人工呼吸器装着患者などに高度な慢性期医療を担う「慢性期治療病棟」を2018年度改定で創設せよ—日慢協
2017.7.14.(金)
2018年度の診療報酬改定に向けて、▼高度な慢性期医療を担う「慢性期治療病棟」の新設▼医療区分などに代わる新たな慢性期指標の検討▼一般病棟と療養病棟における算定可能加算の統一▼治療に対するアウトカム評価の導入―などを行うべきである—。
13日に開催された日本慢性期医療協会の定例記者会見で、武久洋三会長と安藤高朗副会長は、厚生労働省にこういった要望・提言を行う考えを明らかにしました。不合理な▼医療保険と介護保険の格差▼一般病床・病棟と療養病床・病棟の格差▼地域格差―を是正し、より高いアウトカムを実現するための要望・提言であると安藤副会長は強調しています。
目次
急性期から療養病棟までを一貫して評価できる「統一手法」の検討を
日慢協の要望・提言は次の10項目です。
(1)高度な慢性期医療を提供する「慢性期治療病棟」の新設
(2)新たな慢性期指標の検討
(3)リハビリテーション改革
(4)慢性期病院における慢性期救急の評価
(5)「医療機関に勤務する介護職員」への処遇改善加算
(6)地域格差の是正
(7)一般病棟と療養病棟における評価の統一
(8)認司法患者のケアに向けた新たな体制の整備
(9)包括支払い制度における高額薬剤の評価
(10)治療に対するアウトカムの評価
このうち(1)は、▼中心静脈栄養▼人工呼吸器▼気管切開・気管内挿管▼酸素療法—などの高度な慢性期医療を積極的に行う病棟を「慢性期治療病棟」として新たに評価すべきとの提言です。医師・看護師以外に▼薬剤師▼リハビリ専門職種▼社会福祉士▼管理栄養士▼介護福祉士▼臨床検査技師▼診療情報管理士▼歯科衛生士—などを配置し、現行の「看護職員に着目した診療報酬」ではなく、「看護職員に加えて、薬剤師などのコ・メディカル(メディカルスタッフ)も含めた人員配置を評価する診療報酬」を設定するよう求めています(関連記事はこちらとこちら)。
また(2)は医療区分に代わる、療養病棟の新たな評価指標を検討するよう求めるものです。武久会長は「現在の医療区分では、喀痰吸引が1日8回以上なら区分2、7回以下なら区分1に該当するとしているなど、医学的妥当性がないことは明らかである」と批判。安藤副会長は、日慢協が策定しているCI(Clinical Indicator、▼肺炎の新規発生率・治癒率▼尿路感染症の新規発生率・治癒率▼入院前から発症していた褥瘡の改善度合い—など)をベースに、具体的な指標案を構築・提言してく考えも示しています。
例えば、1人の脳梗塞患者が急性期病棟・地域包括ケア病棟に入院している間はDPCデータや重症度、医療・看護必要度によって一定の統一された指標で評価されますが、療養病棟に転院すると、まったく異なる医療区分・ADL区分で評価され、「発症から急性期、回復期、慢性期に至る統一的な評価ができない」状況にあります。武久会長は、こうした点を憂慮し、「一定の統一指標で評価できれば、さらに医療の質向上に向けた取り組みが期待できる」と見通しています。2018年度改定で実現するかどうかは別にして、将来的には病棟の種別や入院・外来の種別をも超えた、「統一的な指標」の構築が待たれます。
早期からのリハビリを推進し、寝たきり患者を半減せよ
(3)のリハビリ改革は、かねてより武久会長が提言している内容を整理したもので、▼完全包括化(標準的算定日数後への回復にも対応できる)▼早期リハビリテーションの実施▼ADL維持向上体制加算などを届け出ていない急性期病院から、できるだけ早期の回復期・慢性期病院への移行▼実績・アウトカムに応じた評価(回数や時間に応じた評価からの脱却)—を行うよう求めています。武久会長は、「急性期でのリハビリを十分にせず、拘縮状態になってから回復期・慢性期に転院してリハビリを開始しても効果が十分に現れない」ことを強調しており、早期からのリハビリによって「寝たきりを半分にする」ことが重要と訴えます(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
