療養病棟入院基本料、2018年度改定で「療養1」に一本化—中医協総会(1)
2017.11.17.(金)
現在、療養病棟の入院基本料は「看護配置20対1・医療区分2と3の患者割合80%以上」などを施設基準に据えた【療養病棟入院基本料1】(以下、療養1)と、「看護配置25対1・医療区分2と3の患者割合50%以上」などを施設基準とする【療養病棟入院基本料2】(以下、療養2)とあるが、2018年度の次期診療報酬改定で【療養1】に一本化する。ただし【療養1】の基準を満たせない療養病棟の経営に配慮し、一定期間の経過措置を設けてはどうか—。
11月17日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、厚生労働省保険局医療課の迫井正深課長からこういった提案が行われました。このほか、加算や医療区分の一部見直し、データ提出の義務化なども検討されています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
目次
【療養1】を満たさない病棟の経過措置を、どう設定するかが焦点に
冒頭述べたように、現在、療養病棟の入院基本料は【療養1】と【療養2】に分かれています。後者の【療養2】については、「医療法上の看護配置4対1などの基準を満たさない「医療療養病床」の設置根拠となる経過措置(6対1看護配置でもよい、とするもの)が来年(2018年3月)で消滅するため、「診療報酬上の【療養2】の取扱いがどうなるのか」が問題となっています。診療報酬上の看護配置は、医療法上の看護配置の5倍に当たるため、25対1の【療養2】は「5対1」に相当し、医療法上の基準を満たしません。ただし、医療法上の「看護4対1配置」は、病院全体でカウントするため、病棟に着目した【療養2】の取扱いをどうするかが問題になっているのです。
この点に関連した厚労省の調査では、【療養2】の基準である「看護配置25対1(ただし30対1以上)」「医療区分2・3の患者割合50%以上」を満たすことができず、入院基本料が5%減算される病棟(関連記事はこちら)は、2016年度には3割弱でしたが、2017年度には10%強に減少していることが分かりました。しかも、減算理由のほとんどは「医療区分2・3の患者割合50%」のみが満たせないもので、【療養2】においても看護師の確保は相当進んでいることが分かります。
さらに、【療養2】における「医療区分2・3の患者割合」の分布を見ると、100%から5%未満まで幅広く分布しており、重症患者の受け入れも積極的に進められていることが分かりました。
迫井医療課長はこうした状況を踏まえ、2018年度の次期改定において「療養病棟入院料を【療養1】に一本化する」ことを軸に検討を進めてはどうかと提案しています。
この提案について、診療側・支払側双方が一定の理解を示しています。ただし、いきなり一本化を行ったのでは、【療養1】の施設基準を満たせない病院は、特別入院基本料を算定せざるを得ず、経営基盤が極めて脆弱になります。さらに、仮に閉院となれば入院患者が行き場を失う可能性もあります。そこで診療側委員は、十分な経過措置を設けるよう要望しています。
診療側の猪口雄二委員(全日本病院協会会長)は、【療養2】の「医療区分2・3患者割合50%以上」(【療養1】では80%以上)や、前述した5%減算の救済措置(2016年度の前回改定で医療区分2・3の患者割合50%以上が設定されるなど施設基準が厳格化され、その一部が満たせない場合には診療報酬の5%減算のみが適用され、特別入院基本料算定という厳しい規定は適用されない)などを勘案した経過措置が必要と指摘。また経過措置の期間については、「介護療養病床と同期間(6年間)の経過措置を設けるべき」と訴えています(関連記事はこちら)。こうした要望に支払側の吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)は一定の理解を示しましたが、「仮に【療養2】を残すにしても、新規届け出は認めないなどとすべき」と注文を付けています。
ところで、【療養1】への一本化方針は示されましたが、現行の施設基準(医療区分2・3の患者割合80%以上など)をそのまま維持するかどうかは未定です。この点について支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は、「医療区分2・3患者割合80%は維持し、新設される介護医療院への転換状況などを見ながら、施設基準の妥当性を段階的に検討していくべきだろう」との考えを示しました。
「【療養1】に一本化する」「十分な経過措置を設ける」点で、診療・支払双方の意見は一致していると考えられ、今後、「経過措置の内容と期間をどう考えるのか」が議論されます。
なお、診療側の島弘志委員(日本病院会副会長)からは「良質な医療確保のために、看護職員を施設基準以上に手厚く配置(加配)している療養病棟もある。そこを加算などで評価すべき」との要望も出ています。
自宅などからの救急患者受け入れと、急性期後患者の受け入れを別個の加算で評価
療養病棟は、急性期・回復期を経て「慢性期」の患者が長期療養を行う病棟というイメージですが、一部では「緊急患者の受け入れ」なども行っており、こうした病棟を【救急・在宅等支援療養病床初期加算】(入院などから14日間、【療養1】では1日につき300点、【療養2】では150点を算定できる)で評価されます。
この加算では、(1)他病院の急性期病棟(一般病棟)から転院した患者(2)介護老人保健施設、特別養護老人ホーム、自宅などから入院した患者(3)自院の急性期病棟(一般病棟)から転棟した患者—という多様な患者の受け入れを評価しています。しかし、(1)(3)のいわば「post acute患者」(急性期後患者)と、(2)のいわば「sub acute患者」(急性増悪した患者)では、医療内容などが異なるようです。厚労省の調査では、次のような状況が明らかになりました。
