医療療養2、介護医療院などへの移行に必要な「経過措置」を検討—中医協総会
2017.4.26.(水)
療養病棟入院基本料2を届け出る病院が、国会で審議中の「介護医療院」へ移行すべきかなどを検討するためには一定の時間がかかる。このため「4対1看護配置などを満たさない病院」の存続を認める医療法施行規則の経過措置についても、介護療養病床の経過措置期間と同様に6年間延長すべき—。
26日に開かれた中央社会保険医療協議会の総会では、このような意見が診療側委員から相次ぎました。支払側委員も「移行には一定期間が必要」という点は認めていますが、その前提として、介護医療院などへ移行する「意思表示」が必要と考えており、今後、どのように調整されるのか注目されます。
目次
医療療養2、2018年度以降も存続させるべきか
医療法施行規則は「病院は4対1以上の看護配置などが必要」と規定していますが、2017年度末(2018年3月31日)までは「看護配置6対1など」を認める経過措置があります。この配置を診療報酬上の基準に置き換えると、「4対1は20対1」「6対1は30対1」となります。このため、看護配置25対1の療養病棟入院基本料2(以下、療養2)については、病院全体で20対1(医療法上の4対1)を満たせなければ医療法上の設置根拠を失うことになってしまいます。
このため、社会保障審議会の「療養病床の在り方等に関する特別部会」では、療養2の取扱いについて中医協で検討するよう指示しているのです(関連記事はこちらとこちら)。
26日の会合では、診療側委員から「医療法施行規則の経過措置延長」を求める声が多数だされました。中川俊男委員(日本医師会副会長)や松本純一委員(日本医師会常任理事)は、「介護療養病床については、6年かけて介護医療院に移行していくこととされている。25対1の療養2についても混乱なく移行できるよう、同じく6年間の経過措置を設ける必要がある」と強調。万代恭嗣委員(日本病院会常任理事)も「医療療養の3分の1は療養2である。個々の病院の状況を考えた議論が必要」と指摘しました。さらに猪口雄二委員(全日本病院協会副会長)は、「20対1の療養病棟入院基本料1(療養1)では、恒常的に医療区分2・3の患者を8割確保しなければならない。療養2を廃止し、療養病棟入院基本料が1(療養1)のみとなれば病院経営は苦しくなる(理論的には特別入院基本料を算定することになる)」と述べ、慎重な議論を求めています。
これに対し、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)も「療養2などから介護医療院に移行するには一定の時間が必要である」と述べ、経過措置の延長に理解を示しました。ただし、「療養2の全管理者に『介護医療院に移行する』などの意思決定をしてもらい、そこから実際に移行するまでの経過措置を認めるべきである」と補足説明を行っており、「意思決定に相当の経過措置を認める」考えではないことを明らかにしています。
中川委員は「診療側と支払側でそれほど意見の違いはない」と見ていますが、「療養2の意思決定には、地域の状況を見る必要があるなど時間がかかる」ともコメントしており、両者の見解には一定の違いがあるようです。
臨床現場には「新点数・単位数が2018年2月頃に明らかになり、試算などをしなければ介護医療院への移行は決定できない」との声も少なくありませんが、点数・単位数、施設基準などが現状から大きく離れたものに設定することは考えにくく、意思決定で重要な要素となるのは「地域の状況」でしょう。仮に「早急な意思決定」が求められた場合に備えて、療養2を届け出ている病院では、地域で、要介護高齢者がどの程度になるのか、医療の必要性はどの程度なのか、近隣の医療機関の体制や意向はどうなのか、などを今からリサーチしておく必要があるでしょう。
今後、療養2などの入院患者像に関する調査結果(2016年度改定の結果検証調査など)も見ながら、より深い議論を行っていくことになります。なお医療法施行規則の見直しは、社会保障審議会・医療部会などで議論する必要があり、厚労省保険局医療課の担当者は、「中医協と医療部会などで相互に議論していく」考えを示しています。
療養2の95%減算救済措置、3割弱の施設・ベッドで利用
2016年度の前回改定で、療養2にも「医療区分2・3の患者が5割以上」という施設基準が設けられました(療養1では、前述のとおり医療区分2・3の患者が8割以上)。この要件を満たせない場合、低い特別入院基本料を算定せざるを得なくなり、経営的に厳しくなってしまうため、厚労省は(1)医療区分2・3の患者割合(2)看護配置25対1―のいずれか(あるいは両方)を満たさない病院について、「療養2で看護配置30対1は満たす」かつ「2016年3月末時点で6か月以上、療養1または2を届け出ている」場合には【所定点数の95%を算定可能】とする救済措置を設けています(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
