難病等データベースからのデータ提供、研究目的などを審査して可否決定―難病対策委員会
2018.4.19.(木)
2018年度後半より、「指定難病患者データベース」「小児慢性特定疾患児童等データベース」からのデータ提供が開始されるが、有識者で構成される審査会を設置し、個々の事案について▼研究目的▼提供先▼範囲▼公表方法―などを審査してデータ提供の可否を判断する―。
4月18日に開催された、「難病対策委員会」(厚生科学審議会・疾病対策部会の下部組織)と「小児慢性特定疾患児への支援の在り方に関する専門委員会」(社会保障審議会・児童部会の下部組織)の合同開催(以下、合同会合)で、こうした方針が固まりました(関連記事はこちら)。
5月にも方針を正式決定し、新たに検討会を設けて詳細なルールを議論してくことになります。
「患者の同意」ある国・自治体・研究班へのデータ提供が原則だが、個別判断も
2015年1月1日から新たな難病対策基本法に基づく新たな難病対策がスタートし、「難病対策の拠点となる病院を都道府県ごとに指定する」(関連記事はこちら)、「一定の要件を満たす指定難病患者については医療費の助成を行う」(関連記事はこちらとこちらとこちら)といった仕組みが運用されています。
そこでは、また、難病等患者の情報(臨床調査個人票に基づく)を集積したデータベース(「指定難病患者データベース」「小児慢性特定疾患児童等データベース」、以下、難病等データベース)が構築されており、2018年度後半から研究者等へのデータ提供が可能となります。難病等の治療法確立に向けて、重要な第一歩と言えます。
ただし、難病においては、▼極めて希少な疾患に関するデータも含まれ、患者が特定されやすい▼データの中には患者・家族の「機微性の高い情報」(たとえば遺伝子情報)も含まれ、漏洩等に十分に配慮する必要がある―ことなどを踏まえる必要があり、データ提供に関するしっかりとしたルール作りが求められているのです。
4月18日の合同会合では、厚生労働省から、これまでの議論を整理したデータ提供ルールの大きな考え方が示され、大筋で了承ました。
データ提供の流れを概観すると、【研究者からの申請】→【有識者で構成される審査会での、▼研究目的▼データの範囲▼公表方法―などの審査】→【提供「可」とされた場合に、データ提供】→【研究結果の公表】―となります。NDB(National Data Base:レセプト・健診データ等が格納されている)などからのデータ提供と、同じ枠組みとなる見込みです。もっとも、難病等の特性に配慮した特別のルールを各所に設けなければいけません。
まず、患者の知らないところでデータ提供・利活用等が行われては困ります。この点、難病等の医療費助成を申請する際に、「申請書の内容・診断書については、患者が良質かつ適切な医療等を受けられるよう、患者の方の同意の下に厚生労働省や自治体の研究事業その他難病患者の方の支援のための基礎資料として使用する」ことへの同意が取得されます。厚労省は、「この同意を得た範囲」でのみ、データ提供・利活用が行われることを明確にしました。なお、この点に関連して多くの委員から「同意取得について、十分な患者・家族への説明を行う必要がある」点が強調されています。
したがって、データ提供先は、同意内容に記載される▼厚労省▼自治体▼厚労省等の研究事業—に限定されることが原則となります。
もっとも、学会独自の研究、患者会による支援事業などに一切データ提供がなされないとなれば、難病研究・支援の発展が阻害される可能性もあり、厚労省は「難病研究の推進に寄与すると考えられる場合は、個々のデータ提供申請ごとに、▼研究目的▼黒人情報の管理措置―などを、有識者で構成される審査会で厳正に審査し、提供の可否を決定する」考えも示しています。
また、難病等データベースには、患者特定につながる情報も含まれています。それらがすべて提供され、かつ研究目的とはいえ公表されてしまうことを厭う患者もいるでしょう。このため厚労省は「データ提供の範囲は、個々の研究内容に照らし必要最小限とする」ことを強調しています。また難病等の中には、遺伝性の疾患もあるため、厚労省は「遺伝子検査の内容」「家族歴」などについては、家族に与える影響も考慮する必要があるとしています。
データ提供においては、「容易に個人が特定されないよう必要な匿名加工を行う」ことになります。例えば、「氏名は削除、A氏などに置き換える」「年齢を明示せず、○-●歳といった具合に階層化する」「患者数が10名未満の場合には『-』表示とする」「住所を削除、あるいは■県□市などに置き換える」―ことなどが行われます。しかし、難病等には極めて希少な疾病も多いことから、「各都道府県に9名以下の患者しかいない場合、すべてで『-』表示となってしまい、データ提供の意味がなくなってしまう」事態なども生じるでしょう。こうした点をどのように考えるのか、別途設置される難病等のデータ提供ルールの詳細を作成する検討会で議論されることになりそうです。
さらに提供されたデータをどのように活用するか(利活用目的)については、上記の「同意の範囲内」、つまり▼各疾病の疫学調査等の研究▼学術―目的に限定することが原則となります。
ところで、「新たな治療法の開発」に向けた臨床研究においても、難病等患者のデータは極めて有用になると考えられます。しかし、これらは「同意の範囲」に含まれておらず、厚労省は「研究者から指定医(患者の主治医等)を介して患者に説明を行い、別途同意を得ることが必要ではないか」との考えを示しましたが、石川広己委員(日本医師会常任理事)は「研究の自由度を高める必要もあり、一定の柔軟性を持たせたほうがよい」旨の考えを示しています。
提供されたデータは、学会発表や論文など、さまざまな形で公表されます。その際には「個人が特定されることのないような特段の配慮」を行うことが必要です。
小児と成人のデータベース統一化、患者の紐づけなどが中長期的検討課題に
難病等のデータ提供は2018年度後半から始まりますが、「個人情報の保護」等を十分に行った上で、「優れた研究」を推進するために、合同会合では中長期的に検討すべきテーマとして次のような点が浮上しています。
▽「指定難病患者データベース」と「小児慢性特定疾患児童等データベース」の統一化(小児慢性特定疾患児が成長し、成人になった場合には、指定難病患者となるため、関連記事はこちら)
▽難病に関連する各種データベースの連結
▽自治体の事務負担軽減に向けた、「オンライン登録システム」や「難病医療費助成の支給認定に係る一次時診断機能」の導入
▽データベース登録率向上に向けた、「軽症者登録のインセンティブ」「臨床個人調査票等を作成する医師へのインセンティブ」付与
▽登録データの質向上(精度管理)
また上述したように、「患者の同意」の範囲でのデータ提供となりますが、「指定難病患者データベース」へのデータ登録は「年度ごと」に行われ、患者の紐づけが完全には行われていないようです。このため、個々の患者の経年変化を追うことなどが難しく、「医療等IDなどを活用した、患者データの紐づけ」なども今後の重要検討課題となるでしょう(関連記事はこちら)。
さらに、難病の中にも比較的患者数の多い疾患と、極めて患者数の少ない疾患とがあり、「前者ではデータ数は比較的多いが内容は簡素である、後者ではデータ数は少ないが内容は濃密である」といったデータ性質の違いがあります。こうした点をどのように考えていくかも今後、議論してくことになりそうです。
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