療養病棟の死亡退院率を「半減させよ」―日慢協・武久会長
2017.12.18.(月)
病床が持つ医療機能を、「急性期」「地域包括期」「慢性期」の3つに分類し、どの病床でもリハビリテーションを充実させるべきである。また「慢性期」の機能を有する療養病棟では、治療による在宅復帰を増やすなどして、死亡退院率を半減させる必要がある―。
日本慢性期医療協会(日慢協)の武久洋三会長は、12月14日に開いた定例記者会見でこのような提言を行いました。
目次
病床の医療機能を3つに分け、「急性期」は高度急性期と広域急性期のみに
病床が持つ医療機能は現在、「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」の4つに分類されています。2014年6月公布の「改正医療法」(地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律)で、「地域医療構想」や「病床機能報告」を導入するに際して採用された分類方法です。それぞれ、次のような機能を指します。
【高度急性期】急性期の患者の状態を安定化させるため、診療密度が特に高い医療を提供する
【急性期】高度急性期以外で、急性期の患者の状態を安定化させるために医療を提供する
【回復期】急性期を経過した患者に、在宅復帰に向けた医療やリハビリテーションを提供する
【慢性期】長期療養が必要な入院患者を受け入れる
各都道府県の地域医療構想には、「2025年時点の医療ニーズに見合う医療機能別の病床数」(必要病床数)を、地域ごとに推計した結果が盛り込まれています。これが、いわば「2025年における入院医療提供体制像」に当たります。
一方で、入院医療機関は毎年度、自院が担う医療機能を病棟ごとに選んで都道府県に報告しています(病床機能報告)。この報告結果から「地域の医療提供体制の現状」を把握し、「2025年における入院医療提供体制像」に近づけていくことが求められていますが、武久会長は、医療機能を4つではなく、(1)急性期(2)地域包括期(3)慢性期—の3つに分類してはどうかと指摘しています。
いわば、病床機能分類の日慢協案を示したわけですが、この中で(1)の「急性期」病床は、「高度な医療機能を提供する」「県全域から急性期患者を集めて治療する」ような役割を持ちます。武久会長は、こうした機能の病床を持つ病院が、二次医療圏ごとに1―2つくらい必要だと言います。
一方、(2)の「地域包括期」は、「近隣の急性期患者を治療する『地域急性期機能』」や「急性期治療後の患者に、在宅復帰に向けたリハビリテーションを提供する機能」を含みます。 いわば、現在の4機能分類における「急性期」の一部と「回復期」を統合させたイメージ です。
「地域包括期」という言葉は聞き慣れませんが、武久会長は、「回復期」という医療機能を設けると、さまざまな弊害が生じるために「地域包括期」を採用したとコメントしています。例えば、「回復期」はリハビリテーションを連想させる言葉であることから、「回復期機能以外の病床ではリハビリテーションをしなくてもよい」という誤解が生じるかもしれません。本来は「急性期」や「慢性期」の医療機能を担う病床であっても、患者の心身機能の改善に向けたリハビリテーションに取り組むべきだと武久会長は主張します。
療養病棟と介護医療院の両方を持つ病院は、多様な患者ニーズに対応しやすい
(3)の「慢性期」は、「高齢患者らが急性増悪を起こした際に受け入れ、治療して在宅復帰させる」療養病床などの機能です。「高齢患者らを看取りまで長期入院させる」機能は含まれず、そうした機能は、医療・介護の複合的ニーズに対応できる新たな介護保険施設の「介護医療院」(2018年4月創設)に委ねるべきだといいます。
この点、厚労省が行った病棟単位の実態調査(2016年度の入院医療等の調査)では、現状、「療養病棟 に入院していた患者が入院中に亡くなった割合」(死亡退院率)は40.1%で、7対1病棟(3.4%)や地域包括ケア病棟・病室(3.2%)と比べて高いことが分かっています。
武久会長は、こうした療養病棟の状況を改めて、「急性増悪を起こした慢性期患者を治療して、状態を軽快させ、在宅復帰させる」比率を高めていくことで、死亡退院率を半減させるべきだと強調しています。
半減は高いハードルにも感じますが、池端幸彦副会長は、「例えば、一部の療養病棟を介護医療院に転換させ、一つの病院の中にある療養病棟と介護医療院の役割を分ければ、多様な患者ニーズにバランスよく対応できる」との考えを示しています。
急性期病棟では看護配置を緩める分、看護補助者を厚く配置してはどうか
また武久会長は、急性期病棟 での「看護職員と看護補助者との役割分担」を、さらに進めていく必要性も指摘しました。
現在、急性期患者を受け入れる7対1病棟では、専門的なケアが必要だと考えられることから、「看護職員を1日平均して患者7人に対して1人以上配置」した勤務体系を毎月組んでおり、そのためには「患者1.4人に対して1人以上」の看護職員を確保する必要があります。
ただし、7対1病棟に入院する急性期患者の5割近くは75歳以上の高齢者で、おむつ替えなどにもマンパワーが必要です。そうした業務は看護の専門性を必ずしも必要としませんが、ほかに対応する人がいなければ看護職員が対応せざるを得ません。一方で、看護職員と看護補助者の両者を厚く配置する病棟では、役割分担が図られ、看護職員は専門性を生かす業務に専念できます。
これを踏まえると、「看護配置7対1で、看護職員がおむつ交換なども行う病棟」と「看護配置は10対1や13対1だが、おむつ替えなどは看護補助者が担当する病棟」では、看護の専門性を生かしたケアが、同程度提供されるかもしれないと武久会長は指摘。少子高齢化の進展に伴い、「介護ニーズを持つ高齢患者の増加」と「若い働き手の不足」が並行して起こっていることも踏まえて、「専門職が、専門性を生かす業務に専念するための役割分担」を一層進めるべきだと訴えています。
【更新履歴】
「看護配置7対1以上」のために確保すべき看護職員数の説明を明確にしました。記事は修正済みです。
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