介護療養などからの新たな転換先、移行期間は3年か6年か―社保審・療養病床特別部会
2016.11.17.(木)
介護療養や看護配置4対1などを満たさない医療療養からの「新たな転換先」に関する議論が大詰めを迎えようとしています。
17日に開かれた社会保障審議会の「療養病床の在り方等に関する特別部会」では、医療提供側の委員から「廃止となる介護療養の開設者や職員、さらに入院患者の心情を汲んだ慎重な議論をすべき」との指摘が出た一方、田中滋委員(慶應義塾大学名誉教授)から「新たな転換先は、『医療』『介護』『住まい』の機能を併せ持った施設類型であり、前向きに検討すべき」との意見も出ています(関連記事はこちら)。
特別部会では年内に意見をまとめる予定で、遠藤久夫部会長(学習院大学経済学部教授)は「次回以降、取りまとめに向けた議論を行う」考えを示しています。移行期間や、一般病床などのからの転換などが、今後の議論にポイントになりそうです。
目次
新たな移行先の議論、技術論に走らず、現場の心情への配慮も
厚労省は前回会合で、「新たな転換先」に関する次のような具体案を提示しました。
【医療内包型】
▼重篤な身体疾患を有する者・身体合併症を有する認知症高齢者などが入所する施設(I型)
▼容体が比較的安定している者が入所する施設(II型)
【医療外付型】
▼医療機関(病院、診療所)と居住スペース(特定施設入居者生活介護の指定を受ける有料老人ホームなど)との同一建物での併設
前回会合でも、施設基準や経過措置などについて積極的な意見が出されましたが、厚労省保険局医療介護連携政策課の黒田秀郎課長が「各委員が具体案を吟味した上で、更に議論を深めてもらう必要がある」と考え、17日の会合で、いわば二巡目の議論を求めたものです。
17日には、医療提供側の委員から「廃止となる介護療養の開設者や職員、さらに入院患者の心情を汲んだ慎重な議論が必要」という旨の意見が数多く出されました。吉岡充委員(全国抑制廃止研究会理事長)は、「介護療養は世の中のニーズに応えて進化してきたが、これを廃止して新類型を創るという。廃止の理由が不明確であり、また介護療養が病院でなくなった場合、誇り・モチベーションが失われてしまう」と指摘しました。
また鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)は、「私も介護療養の開設者であり、2006年に介護療養の廃止方針が固まった折には大変驚いた。新たな転換先に魅力がなければ移行は進まない」と指摘。武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)は、「私の開設する介護療養には、介護老人保健施設などで入所を断られた重度かつ医療必要度の高い患者が入院している」とし、介護療養の機能継続が最重要ポイントになると強調しました。
この医療提供側の心情には、横尾俊彦委員(全国後期高齢者医療広域連合協議会会長、佐賀県多久市町)や白川修二委員(健康保険組合連合会副会長)も理解を示しており、また黒田医療介護連携政策課長も「技術論に走らず、現場での受け止めなどを忘れてはいけないとの指摘と受け止めている」とコメントしています。
他方で田中委員は、「新たな転換先は、これまでになかった『医療』『介護』『住まい』の3つの機能を併せ持った新ジャンルである。前向きに捉えるべき」と述べ、転換元となる介護療養などの開設者・職員にエールを送っています。例えば特別養護老人ホームは、『介護』と『住まい』の機能を持ちますが、『医療』提供機能は十分ではありません。また現在の介護療養は、『医療』と『介護』の機能は持ちますが、病院であるがゆえに『住まい』の機能はありません。新たな転換先(特に医療内包型)は、介護療養に『住まい』の機能を付加した、今後、高齢化がさらに進行する我が国において、極めて重要な施設類型になることが期待されるのです。
移行期間の設定や、基準緩和など「経過措置の設定」が1つのポイントに
もっとも、介護療養などの現場には、新たな転換先を含めた移行についての不安もあり、また開設者にとっては相応の準備期間(施設基準によっては人員配置や設備整備が求められる)が必要になります。
