かかりつけ薬剤師指導料、対象患者は高齢者や多剤処方患者に絞るべきか—中医協総会(2)
2017.3.29.(水)
2016年度の調剤報酬改定では、患者の医薬品を一元的・継続的に管理して、重複投薬の是正や残薬解消を目的として「かかりつけ薬剤師・薬局」の評価が行われたが、対象患者は自身で医薬品の管理を十分に行えない高齢者や認知症患者、多剤を処方されている患者に限定すべきではないか—。
29日に開催された中央社会保険医療協議会の総会では、こういった議論が行われました。
また、診療側の委員からは「一元的・継続的な医薬品の管理は院内調剤でこそ優れている」旨の意見が示され、院外処方と院内処方との「報酬の格差」も2018年度調剤報酬改定に向けた論点の1つとなる可能性があります。
目次
かかりつけ薬剤師指導料、薬局の半数超が届け出ているが、その機能に疑問符も
冒頭に述べたように2016年度には、調剤報酬の大きな見直しが行われました。▼服薬情報の一元的・継続的把握▼24時間対応・在宅対応▼医療機関との連携―を柱とする「患者のための薬局ビジョン」(2015年10月)をベースに、例えば、次のような点数項目の新設・組み換えが行われています(関連記事はこちらとこちら)。
(1)従前の薬剤服用歴指導管理料を、かかりつけ薬剤師が行う場合の「かかりつけ薬剤師指導料」「かかりつけ薬剤師包括管理料」の創設
(2)基準調剤加算について、かかりつけ薬剤師指導料の届け出や在宅業務実施などを要件とする組み換え
(3)大型門前薬局の評価を適正化するための、「調剤基本料3」の創設
(1)と(2)は経済的インセンティブによって、薬局が「かかりつけ薬剤師・薬局」へと進化することを目指すものです。かかりつけ薬剤師でない、通常の薬剤師が服薬指導を行う場合には、薬剤服用歴管理指導料を算定することになり、薬局が受ける報酬は低くなります。
この「かかりつけ薬剤師指導料」「かかりつけ薬剤師包括管理料」を届け出た薬局は、今年(2017年)2月時点で2万9086か所、保険薬局全体の50.7%となり、着実に浸透しているように見えます。
しかし、支払側委員は必ずしも喜ばしい状況とは捉えていません。幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は、「かかりつけ薬剤師指導料などの対象は、創設の趣旨に鑑みれば、自分で薬剤の把握・管理ができない▼多剤投与を受けている患者▼高齢者▼認知症患者—などで、患者側が『かかりつけ』になってほしいと求める形であるべきだ。しかし調剤薬局では、薬剤師から通常の患者に対し『かかりつけ』に関する同意を求めているという。2018年度改定では対象患者の要件を設定するべきであろう」と要望。また吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)は、「かかりつけ薬剤師が、点数に見合った機能を発揮していかないといけない。重複があれば薬局サイドが積極的な疑義照会を行い、医療機関に改善を求めていくべきである」と指摘しました。
これに対し、診療側の安部好弘委員(日本薬剤師会常務理事)は、「実態調査を行い、自身で薬剤の把握・管理が可能な患者の『かかりつけ』になっている事態が明らかになれば、対象患者像を明確にし、歯止めをかける必要が出てくるかもしれない」と述べ、幸野委員らの要望に一定の理解を示しました。
関連して幸野委員は、薬剤服用歴管理指導料について「お薬手帳を持参しないほうが高い報酬設定となっている。薬局からすれば『お薬手帳を持参されないほうが良い』ともとれるし、患者からすると不公平を感じるのではないか」と指摘。厚労省保険局医療課の中山智紀薬剤管理官は、「算定状況などを見て、必要な部分は見直す」との見解を示しています。お薬手帳には、患者個々人の薬歴が記載され、まさにかかりつけ薬剤師・薬局の推進に向けた重要なツールとなっています。お薬手帳を持参すれば患者負担が軽くなる(薬剤服用歴管理指導料が低くなる)ので、患者自身による活用が期待されますが、実態がどのようになっているのかが注目されます。
