地域包括ケア病棟、「自宅からの入棟患者」割合に応じた評価軸などが浮上—入院医療分科会(1)
2017.7.21.(金)
地域包括ケア病棟の入棟患者について、「自宅や特別養護老人ホームなどから入棟した患者」と「それ以外の患者(自院や他院の7対1病棟などから入棟した患者など)」とを比較すると、前者において「患者の状態が不安定で急性期治療を行っているので入院継続が必要」という割合が高く、「状態は安定しているがリハビリが必要なので入院継続が必要」という割合は少ない—。
21日に開催された診療報酬調査専門組織の「入院医療等の調査・評価分科会」(以下、入院医療分科会)では、厚生労働省からこういったデータが提示されました。委員からは、「患者像や果たしている機能に応じた評価が必要ではないか」といった意見が数多く出ています。今後、どのような切り口で評価を変えていくのかという議論が進みそうです。
自宅からの入棟患者、疾患構成がバリエーションに富み、状態も不安定
入院医療分科会では、2018年度の次期診療報酬改定に向けて、入院医療に関する「専門的な調査・分析」と「技術的な課題に関する検討」を行っています。21日の会合では▼地域包括ケア病棟(病床含む)▼回復期リハビリテーション病棟▼13対1・15対1一般病棟—が検討テーマとなりました。ここでは「地域包括ケア病棟」に焦点を合わせ、回復期リハ病棟などは別途お伝えすることとします。
地域包括ケア病棟については、これまでに「機能に応じた評価の細分化」を行ってはどうかという指摘が出されています(関連記事はこちらとこちら)。厚労省は、この点に関連する次のような分析データを新たに提示しました。
▼「自院の7対1・10対1病棟からの入棟患者が9割以上」の医療機関と、「9割未満」の医療機関とで、▽重症度、医療・看護必要度を満たす患者割合▽平均在院日数▽1日当たり平均点数—などに明らかな差はない
▼「自宅や特養ホームなど(以下、自宅など)からの入棟患者」と、「自宅など以外からの入棟患者」とで疾患構成を比べると、後者では骨折・外傷患者の割合が大きい
▼「自宅などからの入棟患者」の単価(1日当たりレセプト請求点数)は、「自宅など以外からの入棟患者」に比べて幅広く分布している(ただし中央値は同程度)
▼「自宅などからの入棟患者」と「自宅など以外からの入棟患者」とで入院継続の理由を詳しく見比べると、前者では「状態が不安定で急性期治療を行っているため」という割合が高く、「状態は安定しているが、退院のためのリハビリが必要なため」という割合は低い
これらから、例えば「自宅などから地域包括ケア病棟に直接、入棟する患者」では、自院や他院の一般病棟などから地域包括ケア病棟に入棟する患者に比べて、疾患がバリエーションに富んでおり、状態が不安定で急性期治療の必要性が高い、という状況が伺えそうです。
このため委員からは、「地域包括ケア病棟の機能に応じた評価」の検討を求める声が数多く出されました。本多伸行委員(健康保険組合連合会理事)は、上記のような「自宅などからの入棟患者」と「自宅など以外からの入棟患者」とで状態が異なる点を強調し、「評価の分離」を求めています。島弘志委員(社会医療法人雪の聖母会聖マリア病院病院長)も、「急性期後の患者を受け入れる機能」「自宅などからの急性増悪患者を受け入れる機能」に分けた評価を検討してはどうかと提案しました。
また池端幸彦委員(医療法人池慶会理事長)は、「地域包括ケア病棟が急性期の最上位になっている病院」(例えば地域包括+療養など)と、「地域包括ケア病棟以外が急性期の最上位になっている病院」(例えば7対1+地域包括)とで分析してはどうかと提案しています。池端委員は、同じ状態の急性期患者でも、前者では地域包括ケア病棟で対応し、後者では急性期病棟で対応することになると指摘しています。この場合、前者の病院では「自宅などからの入棟患者」が多くなり、後者よりも濃密な医療を提供している可能性があり、やはり「後者よりも高く評価すべき」という議論につながってきます。
