介護療養病棟などの移行先となる「新類型の医療施設」、議論は煮詰まってきている―社保審・療養病床特別部会
2016.10.6.(木)
介護療養病床や病院全体で看護配置4対1などを満たせない医療療養病棟について、経過措置期限後の移行先となる新類型の医療施設について、近く具体的な「叩き台」を示してほしい―。
5日に開かれた社会保障審議会の「療養病棟のあり方等に関する特別部会」では、遠藤久夫部会長(学習院大学経済学部教授)からこういった指示が出されました。厚生労働省保険局医療介護連携政策課の黒田秀郎課長はこの指示を受け、「検討会で固められた案1-1、案1-2、案2をより精緻化した叩き台を示す」考えを明らかにしました(関連記事はこちら)。
なお前医療介護連携政策課長で、現保険局総務課の城克文課長はメディ・ウォッチに対して「コアメンバー以外の委員が具体的なコメントを活発に寄せており、議論がかなり煮詰まってきた」とのコメントを寄せています。特別部会では12月上旬にも一定の意見をまとめる予定です。
目次
介護療養などの継続を認めるべきか、新たな施設の基本的性格をどう考えるか
介護療養病床や看護配置4対1などを満たせない医療療養病床は、設置根拠が2018年3月で切れます。このため、厚生労働省は「療養病床の在り方等に関する検討会」で議論を行い、医療内包型・医療外付け型の3つの新類型案を整理しました。現在、社会保障審議会の「療養病床の在り方等に関する特別部会」でより具体的な制度設計に関する検討が進められています(関連記事はこちらとこちら)。
この日は、厚労省の黒田医療介護連携政策課長から、議論を整理するために次のような論点が示されました。
(1)介護療養病床などの経過措置再延長を行うべきとの指摘もあるが、どう考えるか
(2)新たな施設を創設する場合、▼財源を含めた基本的性格▼人員配置▼施設基準▼低所得者への配慮―についてどう考えるか
(3)新たな施設を創設する場合、転換に当たっての経過措置をどの程度想定すべきか、またその点の転換支援を含む経過措置をどう考えるか
(4)療養病床からの転換以外に、新設も認めるべきか
このうち(1)は「現在の介護療養など」に関する論点、(2)-(4)は「新たな施設類型」に関する論点に分けることができます。
介護療養などの設置根拠について、再延長を行うべきか
(1)の経過措置再延長は鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)や、吉岡充委員(全国抑制廃止研究会理事長)委員らが強く求めているもので、「現行の介護療養に不都合があるのか」という視点に立った意見です。
鈴木委員らの意見に理解を示す見解も少なくありません。が、その委員でも「当初の設置期限は2011年度までとされ、その後、2017年度までに延長された。これをさらに延長することは難しいのではない」として、より前向きに「介護療養などのもつ重症患者を受け入れる機能を、新施設類型に発展的に継続していくべきではないか」といった旨を指摘しています(土居丈朗委員:慶應義塾大学経済学部教授や、岩村正彦委員:東京大学大学院法学政治学研究科教授、白川修二委員:健康保険組合連合会副会長ら)。
なお土居委員は、「介護療養の入所者などに『追い出される』と思われないように、介護療養から次の施設類型に映るのであるといった積極的な議論を行う必要がある」とも付言しています。
この点について黒田医療介護連携政策課長は、「現在の介護療養について設置根拠の延長を求める意見と、新たな施設類型への転換を決め、転換に向けた移行期間を十分にとるべきとの意見が混在しているように感じている。委員の意見を分析した上で考えていきたい」とコメントしています。
新施設の基本的性格や低所得者対策は法律に記載すべき事項
(2)の施設基準については、▼施設の基本的性格▼低所得者対策―の2点が法律に記載すべき事項に、▼人員配置▼施設基準―は政令などの下位法規に記載することになる見込みです。したがって、前者の▼施設の基本的性格▼低所得者対策―の2点については、早急に部会の意見を固める必要があります。
