まず指定難病と小児慢性特定疾患のデータベースを連結し、後にNDB等との連結可能性を検討―難病対策委員会(1)
2018.10.19.(金)
難病対策の質向上などを目指し、まず2020年に予定される難病法等の改正に向けて、「指定難病患者データベース」と「小児慢性特定疾患児童等データベース」との結合・連結に向けた検討を行う。さらに、その後の中長期的な課題として「難病等のデータベースと、NDBや介護DBとの結合・連結」を検討していく—。
10月18日に開催された「難病対策委員会」(厚生科学審議会・疾病対策部会の下部組織)と「小児慢性特定疾患児への支援の在り方に関する専門委員会」(社会保障審議会・児童部会の下部組織、以下、小慢専門委員会)の合同開催で、こういった方針が了承されました(関連記事はこちらとこちら)。
目次
2020年予定の難病法等改正に向け、まず難病・小児慢性特定疾患のデータベースを連結
「ある人が、過去にどのような疾病に罹患し、それに対しどのような医療提供が行われ、どのような効果があったのか。またその人は、どういう健康状態であり、高齢になってから、どのような介護が必要な状態となったのか。介護が必要になってからは、どういったサービスを提供し、どのような効果が得られたのか」といったデータを一元的に集約・解析し、医療・介護等の質向上を目指す「全国保健医療情報ネットワーク」が2020年度から本格稼働する予定です(関連記事はこちらとこちら)。
その一環として、厚生労働省は「医療・介護データ等の解析基盤に関する有識者会議」を設置し、まずNDB(National Data Base:特定健診・医療レセプト情報を格納)と介護DB(介護保険総合データベース:要介護認定情報と介護レセプト情報を格納)について、「更なる利活用を推進する」「両データベースの連結を行う」ための検討を行っています。議論の中では、「NDB、介護DBと、他の公的データベースとの連結」が残された検討テーマの1つにあがっていました(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
例えば、▼難病等のデータベースとNDBとを連結することで、既存薬の適応拡大に向けた知見が得られる▼難病等のデータベースと介護DBとを連結することで、「どのような介入が有用か」といった知見が得られる―ことなどが期待されるためです。
前者からは、例えば「パーキンソン病の患者がインフルエンザにかかりにくい」という事例を契機に、もともとインフルエンザ治療薬として開発された「アマンタジン塩酸塩」(販売名:シンメトレル錠、ほか後発品あり)が、パーキンソン病の治療にも効果があり適応拡大された、というケースを想起できます。
また、後者では有効な治療法のない指定難病に対し、どのような介護やリハビリテーションなどの介入をすることが効果的か、が明確になれば、患者のQOLが大きく向上すると期待されます。
ただし、難病等の患者は非常に少ないため、NDBや介護DBと連結すれば「個人の特定可能性」が飛躍的に高まってしまうというデメリットもあります。
こうしたメリット・デメリットの双方を考慮し、難病対策委員会・小慢専門委員会では次のような方針を決定しました。
(1)難病法等の改正(2020年予定)に向けて、まず「指定難病患者データベース」と「小児慢性特定疾患児童等データベース」との結合・連結に向けた検討を行う
(2)その後、中長期的な課題として、難病等のデータベースとNDB、介護DBとの結合・連携に向けた検討を行う
まず(1)では、医学・医療の高度化等によって小児慢性特定疾患児の予後が改善し、成人に達する患者が増加していることを踏まえ、「指定難病患者データベース」と「小児慢性特定疾患児童等データベース」との結合・連結を、当面の課題に位置付けたものと言えるでしょう。この点、難病対策委員会・小慢専門委員会では「小児慢性疾患患者の成人期医療への移行支援体制」整備についての検討も行われており(関連記事はこちら)、「移行支援」が今後、極めて重要なテーマの1つになると伺えます。
その際に留意しなければならないのが、データ収集や利活用に関する法制度面での規定整備です。両データベースとも、「患者の同意」に基づいてデータ収集をしていますが、「他のデータベースと連結する」といった点について明示的な同意を得ているわけではありません。この点、NDB、介護DBについても、「利活用の目的」「第三者提供の枠組み」などについて根拠法に明示する方向での検討が進んでおり、難病法等についても「データの利活用」に関する検討が行われていくと考えられます。
