看護必要度該当患者割合、7対1と10対1で異なっている活用方法をどう考える—入院医療分科会(1)
2017.8.24.(木)
7対1病棟と10対1病棟とで、入院患者の重症度、医療・看護必要(以下、看護必要度)や平均在院日数などを比較すると、両者には重なり合う部分がある。一方、7対1では看護必要度を満たす患者割合(看護必要度該当患者割合)を施設基準に規定し、言わば「カットオフ値」として活用しているが、10対1では加算による段階的評価の指標となっている。この点をどう考えるべきか—。
24日に開催された診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」(以下、入院医療分科会)では、こういったテーマで議論を行いました。7対1への「段階的な評価」の導入、10対1への「カットオフ値」の導入などが検討される可能性があります(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
また看護必要度に関して、「診療報酬項目との相関関係」の検証を行う方針が了承されています。
7対1ではカットオフ値として、10対1では段階的評価の指標として活用
厚生労働省が7対1病棟と10対1病棟とで、入院患者の状態などを比較したところ、次のようなことが明らかになりました。
(1)7対1では看護必要度該当患者割合が「25%以上30%未満」が極端に多いが、10対では「15%以上20%未満」がもっとく多いものの、25%を超える病棟も一定数ある
(2)平均在院日数と看護必要度該当患者割合との関係を見ると、7対1と10対1とで重なり合う部分がある
(3)7対1・10対1のいずれでも、看護職員配置の多い病棟で「平均在院日数が短い」「看護必要度該当患者割合が高い」「病床利用率が高い」傾向が伺える
一方で、7対1と10対1とでは看護必要度該当患者割合の活用方法が異なり、前者の7対1では「施設基準に規定しカットオフ値として活用」しており、現在の『25%以上』を満たせなければ、7対1入院基本料の届け出そのものができなくなります。一方、後者の10対1では施設基準には規定せず(全患者に対する測定を施設基準に規定)、段階的な評価のための指標として用いています(24%以上は55点、18%以上は45点、12%以上は25点)。
それぞれで導入の経緯が異なりますが、前述のように患者像に一定の重なりがあることなどを踏まえると、活用方法を統一してもよいのではないかとも考えられます。厚労省保険局医療課の担当者は「医療ニーズを反映するという評価目的、診療実績の反映という視点から、より適切な評価手法をどう考えるか」という論点を掲げています。
尾形裕也委員(東京大学政策ビジョン研究センター特任教授)は、とくに(1)について「7対1ではカットオフ値である25%ギリギリの病院が圧倒的だが、10対1では2項分布に近くなっている」と指摘。また神野正博委員(社会医療法人財団董仙会理事長)は診療報酬に絡めて、「診療報酬点数の差(7対1では1日当たり1591点、10対1は1332点)を考えれば、病院としては7対1を維持したいと考えてしまう」とコメントし、いずれも「看護必要度該当患者割合の活用方法の違いが、分布の差となって現れている」と見ています。
これを逆から、7対1では「看護必要度該当患者割合を高めよう」というインセンティブが必ずしも十分に効いていないと見ることもできるのです。7対1病棟では、看護必要度該当患者割合が35%を超えていても診療報酬上の特段の評価はありませんが、25%の病棟と35%の病棟ではコスト(看護の手間など)が異なるため、「後者をより手厚く評価する」ことが合理的でしょう。ここから本多伸行委員(健康保険組合連合会理事)は、「7対1でも段階的評価の指標として活用する考え方もありうる」とコメントしています。
厚労省は具体的な検討方向などを示していませんが、提示されたデータや委員の意見を組み合わせると、「7対1でも段階的評価として活用する」「10対1でもカットオフ値として活用する」といった可能性も考えられます。前者であれば、例えば7対1において「一定のカットオフ値(現在の『25%以上』の維持や、少し低めの『20%以上』など)を設定し、▼30%以上▼35%以上—の場合に加算を新設する」手法などがありえそうです。もっとも、この場合には、加算の財源確保のために「7対1の基本報酬を一定程度引き下げる」ことも考慮されそうです(カットオフ値を低く設定すれば、基本報酬はさらに引き下げる必要がある)。
