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外来診療 経営改善のポイント 看護必要度シミュレーションリリース

軽度な後期高齢入院患者は療養病棟などへ転院し、年間3兆円超の医療費縮減を行うべき―日慢協・武久会長

2017.1.13.(金)

 我が国の財政状況や人口構造に鑑みると、医療費の効率化は避けられない。その手法の1つとして、75歳以上の後期高齢である入院患者のうち、比較的軽度な人は入院単価の安い地域包括ケア病棟や療養病棟(慢性期病棟)に転院を促してはどうか―。

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は、12日に開いた2017年初の記者会見でこのように提言しました(関連記事はこちらこちら)。

 また武久会長は、今後、我が国の病院は「広域対応を行う高度急性期病院」と「地域密着の多機能型病院」に分化していくことになると見通し、慢性期病院であっても「多機能型」として必要があれば急性期対応を行う必要があり、「自院は慢性期なので、急性期患者は受けられません」というわがままは通用しなくなる、との見解も示しています。

1月12日に2017年初の記者会見に臨んだ、日本慢性期医療協会の武久洋三会長

1月12日に2017年初の記者会見に臨んだ、日本慢性期医療協会の武久洋三会長

後期高齢者の平均入院単価は、4万5000円と非常に高いと武久会長は分析

 高齢者になると若人よりも1人当たり医療費、とくに入院の1人当たり医療費が高いことが知られています。この要因として「疾病リスクが高い」ことがあげられますが、武久会長は「入院医療機関による入院料(診療報酬)の違いも要因の1つとなっているのではないか」と考え、厚生労働省の統計資料(社会保障審議会・医療保険部会)をベースに分析を行いました。

 それによれば、1日入院単価(入院+食事・生活療養費)が5万円以上の患者割合が、▼75-79歳では43.4%▼80-84歳では33.5%▼85-89歳では22.2%―、3万円以上とすれば▼75-79歳では73.6%▼80-84歳では65.9%▼85-89歳では54.7%―となっていることが分かりました。

厚労省の集計によれば、例えば75-79の入院患者のうち、4割強は1日当たり単価は5万円以上となっている

厚労省の集計によれば、例えば75-79の入院患者のうち、4割強は1日当たり単価は5万円以上となっている

 武久会長は、後期高齢者の構成として「75-89歳のシェアが大きい」とし、75歳以上全体で見て、1日当たりの入院単価は平均4万5000円程度になると見積もっています。さらに「現場の医師に聞いても3万円程度ではないかという意見が多く、後期高齢者でこれほど入院単価が高いことは衝撃的であった」とコメントしています。

 さらに武久会長は、この高水準の入院単価は「後期高齢者のうち、比較的軽度の人でも急性期病棟に入院している」点にあると見て、より入院単価の低い地域包括ケア病棟や療養病棟(慢性期病棟)への転倒を促すべきではないかと提言しています。

 日慢協の調べによれば、地域包括ケア病棟1の1日単価は3万円強(2016年7月末現在、3万986円)、療養病棟入院基本料1の1日単価は2万円強(同2万153円)となっています。武久会長は、「現在、後期高齢の入院患者は70万人程度いる。このうち20万人程度は高度急性期医療が必要と考えられ、急性期病棟への入院が妥当であろう。しかし残りの50万人程度すべてに急性期医療が必要とは考えにくく、半分が地域包括ケア病棟に、半分が療養病棟(慢性期病棟)に転院することで年間3兆6500億円程度の医療費削減が可能になる」と粗い試算結果も示しています【1人当たり縮減額2万円(現在の平均単価4万5000円-地域包括ケア・療養病棟の平均単価2万5000円)×50万人×365日】。武久会長は「この財源を高度急性期や在宅の充実に使うべき」とも付言しています。

厚労省資料をもとに、武久会長は「後期高齢者でも入院単価は平均4万5000円程度になる」と見込み、地域包括ケア・療養病棟など(単価平均2万5000円)に転棟することで、患者1人・1日当たり2万円の医療費効率化ができるとしている

厚労省資料をもとに、武久会長は「後期高齢者でも入院単価は平均4万5000円程度になる」と見込み、地域包括ケア・療養病棟など(単価平均2万5000円)に転院することで、患者1人・1日当たり2万円の医療費効率化ができるとしている

日慢協の調べでは、地域包括ケア病棟1の1日当たり入院単価は平均で3万円強、療養病棟1の1日当たり入院単価は平均2万円強という状況である

日慢協の調べでは、地域包括ケア病棟1の1日当たり入院単価は平均で3万円強、療養病棟1の1日当たり入院単価は平均2万円強という状況である

 ただし、急性期から地域包括ケア・療養病棟への転院となった場合、必要な医療は確保できるのでしょうか。この点について武久会長は、「急性期病院では臓器別の専門医が患者を診ることになるが、後期高齢で入院が必要な患者では、複数の臓器に問題が生じており、地域包括ケア・療養病棟の総合心療に長けた医師による診療のほうが適切である。地域包括ケア・療養病棟では難しい高度な治療や手術こそ行わないが、患者を総合的に診て在宅復帰させるスキルは高い」点を強調し、転棟によって患者はより適切な医療を受けられると見通しています。

 

 なお武久会長は、今後の人口減少社会を見据え、我が国の病院は「広域対応の高度急性期」と「地域密着の多機能型」に2分(機能分化)していくとし、「慢性期病院であっても、例えば地域の在宅療養患者が急変した際には、一定の急性期対応をしていくなど、多機能型として対応する必要性が高まる。さらに必要があれば高度急性期病院へ紹介することになろう。『うちは慢性期病院なので、急性期の患者は受けられません』といった病院のわがままは通用しなくなる」との見解も強調しています。

 

 このほか、「大規模な療養病院では、全床を医療療養病床にしておくのではなく、今後、▼地域包括ケア病棟▼療養病棟入院基本料1▼新たな介護保険施設(医療内包型の1-2)―のミックスなどを探っていく必要も出てくる」との見通しも示しました。日慢協では「新たな介護保険施設への転換で、人件費が抑えられ、収益性が高くなる」との試算結果を既に示しており、これを踏まえたものです。

 
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