保湿剤のヒルドイド、一部に「極めて大量に処方される」ケースも―中医協総会(3)
2017.11.2.(木)
保湿剤のヒルドイドソフト(ヘパリン類似物質)の処方量を見ると、多くは「一度に4本以下」となっているが、一部に「大量(一度に51本超も)」に処方されているケースがある。これを2018年度の次期診療報酬改定に向けてどう考えるか—。
11月1日に開催された中央社会保険医療協議会の総会では、こういった点も議論されました(関連記事はこちらとこちら)。支払側委員からは「外来で皮膚乾燥症に対して、他の外皮用薬などと同時処方されていない場合には、保湿剤を保険給付から除外してはどうか」と求めていますが、診療側からは「全身の皮膚乾燥により対象の処方が必要なケースもある」として慎重な検討を要請しています。
支払側は保険給付制限求めるが、診療側は「アトピー患者の不利益」を懸念
ヒルドイドソフトなどは、アトピー性皮膚炎患者に対して保湿剤として処方されますが、「美容目的で使用されている実態が一部にある」との報道がなされています。女性芸能人が「ヒルドイドにはアンチエイジング効果があり、3割負担で入手できる」といった紹介をし、皮膚疾患のない人への処方が行われている可能性があるのです。製造メーカー(マルホ株式会社)も事態を重くみて、「化粧品などと同様のものであるかのような紹介は控えてほしい」「患者が自己判断で治療以外の目的で使用することは、副作用発現リスクもある」旨のコメントを発表し、適正使用を求めています。
主に大企業のサラリーマンとその家族が加入する健康保険組合の連合組織である健康保険組合連合会は、この不適正使用が保険財政に悪影響を及ぼしている点を重視。保険給付制限を検討すべきとの提言を10月6日に行っています。
また厚生労働省では、2016年度におけるヒルドイドソフトなどの1回当たり処方量を分析。その結果、ほとんどは「一度に4本以下」の処方ですが、中には「一度に51本超」という大量処方が行われているケースもあることが分かりました。
これを受け、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は、健保連提言にある「外来診療で皮膚乾燥症に対して保湿剤(ヘパリン類似物質または白色ワセリン)が『他の外皮用薬もしくは抗ヒスタミン薬と同時処方されていない』場合には、当該保湿剤を保険給付から除外する」ことを改めて要望。同じく支払側の吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)も「率直に、なぜこれほどの大量処方がなされるのか疑問を感じる。治療に必要な場合以外、処方を制限すべき」と強調しました。
これに対し診療側委員は、処方制限には慎重な姿勢です。皮膚科専門医である松本吉郎委員(日本医師会副会長)は、「効能効果に従って使用することは当然である」との大原則を述べた上で、「アトピー性皮膚炎で苦しんでいる患者には、ヒルドイドなどの保湿剤の大量投与が必要になる。また皮膚乾燥症も疾病であり、ステロイド剤の投与を検討する前段階として保湿剤のみを処方するケースは少なくない。全身の皮膚が乾燥し、一度に大量の保湿剤を投与しなければならない場合もある」と医療現場の実態を紹介し、「患者が不利益を被らないようにする必要がある」と強調しました。
保湿剤に限らず、医薬品の不適切使用などは、国民の共有財産である保険財源に穴を開けることとなり、厳に慎まなければなりません。この点は、診療報酬の体系面を整理することも重要ですが、適正使用を阻害してしまうのは本末転倒です。まずはレセプトの審査支払、さらに指導や監査などを適切に実施することで適正化を進めることが重要と考えられるのではないでしょうか。
なお健保連は、あわせて「中長期的には保湿剤そのものを保険給付外とすることも検討すべき」とも提言していますが、医療現場などの意見も十分に踏まえた検討が求められます。
多剤・重複投薬適正化に向け、薬剤師提案による減薬調整を評価してはどうか
11月1日の中医協総会では、▼多剤・重複投薬などの適正化▼後発医薬品の使用促進―も議題となっています。
前者の多剤・重複投薬に関して、厚労省保険局医療課の迫井正深課長は、(1)薬剤師の提案によって医師が処方変更し、結果、薬剤が減少する場合の評価(医療機関による減薬調整はA248【薬剤総合評価調整加算】(入院)、B008-2【薬剤総合評価調整管理料】(入院外)で評価されている)(2)医師の指示に基づく分割調剤の運用方法や処方せん記載方法などの見直し行う(より分割調剤をしやすい環境を整える)(3)薬剤師による残薬調整に関する医師の判断がより明確になるよう処方せん様式の見直しを行う—といった提案を行いました。
例えば(1)は調剤報酬における新たな加算などの評価創設を意図するものと言え、厚労省保険局医療課の中山智紀薬剤管理官は「かかりつけ薬剤師の業務の中に『処方提案』があるが、これは継続的・一元的管理の中での提案を想定している。新たな評価を行うことで、重複・多剤投与の適正化が推進されると期待している」と、その意義を説明しています。しかし、吉森委員や診療側の松本純一委員(日本医師会常任理事)からは「薬剤師の本来業務ではないか」と評価に難色を示しており、今後の調整が待たれます。
なお、これらに関連して幸野委員は、「残薬がある場合に、薬剤師の判断で処方量を調整し、医師に事後報告する」という仕組みを提案しましたが、診療側の松本委員は「最終責任を負う医師には、事前に提案・相談すべきである」と反対しています。
また後発品使用推進に関しては、迫井医療課長から▼後発品使用促進の政府第2目標(2020年9月に80%)を踏まえて、後発医薬品使用体制加算などの基準値を見直す▼一般名処方をより推進する方策を検討する—との提案が行われました。
後者の一般名処方は、2016年度の前回改定で▽処方せん記載の全医薬品を一般名処方とした場合の一般名処方加算1(3点)▽一部を一般名処方とした場合の一般名処方加算2(2点)―に細分化(上位区分の設定)されており、松本純一委員は「見直さずに様子を見るべき」とコメントしています。しかし、支払側委員は「生活習慣病治療薬などは一般名処方を原則とすべき」との意見も出ており、今後の議論に注目が集まります。
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