統合失調症治療薬クロザピン使用促進に向け、精神療養の包括範囲を見直し—中医協総会(2)
2017.10.19.(木)
治療抵抗性の統合失調治療であるクロザピンの使用が、我が国では諸外国に比べて著しく少ない。この背景には精神療養病棟入院料でクロザピンが包括評価されていることもあると考えられ、2018年度の次期診療報酬改定において包括範囲の見直しを検討してはどうか―。
10月18日に開催された中央社会保険医療協議会の総会では、こういった議論が行われています。
治療抵抗性の統合失調症治療薬クロザピン、無顆粒球症などの副作用も
クロザピンは治療抵抗性の統合失調症を治療する薬剤として世界各国で販売されていますが、我が国では諸外国に比べて処方率が極めて低いようです。諸外国に比べて薬価収載が遅かったことや、重大な副作用(無顆粒球症など)が判明しているために「血液内科医との連携」が求められていることなど、処方率の低さにはさまざまな要因がありますが、厚生労働省は「精神療養病棟入院料でクロザピンの薬剤料が包括評価されている」点も背景の一つではないかと考えています。
精神療養病棟入院料では、インターフェロン製剤や抗ウイルス剤、血友病治療薬などは出来高で算定できますが、クロザピンは出来高の対象になっていません。翻ってクロザピンの薬価は618.40円で、1日薬価では最高(400mg使用)1236.80円で、他の非定型抗精神病薬に比べて高額になっており、包括評価によって生じかねない持ち出しや収入減が、クロザピン使用を躊躇させているのではないか、という問題意識です。厚労省保険局医療課の迫井正深課長は、「治療抵抗性統合失調症の患者に対し、クロザピンによる適切な治療の推進に資するよう、精神療養病棟入院料などの包括範囲見直しを検討してはどうか」と提案しています。
この提案に対し、診療側の猪口雄二委員(全日本病院協会会長)は「包括の特例を認めれば『他の薬剤はどうなのか』という問題が生じる。全体を整理すべきではないか」とコメント。また支払側の吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)は「包括評価の見直しだけでよいのか、日本では小児・薬価収載から日が浅いという理由だけかもしれない」と述べ、多面的な検討が必要との見解を示しています。
精神病棟の運営・経営は厳しいと、診療側委員から指摘
このほか精神医療の報酬見直しに向けて、迫井医療課長は次のような提案・論点を示しています。
(1)措置入院(自傷・他害の恐れのある精神疾患患者に対し、行政が命令して入院させる)患者に対する「退院後の継続的な支援」を診療報酬で評価する
(2)精神保健指定医において、診療報酬上は「外来」や「在宅」での活動も求めているが、創設の経緯に鑑みて求められている「入院」業務とのズレが生じており、【通院・在宅精神療法】の指定医評価の見直しを検討する
(3)長期入院患者の地域移行推進に向けて、精神病棟における在宅移行の対象に特別養護老人ホームや介護老人保健施設を加える
(4)長期入院患者の地域移行推進にむけて、在総管(在宅時医学総合管理料)・施設総管(施設入居時医学総合管理料)と、精神科重症患者早期集中支援管理料の点数設計について整理を行う(現在、医療機関が両者のうち「自院に有利な点数」を選択できるようになってしまっている)
(5)精神科急性期病棟において、患者の状態に応じた適切な医療提供体制を確保できるような検討を行う
(6)発達障害患者の受け入れ体制充実に向けて、▽発達障害患者への治療の評価見直し▽専門治療プログラムの評価見直し—などを検討する
(7)2016年度改定で新設された認知療法・認知行動療法3(看護師が医師と共同して実施)の届け出・算定ともにゼロ件にとどまっており、要件(認知療法・認知行動療法を行う外来での2年以上の経験や、面接への同席など)の緩和を検討する
(8)公認心理士の創設(2018年から試験開始)に伴い、臨床心理技術者などの配置を要件としている診療報酬(精神科リエゾンチーム加算など)の要件見直しを検討する
こうした提案に対しては「措置入院も重要だが、増加している医療保護入院(入院に同意する能力がない精神疾患患者などの代わりに、家族などの保護者が同意することで成立する入院)の評価も充実すべき」(松本純一委員:日本医師会常任理事)、「長期入院患者の地域移行を推進するには『受け皿』の整備が重要ではないか」(松本吉郎委員:日本医師会常任理事)、「通院・在宅精神療法から指定医の評価(指定医以外と比べて高点数が設定されている)を除外した場合、医療の質は担保できるのだろうか」(猪口委員)といった指摘がなされています。
また万代恭嗣委員(日本病院会副会長)は「総合入院体制加算の要件として、精神病棟の設置などが加味されたが、精神病棟の運営・経営状況は厳しい。その点を勘案した見直しを行ってほしい」と要望しており、今後の中医協論議に注目が集まります。
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