また(4)は、例えば療養病棟から在宅復帰した患者において、急性増悪した場合などには「馴染みであった療養病棟で救急対応する」ことを適切に評価してほしいと求める内容です。これにより、軽度の高齢救急患者の一定程度を療養病棟が担当すれば、地域の2次救急病院や3次救急病院の負担が軽減することが見込まれます。いわば「救急医療の機能分担」を目指すものと言えるでしょう。安藤副会長は「月当たりの在宅などからの緊急受け入れ件数」(実績)を評価軸に据えてはどうかと提言しています。
医療療養に勤務する介護職員の処遇を改善するため、基金の活用を検討せよ
一方、(5)では「介護保険施設・事業所に勤務する介護職員」と「医療療養病棟に勤務する介護職員」との処遇を揃えるためにも、後者への処遇改善を行う財源を確保すべきと提言しています。現在、介護報酬には「介護職員処遇改善加算」が設けられ、キャリアパスの構築などの要件を満たす介護保険施設・事業所には、「給与などの引き上げ」を行うための財源が確保されます。しかし、医療療養病棟は介護保険施設ではないため、こうした財源確保が難しく、医療機関の持ち出し、あるいは低賃金の継続という事態が生じています。武久会長は「地域医療介護総合確保基金の活用」なども検討してはどうかとコメントしています。
(6)は、東京23区など人件費・物価・建築費などが高い地域において、介護報酬と同様に「報酬の上乗せ」を行うべきとの要望です。人件費などの高い地域では相応に給与水準を高くしなければスタッフを確保できないため、介護報酬では地域によって異なる「単価」が設定されています(地域区分、最大で14%の上乗せ)。診療報酬にもA218【地域加算】がありますが、ごくわずかの上乗せ(最高で1日につき18点)にとどまっています。武久会長・安藤副会長は「これまでタブーであったが、診療報酬においても介護報酬と同様に地域格差是正を求める」と訴えています。
在宅復帰やリハビリによるADL改善などアウトカムに基づく評価を検討せよ
また(7)は、療養病棟では算定が認められていない、例えば▼看護配置加算▼後発医薬品使用体制加算▼緩和ケア診療加算▼精神科リエゾンチーム加算▼医師事務作業補助体制加算—などを算定可能とするなど、「評価の統一化」を求める内容です。武久会長は「障害者施設等入院基本料は一般病床しか届け出できない。一方、地域包括ケア病棟は一般と療養のいずれも届け出できるが、後者のほうが急性期医療を行っており、おかしな規定である」と主張。さらに「一般病床も療養病床も居室面積などのハード面は統一されており、そろそ『病院病床』として統一する時期に来ているのではないか」ともコメントしています。
なお、医療法の医師配置基準である「一般病床16対1」と「療養病床48対1」との中間となる「32対1」の病床創設についても言及しています。
(8)では今後、増加の一途を辿る認知症患者に適切なケアを提供するために、▼精神科を標榜していない医療機関であっても、認知症治療に力を入れている場合には、実績に応じて重症度による評価を導入する▼認知症治療病棟について、一定要件の下で一般病床や療養病床でも届け出を認める—よう求めています。
また(9)は、抗がん剤などの高額薬剤について、療養病棟においてもDPCと同様の出来高算定を可能とすべきとする内容です。
さらに(10)は、▼在宅復帰▼リハビリによるADL改善度合い—など『アウトカム』に基づく評価の議論を求めるものです。さらに武久会長は「高齢者では抗菌剤が十分な効果を出さず難治性であると言われるが、水分補給や栄養改善の上で抗菌剤を適切に使用すれば、高齢者でも肺炎は治る。こういった療養病棟の成果(アウトカム)を適切に評価してほしい」とも付言しています(関連記事はこちらとこちら)。
なお、今般の要望・提言は「診療報酬改定」に関するもので、来月(2017年8月)には「介護報酬改定」に向けた要望・提言も明らかにされます。
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