例えば「施設の基本的性格」については、病院や診療所のように医療保険から給付がなされる施設とするのか、介護老人保健施設のように介護保険から給付がなされる施設とするのかを早めに決めなければいけません。
また「低所得者対策」としては、介護保険の補足給付のような特別の配慮を行うためには法律にその旨の記載が必要となります。
この点、複数の委員から具体的な見解も示されました。鈴木邦彦委員は、新たな施設の財源について「介護保険が望ましい」との見解を示すとともに、案1-1の人員配置について「少なくとも機能強化型AまたはBの介護療養並みとすべき」(関連記事はこちら)、施設基準について「建て替えなどの大規模修繕までは6.4平方メートル・4人部屋を認める必要がある」と提案しています。
また武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)も、鈴木委員と同じく「6.4平方メートル・4人部屋」を認めなければ、新施設類型は画餅に帰してしまうと強調。また人員のうち医師配置について「(例えば案2では)併設医療機関に医師もおり、医師を必置としなくてもよいとも考えられる」との見解も示しました。
さらに井上由起子委員(日本社会事業大学専門職大学院教授)は、人員配置について「案1-1の類型では機能強化型A相当(関連記事はこちら)、案1-2と案2でも看護・介護合わせて3対1以上」、施設基準について「案1-1と案1-2は医療施設であり6.4平方メートル・4人部屋を認めてもよいが、案2の類型は『住まい』とされており、個室が必要となるのではないか」との考えが示されています。
こうした意見も踏まえて、厚労省は次回会合により具体的な「叩き台」を示す見込みです。
新施設類型への転換を決めたとしても、2018年4月からの一斉転換は困難
(3)の経過措置は、「介護療養などから新たな施設類型への移行を決定したとしても、2018年4月に全施設が即座に移行できるわけではない。転換決定後に一定の(転換準備などのための)経過措置を設ける必要があるのではないか」との論点です。
この点、多くの委員が「十分な経過措置」を求めており、さらに有床診療所や過疎地などの病院(介護療養)については、「特段の配慮」を求めるべきとの指摘が田中滋委員(慶應義塾大学名誉教授)や鈴木邦彦委員、岩村委員らから出されました。特段の配慮として、例えば「人員配置の緩和」なども考えられそうです。
新施設類型の新設を認めるか、法律本則に規定するかなども関連する論点
(4)の「新設を認めるべきか」という点について、賛否両論が出ています。賛成派の委員(例えば田中委員)は「医療と住まいの機能を併せ持つ施設は魅力的で、地域包括ケアシステムの中で推進すべき」といった意見を示しており、慎重派の委員は「介護療養からの転換に的を絞らなければ、議論が散漫になってしまう」ことを危惧しています(関連記事はこちら)。
この点について黒田医療介護連携政策課長は「新たな施設類型を、法律の本則に規定する場合には必然的に『恒久的な制度』と見込まれるため、療養病床からの転換以外の『新設』も認めていく必要があろう。一方、法律の附則などに規定する場合には『経過的な制度』と見込まれるため、新設は認めないという考え方もありうる」との考えを示しています。
なお、特別部会の委員からは「検討会でも同じような議論がなされており、特別部会で議論すべき事項をきちんと整理しなければ、議論が進まず、12月上旬の意見とりまとめに間に合わないのではないか」との指摘も出ています。
たしかに多くの意見は、過去の検討会や特別部会で出されたものと似ており、議論が進んでいないようにも見えます。しかし、検討会を取り仕切った前医療介護連携政策課長の城保健局総務課長は、「発言するメンバーが、いわゆるコアメンバーだけではなくなってきている。議論は相当煮詰まってきている」とメディ・ウォッチにコメント。12月上旬の意見とりまとめに期待を寄せました(関連記事はこちらとこちら)。
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