病院に併設する訪問看護ステーション、手厚く評価をすべきか—中医協総会(1)
2017.11.15.(水)
看護師の多くが病院に勤務している実態や、重症者への対応・他施設からの研修受け入れなどの機能などを踏まえて、「病院に併設する訪問看護ステーション」について手厚い評価を行ってはどうか。また、医療機関と訪問看護ステーションとの連携を今以上に進めるために【退院時共同指導加算】などにおける「特別の関係」の制限規定を見直してはどうか―。
11月15日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、「訪問看護」を巡るさまざまな議論が行われました(関連記事はこちら)。ここでは、「病院併設型訪問看護ステーション」などに注目し、「24時間対応」や「医療的ケア児への対応」などについては別途お伝えします。
目次
病院併設型ステーション、重症者対応や研修受け入れなどの機能を持っている
訪問看護は、提供主体別に考えると「訪問看護ステーションからの訪問看護」と「医療機関からの訪問看護」に分けられ、前者は増加傾向にありますが、後者は増えているとは言えません(介護保険の訪問看護で見れば明らかな減少傾向)。2015年度の介護報酬改定、2016年度の診療報酬改定では、「訪問看護を担う看護師を育成する役目」にも着目して、医療機関からの訪問看護の報酬を引き上げましたが、その効果は現れていないようです。
この背景には、やはり「医療機関における看護師不足」にあることが想定され、今のままでは「医療機関の訪問看護」の報酬を引き上げても、効果は限定的になる可能性があります。
ところで訪問看護ステーションを、「病院に併設している訪問看護ステーション」(ここでは併設型)と「単独に開設している訪問看護ステーション」(ここでは単独型)とに分け、両者の機能を分析すると、▼併設型のほうが、単独型よりも看護職員数が多い(看護師は併設型4.7人、単独型4.2人)▼併設型のほうが、利用者数・訪問回数が多い▼併設型のほうが、緊急訪問実施や重症者受入数が多い—ことが分かりました。若干、規模が大きく、より重症な患者への対応を行っているのです。
また、併設型では、単独型に比べて「看護学生などの実習受け入れ」「地域の医療機関や訪問看護ステーションからの研修受け入れ」「対応終了患者や死亡患者の家族への相談」などに積極的に取り組んでいる状況も伺えます。前述した「訪問看護を担う看護師の育成」にも一役買っていることが分かります。
厚生労働省保険局医療課の迫井正深課長は、こうした併設型の実績や機能、さらに将来性(病院看護師の2割弱が訪問看護ステーションへの就労意思を持っている)などに着目し、「病院併設型訪問看護ステーション」について手厚く評価してはどうか、との考えを示しました。
これにより、例えば、「訪問看護の利用者が急性増悪した場合には、円滑に併設する病院への入院などが可能となる」「病院と併設型訪問看護ステーションとで定期的な人事交流を行うことで、双方の看護師のスキルが上がる」などの効果も期待できます。後者では、例えば「病棟看護師が訪問看護に従事することで、どの状態まで改善すれば退院可能であるとの判断基準が下がり(病棟看護師が考えているよりも重篤な状態で、在宅療養が可能)、より円滑な退院支援につながる」「訪問看護に携わる看護師が病棟などに勤務し、最新の看護・医療に関する知識・技術を身に着け、後の訪問看護に活かせる」といったメリットが期待されます。
この点、菊池令子専門委員(日本看護協会副会長)は迫井医療課長提案を歓迎し、「病院から訪問看護ステーションへの看護師派遣」なども評価すべき機能の1つとしてはどうかと提案しています。上記の人事交流をより進める観点からの提案と言えそうです。しかし、診療側の松本純一委員(日本医師会常任理事)や支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)から「訪問看護の質向上が期待されるが、人事交流や研修といった機能を診療報酬で評価すべきかどうかは検討の余地がある」との意見も出ており、今後、どういった要件を設定するのか(必要な機能は何か、後述のように何をもって「併設」と考えるのか、どの程度、手厚い報酬を設定するのか、など)の調整が待たれます。
また猪口雄二委員(全日本病院協会会長)は「医療機関が直接行う訪問看護についても、評価を充実すべき」との注文を付けています。