▼自宅などからのsub acute患者では、7対1・10対1からのpost acute患者に比べて、「治療のための入院」が多く、「疾病の治癒・軽快」が退院に受けた課題となっているケースが多い(post acute患者では退院調整や退院後の施設確保が課題となるケースが多い)
▼自宅などからの入院患者のうち、緊急入院患者(まさにsub acute患者)では、予定入院患者に比べて、「治療のための入院」が多く、「疾病の治癒・軽快」が退院に向けた課題となっているケースが多い
迫井医療課長は、こうした状況を踏まえ「加算を細分化してはどうか」との考えを持っているようです。例えば、(2)の自宅からのsub acute患者受け入れを評価する初期加算と、(1)(3)の急性期病棟からのpost acute患者などの受け入れを評価する初期加算に分けることなどが考えられそうです。
両者では受け入れ対象患者が異なるため、要件や施設基準も見直していくことが必要でしょう。迫井医療課長は「療養病棟入院患者の40.1%は死亡退院しており(退棟先で最多)、一定程度の患者で『看取り関する計画』を文書で作成している」ものの、「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」の活用が芳しくない点を憂慮。初期加算では、このガイドラインの活用などを施設基準などに盛り込む考えも示唆しています。
個々の病院で、患者・家族の意向を十分に踏まえた看取りが進められていますが、さらに「ガイドライン」に沿うことで、より適切な取り組みが進むことが期待されます。
医療区分2・3の「中心静脈栄養」や「喀痰吸引」を見直し
療養病棟入院基本料は、医療区分とADL区分に応じて設定されます。医療区分は、患者の疾病や処置内容などによって、▼医療区分3(スモンや人工呼吸器装着など)▼医療区分2(筋ジストロフィーや透析実施など)▼医療区分1(医療区分2・3以外)―に分かれており、重症と考えられる「医療区分2・3」の患者割合が施設基準となっていることは前述のとおりです。
ところで、医療区分3の患者の81%、医療区分2の患者の71%は「該当する項目が1つのみ」となっています。さらに詳しくみると、医療区分3の「中心静脈栄養」や「医師および看護師による常時監視・管理」や、医療区分2の「喀痰吸引(1日8回以上)」などが、1つのみで「当該医療区分に該当」していることが分かりました。
医療区分2または3と判定されれば、それだけ高い入院基本料を算定でき、そうした患者が多ければ【療養1】の施設基準クリアが容易になります。このため、穿った見方をすれば、例えば「必要性は高くないが、喀痰吸引をできるだけ多く実施し(1日に8回以上)、医療区分2に該当させよう」という不適切なケースがあるのではないかとも思われるのです。
迫井医療課長は、こうした点を踏まえ「1項目のみで該当」となっている患者が多い項目について一定の見直しが必要なのではないかと考えているようです。
2016年度の前回改定でも、不適切な「医療区分の引き上げ」が問題となり、例えば「酸素療法」について、定義の明確化・厳格化(一定以上の流量が必要な場合は医療区分3、それ以外は医療区分2)するなどの見直しが行われました(関連記事はこちら)。2018年度にも同じ趣旨で、例えば▼該当項目の定義をより明確化し、厳格化する▼他の要素を加味した評価項目とする(単なる喀痰吸引実施だけでなく、病状などの制限を設ける)―などの見直しが行われる可能性があります。
この点、支払側の幸野委員は見直し方向に賛意を示していますが、診療側の松本純一委員は「医療区分全体の見直しが先ではないか」と反論しました。しかし、医療区分全体を見直すためには、「どういった状態の患者に、どういった医療行為が行われているか」などを詳細に分析する必要がありますが、療養病棟入院基本料には、多くの診療行為が包括評価されており、分析は困難です。このため迫井医療課長は「医療区分全体の見直しは、将来の検討テーマとしたい」と理解を求めています。
200床以上病院の療養病棟、データ提出を義務付けへ
このように、「療養病棟の診療行為に関するデータを収集すべき」という大きなテーマがあり、すでに一部の療養病棟では、DPCデータを提出し、データ提出加算を算定しています。しかし、DPCデータは「急性期入院医療」を念頭に置いた項目設定となっており、療養病棟や回復期リハビリテーション病棟などに入院する慢性期入院患者の状態を把握するためには必ずしも適していません。
そこで迫井医療課長は、療養病棟などにおいてはデータ提出項目を見直す考えを提示しました。詳細は、今後詰められますが、慢性期に関連する項目を追加(摂食・嚥下機能障害の有無、低栄養の有無、要介護度、認知症高齢者の日常生活自立度など)し、急性期に関係する項目を合理化(がん患者のTNM分類や急性心筋梗塞などの急性期重症度分類など)することになるでしょう(関連記事はこちら)。診療側の島委員も、▼摂食・嚥下機能障害▼栄養状態▼要介護者であれば主治医意見書―などのデータが有用との考えを示しています。
また療養病棟のデータ提出は、現在は「任意」となっていますが、一定規模以上の病院で「義務化」(【療養1】の施設基準などに据える)してはどうか、とも迫井医療課長は提案しています。現在、許可病床200床以上で療養病棟を持つ病院の4割がDPCデータを提出しており、診療側の松本純一委員も「200床以上でのデータ提出義務化」には理解を示していることから、「許可病床数200床」が義務化の目安となる可能性あります。
しかし、支払側の幸野委員は「療養病棟の7割は許可病床数200床未満の病院に設置されており、ここにこそ『療養病棟の真の姿』がある。準備期間の設置・項目の簡素化・測定期間の長期化などの工夫をし、小規模病院へのデータ提出義務導入をすべき」との見解を示しています。
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