なお、このテーマに関連して筒井孝子委員(兵庫県立大学大学院経営研究科教授)は、地域包括ケア病棟には「急性期後の患者(post acute)」と「軽度急性期の患者(sub acute)」の双方を受け入れることが求められているが、「それ(双方の患者受け入れ)を継続させるべきか」という、地域包括ケア病棟の設置趣旨に遡った議論が必要と指摘。この議論の基礎となる「患者の状況など」(看護必要度B項目)に関するデータが必要と要望しています。例えば「一般病棟から地域包括ケア病棟に転棟する患者では、B項目がどのように変化しているのか」などを見た議論をすることで、患者像の違いなどに応じた評価や施設基準設定が可能になるという考え方でしょう。もっとも地域包括ケア病棟では看護必要度B項目のデータは存在しないため、DPCデータから関連する情報をピックアップすることになりそうです。
委員の指摘する「機能に応じた評価」の検討を進めるに当たっては、「どのような切り口」で機能を区分するかが重要となります。中央社会保険医療協議会や入院医療分科会では、これまでに▼7対1や10対1を併設しているか▼入棟前の患者の居場所—などの切り口が浮上しています(関連記事はこちらとこちら)。前者であれば病院の外形(入院基本料の届け出状況)で区分できますし、後者であれば、例えば「入棟患者に占める『自宅などからの入棟患者』割合」などによって病院を区分し、評価(点数)を考えていくことができるでしょう。今後、この「機能区分の切り口」をどう考えるかという点に議論の主題が移っていきそうです。
なお池端委員は、急性期病棟を併設している病院では骨折・外傷患者が多いものの、その治療は急性期病棟で行い、状態が安定してから地域包括ケア病棟に転棟するケースがあることを想定し、「こうした汗をかかない病棟については(点数の)調整が必要になるのではないか」とコメントしています。
在宅療養に力を入れる地域包括ケア病棟、自宅からの入棟患者が多い
21日の分科会では「地域包括ケア病棟」を持つ病院が、どのように在宅医療を提供しているか、というデータも示されました。そこでは、訪問診療部門を持つ病院は20.5%、訪問看護部門を持つ病院は11.2%(うち45.1%は24時間の、44.0%は休日・祝日の訪問看護を実施)といった状況が明らかになっています。
訪問診療の対象として「指定難病患者」「在宅酸素療法を実施している患者」「末期がん患者」などが、訪問看護の対象として「末期がん患者」「在宅酸素療法を受けている患者」などが多いようです。
また訪問診療の内容としては▼基本的な診察・説明▼薬剤の処方—などが、訪問看護の内容としては▼家族への指導▼本人への指導—などが多くなっていますが、「他のサービス(訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所など)への指示や連携に関するものも少なくありません。名称どおり「地域包括ケア」システムの一員として積極的に取り組んでいる病院も一定程度あることが分かります。
さらに地域包括ケア病棟を持つ病院が在宅療養支援病院である場合には、そうでないところに比べて、「自宅などからの入棟患者」の割合が若干高いことが分かります。在宅療養を提供することで患者・家族から信頼を獲得し、急性増悪時などには当該病院への搬送を希望する患者・家族が多いものと推察されます。
前述の「機能区分の切り口」として、例えば「自宅などからの入棟患者」割合が設定された場合、在宅医療の提供状況が「自宅などからの入棟患者」割合を高めることにつながり、高い報酬を獲得するための重要要素になると考えられます。地域包括ケア病棟を持つ病院では、より積極的な在宅医療への関与・実施を検討する必要がありそうです。
ただし武井純子委員(社会医療法人財団慈泉会相澤東病院看護部長)は、現場での経験から「かかりつけ医や家族は『急性期病棟への入院』を希望する傾向がある。軽度の急性期患者については地域包括ケア病棟への入院が進むように改善していくには、地域住民やかかりつけ医への啓蒙も必要になる」とコメントしており、より強固な信頼関係を構築するために何が必要かといった検討も重要でしょう。
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