なお「併設」の定義が気になります。詳細は今後、詰めていくことになりますが、迫井医療課長は「開設主体ではなく(同一法人などに限定するものではなく)、同一敷地や隣接敷地に設定されているかどうか」を念頭に置いていることを示しています。緊急時の円滑な入院などの面を考えれば、物理的な「距離の近さ」などが重要になるでしょう。
入院前の「訪問看護ステーションから病院への情報提供」も経済的に評価
訪問看護は、医療保険・介護保険の双方から給付される、いわば「医療・介護連携の要」とも言えるサービスです。
病院から退院したが、在宅で一定の医療が必要な患者、要介護状態にあり介護サービスが必要だが、あわせて医療的ケアも必要な患者など、さまざまな場面で訪問看護が提供されます。
このうち「入院後に一定の医療が必要な患者」に対して訪問看護を提供する場合、退院前に医療機関と訪問看護ステーションが共同して必要な指導を行うことが、円滑な退院やその後の訪問看護提供にとって効果的であり、経済的な評価が行われています(例えば、訪問看護管理療養費の【退院時共同指導料】など)。
一方、在宅療養を送りながら訪問看護サービスを受けていた患者が、症状悪化などで医療機関に入院する場合、訪問看護側の情報提供も、適切な入院医療提供にとって非常に重要となります。既往歴や病床経過といった医学的情報だけでなく、家族構成や要介護認定の状況(退院支援時に極めて重要)、疾病の受け止めや不安、認知症症状の有無(医療・看護提供時に極めて重要)などの情報です。
この点、経済的な評価はなされていないものの、多くの訪問看護ステーションが情報提供を行っていることが厚労省の調べで分かりました。迫井医療課長は、この取り組みにも経済的な評価を行ってはどうかとの提案を行っています。明確な反対意見は出ておらず、評価項目の新設が見込まれます。ちなみに、診療報酬は「ゼロから頭の中で考える」のではなく、「既に実施している(ほとんどは手弁当で実施)事例」を参考に構築されますが、今般の提案は、まさにその「評価の有無に関係なく実施されているものを評価する」好事例と言えます。診療報酬を追いかけるのではなく、診療報酬が後追いしてくる訪問看護ステーションと言えるでしょう。
「特別の関係」による診療報酬の算定制限、2018年度で大きな見直しの可能性も
ところで、上記の「退院時共同指導加算」などは、入院医療機関と訪問看護ステーションとが、いわゆる「特別の関係」にある場合には算定できません。診療報酬上の「特別の関係」とは、▼同一法人▼開設者が同一▼開設者が親族同士—などを意味し、例えば「同じグループ内で患者を移動させ、その都度に診療報酬を得る」ことを防止するための規定です。
しかし、地域における機能分化・連携の強化が重視される中では、「特別の関係」にある医療機関と訪問看護ステーションであっても、適切な情報提供や共同指導を進めるために、経済的な評価は適切に行うことが必要とも考えられます。迫井医療課長は、この点も考慮し退院時共同指導加算などの「特別の関係」に基づく算定制限の廃止を考えているようです。
なお、この点に関連して猪口委員は「地域医療連携推進法人と『特別の関係』との整理をすべきではないか」と指摘しました。
2025年に向けて地域包括ケアシステムの構築が最重要課題の1つに位置付けられていますが、このためには「地域の多くの医療機関が急性期医療を提供し、回復期や慢性期の病棟が不足している」状況の打開が求められます。そこで、地域の医療機関などが、「地域における機能分化・連携」に向けた基本方針を策定する組織(地域医療連携推進法人、いわば地域医療提供体制の再構築に向けた合議の司令塔)を設け、基本方針に沿って機能分化していくことが今年(2017年)4月から可能となっています。地域医療連携推進法人に参加する複数医療機関について「A病院は急性期を担い、B病院は回復期を、C病院は慢性期に特化する」という方針を固め、これに沿った取り組みを各病院で行うものです(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
この際、地域医療連携推進法人への参加施設が「特別の関係」に該当するのか、どうかが気になります。迫井医療課長は「改めて考え方を示す」と述べるにとどめていますが、今後、「特別の関係」の適用範囲などが大きく見直される可能性もあります。
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