度分科会で行っている医療・介護などの改革案は「自己負担増」に偏っている。医療・介護費の伸びを抑制することは、もちろん必要だが、より根本的な、▼リハビリのできない急性期病院での入院期間を大幅に短縮させる▼急性期病院での初期治療終了後は、直ちにリハビリの充実した地域多機能型病院に転院させる▼慢性期病院での社会的入院を削減する―といった制度・政策の見直しを行うべきである―。
日本慢性期医療協会の武久洋三会長は、5月17日の定例記者会見でこのような提言を行いました。あわせて「医療療養から介護医療院への転換」問題について、介護保険の保険者を都道府県化する必要があるのではないか、との見解も示しています。
急性期の入院期間を短縮し、早期に充実したリハビリを行うことで医療・介護費を抑えよ
人口の高齢化や医療・医学の進展等により、社会保障費、とくに医療・介護費が大きく増加し、我が国の財政を圧迫していると指摘されます。財政健全化は、我が国の存立にも関わる重要テーマであり、医療・介護をはじめとする社会保障費の伸びを、いかにして「我々、国民の財布が許す範囲に抑えるか」が各所で検討されています。
我が国の財政を預かる財務省では、この4月(2018年4月)に財政制度等審議会・財政制度分科会に相次いで社会保障改革案を提示。例えば、▼軽微傷病患者に対する特別負担▼75歳以上の後期高齢者における医療2割負担▼介護サービス利用者の2割負担▼人口減少や経済成長に連動した窓口負担の自動引き上げ(給付率調整)—などが目立ちます(関連記事はこちらとこちら)。
こうした財務省の考え方について、武久会長は「一定の自己負担増は必要と考えるが、提案内容が自己負担増に偏り過ぎているのではないか。より根本的に制度・政策を見直す必要がある」と指摘。具体例として、次のような改革を検討してはどうかと提案しています。
(1)リハビリのできない急性期病院での入院期間を大幅に短縮させる
(2)急性期病院での初期治療終了後は、直ちにリハビリの充実した地域多機能型病院に転院させる
(3)慢性期病院での社会的入院を削減する
(4)一般病棟入院基本料における特定除外制度の経過措置撤廃
このうち(1)と(2)は、かねてから武久会長が提唱している考え方です。我が国では、先進欧米諸国に比べて、「平均在院日数が長く、人口当たりベッド数が多い」ことが知られています。また厚生労働省の医療施設動態調査によれば、一般病床(2018年1月末で89万1548床)が療養病床(同32万5222床)の3倍近くあり、武久会長は「急性期(一般)病床が慢性期(療養)病床の3倍もある、現在の医療提供体制はおかしい」と指摘した上で、これらの背景には「急性期病床において適切なリハビリをせず、患者を寝かせきりにしている」点に問題がある、と改めて強調しました(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
例えば、急性期で十分なリハビリをせずに1か月を過ごし、回復期リハビリ病棟などに転院してからリハビリを開始しても、効果は限定的で「寝たきり患者が増加してしまう」と武久会長は指摘。こうした事態を解消するために(1)と(2)を合わせて実施し、「リハビリのできない急性期病院からは早期(2週間から20日程度)に退院し、リハビリの充実した地域多機能病院に転院させる必要がある」と提案。早期からの適切なリハビリ提供により、「寝たきり高齢者」が半減すれば、我が国の医療・介護費用は大幅に削減できると見通します。
小規模市町村では、医療療養から介護医療院への転換で「介護保険料が高騰」してしまう
また(3)は、医療機能の低い療養病床について、医療分野からの退出を促す提案と言えます。2016年度の診療報酬改定で「25対1医療療養」(療養病棟入院基本料2)にも「医療区分2・3の患者割合が50%以上」との施設基準が導入され、2018年度の今回診療報酬改定では、▼療養病棟入院基本料は看護配置20対1に統一する▼施設基準で「医療区分2・3の患者割合」を80%以上・50%以上に設定▼看護配置25対1の病棟は経過措置でのみ存立を認める―などの厳格化(再編・統合)が行われました(関連記事はこちらとこちら)。ここから、武久会長は、「医療機能の低い療養病棟は、医療の世界には不要」との考え方が明確になったのではないか、と評します。
このため、25対1医療療養には、「看護配置を充実させ、重症患者(医療区分2・3の患者)をより積極的に受け入れて20対1医療療養となる」のか、あるいは「介護医療院などへ転換する」のか、の選択が迫られることになります(最終的に6年程度の経過措置となり、6年間で選択しなければならなくなる見込み)。もちろん、一部の病棟に医療資源・重症患者を集約させて「20対1医療療養」とし、残りを「介護医療院に転換する」など、両者を組み合わせる手法も考えられます(関連記事はこちらとこちら)。
ただし、地域の重症患者には限りがあり、医療療養病棟のすべてが重症患者を確保しようと努めるため、実際には前者の選択肢「25対1医療療養から20対1医療療養への移行」は、そう簡単ではありません。
そこで後者の「介護医療院へ転換する」との選択を考えることになりますが、小規模の市町村では「介護保険施設(介護医療院は新たな介護保険施設)の絶対量が増え、介護費がの増加し、介護保険料が高騰してしまう」として「医療療養から介護医療院への転換」に難色を示しているところもあるといいます。
つまり、地域によっては、「20対1医療療養への移行」も「介護医療院への転換」も難しく、身動きのとれない25対1医療療養が少なからず存在しているのです。
こうした問題について武久会長は、「小規模な市町村では、例えば50床の医療療養が介護医療院へ転換しただけで、介護保険料が2倍に跳ね上がってしまうところもあり、転換に難色を示すことも理解できる」とコメント。
一方で、「我が国は人口減少社会に入っており、将来的には要介護者も減少していく(すでに減少が始まっている地域もある)。その中では、新たな居住系の介護施設を建設するよりも、既存の病院病床を活用することが効率的・効果的である。一般病床・療養病床併せて30万床近くの空床があり、これを活用しない手はない」と指摘。医療療養から介護医療院への転換を積極的に進めていくべきと強調。その上で、上記の問題を解消するためには、「国民健康保険と同様に、介護保険でも、保険者を都道府県単位にすべきではないか」との考えを示しました(関連記事はこちら)。
医療・介護に限らず、保険制度は「多くの被保険者が保険料を納め、そこから保険事故にあった人に給付を行う」仕組みで、規模が小さいほど、保険財政は不安定になります(例えば、極めて小規模な医療保険において、超高額な医療費が発生すれば、一気に財政が悪化する)。こうした点も考慮(規模の拡大による財政の安定化)し、国民健康保険については、今年度(2018年度)から財政運営が「都道府県単位」となっています。
武久会長は、介護保険でも保険者の規模を「都道府県単位」とすることで財政が安定化し、「医療療養から介護医療院への転換によって、介護保険料が高騰してしまう」(これを避けるために転換を拒否する)という事態を避けられるのではないかと提案しているのです。
さらに武久会長は、「日慢協として、全国の『医療療養から介護医療院への転換に関する状況』を調査し、を明らかにしていきたい」との考えも提示。ただし、上述のように「市町村の事情」も理解でき、日慢協として「医療療養から介護医療院への転換を認めるよう求める」ことなどはしない見込みです。
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