同様に、10対1でも▼カットオフ値の新規導入(例えば『10%以上』など)▼加算の維持・改善—を行い、さらに看護必要度該当患者割合を調整すれば、7対1と10対1とで「患者像や診療報酬の連続性」(例えば、7対1加算あり>7対1加算なし>10対1加算あり>10対1加算なし―など)を確保することもできます。
今後、入院医療分科会や中央社会保険医療協議会で、どのような検討が行われるのか、ますます注目度が高まります。
「看護必要度の評価項目」と「診療報酬点数の算定状況」との相関などを検証
看護必要度該当患者割合は、看護師が個々の入院患者について▼A項目(モニタリング及び処置等)▼B項目(患者の状況等)▼C項目(手術等の医学的状況)―のそれぞれを毎日測定し、直近1か月の数値を計算します(関連記事はこちらとこちらとこちら)。この点、医療現場からは「毎日の測定が、看護師にとって大きな負担となっている」「診療報酬改定の都度に項目が見直されることが負担である」「項目を理解するための研修参加も負担である」といった声が聞かれます(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
このため、「看護必要度評価項目を、別の既存データ、例えば診療報酬算定状況などで置き換えられないか」との指摘があり、24日の入院医療分科会でも牧野憲一委員(旭川赤十字病院院長)や神野委員らから同様の意見が出ています。
厚労省もこうした指摘・意見を踏まえて、まず「DPCデータによる『診療報酬算定状況』と『看護必要度の測定項目』との相関」を検証する方針を打ち出しました。
例えば、▼看護必要度A項目の「創傷処置」とJ000【創傷処置】▼看護必要度A項目の「心電図モニター」とD220【呼吸心拍監視】▼看護必要度A項目の「専門的な処置・抗血栓塞栓薬の持続点滴の使用」と薬剤における「抗血栓塞栓薬(注射剤)」の算定状況▼看護必要度C項目の「開頭手術」とK164【頭蓋内血腫除去術】・K169【頭蓋内腫瘍摘出術】―などの関係を、DPCデータ(様式1・EF統合ファイルとHファイル(看護必要度生データ)との突合など)から見てみるというものです。
ただし看護必要度の「抗血栓塞栓薬の持続点滴使用」は、▼対象患者(血栓・塞栓が生じ・疑われる急性期疾患患者▼目的(血栓・塞栓を生じさせない・減少させる)▼持続性―という限定があるのに対し、レセプトの抗血栓塞栓薬(注射剤)算定には「点滴ルートが閉塞しないための使用(ヘパリンフラッシュ)」なども含まれるといった、「ズレ」が生じます。
このため厚労省保険局医療課の担当者は、両者の定義や算出方法の違いについて一定の条件(点滴であれば「薬剤量●cc」などのラインを引くなど)を設定した上で、「項目の妥当性・代替性が確保されているか」「両者で看護必要度該当患者割合に相関はあるか」といった点を検証する考えを示しました。
こうした検証を「行うべきでない」との委員はおらず、「看護必要度の●項目と診療報酬◆点数との相当性など『1対1対応』を求めるべきではない。両者でどの程度のズレが生じるのかを見て、該当患者割合を調整すればよい」(神野委員、藤森研司委員:東北大学大学院医学研究科公共健康医学講座医療管理学分野教授も同旨)といった柔軟な検証を求める意見が出されています。
また、武井純子委員(社会医療法人財団慈泉会相澤東病院看護部長)は「現在の看護必要度は毎日測定し、直近1か月で該当患者割合を算出する。一方、DPCデータは3か月に一度の提出であり、評価スパンの違いも検証する必要がある」と注文。さらに武井委員は「特にA項目は、医師の指示に基づき看護師が行う診療補助を評価するものであり、なかなかDPCデータからは見えてこないと思う」と述べ、拙速ではない十分な検証を求めています(関連記事はこちら)。
ところで「看護必要度評価項目から診療報酬算定状況への置き換え」が行われたとしても、看護師による「個々の患者の状況を毎日把握し、記録する」業務がなくなるわけではないため、それほど現場の負担軽減にはつながらないのではないかという見方もあります。また「医療保険財源から診療報酬を請求するのであるから、算定などに必要なデータを提出するのは当然であり、それを『負担』と考えるのはいかが」といった指摘もあります。
こうした「看護業務と看護必要度評価項目との関係」の整理を求める意見もあることや、精緻な検証を求めれば相当の時間がかかることなどを考えると、▼検証▼置き換え—が2018年度の次期診療報酬改定には間に合わない可能性もあります。今後の検証状況や、中医協も含めた改定論議を注意深く見守る必要があるでしょう。
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