さらに、指定難病等では遺伝性の疾患も少なくないため、データの利活用に当たっては「患者の家族」への配慮も非常に重要となります。例えば、「家族に遺伝性疾患の患者がいる」という情報が漏洩してしまえば、現実問題として就職や結婚などに影響が出てしまう可能性も否定できません。難病対策委員会・小慢専門委員会では「個人が特定されるリスクに配慮した厳正な運用の確保」を重要論点に掲げています。
NDBと難病等のデータベースとの連結、「個人の特定性」リスクを十分に考慮せよ
一方、(2)のNDB、介護DBとの連結は「中長期的な検討課題」に位置付けられています。NDBと介護DBの連結についても、さまざまな論点(例えば、2つのデータベースを連結するだけで個人の特定可能性が高まってしまう、など)があり、現在、まだ検討が進められている最中です。実際に運用する中で、当初想定できなかったトラブルが発生するかもしれませんし、逆に想定していなかった有用性などが見つかることも考えられます。したがって、この2データベースの連結状況などを十分に踏まえたうえで、難病等のデータベースとの連結などを検討していくという「段階的な取り組み」には説得力があると言えるでしょう。
もっとも「中長期的な課題」とはいえ、難病対策委員会・小慢専門委員会の委員は「NDBや介護DBとの連結は積極的に進めるべき」と非常に前向きです。例えば竹内勤委員(慶應義塾大学医学部リウマチ・膠原病内科教授、難病対策委員会の委員)は「指定難病について、現在は治療法がない。そうした中で指定難病のデータベースと、他のデータベースDBとの連携を行わなければ、大事な情報を見逃してしまうことになりかねない。早期の連結が望ましい」と訴えています。
なお、NDBと介護DBでは、患者のデータを格納する際に「個人が特定できないような匿名加工」が行われます。この「匿名加工されたデータ」同士の連結においては、▼カナの指名▼性別▼生年月日―の3情報をもとに紐づけを行う、こととされています。「2020年度からデータ連結を行う」という時間的制約も考慮したものです。
しかし難病対策委員会・小慢専門委員会では、「難病等の患者は極めて少なく、個々データの確実な連結がより重視される」とし、3情報でなく「個人単位の被保険者番号」によって紐づけることが必要との見解を示しています。難病等のデータベースとNDB、介護DBとの連結が「中長期的な課題」に位置付けられたことから、2021年度に稼働する「個人単位の被保険者番号」を用いて、より正確な紐づけを目指す考えであると言えます。
難病等データベースの信頼性について、研究班データと突合せて検証
ところで指定難病については、重症患者に対して「医療費の助成」が行われます。このため、有識者等からは「担当医が医療費助成を考慮し、データベースのもととなる臨床調査個人票について、重症度を甘く(重く)記載している可能性があるのではない」との指摘があります。
仮にこの指摘が事実であれば、難病等のデータベースの信頼性が揺らいでしまいます。厚労省は、この問題を放置することはできないと考え、「指定難病患者データベースの信頼性・有用性に関する研究」を実施することを決めました(難病対策委員会・小慢専門委員会で了承)。
具体的には、▼HTLV-1関連脊髄症(HAM)(告示番号26)▼ウェルナー症候群(告示番号191)—の2疾患について、「難病研究班のレジストリ」(データベース)と「指定難病患者データベース」とを突合し、▼ADL▼QOL▼家族歴▼主要所見▼検査所見▼治療▼住所度分類に関する事項―などにズレがないかを解析するものです(もっとも、指定難病患者データベースのもととなる臨床調査個人票では、患者の重症度に関して「直近6か月で一番症状の重い時の情報」を記載するため、レジストリとのデータ突合には一定の限界もある)。レジストリへの登録症例数は、HAMでは545件、ウェルナー症候群では31件ですが、「研究(データの突合)に同意」した症例のみが研究対象となります。来年(2019年)5月頃に研究結果が報告される見通しです。
この研究に関連して千葉勉・難病対策委員会委員長(関西電力病院院長)は、「かねてより『軽症患者が指定難病患者データベースに登録されていない』という指摘がある。今回の研究から、その点も一定程度明らかになることが期待される」とコメントしています。
さらに、両レジストリには「患者の状態に関する経年的な変化」なども記載されており、これと指定難病患者データベースを突合することで、「経年データ収集の有用性」を明らかにすることも期待できます。
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