このため黒田医療介護連携政策課長は、3年間(第7期介護保険事業計画である2018-20年度)を念頭においた経過措置(移行期間)を設定する考えも示しています。
この点について鈴木邦彦委員は、「当初の3年間で介護療養からの転換を見込み、その2年目で移行への手上げをした介護療養からの転換を実際に進めるという2段構えの経過措置を設けるべき」と提案(都合、6年間の経過措置)。このほか、▼建て替えまでは6.4平米多床室を認める▼大都市部においては容積率の厳しさを勘案し、建て替え後も6.4平米多床室を認める―などの配慮を行うべきとも要望しています。
ただし阿部泰久委員(日本経済団体連合会参与)は「経過措置は最長で3年であろう。その間にどうすれば移行が進むのかという促進措置を考えるべき」と指摘しています。
また平川則男委員(日本労働組合総連合会総合政策局長)は、「6.4平米多床室は『生活環境』としてかなり狭い。人員配置についても安易な緩和は『職員の負担増』→『離職』につながっていく。経過措置は考えなければいけないが、歯止めが必要である」との見解を示しました。齋藤訓子委員(日本看護協会常任理事)も「プライバシー確保」の重要性を指摘しています。
このように、今後の意見取りまとめに向けては、移行期間をどの程度(3年とするのか、6年とするのか)に設定するか、また施設基準や人員配置基準の緩和をどう考えるのか、といった「経過措置」が1つのポイントとなります。
当面は介護療養などからの移行を優先するが、将来は一般病床からの移行も
さらに、新たな移行先で問題となるテーマとして、「新設」や「一般病床などからの転換」を認めるか、介護療養などからの転換のみとすべきか、という点があります。
厚労省大臣官房の濵谷浩樹審議官(医療介護連携担当)(医政局、老健局併任)は前回会合で、「新たな転換先を(介護保険法の)本則に位置づけたい」との考えを示しています。法律の本則に規定された場合、「恒久的な施設」となるため、「■■からの転換しか認めない」という永続的な規制を設けることは困難です(関連記事はこちら)。
したがって将来的には、新設や一般病床などからの転換も認めることになるでしょう。もっとも、当面は設置根拠が失われてしまう介護療養について、優先的に移行を進めることになりそうです。
この点について、東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)は「制度改正で翻弄されている転換型老健(介護療養型老人保健施設)からの転換も認めるべき」と要望しています。
なお、厚労省の具体案では、新たな転換先は介護保険施設としているため、一般病床などからの転換を認めると「介護保険事業計画との関係はどうなるのか」という疑問が生じます。市町村の介護保険事業計画では、介護サービス提供体制の整備量を見込み、そこから保険料設定を行っています。新たな転換先(介護保険施設)が想定以上に増えた場合、介護保険料が高騰してしまうのではないか、という問題です。この点について黒田医療介護連携政策課長は次のように整理します。
▼介護療養から新たな転換先への移行では、介護療養は介護保険事業計画に含まれているので、問題は生じない
▼医療療養から新たな転換先への移行については、従前の『医療療養から介護療養への移行は、介護保険事業計画の外で考慮する』という考え方が生きていると考えられ、柔軟に対応できる
▼一般病床からの新たな転換先への移行は、介護保険事業計画において問題が生じる
この点について岡崎誠也委員(全国市長会、高知市長)の代理として出席した村岡晃参考人(高知県健康福祉部長)は、「介護療養など以外からの転換を即座に認めると、2018年度からの介護保険事業計画に大きな影響があるので、十分な配慮をしてほしい」と要望しました。この要望を受け入れる場合、「2018-20年度は介護療養などからの転換のみを認める」という考えにつながります。この点も、今後の意見取りまとめにおいて、重要なポイントとなります。
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