なお幸野委員は残薬解消を促進するために、「薬剤師が残薬を確認した場合、医師への疑義照会なく数量の変更を可能としてはどうか」とも提案しましたが、診療側の松原謙二委員(日本医師会副会長)は、「2016年度改定の中でかなり議論した部分である。患者自身が判断して服用しなかった分を、単純に数量で調整すればよいわけではない。医師が、なぜ残薬があるのかを確認した上で修正・変更する必要がある」と反対しています。
院内調剤と院外処方との報酬水準の格差、診療側は是正を要望
29日の中医協総会では、厚労省から「解熱鎮痛剤・抗生剤を7日間処方」する場合、▼かかりつけ薬剤師・薬局▼門前薬局▼門内薬局(同一敷地内での調剤)▼院内調剤—で報酬がどの程度違うのかという資料が提示されました。それによると、かかりつけ薬剤師・薬局と院内調剤との間には6.7倍の格差があります。
この格差について診療側の松本純一委員(日本医師会常任理事)や猪口雄二委員(全日本病院協会副会長)、松原委員は、「同じ薬剤を処方しており、しかも院内調剤のほうが医師と薬剤師が連携し、薬剤の一元的・継続的管理に優れているにもかかわらず、院内調剤では極めて低い報酬設定となっている。長期の処方となれば、さらに点数の格差が広がる。丁寧な医療提供を行うかかりつけ医のモチベーションを下げている」旨を述べ、現在の報酬水準を批判。次期改定での是正を強く求めています。
この点、中山薬剤管理官は「院内調剤は医療機関において治療を含めて全体で評価した報酬となっている。独立して処方を行う薬局とは、評価の観点が異なる」と説明していますが、次期改定での論点の1つになる可能性も否定できません。
大型チェーン薬局の報酬、2018年度改定でも重要論点か
(3)の調剤基本料3は、「大型薬局チェーン」の報酬適正化を目指すもので、2016年度には6.3%の薬局が算定しています。
この点について診療側の中川俊男委員(日本医師会副会長)は、「調剤医療費の伸びが著しいが、中でも大手調剤薬局チェーンに財源が集中し、莫大な内部留保があることが分かった。このため調剤基本料3を創設し適正化する一方で、地域密着型の薬局を守るためにかかりつけ薬剤師指導料などを創設した。しかし、ある大手薬局チェーンの資料を見ると、かかりつけ薬剤師指導料の届け出件数が伸び、さらにそれをはるかに上回るペースで算定件数が伸びている。2016年度改定が裏目に出ているようだ」と指摘。さらに「誤解かもしれず、その場合にはお詫びする」とした上で、「かかりつけ薬剤師が不在の場合に、他のかかりつけでない薬剤師が対応した場合でもかかりつけ薬剤師指導料を算定しているケースなどがあれば、ゆゆしき問題である」ともコメントし、さらに「営利企業が、国民皆保険のプレイヤーとしてふさわしいのか」という根本的な問題提起も行っています(関連記事はこちらとこちら)。
また中川委員は(2)の基準調剤加算における「薬局勤務経験5年以上・同一保険薬局での週32時間以上勤務が1年以上という管理薬剤師の配置」という要件について、「1人の管理薬剤師がいればよいとする規定が妥当であったか疑問を感じる」とも述べています。
我が国の公的医療保険制度は、税と保険料、つまり国民全体で費用を負担しています。したがって財源の獲得は、通常の市場とは異なり、「医療の質」に基づく競争で行われるべきでしょう。大型チェーン薬局の調剤報酬をめぐる議論は、2018年度改定でも大きなテーマとなりそうです。
いわゆる門内薬局、機能と報酬の関係が論点に
2016年度の診療報酬・調剤報酬に関連して、厚労省は「保険医療機関と保険薬局が同一敷地内にある形態も認める」旨の通知を発出しています。従前の「一体的な構造は認められない。公道などを介することが必要」との規定から、無益なフェンス設置などが行われ、患者に不便を強いていたためです(関連記事はこちら)。
これにより、いわゆる門内薬局(同一敷地内での薬局)の設置が可能となり、報酬は前述の「門前薬局」と同一水準となります。しかし安部委員は、「門内薬局は、『門前薬局から地域に根差した薬局へ』という2016年度改定とは真逆の方向である。門内薬局を入札形式で募集し、高額な賃貸料を受けているというビジネスもあると聞く。今後、報酬の在り方を考える必要がある」と要望。2018年度の次期改定で、いわゆる門内薬局の報酬水準が引き下げられる可能性も否定できません。
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