厚労省保険局医療課の迫井正深課長は、この救済措置を▼311施設(療養2の28.0%)▼1万7873病床(同じく26.7%)―が利用している、との状況を報告しました。ただし、上記(1)(2)のいずれの理由によるものかは明らかにされていません。
この経過措置は2017年度末(2018年3月)までとされており、療養2の3割弱は、療養1(20対1)への移行などが難しく、現実的には「介護医療院への移行」などを検討することになるでしょう(さもなければ特別入院基本料を算定)。ただし、診療側の松本委員は病院経営を持続させるために「95%減算の継続」を求めています。
なお診療側の猪口委員は、「95%減算となると算定できない加算もあるようで、その場合には5%を超える減収となる。この点も議論してほしい」と要望しています。
医療区分・ADL区分の抜本的見直しを行うべきか
ところで、療養病棟入院基本料は、個々の入院患者の状態を3つの「医療区分」と3つの「ADL区分」を組み合わせて評価しています(9つの点数設定)。
医療区分のうち、区分3は「スモンや、24時間の持続点滴、人工呼吸器使用など」、区分2は「筋ジストロフィー、多発性硬化症、透析や1日8回以上の喀痰吸引など」とされ、さらに区分1は「医療区分2・3以外」と定義されています。診療側委員は、かねてから「末期がん患者でも医療区分1となるケースが少なくない。医療区分などの抜本的な見直しが必要」と訴えています。
「療養病床の在り方等に関する特別部会」でもこうした訴えが重視され、報告書(議論の整理)の中に、「医療区分・ADL区分は導入から10年が経過しており、見直しを含めた検討をすべき」との意見があったことが特筆されました。
しかし26日の総会では、診療側委員の意見にもバラつきがあることが分かりました。松本委員は「抜本見直しは時間をかけ、検証を行いながら実現すべきであり、性急な見直しは好ましくない。現場の混乱は避ける必要がある」と慎重な議論を要望。一方、万代委員は「高度栄養障害やインスリン投与などの患者では、医療・看護の必要性が高く、受け入れに当たっては高い評価を行うべき」と述べ、見直しの必要性を示唆しています。
また支払側の幸野委員は、医療区分・ADL区分そのものの見直しには特段のコメントをしていませんが、「仮に医療区分などを見直すのであれば、数多くある加算の整理、さらに看取り率や在宅復帰率などのアウトカム評価導入も同時に検討する必要がある」と訴えています。
医療区分・ADL区分を見直すためには、各区分の患者の状態と、提供されている医療行為などを詳細に分析する必要があります。残された時間などを考慮すると、抜本的な見直しが行われる可能性は高いとは言えなさそうです。
リハビリや退院支援に力を入れる療養病棟の評価を検討
26日の総会は「療養病棟入院基本料をめぐる総論」といった位置づけで、迫井医療課長は、次の2つの論点も掲げています。
▼療養病棟における高齢者の機能維持に係るリハビリテーションや退院支援の推進に関する評価の在り方
▼在宅医療を担う診療所と連携し、患者や家族の意思を尊重した看取りを支援する機能の確保に関する評価の在り方
前者に関して、迫井医療課長は▽退院支援の専従・専任スタッフがいる場合には、在宅復帰率が高い▽リハビリ専門職が合計1名以上配置されている場合には、在宅復帰率が高い—という調査結果を提示しました。
退院支援については、2016年度改定で従前の「退院調整加算」が「退院支援加算」に組み替えられ、療養病棟でも要件を満たせば算定することが可能です(関連記事はこちら)。迫井医療課長はメディ・ウォッチに対し「療養病棟においても入・退院体制をしっかりすることが重要」とコメントしており、退院支援加算の届け出・算定の促進や、充実、新たな評価などを総合的に探っていくことになりそうです。
またリハビリについては、▼「入院患者の8割以上にリハビリを実施している」病棟が療養1では39.3%、療養2では24.1%▼「1週当たりのリハビリ提供単位数」が療養1では平均6.8、療養2では平均9.9(いずれもリハビリ提供患者のみ)―などの状況も報告されました。
療養1では「しっかりとリハビリを提供している」を見ることもできますが、逆に「リハビリの必要性をあまり考慮せず、薄く広くリハビリを提供している」可能性もあります。今後、リハビリ提供の実態を詳細に分析し、必要な評価方法を検討していくことになります。
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