一般・療養の区分を廃止し、連続的な診療報酬上の評価を―日慢協・武久会長
2017.9.15.(金)
現在の一般病床・療養病床の区分は廃止し、患者の受け入れ状況や医療提供内容、看護配置などに応じて診療報酬で連続的に評価する体系に抜本的に見直すべきである—。
日本慢性期医療協会の武久洋三会長は、14日に開いた定例記者会見でこのような提言を行いました。さらに、一般病床から介護医療院への転換も認め、「浮いた」分の医療費財源を高度急性期に充てることで、我が国の高度急性期医療のレベルアップを目指すべきとも訴えています。
広域から患者を受け、手厚い看護配置をする病棟を「高度急性期」とせよ
医療法第7条第2項では、病院の病床を(1)精神病床(2)感染症病床(3)結核病床(4)療養病床(5)一般病床—に区分しています。(4)の療養病床と(5)の一般病床は、従前の「その他病床」を2005年に区分したもので、診療報酬上も一部重なる(地域包括ケア病棟・回復期リハビリ病棟)部分こそあるものの、一般病棟入院基本料や療養病棟入院基本料などに分けられています。
武久会長は、この区分について▼一般病棟にも慢性期患者が多数入院していることは周知の事実である▼高齢化が進む我が国において、一般病床が療養病床の3倍近く存在することは異常である▼療養病棟にも重症患者・救急患者が多く入院している—といった点を掲げ、「一般病床と療養病床に分類しておく必要はない」と強調。病床の【機能分化】が急速に進む中で、一般・療養の区分を廃止し、▼患者の受け入れ状況▼医療提供内容▼看護配置—などに応じて連続的に評価するべきと提言しています。「広域」「地域」の区分に関しては、「基幹病院では専ら都道府県全域から患者を受け入れ、地域密着型病院では概ね1ないし2の中学校区域から患者を受け入れている。どの程度のエリアから患者を受け入れているかで病院の機能も見えてくる」と付言しています。
▼広域急性期
→都道府県単位、あるいはそれ以上の広域から患者を受け入れ、高度急性期医療を提供し、5対1・7対1の手厚い看護配置をする【高度急性期病棟】
▼地域急性期
→中学校区単位(複数を含めて)の地域から患者を受け入れ、10対1・13対1看護配置をする【地域包括ケア病棟】(下記の回復期病棟の一部も地域急性期に該当)
▼回復期
→回復期の患者を受け入れ、手厚いリハビリを提供し、10対1・13対1看護配置をする【回復期リハビリ病棟】
▼慢性期
→重症の慢性期傷病患者を受け入れ、日常生活復帰を目指した手厚い治療を提供し、15対1・20対1の看護配置をする【慢性期治療病棟】
▼介護期
→重症の慢性期傷病患者を受け入れ、看取り機能を持ち、30対1の看護配置をする【介護医療院1-1】
→重症の慢性期傷病患者を受け入れ、住宅型で40対1の看護配置をする【介護医療院1-2】
現在、一般病棟(7対1)と療養病棟では、施設基準の中で「重症患者割合」が設けられていますが、一般病棟では重症度、医療・看護必要度を指標とし、療養病棟では医療区分・ADL区分が指標となっています。この点について武久会長は「日慢協の会員病院では、7対1一般病棟と同様に、毎日、重症度、医療・看護必要度で患者の状態をチェックしている。その結果、療養病棟1(20対1以上、医療区分2・3患者割合80%以上)では重症患者割合が30%を超えている」ことを紹介し、新体系では「重症度、医療・看護必要度」などに沿った評価を念頭に置いているようです。
ただし、ほとんどの病棟では「1つの病棟で複数の機能を果たす」ことになるでしょう。この点、武久会長は「ある機能が70%以上あれば、当該機能の病棟と位置付ける」(例えば広域患者が7割であれば広域急性期の高度急性期病棟、地域の中学校区域からの患者が7割であれば地域急性期の地域包括ケア病棟)という目安を提示し、段階的に70%に近づけていけばよいのではないかとの考えも示しています。高度急性期病棟を例にとれば、当初は「広域患者50%以上」と設定し、段階的に「55%以上」「60%以上」と引き上げていくイメージでしょう。
武久会長は「6年に一度の同時改定では、超高齢社会に適切に対応できる、現状とまったく異なる新しい体制に転換することが必要」と述べ、新たな病床区分と診療報酬体系の創設を強く求めています。
なお武久会長は、新設される介護医療院について、「単価の高い一般病棟から介護医療院への転換が進めば医療費が少なくて済み、財務省の思惑に合致する」「一般病棟側も介護医療院への転換を認めてほしいと要望している」点を踏まえ、「一般病棟から介護医療院への転換を止める理由はない。2018年度から転換を認めれば相当の医療費財源が浮く。その半分でも高度急性期の診療報酬に充て(例えば手術点数を2倍にするなど)、我が国高度急性期医療のレベルアップにつなげてほしい」との考えも披露しました(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
今後の中央社会保険医療協議会、社会保障審議会・介護給付費分科会の議論にどのような影響が出てくるのか、注目する必要がありそうです。
医療療養の光熱水費負担見直し、一般病床と療養病床とであまりに不公平な扱いは是正せよ
ところで、今年(2017年)10月から医療療養病床の入院患者について、光熱水費負担が引き上げられます。昨年(2016年)の社会保障審議会・医療保険部会で方向が固められ、昨年末に正式決定したものです(関連記事はこちらとこちら)。この見直しについて日慢協の池端幸彦副会長は、▼医療区分Iの患者では1日370円、医療区分II・IIIの患者では1日320円と設定されているが、医療区分は毎日チェックし、一定割合の患者で医療区分が変わるが負担額はどのように考えるべきなのか▼見直し根拠として「介護保険施設入所者との整合性」をあげているが、医療療養病床は病院では介護保険施設ではない▼同じ地域包括ケア病棟・回復期リハビリ病棟でも、一般病床であれば光熱水費は無料、療養病床であれば有料となるのであれば、あまりに不公平である—といった疑問を提示。
近く厚生労働省に「一般病床と療養病床とのあまりの不公平は是正すべき」と抗議する考えを示しています。
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